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ミクリア・サイト  作者: 杏仁みかん
序章 不可視の襲撃者(レイダー)
2/12

0.1:複合現実と共存する日常生活

 1LDKの寮室に眩しすぎるほどの朝日が射し込んだ。

 平日でもなく、誰に起こされたわけでもなく、清々しく目が覚めたことに感謝する。

 何せ今日は、久々に楽しい連休の始まりなのだ。一分たりとも寝過ごすわけにはいかない。


 俺、都賀(ツガ)耀(アカル)は、()()()()()()()()()()()()()十六歳の男子だ。

 小柄で体力に自信もなければ成績もそれなりに悪く、学校も通うだけ無駄だ、とサボリがち。

 他人には無愛想だと自覚してるし、ゲームにだけ夢中になれる。まさに、今流行りのMRゲーム中毒だった。


 そんな俺が高校に入ってから友人と呼べるような人物に出会えたのはたった一人。

 中学時代に三年かけて絆を作り上げたはずのかつての友人たちは、何も言わずに別の高校に進学してしまったし、それ以降の関係性は僅か数か月の間に自然消滅した。男の友情なんてそんなもんだ。


 結局、リアル側の友人なんて一人しか存在しない。

 どうせ、いつか別れるんだったら、友人と言わずゲームの仲間ぐらいの感覚であった方が良かったんじゃないだろうか。


 そんな俺が休日を楽しみにしている理由は一つしかない。


「ご主人ー! 今日は朝早いんですね!」

「ん、まーな」


 動きやすい服に着替えていると隣のダイニングから聞こえてくる元気に満ちた声。()()の「きなこ」だ。二歳の雌の柴犬で、実家から連れてきた小さな家族でもある。

 俺が寝ているときはMR(ミクリア)を切っているから、彼女の音声だけがダブルで耳元に届くのだが、今は仮想体の女の子がテーブルでお行儀よく食事をし、その足元で本体がバクバクと食事(エサ)をたいらげているという、何ともシュールな絵面になっている。


 そんな彼女を見ていたら、自分のお腹も抗えない現実を突きつけられる。生きるために朝食を摂らなければならない。

 視界の端に映る時計に目を移すと、時刻は九時二十分を過ぎたところだった。


 すっかり慣れてしまったが、独り暮らしの高校生にしては割と贅沢な暮らしに満足している。さすがは都会と言ったところか。

 通っている高校は全寮制で、この部屋は生徒用の寮室。配色は白に統一され、壁や扉の至るところにはポスターの替わりに正方形の中にいくつもの小さなドットが占めているMRコードが貼られている。


 そんな頭がおかしくなりそうな現実世界も、MR視点(ミクリア・サイト)というフィルターをかければ、一瞬で小鳥の囀る幻想的な森に早変わりする。

 視覚や聴覚だけではない。五感全てが映像に合わせて切り替わる。実際、最新の空調で管理された空気よりも複合現実の大自然の方が美味しく感じられるから不思議なもので、こんな景色で朝食を食べることが、俺にとってはささやかな毎日の楽しみでもあった。


 リモート機能で予約していたホットコーヒーをポットからカップへ、トースターからは出来立てのBLTサンドを皿に移し、いつもの朝食の準備が整った。


「リモート:ニュースチャンネル」


 こんな「呪文」を発するだけで、ファンタジーの森に不相応なスーツ姿の男性ニュースキャスターの立体映像が映し出され、独りでに今朝のニュースを始めてくれる。

 せめて吟遊詩人の格好なら文句はないんだが、たかだかニュースキャスターの仮想体(アバター)を変えるだけで五百円も取られるぐらいなら我慢した方がいい。独り暮らしの学生というのは、何かとお金に困るのだ。


『……昨夜未明、円丘町(まるおかちょう)駅付近の路上で、二十代の男性が原因不明の大量出血により、死亡しているのが見つかりました──』


 しょっぱなから物騒な話で顔をしかめる。円丘町は、俺が住んでいる寿ヶ谷(ことがや)の隣駅だった。


(事件なんてよくあることだけどさ……)


 もぐもぐと口を動かしながら考える。人が死なない一日なんて逆に珍しいのではないか。


 その他、天気予報にペット関連のニュース、本日リリースされたばかりのゲームのニュースなどなど──

 大体は知っている好みのニュースを聞き流しながら、いつものサンドを黙々と食べ、乾いた喉を渋めのコーヒーで潤した。


 あっと言う間に食べ終わった皿を食洗器に移動させていると、ニュースを面白そうに眺めていたきなこが弾かれたように見上げてきた。


「ご主人! 朝ごはん済みました? 済みましたよね!? さあ、散歩に出かけましょう!」


 くるりと巻いた尻尾をぶんぶん振りながら上目遣いで訴えてくる。

 それを仮想体で表現してくるのだ。どれだけ愛らしいことか。


(やれやれ。可愛いやつめ)


 そんなきなこの薄茶色の髪を仮想体(アバター)側でなでなですると、彼女は気持ち良さそうに目を細めるのだった。


「仕方ないなあ。散歩に行くぞ、きなこ」

「やったのですー!」


 きなこは犬らしく元気に跳ね回った。

 こうして二人で散歩に出かけるのが、俺の毎朝の日課となっている。


 その努力もあって、どうにか健康体を保っている。

 きなこが居なかったら、今頃は体が鈍ってぶくぶくと太っていたかもしれない。


 こいつは俺の唯一の話し相手であると同時に、引きこもりストッパーでもあるのだ。

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