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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第15話 回復薬小製造機の戦闘

 オレは、クロスボウを含め身につけた装備品を確かめると街の外へと繰り出した。まずやろうと思ったのはクエスト。そしてクロスボウの扱いに慣れることだ。

 この『調合士』という職業が、とにかく『根本的に戦闘に不慣れな職業』であることを、まずはオレ自身が徹底的に身体で理解する必要がある。頭では理解していても、戦闘行動の一つ一つが他職のそれとは比較できない劣化行動となることを忘れたら、この先パーティを組んで活躍することなど出来ないに違いない。


 そこでクリエラの言葉ではないが、攻撃手段として頼るのは射撃系。具体的には今手元にあるクロスボウや、いずれ手にするつもりの銃である。『調合士』がどのくらいの命中精度を保てるのかは分からないが、クリエラの言うことを信じるのなら射撃こそが『調合士』のメインウェポンであるはずだ。

 あとは、これをどれだけ効果的に使うか?が『調合士』の戦闘面においては鍵になると、オレは考えている。


 そして『調合士』の真骨頂である『調合』によるパーティ支援。これがゲーム進行においてどのような立ち位置になるかは早めに掴んでおきたいところだ。現在のオレの立ち位置は、大したスキルもなく回復薬小製造機……要するに劣化白魔法使いといったところなのだろうが、最終的にはそれだけではない……と信じている。


 いずれにしても『調合』スキルは『調合士』として能力を育てる以上、要になるはずだ。

 とはいえ、回復薬小のためのアロエ探しはウッドボルトの時と同じように、フィールドを歩きながら随時探せば自然と集まる……はずだ。 


 そこでオレは、まずわかりやすくクロスボウの使い方に慣れるところから始めようと考えた。


 ちなみにこのクロスボウに連射機能はついていない。そのため発射するためには一発ずつリロードする必要がある。

 リアルでのクロスボウとは異なり、弦を引き絞る行為を自動で動作してくれる分だけ取り扱いは楽そうだが、それでも連射できないため使いどころを工夫する必要はある。そして緊急時にいきなり使用しても失敗するリスクしかないので、試射して扱い慣れておく必要もあるだろう。


 早速集めていた材料からオレはウッドボルトを30本ほど調合した。これだけあれば当面の練習に困ることはないはずだ。そしてまだ素材は無限にあるため足りなくなったら追加調合すればいいだけなので特に問題はない。


 街の外門を出たところでオレは周囲を見渡す。

 見渡す限り平原が広がっており、方角もよく分からない。マップを表示させようとしたが、表示すらされない。


 つまり、この周辺の地図を入手していないということだろうか?

 そのくらい初期所持で持っていてもいいのでは?とも思ったが、無いものは仕方ない。とりあえず街が視界から消えない範囲で少し周辺を歩いてみることにした。


 すると、まずはアロエがすぐに見つかった。

 モルトの街の中では一切見つからなかったのに外ではすぐに見つかるのだと納得する。これならオレの想定通り進んでくれるかもしれない。


 ゲーム内のアロエは現実と同様、いくつかの葉が纏まって生えているようで一カ所から4~5本のアロエを入手出来ることも分かった。これなら一つ一つの報酬は少なくても、回復薬小のクエストだけそれなりに懐は温かくなりそうだ。

 気になるのは採集アイテムの再POPまでの時間だが、いまのところ競合プレイヤーはいなさそうだし、この点に関しては慌てずゆっくり進めれば良いだろうと考える。


 どのくらい経っただろうか。周囲の景色が暗くなってきている。

 夢中でアロエを採集していたため、アイテムボックスの中はアロエで溢れそうだ。周囲を見渡すとほぼこの辺のアロエは取り尽くしていることがわかる。


(よし。じゃあそろそろ戻ろうか)


 そう思って腰を上げたとき『虫の知らせ』アラートが頭の中で鳴り響いた!一気に緊張感が増す。


 誰だ?どこだ?


 落ち着いて周囲を見回すと、街とは反対側にそのアラートを発していた相手を発見した。


(ゴブリンかっ!)


 オレはとっさに身構える。だが、逃げるべきだったかもしれない。暗がりで良く見えなかったのだが、敵の数は三匹。

 迷うことなくオレの方に向かって走ってきていたのだ。


 その近づいてくるスピードは思ったより早い。いや違う。オレが(・・・)遅いだけだ。

 いざ魔物(ゴブリン)を前にすると、オレの行動速度がかなり制限されている事が分かる。リアルで動くよりよっぽど遅いと感じるのだから相当だろう。気だけが焦るとはこのことだ。


 どうせ逃げられないのならと、こちらに向かってくるゴブリンをよく観察してみる。

 先頭を駆けてくるゴブリンは手にショートソードらしきものと盾らしきものを持っていた。戦士タイプということだ。そして、後ろから追いかけてくる二匹は素手のようだ。


(ついてねぇな……素手のゴブリン一匹だけなら、きっと何とかなっただろうに)


 PKだろうが魔物だろうが、死亡退場をしてしまえば装備品を失うことになる。ということは、せめて武器だけは死ぬ直前にアイテムボックスにしまいたい。

 そう思って腰から外したクロスボウを見てふと思いつく。どうせダメ元なら撃ってみてもいいのではないか……と。


 最初の一射用に既にウッドボルトはセット済みだ。

 オレは特に射撃が得意なわけではないが、クリエラの『銃や射撃がオススメ』の言葉を信じ、先頭を駆けてくる戦士タイプのゴブリンに向かって狙いをつけた。


(当たってくれっ!)


 避ける素振りもなく真っ直ぐに向かってくるゴブリンに対して、オレはトリガーを引いた。

 ヒュッと風を切る音とともにゴブリンに向かって襲いかかるオレのウッドボルト。


『グギャア!』


 悲鳴を上げた戦士型ゴブリンはその場に突っ伏すように倒れて動かなくなった。


「よしっ!」


 オレは思わずガッツポーズを決める。だが敵は一体倒しただけだ。すぐに気を引き締めて追撃を警戒する。

 しかし何が起こったのか分からないのか、追従していた二匹のゴブリンは急に動かなくなった戦士型ゴブリンを見て一瞬固まった。だがそれでもすぐに気を取り直したようで、素手の二匹のゴブリンはオレに飛びかかってきた。オレにはクロスボウをリロードする時間が無い。


「クソッ!」


 オレは腰から引き抜いた漆黒のハンティングダガーを突き立てながら、襲いかかってきたゴブリンのうちの浅黒い方の一体目掛けて突撃した。

 その刃そのものはゴブリンに避けられてしまったが、オレの巨体を躱しきることは出来なかったようで、ショルダーチャージを食らった色が浅黒いゴブリンが吹き飛ぶ。


『グガッ!』

「痛ぇっ!」


 左側の背中に激痛を感じて振り向くと、ターゲットしなかった方のゴブリンが噛みついていた。

 痛覚も忠実に再現しているとは素晴らしい……などと考えている暇はない。慌ててハンティングダガーを振り回すとゴブリンはサッと飛び退いて避ける。


 素早い!調合士のオレの戦闘力では、とてもじゃないがまともに対峙出来る相手ではない。

 一匹でも辛いのだから二匹などとても無理だ。そう判断したオレは攻撃を許したゴブリンを無視して背中を向けると、先に吹き飛ばした浅黒いゴブリンにトドメをさした。


 その瞬間再び背中に激痛が走る。


(あと一匹!)


 再びハンティングダガーを振りまわして背中のゴブリンを振り払うと、最後に残ったそいつと真正面から向き合う。

 よく見ると身体こそ小柄だが、引き締まった筋肉に小鬼(ゴブリン)らしく恐ろしい顔をしている。夢中だったが低レベルの初戦闘でよくこんな敵を二匹も倒せたと自分を褒めてあげたいくらいだ。……いや、初ではないか。最初の戦闘はあの盗賊(ガキ)だ。


 正直オレの腕では、ハンティングダガーでゴブリンを捉えることは出来そうにない。

 かといってクロスボウをセットする暇もない。クロスボウをセットしようとすると途端にゴブリンは襲いかかってくるのだ。そう、ゴブリン(ヤツ)も分かっている。オレにこの武器をセットさせてはいけないと。


 そんな状態でオレとゴブリン(ヤツ)の睨み合いが続く。

 ゴブリン(ヤツ)としても、無防備状態のオレに対して行った二回の噛みつき攻撃で仕留められなかったためか、本気の攻撃を躊躇しているように見える。

 恐らくオレが強いからではなく、盗賊(ガキ)からもらい受けたハードレザージャケットのお陰なんだろうが、そんなことはゴブリンには分からない。


 だが、互いに決め手を欠いたまま続いたその睨み合いは、意外な形で終焉を迎えることになった。


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