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公爵令嬢はサブキャラに愛を捧げたい!

作者: 深澤雅海

 小説家になろうで書いているからには転生ものを書かなくては、と思っていたのに中々書けず、やっとひねり出したものの、ここまで書いたところで「あれ、これ転生してなくても(他に置き換えて)成り立つんじゃない?」と気付いてしまい、ボツになった物語です。


 ボツにしたけど転生ものを書いたという証拠として投稿します。(自己満足)

 

 とうとうこの日が来てしまった。

 私の名はエメラルド。公爵令嬢で婚約者は王太子。

 私には生まれた時から前世の記憶があった。

 そして、この世界がゲームの世界だと認識していた。


 そのゲームは恋愛ゲームで、主人公の名はルビー。

 ルビーは母子家庭で城下町に住んでいたけど、母親が病気で死んでしまったところに伯爵が自分が父親だから引き取ると言って、いきなり伯爵令嬢になるのだ。

 恋愛ゲームらしく数人の中から相手を選んで話を進めていく。

 ルビーが選ぶ相手には必ず婚約者か恋人、幼馴染がいる。分かりやすいライバルだ。

 その必ずいるライバルの名はエメラルド。

 そう、私だ。

 誰を選んでも私がライバルとしてルビーの前に現れる。


 そしてまあ、邪魔するわ嫌がらせするわイジメるわ結構な悪人である。

 ルビー目線でゲームを薦めると「なんだよコイツ!」と思うことが多かったけど、エメラルドになってみると「いや自分の婚約者なんだから取られないようにするのはわりと普通では?」と思うようになった。


 今まで誰とも恋仲になっていなかったので「その時はその時」と考えていたけど、とうとう一カ月前に婚約者が決まった。王太子だ。血縁的には結構近い。従兄弟に当たる。

 ゲームの通りなら今日、婚約披露パーティでルビーと王太子が出会い、お互い一目ぼれする。


 考えてみて欲しい。婚約パーティで婚約者が他の女に惚れるのを目撃するのである。

 そりゃ嫌がらせするよね。


「緊張してる? 君でも緊張するんだね」

 私の心中を知らずに隣でそんなセリフを吐くのは婚約者の王太子である。

 名はジャスパー。今はまだ私に優しい。

「ええ、とても緊張しているわ」

 どういう態度を取るのが良いのかしら。

 それに悩んでいる。


 よくある転生令嬢の漫画だと、婚約者を取られまいと努力したり、逆に諦めたり、自分がひどい目に遭わないように主人公を応援したりするけれど、この一カ月考えたもののどうすればいいか答えが出ないままだった。


 ゲームではルビーが幸せになるときにはエメラルドはフェードアウトしてて出てこないんだもの。

 なんか、イジメが見つかって婚約破棄されるまでは元気に悪人やってるのよね。

 実際に会ってみたらムカついたりイライラしたりしていじめたくなるかしら。

 ジャスパーのことも、格好いいと思うし嫌いじゃないけど、別に恋愛感情持ってるわけじゃないんだもの。どうすればいいのかしら。


 ジャスパーを見ると優しく手を握ってくれた。

 いい男ではあるのよね。

 金髪に滑らかな白い肌。水色の瞳に程よく筋肉のついた長身。格好いい人だとは思う。

 でも他の女に惚れるって出会う前から分かってて惚れるわけないじゃない。

 フェードアウトしたあと、私は一体何をしているのかしら。

 そこが分かればどうするか判断できるんだけど。今さら前世に戻って調べることは出来ないし。

 とりあえず、イジメるかどうかは別にして、今日は覚えている限りゲーム通りに行動してみようと思う。


「そろそろ出番だよ」

 優しい声で囁かれ、目の前の扉を見る。

 これからこの扉をくぐりパーティ会場へ行き、貴族たちのお祝いの言葉を受ける。

 その中に初めてパーティにくるルビーを伯爵が紹介する。

 ジャスパーはルビーに一目惚れをして、婚約者を放ってルビーとダンスをするのよね。可哀想な婚約者エメラルド。

 私である。

 ゲームではルビーを怖い顔で睨むのよね。

 あら、怖い顔ってどんな顔かしら。うまくできるかしら。


 扉が開かれてジャスパーにエスコートされて進む。

 光り輝くシャンデリアにその光を反射する壁の装飾や人々の身に着けた宝石、ドレス、色々なものでにぎわっている。

 所定の位置に行き挨拶を受ける。皆おめでとうしか言わないから気楽だわ。

 あ、クレア夫人のピアス、買おうか迷ったやつだ! やっぱりいいわよね、その石。

 

「は、初めてお目にかかります、ル、ルビー・クルジットと申します。こ、この度は、おめでとうございます」

 クレア夫人のピアスを目で追っていたら緊張した声が聞こえて視線を前に戻す。

 あら! 可愛い! ていうかちっちゃ! ルビーってこんなにちっちゃいの!?

 主人公ルビーが登場していた。

 ストロベリーブロンドの髪、南の海のような青い目、透き通る白い肌、片手で掴めるほどの肩や腰。身長も小さいし頭も小さい。なのに胸はしっかりあるわね。私も大きめだけど…あら、同じくらいあるかしら。

 私は全体的に肉付きが良いから細くてちっちゃいのって羨ましいわ。

 ちらりと隣を見るとジャスパーは言葉に詰まっている。惚れたわね。


 ジャスパーの代わりにお礼と挨拶をするけれども、ルビーの方もジャスパーを見て頬を染めている。

 うーん。実際会ってみたらムカついたりするのかしら、と思っていたけど、これは、なんというか……

 微笑ましいわね!


 こんなウフフな気持ちなのに怖い顔で睨むことができるかしら。

 と、思っていたら「あ、あの」と言って踏み出したジャスパーにびっくりしてルビーが後ろに倒れかけた。

 そのルビーを後ろにいた男性が支えた。

「ルビー、緊張しすぎだよ」

「!!!!!!!!」

 今度は私が硬直する番だった。


 忘れてたあああああああああああ!!!!!!!


 ルビーの親友、マリウス・コントルシー!

 ルビーのお助けキャラだ。ちょこちょこ登場するサブキャラである。

 爵位のない末端貴族で、城下町の教会でルビーと知り合う、ルビーが伯爵に引き取られる前からの友人だ。引き取られた後も色々世話を焼いたり相談にのってくれる。

 ちょっと童顔で黒髪茶色の瞳、中肉中背で顔は普通。特に格好いいわけではない。

 日常では天然でスリにあっても気付かないのに社交界ではルビーのサポートをそつなくこなす、都合の良いキャラだった。

 どういう都合かというと、彼がスリに遭ったことに気付いたルビーが犯人を追いかけて危ない目に遭ったところに選んだ相手が助けに来るのね。そんな感じ。

 マリウスはあくまでサブキャラなので相手に選ぶことはできない。


 私、マリウス好きだったんだよね……!!!!

 なんで忘れてたのかしら…!


「この度はご婚約おめでとうございます。社交界の宝石と言われるエメラルド様と、王国の至宝と言われるジャスパー様がご結婚されるという知らせは、この国に多大なる幸福をお運びになることでしょう」

 ほら! 挨拶も滑らかで表情も爽やかで完璧だわ! 好き! 大好き!

「う、嬉しいお言葉でしゅわ。心よりお礼もうしゅあげます」

 噛んだ! この私が二回も噛んだ! 「お言葉」も「おことびゃ」になりかけてた!

 恥ずかしさと嬉しさと好意が爆発しそうで顔を熱くしながら私はややうつむき気味に礼をする。

 この私としたことが!

 ことさらゆっくりとお辞儀をして、咳ばらいをしながら顔を上げるとマリウスと目が合った。

 笑った。

 好き!!!!!!!!


 一礼して去って行く姿を目で追ってしまう。

 好きだわ。あんなに颯爽と歩いているけど城下町では子供にスられてるのよ知ってるわ。

 男爵にあんなにスマートな挨拶をしているけど、階段踏み外して青あざ作ったりするのよね。知ってるわ好きだわ!

 男爵と乾杯してるけど、お酒に弱くて飲めるのはシャンパン一杯までなのよね。可愛いわ好きだわ!!

 ルビーがエメラルドに睨まれた後、飲み物を持って行って励ますのよね。優しいわ好きだわ!!!


 すぐ横で大きい咳ばらいが聞こえて顔を向けるとジャスパーが私を見ていた。

 ジャスパーのすぐ横にはルビーがいる。

 あら? 確か挨拶の後、ふたりで踊るんじゃなかったかしら。

「エメラルド、少し踊ってきてもいいかな」

 あら? ゲームではエメラルドをそっちのけでルビーを誘って、エメラルドは悔しそうにそれを許すのよね。ジャスパーからこんなセリフなかったはずなのに。

「よろしいわよ。音楽はもう始まっているわ。ルビーさんも楽しんで」

 私は覚えているゲームのセリフを言う。

 ゲームではもうちょっと嫌味っぽく言ってたけど、マリウスに会った後に意地悪するのは無理だわ。今幸せな気分だもの。

「……」

 あら?

 ジャスパーは少し不機嫌そうな顔をして私を見た。

 何かしら。

 ルビーを見るとニコっと可愛い笑顔をいただいた。何かしら?

「エメラルド、君…」

「あ、あの、それではジャスパー様をお借りします!」

 何かを言いかけたジャスパーを遮るようにルビーが私に丁寧にお辞儀をした。あら可愛い。セリフはゲームの通りね。

 睨むどころか笑顔で見送ってしまうわ。ジャスパーはまだ何か言いたげね。もっとルビーに集中しなきゃ足踏んじゃうわよ。


 給仕が飲み物を持ってきてくれたので、さっきマリウスが飲んでいたのと同じシャンパンを手に取る。

 ちょっと甘いわね。マリウス、甘いもの好きだったものね。こういうの好きよね良かったわ。

 マリウスを目で探すと壁際でルビーの父親と話をしていた。

 いいなぁ。私ももっと声を聞きたいわ。

 でも、王太子の婚約者で公爵令嬢の私と、爵位のないマリウスでは接点が何もない。

 話しかけるには不自然だし、向こうも何事かと思うわよね。

 ああ! 笑ったわ! その笑顔大好き! 何の話をしてるのかしら。

 身分が違いすぎてダンスどころか近付くことも出来ないなんて。

 ジャスパーはいいわよね。王太子だから何しても許されるし、男だから自分からダンスに誘えるわ。


 ため息をつきながらシャンパンを一口飲む。

 マリウスと同じものを飲めることだけが救いね。

「エメラルド」

 声に振り向くとジャスパーがいた。強く腕を掴まれる。

「ジャスパー様? ルビーさんは?」

 ルビーは見当たらなかった。


 ジャスパーは不機嫌そうに私の手からシャンパンを取り給仕に渡してしまう。

 まだ半分も飲んでないのに。

「踊ろう」

 そう言って私が返事をする前にホール中央に連れて行かれる。

 注目される中ルビーを発見した。困った顔で何というか、そう、アワアワしてる。


 私たちがホール中央に出たところで音楽が一旦止まる。

 ジャスパーは踊っている途中で私の所まで来たのね。なぜかしら。ルビーも困ったんじゃない?

 音楽は私たちのために仕切り直される。ジャスパーの勝手な行動だけど、私たちが主役だものね。

 踊っていた人たちも下がると再びワルツが始まった。

 ジャスパーと踊るのは初めてじゃないから安心ね。


 と、思っていたのに、いつもより動きが強引だった。

 ジャスパーを見上げると、不機嫌…というより怒っている?

「エメラルド、君、自分が誰の物か分かってる?」

 声も怒ってるわね。

「目の前で婚約者が他の男に惚れるのを目撃した僕の気持ち、分かる?」

 

 ……………………あら?


 ジャスパーは今まで見たことのない、笑顔なのになぜか怖い顔をしていた。

 思わず視線を巡らせると、笑顔で私たちを見守る中、ルビーだけが心配そうに私を見ている。

 あ、マリウ…

「誰を見てるの? 僕を見て」

 言われてジャスパーを見る。怖いわ。今、マリウスを見付けたのに気付いたのね。

「ジャスパー様だって、ルビーさんを…」

「ちょっと可愛いなと思っただけなのにさっさとどこかへ行けと言わんばかりに追い出すのはひどくない? 今日は僕らの婚約パーティだよ? 君は僕と結婚するんだ。爵位のないあんな男とは口をきくことも出来ない。せいぜい同じシャンパンを飲めるくらいさ」

 固い口調でつらつらと言われ私はあんぐりと口を開けてしまう。

 こんなジャスパー見たことないわ。

 ゲームでも、転生してからも。

 

 怖い、と思ったら涙が出た。

 ちょうど曲が終わり足が止まる。その瞬間、零れ落ちる涙をジャスパーが拭った。

 唇で。


 悲鳴に似た歓声と共に、人々が踊るために輪を作り始める。

 ジャスパーは私を見たまま、私が視線を逸らすのを許してくれなかった。


「あ、ああー、ああーー!」

 わざとらしい声と共にすぐ横に倒れた姿があり、やっと視線を外してそれを見る。

「し、しまったわー。きんちょうして足がもつれちゃったー。くじいたかもー」

 思い切り棒読みのルビーだった。

 突然何…あ!

「まあ、大変ね! 手当してもらいましょう。ジャスパー様、ここはよろしくお願いします!」

 さっと手を放してルビーを助け起こす。

 ホールに再び音楽が始まる中、私はルビーに肩を貸して輪から抜けた。


「助かったわ、ありがとうルビーさん」

 小声でお礼を言うとにこっと笑われる。可愛いわね。癒されるわ。

 廊下に出る前に振り向くと、ジャスパーは動きもせず私を見ていた。

 あの怖い笑顔で。



 ゲームの世界に転生したはずなのに、


 ちょっと、違うみたい……






 この先は多分皆さんがお察しの通りの展開です。 

「そりゃ嫌がらせするよね」


 ※続きません。

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