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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
キシミア編
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都市神エーヴ1



 都市神エーヴ



「ヨージさん、この衝立は?」

「えーと、入り口から一人分歩ける程度開けて二枚配置してください」

「よーちゃん。この椅子」

「それはお客さん用ですから、我が神がお座りになる椅子の前に」

「んー」


 作業が進む。ここはミサンジ科学店の隣、我等治癒神友の会仮拠点の一階だ。

 一階を訪れる客との応接に、二階を居住スペースとして利用する事にしたのだ。今はその準備中である。


 ヒナは荷物置き場にするつもりで購入したというが、居住にも営業にも十分対応出来る造りとなっており、しばらく納屋が寝床であった治癒神友の会念願の、隙間風が入り込まない家である。


 賃貸、というのが些か虚しいが、贅沢は言えない。


「エオちゃーん! これ三件先の金物屋さんから差し入れぇ! 入口置いておくからねぇ!」

「あ、はい! アリガトゴザマスー!」


 ヨージの見覚えの無い奥様が入り口に荷物を置いて行く。どうやら開店祝いらしい。


 こういった、悪く言えば多少陰気臭い場所でエオという少女は真新しく、また珍しく見えるのか、買い物に向かわせた次の日から、近所の住人が良く顔を出すようになった。


 元来明るい性格であるし、嫌味など言わず、どんなヒトにもいつも通り接する彼女は、住人の皆にとって娘か孫のような存在なのかもしれない。


 あと、慣れない現地語を無理に話す姿が愛い。

 ご近所付き合いが上手く行くのは大変良い事だ。


「けれど、うち、あまり公なお店ではないというか、お店ではないのですがね?」

「え、そーだったんですか?」


 そう、エオは忘れているかもしれないが、自分達は宗教団体なのである。

 そして多少立場が特殊であり、能力も特殊で、大きく公開する訳にはいかないのだ。当然許可は取っているので非合法ではないが。


「紹介制ねえ。バーやオークションじゃねえんだから」


 ヒナがケラケラと笑う。


「我が神の能力を鑑みると、やはり大きくは出られません」


 何事も、着実にステップアップするのが良い。センセーショナルに登場して我が神を崇めよ、というのは何処にも通じないし、ビグ村のような公開方法も好ましくない。まずはここに『診療所』ならぬ『健康所』として構え、本当に治癒が必要なヒトに施して行く方針だ。


 急激な成長は地元の行政や他宗教団体に睨まれる可能性があるし、リーアがキャパシティオーバーを起こしてしまっては元も子もない。


「えーと、ヨージ・衣笠さん。お届け物です。サインを」

「はい、はい。はいどうぞ」

「またどうぞー」


 過去、商店の開業に似たような事を何度か経験しているので、ヨージの手際自体に問題は無い。問題と言えば、その経験が大体詐欺を働いた頃のものであるという事ぐらいだろう。


「エオ嬢。この荷物は白いカーテンと、白い布と、白いボウルと、白い布巾と、その他白いものなので、適切に部屋に飾ってください」


「わー、白い。何でこんなに白いんでしょう」


「清廉、清潔、清楚、清純。『ここは綺麗で安心できる場所』というイメージを強くしたいので。宗教施設だと思うと、お客さんも居辛いでしょう」


「わかりましたー!」

「元気なのは良いですが、あまり跳ねるとスカートが捲れます」

「あ、ヨージさんのえっちー!」

「下着の洗濯すらしている僕に何を今更」


 我等が神も衣装を新調した事であるし、エオも新しいお洋服が欲しいです、などと贅沢な事を言い始め、早速男性が女性に連れて行かれて一番困るお洋服選びをさせられた。


 しかし元の趣味が地味なのか、修道院にいた所為でファッション感覚が行方不明なのか、修道服と大差無いものを持って来たので却下した。


 現在彼女が着ているものは、エウロマナの水兵が着る軍服を女性向けに改造した一品だ。


 軽く、動き易く、大変可愛らしいと現在人気の商品である。神に仕える身でスカートが短すぎるのは問題では無いか、ヨージは多少悩んだが、これから暑くなる事、生足がちょっと見えたぐらいでマズいなら、色々見えてしまいそうな我等が神はどうなってしまうのか、という対比、思った以上にヨージのシュミにヒットした結果を鑑みて採用された。


「ヨージ、お前のシュミさあ」


「ゲホッ、ゲホッ。まあ、可愛いのは良い事だと思います。彼女も年頃になりますし、見た目に騙されて将来の旦那様が寄って来るかも分かりません」


「大体不埒な事しか考えてない奴しか来ねーよ。あと、あのガキはお前にしかアピールしねえよ」

「ははは」


 普段着、として貰えればそれで良い。賃貸とはいえ拠点が出来た事もあり、折角だからとヨージは既に治癒神友の会としての制服を発注している。


「ところで、お店は良いのですか、ヒナ」

「毎日開店休業だよ。趣味の店だからな。本業は公務員」

「そうでした。医者の真似事……という話でしたが」

「ちょいと話がある。隣来い」

「ええ、構いません。エオ嬢、少しお任せします」

「はーい! あ、デートですか? ならダメです!」

「お仕事です」

「なら大丈夫です!」


 新天地でエオがやって行けるかどうか不安だったが、杞憂であったようだ。安心に胸を撫で下ろし、ヒナについて隣の店舗へと赴く。相変わらず変なものが多い。


「それで、何かありましたか。お手伝いならしますが」


「ああ。あーしはここ、第一商店街裏手の健康管理を任されてる。どーしても体調が悪りぃって奴だけ来いって話してあるが、まあそんなもんじゃ管理は出来ねえ」


「医者は」

「あいつらは下層民の足元見やがるから、嫌われてんだよ」

「なるほど、まあ良くありますね」


「行政の奴等も入り難いから、井戸や掘の水質調査なんてもう何年も入ってねえ。この裏手に住人が何人居るのかも分かりゃしない。で、お上はあーしにそれを調べろとか言いやがる」


「面倒な事この上ありませんが、行政の気持ちも分かります。では、そのお手伝いを」


「そーなるな。お前も顔が知れてた方がやりやすいだろ。酒場に顔出しとけ。掃き溜めみてえな場所だが、まあ悪い奴等……ではあっても、ゲスじゃねえ」


「了解しました。では早速。あ、帯刀が怪しまれるような場所ですか、ここは」

「いやあ。帯刀ぐらいしておかねーとな。優男は睨まれるしよ」

「それはそれは。アウトローにはうってつけの場所ですね」

「じゃ、この瓶に井戸四か所から水汲み。酒場でゴアイサツ。それと」

「それと?」

「発熱を訴えるやつが出て来た。調べろ」

「難儀ですねえ……ま、酷いのが居るようでしたら、我が神頼みですね」


「マジ便利だなお前の神様……確かに大っぴらにしたら大量にヒトが押し寄せるから、お前は賢いよ。ほんと、ムカツクぐらい」


「あ、割に合わないお仕事を頼まれた代わりといっては何ですが、これの鑑定を」


 どうやらお手伝いと言っても、本格的な土地の調査になりそうだ。戸籍を明確にし、健康管理に気を配り、アウトローと睨み合いまでしなければいけないというのだから、酷い話である。


 流石におつりが多くなる為、帳尻合わせとしてこちらから申し出をする。


「ん。琥珀か? 色が濃いな。赤い……魔導項玉か。え、まさか、火か?」

「どうやら発動しないそうで」


 それはビグ村でミュアニスから餞別として受け取ったアイテムの一つだ。魔導項玉は魔力の扱いが疎い者でも魔法を発動出来るアイテムであり、魔法関連の組織や店では高価に取引される。グリモワールの断片を結晶化したものである。


 色で属性が分かれており、赤となると火であるが、これは発動しない。

 ミュアニスはただの琥珀だろう、と言っていたが、それは有り得ない。彼女がこれを手放してくれた事に、ヨージは感謝していた。


 こんなもの、彼女が持っていてはいけない。不幸を呼びかねないからだ。


「ふむ。魔導項玉ってえのは、確かにシロートでも魔法を使えるようになる。が、そもそもコレの場合、術者が魔力を注がない限り始動しない可能性が高い……ってのが一般的か」


「何せ赤いですからね」

「赤いな……解った、調べてやるよ」


 もし本物なら、裏ルートでとんでもない金額で取引されるだろう。売り払って『雨と治癒の光』の運営資金にした方がマシそうだ。


「ではいってきます」

「ああ……その、なんだ。頼んでおいてアレだけど、気を付けろよ」

「勿論。むしろ、怪我をしたヒトがここに運ばれて来る心配をした方が良い」

「――そうだった。お前、冗談みたいに、強ええもんな」


 軽口を叩いてから、ヒナの店を後にする。隣ではエオが右に左にと駆け回っている姿が窓からも見て取れた。


「エオ嬢。少し出ます。あ、一人ですよ」

「はーい! お荷物は?」

「刀とカバンだけお願いします」

「まあ、剣呑。はいこれとこれどーぞ!」

「……働きますねえ」

「あっ……へ、変です?」

「いいえ。貴方が笑顔なら、ココに来た甲斐もあります。我が神を宜しくお願いしますね」

「えへへ。はーい!」


 一人と一柱に手を振る。エオは元気良く振り返してくれたが、我が神は小さいお手振りのみだ。不安なのか、心配なのか、どちらにせよ楽しい顔では無い。


 それもこれも、大体はあの神様――エーヴの所為である。



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