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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
キシミア編
63/344

都市神エーヴ3




「だはぁ……」


 大きく溜息を吐く。汲み上げた井戸水を瓶に移し、桶を置く。


 肉体的に堪える神である。つくづく自分というニンゲンが持つ要素の面倒臭さを感じずにはいられない。そういった類――つまるところ、ニンゲン以外の何やら恐ろし気なモノに好かれる傾向があるのは、昔からだ。


 家が確保出来、仕事も問題無さそうだと思った矢先にコレとは、難儀で口もへの字に曲がる。


 逃げるのならば簡単だ。所詮流れ者である。しかしあの神に嫌われたとなると、今度はイナンナー全体から睨まれる可能性が出て来る。その上自分は危機的状況が近づいているので助けてくれ、とお願いされたのでは、男としても見捨てる訳にはいかない。


 勿論、治癒神友の会に被害が及ぶようならば一目散である、その前提は覆らない。


(竜精にも近いような神を、どう害するというんだ。そも、害とは何だろうか)


 見えない敵の思惑が不明だ。エーヴは力は無い、とは言うが、その保有する魔力を術式に乗せず解放したとしても、害しようとする敵など消し炭だろう。彼女レベルでは、もはや戦う必要すら無いに決まっている。そんな彼女が恐れるものは、何なのか。


 例えば本当に竜精などが関わっていた場合、確かに危険だろう。だが竜精は大樹教を護る者だ。大樹教本拠地である帝国と争うイナンナーの外地であるこの土地を、竜精が奪いに来る事は無い。これは絶対だ。国家間の争いに、竜種は手出ししない。これは他の大樹から産まれた者達も同じである。十全皇は支配はすれど、彼女自らが敵と戦う事は無い。


 そんな事を始めると、この星が無くなるからだ。

 彼女達竜種は自分が何者なのかを、知っている。


 では、神エーヴに匹敵する神であろうか。その場合、そんな神がこの周囲をうろついている事になるが……可能性としてはかなり低い。


(渡された資料を観てもなあ)


 巫女のカルミエが持って来た資料を手帳に書き写した。資料自体は焼却済みである。


 カルミエが疑っているのは、副祭神二柱。

 この二柱の背景に何が有るかを探るのが、自分の仕事だ。


 治癒神友の会自体の運営、ヒナの手伝いもある。ビグ村に居た頃と同様、寝る暇はなさそうだ。


「おう」


 小さな溜息を吐いて、顔を上げる。そこに居たのは屈強な獣人の男性と、ひょろい人間族の男。そして周囲にはその取り巻きと思しき人々が集まっている。


「はい、何でしょう?」

「こ、こいつっすよ。ヒナちゃんちの隣に越して来た奴」


「んんー? エルフかあ? エルフなんて奴等、とてもじゃねえがこんな掃き溜めに居るとは思えねえんだけどよぉ?」


「あ、掃き溜めって自覚はあるんですね」

「そらそうよ。掃き溜めが孕んで生んだのが俺達みてえなもんだ。分かるか耳長」

「ははあ。手厚い歓迎痛み入ります。それで、ご用件は?」


「このゴボウ野郎がよう、ミサンジの姐御を新入りの男がどうにかこうにかと、まあ五月蠅ぇったらなくてよ。ほんじゃまあ、新入りの顔でも見てやるかと、こうして来てやった訳よぉ」


「実はこちらからご挨拶に向かう予定だったのです。手間が省けました。わたくし、治癒神友の会の第二神官長、ヨージ・衣笠といいます」


「あー? 宗教屋か! 確かに救いの手が欲しいような奴ばっかりの場所だからよ、イナンナ教よりマシなら、話を聞いてやらん事もねえぜ」


「それは結構保証出来ますね。イナンナよりマシというならば」

「おーそうかい。しかしキモが座ってんな、刀に手をかけもしねえ」


 獣人男性がノシノシと歩いてヨージの前に立つ。ヨージより頭二つ大きく、また筋肉で服が盛り上がっている。元の形態は不明だが、大型の草食獣神を祖とする一族だろう。


 面と向かってタイマンするのはオススメ出来ない相手だ。


「そら、刀なんて抜いたら、皆さん警戒しますでしょう。お守りみたいなものです」

「そうかい」


 男がポケットから手を抜いた。瞬間、ヨージの眼前を男の爪が高速度で抜けて行った。居合でもされたようだ。


「ほう。恐らく元軍人ですね」

「なッ――避けたのか、お前」

「避けますよ。当たらったら、痛いですし」

「は、ははッ。ようし分かった。不意打ちなんて真似して悪かったなあ」

「いえいえ。ああ、あの、ゴボウさんでしたっけ、モヤシさんでしたっけ」

「な、なんだと手前!」

「刀預かってください」

「んべっ」


 ヨージは腕を捲り、腰に差していた刀をモヤシだかインゲンだかいう男に投げつける。


 どうやらこの獣人はこの辺りの元締めのようだ。一番上にご挨拶出来るそのスムーズさは、やはりビグ村のような場所では味わえない醍醐味だ。地元の味とも言う。


 あまり荒事を好くようには見えないヨージであるが――少なくとも扶桑では、火事と喧嘩と歌と踊りは、見つけた奴から参加するのが実京(扶桑首都)の習わしである。


『男の子は元気であった方が良いのです。やんちゃな方が可愛らしい』とは女皇陛下の有難いお言葉だ。当時からヨージは『出世に響くから』などと言って荒事を避けていたが、世俗に塗れると同時にある程度習慣化してしまったので、経験が無い訳ではない。


(碌なもんじゃないけど)


「素手で殴り合いなんて野蛮な真似は久々です。どうも刀と弓、それに魔法が楽でして、そちらに頼ってしまいます」


「お前も元軍人かい」


「イナンナーともやり合いました。もしかしたら、戦場で顔を合わせているかもしれませ……すみません、違いますね」


「ほう?」

「全員殺したので」


 悪趣味な口上も、自分にしては上出来だ。男はそれを聞いて、牙を剥いて笑う。

 殺気立つその姿は、まさに神話の獣だ。


「ボーグマンだ。俺が喧嘩すると決めたら、ギャラリーは居なくなる。何でか分かるか?」

「はて」

「見境無しに全部ぶん殴っちまうからだよ――ッッ」


 アチラさんの口上が済み、早速始まる。


 喧嘩、という枠組みであれば、自分の力を抑えたまま、相応の実力を示す事が出来る。ビグ村のように最初から残滓相手に魔法をぶっ放さなければならないような状況に陥るのが可笑しいのだ。


 過ぎたる力は友好など生まない。あるのは畏怖ばかりであり、そのニンゲン関係は協力ではなく、支配になってしまう。


 ボーグマン氏には感謝だ。


「どぅぅらぁぁッッ」

「動きが硬い」

「チッ! うらぁッッ」

「動作が見えやすい」

「カッ――コイツぅッッ」

「いちいち声を荒げない。舌噛みます、よッと」

「ぶげッ――べほっ、げっ……おえぇぇぇ……」


 空いた腹に一撃ねじ込む。

 ボーグマンの攻撃は速いであろうし、重いであろう。食らえばヨージもすっ飛ぶのは分かる。だが対各国の軍隊式格闘術は、もう若い頃に散々とやって来た。


 見た目の割に基本に忠実であるのは好感が持てる。何かしらの理由で退役したのだろう。いや……あんなに女性が強権的なイナンナーであるから、何となく辞めたくなる気持ちも分かる。


 軍隊はどこも厳しいし、理不尽だ。だがイナンナーは度を越した女性の権限が支配した世界である。体罰どころか、拷問に近いものすらありそうだ。


「人間族だと、内臓がぐるぐるになっているところなのですが、流石にタフですね」

「ぐぎぃ、ハッ、ああ、まだだぜぇ……その顔面潰してやらねえと、お、収まらねえからよぉ」


 そう言って、ボーグマンが大きく息を吸う。血流が活発となり、筋肉が膨れ上がった。じわり、じわりと体毛が濃くなるのが分かる。


(っと、隔世持ちか)


 今まで見た目が第一種別であったボーグマンが、第二種別前後の容姿へと変貌して行く。獣人特有の先祖返りであり、隔世変化などと呼ばれる。これが出来るのは――かなり特異な者か、高位の者だけだ。


 エネルギー消耗は激しいものの、一時的にでも訓練で到達出来るニンゲンの限界点を突破する身体能力を発揮する。


「ただ、変化した程度で何とかなる程、舐めた鍛え方はしていません」

「はぁぁ、お前、まーじでタダもんじゃねえなあ……?」

「確かめますか。ただし、授業料として骨の二、三本は頂く事になりますがね」

「はあ! 上等ぉぉぉぉッッッ!!」


 駆ける。その速度はまさに獣だ。彼の拳にかかれば、ヨージの顔面はズタズタにされるだろう。守るは急所、攻めるは、腕か。


 伸ばされた腕を絡め取り、地面に叩きつける。そのヴィジョンが脳内に映った所で、しかしそうはならなかった。


「ぶげっ――ッッ」

「あんたぁ! また喧嘩してえ!!」


 横槍が入ったのだ。


 まさに横槍であり、その武器はモップである。あの速度に一体どうやって追いついて突きを入れたのか、驚くべきだが――もっと恐ろしいのは、それが女性である事だった。


「げほっ! ぶえっ! おばえ、お前! まじか! げほぇぇッッ」

「ほんと、すみません、うちの兄貴のバカが……」

「凄まじい槍さばきです。驚いた。兄貴……という事は、妹さんで」

「はいそうなんですけど……ってうわ、美形! 兄貴! また顔のいいヒトに喧嘩売って!」

「あがっ! 叩くな! 叩くな! お前の、ほんと痛いんだよッッ」

「実は、ご挨拶に来たのです。落ち着いてお話出来るところは?」

「あ! それならウチのお店でどうぞ! お詫びに何かごちそうしますから!」

「よ、余計な事しやがって……いだだっ」

「実力差有り過ぎてあんた、間抜けだったわよ。さ、お店に! あ、野菜あったかしら?」

「いえ、雑食ハーフエルフです。何でも食べますから」

「よかった!」


 そういって現れた妹氏は、倍以上あるボーグマンの襟首を捕まえると、そのまま引きずって行ってしまった。イナンナーの女性は本当に凄まじいという、体現であるようだ。あれでは男が尻に敷かれるのも、仕方が無いかもしれない。


 まだ開店前の店に上げられる。第一商店街の裏手という、明らかに胡散臭い場所に建っている割には小綺麗であり、古い帆船の舵やワイン樽、海をモチーフとした絵画が飾られ、地元酒場ならではの雰囲気があった。


「おはよー、アリナさん。あら、客人?」

「ええ! あ、食事はもう出来てるから、配膳しておいてね」

「はぁい」


 階段を下りて来た化粧の濃い女性が気怠そうに返事をする。


「あ、ごめんなさい、上はそういう商売してて」

「連なる建物を見る限り――もしかして、二階が他の建物に繋がってますか」


「そうなの! お役所の気まぐれでいつ取り締まりが来るとも分からないから、アチコチ繋がってて、直ぐ逃げられるようになってるの。内緒ね?」


 ボーグマンの妹、アリナはハツラツと言い、そしてお茶目に口止めする。どうやら娼婦の面倒も見ているようだ。器量が良く、声が明るく、見ているだけで元気になる人物である。


「お酒は?」

「いえ、お仕事中なので」

「まあ。じゃあミルクぐらいしかないわ。良い?」

「はい」

「ったく――」


 対面に座ったボーグマンが呆れたように言う。妹の制止を振り切って襲って来るのかと思ったが、彼は忌々し気にアリナを観ながらも、それ以上の反意は無いようだ。


「実に出来た妹さんですねえ、ボーグマン氏」

「俺ぁ外交。あいつぁ内政。そういうこった」


「では、上手く廻っているようですね。ミサンジから話は聞いていましたが、思ったより荒廃していない。というか、むしろ色街としては健全でしょう」


「そいつぁどうも。で、あんたさん、どこのモンだ」

「対話で構わん、という事ですか」

「不完全燃焼だが、あいつに止められちまったら仕方ねえだろ」

「あたしが止めなかったらアンタ死んだでしょーが!!」

「うるせぇな死なねえよ! コイツがそんな手加減出来ねえ男に見えるか!」


「これは高評価を頂きましたね。では改めて。ヨージ・衣笠です。治癒神友の会という宗教団体……と言っても一柱と二人で活動しています。まあ、お察しの通り、元軍人です」


「ボーグマンだ。苗字は捨てた。アイツはアリナ。ここで元締めやってるよ。しかし扶桑のエルフっていやあ、糞エリート様だろ。何しに来た?」


「何の背景もありません。失敗して、逃げて、宗教団体を立ち上げて、回っている。それだけです」

「ああ、落ちこぼれか。ならココはうってつけだな、ガハハッ」


 この場合、嫌味では無いのだろう。お前もココに居たってかまわねえよ、というお許しだ。やはりこの近辺を仕切っているというだけあって警戒心は強いが、思慮は浅くない。暴力だけでは無い人物だろう。


「ミサンジは元同僚ですね。彼女を頼ってきました。今は彼女を手伝って、この裏手の衛生管理をしています」


「ああ、それで瓶に水なんぞ詰めてやがったのか。自治府が何かし始めたんじゃねえかって警戒したんだわ」


「ご安心を。僕は家賃一部肩代わりに働かされているだけですから。それで、本題なのですが」

「ああ」


「この一帯の人口調査です。ミサンジ曰く、自治府自体は手を出し難いが、かといって放置も出来ないから、流れ者を使ってる、と」


「そういう事か。あー、アリナ!」

「はい、おまち。鯖の果実餡掛けとマッシュポテトとミルク!」

「あ、美味しそう。海のものは久々だなあ……」

「アリナ。人口調査だとよ」

「人口? それ流れの娼婦も含めて? 数えきれるかなあ。表向きの自治会長と話してみるわ」

「助かります。まあ今のところはこんなものですね」


 さて、この場末の酒場でどのような料理が出て来るのかと思っていたが、アリナの腕は間違いなさそうだ。仕事もあるが、ちゃんとした料理を食べる機会があまり無いので、これも今後の為と有難く頂く。


 ちなみに、エオは料理の勉強中だ。ヨージはサバイバル料理のようなものしか作れない。

 我等が神は、鍋を触ると蒸発して鍋の中身が無くなるので、接触禁止だ。


「ん。美味しい……美味しいです、アリナさん。素晴らしい」

「ホント? ありがと! ほらアンタも食いなさいよ、ったくあんなとこで変化して」

「あいあいすいやせんすいやせん……」


 脂ののった身に酸味のある餡かけがかけられており、旨味と香りが心地良く口内を満たす。手に握っているコップがエールだったらどれほど良かったか。これはまた食べに来るだけの価値がある。


 ボーグマンは黙々と食事をし、さっさと平らげて隣の椅子に足を投げ出した。


「普段はどのようなお仕事を?」


「まー、自警団での見回りと、出入りするニンゲンの監視。軍警察への警戒。アリナの奴はココの切り盛りと、娼婦の面倒見てらあ。細かい数字もあいつだ。その他自治に関しちゃあ、自治会があるからよ」


「自ら買って出たのですか」


「前ここ管理してた奴等はほんと、ただのチンピラみてえな連中だ。追い出したんだよ。まあ? 俺がチンピラじゃねえ保証はねえがな? ガハハッ」


「それはそれは……」


「追い出したっちゃそうなんだが、まだちょっかいはかけて来やがるから、他の奴等も神経尖らせてんだ」


 表向きには自治会が運営しており、内情の細かい部分はこの二人が請け負っている、という形なのだろう。自治会がまさか、大っぴらに自警団など運営し始めたら、軍警察が五月蠅い。娼婦は娼婦でイナンナー的には存在しない筈だが、居るものは居る。管理が無ければ荒むだけだ。


 チンピラ集団の残党は居るようだが、なるほど上手く回っている。


「――アリナさん。お湯をいただけますか」


 ボーグマンに色街の運営やキシミアの現状などを聞いていたところ、また上から誰かが下りて来た。ヨージがそちらに目線を送ると丁度目が合う。


「あら」

「ああ、これはこれは。お元気ですか」

「ああ? なんでえ、知り合いか」


 大きなお腹を擦る女性――船の上でキシミア守備隊に絡まれていた娼婦だ。


「ええ、少し」

「乗合船で、助けていただいて」

「ほーん。何の得にもならねえだろうに、良くやるな手前も」

「宗教者ですよ僕は――貴女もここにお世話になっていたのですね」

「はい。アリナさんが、良くしてくださいまして」


「お知り合いなのね? それは良かった! 彼女、イィルさんっていうんだけど、昔はここに住んでたの。お家もあったんだけど、前の奴等に無理やり地上げされちゃってねえ」


 それで外へと出たのか。以前の管理者というのは、何とも道理を弁えないチンピラであったようだ。この色街も二人による新体制で余程助かっている事だろう。


「お腹の子は順調ですか」

「はい。もう少しだと思うのですけれど……お医者さんにも、見せられませんから」

「大丈夫! わたしったら、もう十人以上取り上げてるんだから、お産は手伝うわ。はいお湯っ」

「有難うございます」


 何処の世界、何処の国でも、お産は大変だ。まして身より無く、誰の子かも分からぬ、となれば一人で辛い出産に臨む事になるだろう。医者にも掛かれないとなると、その苦痛は更なるものである。


(ふむ)


 少なくとも、治癒神友の会がすぐさまこの地を去る事は無い。こちらで信仰を獲得出来る手段があるならばそれを取るべきだが、大っぴらにも出来ないのが現状だ。そうなるとやはり、こういった、社会的弱者や下層民からの支持を集めて行くべきだろうという当初の考えは間違いなさそうだ。


「もし、不安でしたら、ミサンジ科学店までどうぞ。クチは悪いですが、薬学の心得がある女性がいます。きっとタダではないでしょうが、後払いも利くでしょうから……あ、それと、これを」


 そういって、ヨージは鞄から小瓶を取り出す。

 改良に改良を重ねたような気がしないでもない、リーアの祝福水だ。以前から苦みが、本当に多少なりとも改善されている。


「これは?」


「気付け薬です。大変苦いので、少量ずつどうぞ。ああ、わたくし、ミサンジの隣に居を構えましたので、いつでもいらしてください。困った事があれば、お手伝い出来ますから」


「親切に――有難うございます。そういえば、まだお名前を……私はイィルです」

「ヨージ・衣笠です。どうぞ御贔屓に」

「なあ、手前よ。随分優しいな。あ?」

「五月蠅いですねえ……」


 にっこりと微笑むイィルを見ていると、ほんのり脳裏に浮かぶ影がある。果たしてそれが誰だったか、記憶は無い。ただ、そのヒトはとても素敵なヒトだったと、それだけは覚えていた。


 美人には優しくしたいのだ。男なら察して欲しい。


「さて、戻ります。ああ、ボーグマン氏、最後にひとつ」

「誤魔化しやがって。なんだ」

「最近、熱を訴えるヒトはいますかね……?」



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