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イルグラード(VR)  作者: だる8
第一章 物語の始まり
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第12話 採集

 アリスの見送りを受けて自室を出たオレは、すぐに周囲を警戒する。あの時の盗賊がまたカモを狙っているとも限らない。


 が、今は特に人の気配もなければ修練スキル『虫の知らせ』が発動する様子もない。……もっともまだ発動したことはないためどんな警告音が鳴るのかもわからないが、少なくとも住宅街(ここ)に脅威はなさそうだ。


 さて、オレは考える。

 今のオレの当面出来ることと言えば素材集め……集めるターゲットは『回復薬小』の調合に必要な『アロエ』と、クロスボウの矢である『ウッドボルト』の材料だ。

 自室を出る前にウッドボルトの調合材料を確認したところ、必要となるのは『木の枝』と『小石』。予想以上に容易く身近に感じられる素材であったのは驚きだ。クリエラに感謝すべきか運営に感謝すべきかは分からない……まぁそれだけ矢としての性能・威力が大した事ないのだろうが、今のオレにとっては重要な素材である。


 ところで、オレにはクロスボウに気を取られて忘れていたことが二つある。


 一つはスキルのジェスチャー登録である。

 調合士ギルドを出る前にクリエラに依頼するつもりだったが、すっかりクロスボウのインパクトで塗りつぶされてしまい、気づいたのはアリスに指摘された時だ。

 クロスボウだけではなく、次々と明らかになる情報クリエラのうっかりに翻弄されていたのも原因の一つ。便利そうなシステムだが、大急ぎとも思えないので今度『回復薬小』を納品しにいった時にでも設定することにしようと思う。


 そしてもう一つは『アイテム鑑定:調合士』の便利な使い方である。

 クリエラによると調合士に特化したアイテム鑑定は、発動させた状態であればアイテム扱いのものは視界に入っただけで名称が表示されて見えるそうだ。これもギルドから帰るときにはクロスボウショックとクリエラショックのダブルパンチで忘れていたが、今は気持ち的に余裕がある。


 早速オレは『アイテム鑑定』を発動してみることする。


「おぉ?結構いろいろ落ちてるもんだな」


 スキルを発動した途端、変化した目の前の景色にオレは驚いた。

 街の外……いわゆるフィールドでない街の中であるのに、入手出来るアイテムが沢山あるようで、オレは気づかず認識出来ていないものまでウィンドウで埋め尽くされた。


 ぱっと目につく限り、一番多いのは『小石』だ。これだけでも今のオレにはありがたい。

 調合士でないプレイヤーにとってゴミ同然のアイテムであるが、拾った分だけ武器の精製が出来ると考えられるのはかなり大きい。早速、オレは手当たり次第に小石を拾いまくる。 端から見たら何を馬鹿なことをと見えるだろうが、死活問題だ。


 ちなみに『木の枝』も『小石』に比べたら少ないが、数本取得出来た。他にも何に使うのか分からないアイテムも拾ってみる。レシピを手に入れた時に「あの時拾っておけば良かった」と後悔するのは嫌だ。……限度はあるだろうが。


 それにしてもこれだけすぐにウッドボルトの素材が集まるのであれば、クロスボウを持ってきても良かったかもしれない。


「いや……油断は禁物だ。今はこれでいい」


 とにかく、素材を拾いまくることに専念した。

 調合などは後でじっくりやればいいことだ。『ウッドボルト』を精製した後で、それを持っていることを見られてしまえばクロスボウがあることがバレてしまう。信頼できる仲間(パーティ)が出来るまでは、隠し玉としてとっておきたい。そうオレは思っていたからだ。


 他にも理由はある。

 仮にアイテムを盗難されたとしても一般的価値がない『小石』のままであれば、盗んだプレイヤーからしてみれば盗み損である。また、オレをターゲットにしようと思わないだろう。小石ばかりを盗まされてはリスクしかないからである。今後のターゲットから外れるためにも一度盗まれた方がいいかもしれないと思える程だ。


「そういうときには盗まれないもんだが」


 思わず声に出して愚痴ってしまうが、実際そういう物だ。


 と、そんなことを考えつつ、アイテムを拾いつつゆっくり歩いていたが、気づけば戦士ギルドのある大通りまできていた。


 欲しい素材のなかでも『アロエ』はここまで拾えていないため、これから街の外にでて『アロエ』探しをする予定のオレには今すぐパーティを組む必要性はない。が、そんなことではいつ気の置けない仲間に会えるかも分からないので、プレイヤーの集まる場所にはちょくちょく足を運んでおきたい……あがり症が発動してしまうとしてもだ。


 オレは最初とは違う心づもりで、吸い込まれるように戦士ギルドのドアを開けた。


「ダンジョン探索いきます!索敵スキル持ってる探索者1名募集!誰かいませんかっ?」

「中クラス討伐行きまっせ!白魔だれか?」

「こっちも中クラス討伐だ!剣技持ってる戦士募集!」

「初回探索者クエスト行きますっ!これからの人一緒にいかがですか?」

「初心者OK!黒魔募集!」


 喧嘩が目立っていた最初の時と比べて、随分活気溢れる場所に変わっていた。

 むしろこっちが本来の姿だろう。パーティ募集の声かけが五月蠅(うるさ)いくらいに続いている。


 今のところ、オレのような始めたばかりのプレイヤーを募集する声は黒魔以外にはなさそうだ。とはいえ呼びかけの内容から、ガチ勢プレイヤーは予想通りクエスト中心にどんどん強くなっていっているようである。


「あ、君さっきもきた人だね!職業何?始めたばかりなんだよね?魔法系だったら一緒に行かないか?初回のギルド報酬クエストをクリアするためのパーティ集めてるんだ」


 ちょっと隅の方でプレイヤー達の様子を眺めていると、一人の戦士風の男がオレに声をかけてきた。種族は人間のようだし、最初に訪れた時に取り巻きの時にいたのだろうがさっぱり覚えていない。印象が薄いヤツなのだろう。

 ギルド報酬っていうとアレか。調合士の場合は『クロスボウ』がもらえるやつだな。……オレは先に受け取ってしまったが。


「あぁ、さっきはどうも。それにしても……みんな随分進めているようだ。あぁ、すまん。オレは残念ながら魔法系じゃない」

「そうか。じゃあまた機会があればっ!」


 声を掛けてきた男はオレから離れ、今度はまた違う他のプレイヤーに声を掛けている。そう言えば名前を確認するのを忘れた。次会ったときもオレは覚えてなさそうだ。

 向こうがオレの事を覚えていたのは特徴的なドワーフだからじゃないだろうか。


 ここで目にするプレイヤー達の半数は人間だ。ゲームだからアバターでいろいろ遊べばいいのにと思うのに、人間の姿が人気なのはまあ仕方ない。

 次に多いのはエルフだ。これも要するに人間型であるということと、美形キャラになれるという動機があるからだと思う。その証拠にエルフキャラは圧倒的に女性キャラが多い。経験上プレイヤーが女性とは限らない。むしろエルフの女性キャラに関しては中身が男である可能性がかなり高そうだ。


 そのほかの種族は、オレのドワーフも含めて非常に少数だ。最初に絡んできた鬼人もあいつ以外には見当たらない。

 そんなことを考えつつしばらくパーティ勧誘を眺めていたオレ。予想通り討伐系、探索系のクエストの声かけがほとんどのようだ。


 しばらくプレイヤー達の様子を眺めていたが、調合士であるオレに今のところパーティに参加する余地はなさそうである。といっても眺めているだけで結構楽しいものだ。ゲーム内のこういう活気は嫌いじゃない。


……そう感じられるひとときは、オレにとってとても幸せな時間である。




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