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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
九頭樹胎動編
268/318

扶桑へ

おつかれさまでした。

九頭樹グルジュ編完結です。

評価、コメント、レビュー等お待ちしております。




 あれから二週間後。自分が居なくとも回るように整え、ヨージは丘の上に居た。

 早朝、そこには誰の姿も見えない。昇って来た朝日が眩しく、復興を急ぐルーイエを照らす。


 忙しい日々の中、駐在から話が漏れたらしく、ヨージの帰国を引き留めようと、あらゆる手段が尽くされ、散々な目に遭った。今日でここともおさらばだ。


 ……。


『――……このずらりと並んだ娘さん達は?』


『へい。先生は独身でらっしゃるというお話を、そりゃあもう東に西にバラまきましたら、私こそはと声をあげた娘達でさあ。面接までして選りすぐった、南方一等の美人ぞろいで』


『いや、帰りますけど』


『まあまあまあまあ!! 是非一晩、いいえ小一時間でも!! 一緒に過ごしてやっちゃあくださいませんかね!! それに何も一人とはいいませんさ!! そもそもルーイエは夫婦の人数なんぞきまっちゃあいませんからね!! 男が何人嫁を貰おうと、女が何人旦那を貰おうと自由でさぁ!!』


『要りません要りません、お嬢さんがた、いいですか、自分で言うのも何ですが、どうみてもワケアリでしょう僕。こんなのはそれこそちょっと特殊なヒトじゃないと無理ですって』


『嫁が駄目だってんならそれこそオトモダチからだって構いやしません!!』

『アナタねえ』


『しかたねえじゃありませんか……衣笠さんみてえなヒトがいなきゃ、纏まりなんかつかねぇんですよ、この国は……女王陛下はみんなで決めて、みんなでやってけって言いますけど、俺にぁそれでうまく行く気がしねえ!! 勝手気ままにやらかして、また適当にアチコチ戦争吹っ掛けて、次の日には火の海なんだ……』


『……商会長さん』


『みんな自分が一番だ。自分の仕事に集中したいんすよ。俺だって商売に注力してえ。そら政治に働きかけられるってんなら、メリットもありやしょうが。みながそれやり始めたら、数年も持たねえ……もとより気ままな気風の国だ、方向性なんて定まるとはとても思えねえんだ。だからこそ、だからこそ、アンタみてえな立派なヒトに任せてえ。苦労した分は、そりゃもう俺に任してくださいよ、幾らでも取り計らいまさあ。だから、先生、頼む……』


 選挙権が与えられるという重責を嘆く者もいた。

 自由は尊いかもしれないが、自由で国は回らないと理解している人物だ。


 何もしなければテコでも動かないと言われてしまい、しかたなく一晩、十人の女性とお話合いとなった。あの何とも言えないピリピリしたカンジ、ちょっと味わえない針の筵である。


 ……。


『せんせぇ、扶桑かえっちゃうの?』

『ええ。実家は西真夜ですけど、一応国籍は扶桑なので、帰国で間違いないでしょう』


『けっこんは?』

『しませんねぇ』


『あんなにあついよるをともにしたのに?』

『はは。そんな言葉教えるのはどこの悪い大人ですかね、親だろうと叱りませんと』


『いいふらす』

『……ほ?』


『せんせぇが私にえっちなことしたっていいふらす』

『結果どうなります?』


『せんせぇがたいほされて、おとなたちがあれこれと理由をつけて、ルーイエに定住?』

『わあ、手段選ばな過ぎるな……ラィヌちゃん。少しお話を聞いてくれるかな?』


『せんせぇとお話好きぃ』

『先生は逮捕されると死んでしまいます』


『えっ』

『惨めで悲しくて小さくなってミイラになって地面の染みになります』


『こまる~!!』

『困りますよね。やめてくれます?』


『やめまぁす』

『ラィヌちゃんはこれから沢山いろんな男性を見て、ケッコン相手を探してくださいね』


 取り敢えず両親を呼び出して叱りつけ、名誉元首様にも『そのような妄言を吐く奴に取り合わないように』と根回しした。このままでは本当に拉致までされるかもわからない。


 ちなみに、衣笠先生との間に子供が出来た、と言い出した女性は二十二人程現れた。架空のヨージ・衣笠はどんだけ絶倫なのかと泣けてくる。事実だったら十全皇がこの星を割りそうだ。


 ……。


『今日から夫婦ね』

『おっと……こういうタイプか……』


『御覧の通り、私は驚くほど美しいわ』

『確かにちょっと見ないぐらいには美しい方ですね』


『なにより、胸が大きい』

『それはたいへんですね(ほんとでかいな)』


『お金はあるから仕事はせずとも不労所得だけで食べていけるし、アナタはわたしの隣にいるだけで、万事済む。どう?』


『――カディ公の娘さん?』

『不足ないわよね。もう婚姻届けは出してあるから』


『おっと文書偽造。取り下げてきますね』

『お前達!!』


 ぞろぞろと出て来る男性の方々。一般人ではなく、元軍人等だろう、屈強だ。

 

『――……止めた方いいですよ、本当に、やめたほうがいい』

『手荒な真似は苦手なの。それに、アナタが傷つく姿はみたくな……』


 指を弾く。


『ご令嬢。世界には、何十人に囲まれたところで、拘束出来ない奴も存在するのです』

『――え、え、え? 十五人、十五人、いた、わよね?』


『いましたね』

『やはり本当なのね……』

『……ふむ?』


『扶桑エルフが、竜精を殺したって、目撃情報があるわ。アナタなのね』

『……あの状況でヒトが居たとは驚きです』


『……――アオバコレタカ。扶桑の破壊槌、生きていたのね……』

『ご令嬢』


『な、なによ』

『このままですと、アナタの敵は十全皇になりますが、どうしましょう』


『――……と、取り下げて参ります……』

『賢明かと』


 王制が吹っ飛ぶという事は、任命者が居なくなるため貴族が無くなる。貴族等も元の立場にはあれない、という事だ。突然の政体移行に貴族等は自分の身分を保証する為に躍起になっていた。大体はそのまま臨時議員として収まり、選挙までの一年間の猶予を得たが、そこからが大変だ。


 どうにか生き残りをかけて、有力な人材と金をかき集めねばならない。白羽の矢がたったのが、このお嬢さんであり、この謎のエルフなのだろう。


 扶桑が介入している為、まず貴族等が手を取り合って発起し、革命など起こしはしないだろうが、身分差や役職による不平等性は、長く続く事になるだろう。


 ……民主主義は本当に大変だ。王政の号令一下で動いていた方が楽だった人は多いのである。


 ……。


『……せめて一年で構いません。選挙が始まるまでは、取りまとめ役をお願い出来ませんでしょうか。勿論、お手伝い扱いなんて真似はしません。相応の報酬はご用意しますし……』


『お気持ちは分かりますが、所詮は元軍人の、逃げ出した狡い男にすぎません。皆さんは恐らく、もう僕の正体なんてものは、知っているかもしれませんが……』


 仕事中、別室に呼ばれると、大臣が数人。椅子ではなく、床に座って待機していた。

 流石にあんまりである為、ヨージもすぐその場で正座する。


『――……どのような経緯で、この地に辿り着いたかは、存じ上げません。第一次南方戦争、当時私は一部隊の指揮官として働いていました。アオバコレタカ。名前だけが漂う、神出鬼没の殺戮兵器。仲間は、貴方に殺された』


『……ええ、そうです。僕の手は貴方達の同胞の血に塗れている』


『しかし戦争です。お互い、殺し合いの承認をして殺しあった。恨み合った訳じゃない。それは、割り切っています。……私達が見た貴方というヒトは、正しく、大らかで、弱きを助け、強きを挫く、扶桑男子の理想のような方です。皆も信頼しています』


『その評価は有難いお話なのですけど。というか、皆、権力欲とか、ないのですか? 俺がみんな引っ張っていってやるぜってヒトは……』


『そんな危ないもの、前に出せませんよ』

『いるにはいるのですね』


『ただ、実力が伴いません。今ここで過てば、第一歩で独裁政治です』


『そうならないよう、皆で法整備しているのでしょう。あまりエライ事を言えた立場ではありませんが……民主主義だろうと、不自由も不平等も独裁も起こり得ます。というか、それすら自由に起こせてしまうのが、民主主義です。国民の不勉強と欲望がそのまま政治に反映されてしまう。三権をキッチリ分立させ、平和と自由の為に徹底的に教育する必要があるのです。それは、貴方達も』


『……』


『辛いのも苦しいのも分かります。しかし、それは今まで他の人々が背負って来たものだ。それこそ、両陛下ですよ。貴方達の国家は彼女達によって生まれた。立国の責任は当然ありましたけど、もう果たしたでしょう。本来――多くを束ね、集団で前へと進むという行いは、困難極まりないのです。その役割が、国民にやってきた。与えられる政治から、生み出す政治になる。それが出来ん、無理だというのならば、解散するか、全部扶桑に預けるしかない』


『それは……』


『苛烈ですよ。十全皇の政治は。ヒトは生き方を選ぼうと思った場合、想像を絶する努力を必要とする。のんべんだらりと昼間から酒を呑める奴など殆どいない。男には男の、女には女の役割があるのだと強要され、その通り生きる事になります。宣ルーイエ民に、これを強いるのですか。一か月で暴動が起きます』


『では……』

『はい』


『では、何故ここにいるのですか。何故信義女王陛下は貴方をここに据えたのですか!! 何をしたら忽然と消えた大英雄が当たり前のようにココで指揮をとっているのですか!! 誰よりも出来て、誰よりも強くて、誰よりも勇敢な、そんな――そんな眩しいものを見せられたら、期待してしまう!!』


『な、内務大臣!! や、やめてください……!! き、衣笠殿、すみません』

『お、怒られますから……ッき、衣笠殿が、お、怒ったら……』


『一人で歩くのが、こんなにも暗く、辛く、恐ろしいなど、知らなかった……責任を両陛下に投げつけて、笑っていた自分が愚かすぎて、直視出来ない……何故です、青葉惟鷹殿。何故ここにいるのです。もし罪悪感があるというのならば、贖罪がしたいというのならば、ここでとどまり、皆を導く指導者になったって構わないでしょう!!』


『女の子を助けに来ただけです。辛く、長く、苦しい道を歩み、その先に現れた絶望に、身を委ねてしまいそうになった、そんな悲しい女の子を救いに来ただけです。そして、カタチはどうあれ、救いました。救えたのです。なんとか、本当に、ツギハギだらけですけど』


『……』


『もう、彼女は女王にはならない。僕も貴方達と歩む事はありません。罪悪感は当然ありますが、先ほど貴方も話したように、僕は一兵士として参加し、国家の責任の下殺した。僕に何もかも背負わせようというのは、少し狡いですね、内務大臣』


『……はい』


『とはいえ、仕事はしましょう。教えられる限りの全部を教えます。そして短期間で覚えることになる。叩き込むので、ミスを侵せば僕は怒鳴りますし、キレます。おのれの咎を想い、おおやけの罪悪感に打ちひしがれ、悲しみで前が見えないというのならば、戦う覚悟をもってそれらを打ち払ってください。政治の指先一つで、数万人が死にます。逆に、政治の指先一つで、数万人が救われる。それは、命を賭すに十分な価値と言えるでしょう。貴方は僕とは違い、個人ではなく公人であり、責任の塊なのだから』


『うぅぅっぅぅ、うぅぅっぅぅ……ッ』


『灯りが無いと気が付く事が出来るのは、むしろ恵まれています。無いと解ったら、次は作るだけだ。貴方自身を灯りにしていい、気づいた貴方が灯りを作ってもいい』


 貴族だ官吏だと仰け反り返っていた連中が直面した、本当に国を動かすという大事業に、心が折れそうになっている者も多く居た。指図して部下を動かし、大きなことは女王陛下等王宮に投げる。大した苦労もない上級管理職として培われたその怠惰は、身と心に沁みついているのだろう。


 この内務省大臣もその一人だ。先祖から引き継いだ役職をそのままに大臣となっただけの男であり、彼自身は凡庸である。


 とはいえ、そんな凡庸な者でも、基礎学力と大人らしい判断力さえあれば国を回せるようなシステムを造り上げて行くのが、これからの彼等であり、国民である。


 ……。


 ……彼及びそれに追随する人々向けの資料作りと指導に忙殺され、帰国が決まるまでの二週間は内務省から身動きが取れなかった。


 ニンゲンの群れというのは、怪物だ。


 ひとたび団結すれば国すら創り上げてしまうが、逆に乱れてしまえば想像通りの地獄がやってくる。


 竜は、恐らくニンゲンを信じていない。


 だからこそ、竜という絶対存在が睨みを利かせ、力ある者達が支配し、宗教によって統制を取り、抜きんでた者を消し、平らかにし、管理するのである。


 幾度となく繰り返されて来た文明破壊の果てにやって来たのが、今の世界なのだ。

 故に、民主主義は、ある種逆行なのだろう。


「……扶桑雅悦の根も伸びて来たな」


 九頭樹グルジュが失われ、宣ルーイエは完全に扶桑雅悦の根の上に立つ事となる。形こそ独立国家なれど、実質は全て扶桑である。十全皇の匙加減で、どうとでもなる、世界だ。


(ヒトのヒトによるヒトの為の世界か)


 過去、それは存在したという。それは、いったい、どれほど混迷を極めたものか。

 調停者のいない世界はきっと、ヨージの考えでは及ばない程に、絶望的な世界だろう。


『覚悟しろ。もう好き勝手にはさせない。俺が、この世界に平和を取り戻す。人間の世界を、取り戻すんだ。構えろ、悪鬼羅刹共――火竜剣、アスト・ダールが貴様等を成敗する』


(アスト・ダール)


『ええ。世に真実を。世界人類に新しい秩序を齎すために』


(カルミエスタ・エベルナイン)


『あの女および貴様は――旧人類からすれば、絶対悪、そのものだ。正義があるとするならば、むしろそれは、我だ』


(疑似顕現クトゥルフ)


 彼等彼女等の共通する想いはほぼ一つ、竜の支配から世界を解き放ちたいという、強い願いだ。


 自分は竜の支配する世界しか知らない。では彼等彼女等は、一定の答えをもって、その願いを成就させるべく、立ち上がったのだろうか。


『僕には責任がある。十全皇を、麻生麗を、殺さなければならない』


(……僕の知らない君。君には何が見えているんだ。そんなにも、取り戻さなければならない世界なのか、それは)


 駄目だったからこそ、竜は全てを破壊し、試行錯誤したのでは、ないのか。


(恐らくは、十全皇が全て知っているのだろう。この力、そして僕の知らない僕に関わるというのならば、聞く事も吝かではないか)


 あまり、進んで首を突っ込みたい話題ではないが……この力を知り、しっかりと御す事が出来なければ、自分というものはいつ爆発するか分からない危険物だ。


「おぅい」

「グリジアヌ」


 花子が目を覚ますのを待っていると、朝日を背に彼女がやってくる。彼女の姿は畏まった巫女装束ではなく、ボロ一枚だ。


「涼しそうな格好ですね」

「もうただの神様だからな。グリジアナの部屋に、まだあったんだ、顕現した当初の衣装」


「似合いますよ。多少、野性味と垢抜けたカンジがあいまって、性的ですが」

「そら、ニンゲン生活のあらゆる加護を持った、万能ですばらしい神様だからな、アタシは」


「……先に発ちます」


「ああ。アタシはもう少し片付けてからフォラズに戻るよ。しかし見送りも用意出来ないってのは悲しい話だな」


「また引き留められるだけですよ。気持ちは嬉しいですけど、僕がここに居て良い事もない」

「どう経由して帰る」


「花子の体力もありますから、フェニクス島へ寄って、三つ先の島で一晩、あとはまあ流れですね。軍艦を出すと言われたのですが、あそこは狭いですし」


「そうかい。十全皇によろしく言っておいてくれ。いや、今言えば通るか」

「今は、覗いていませんね。言っておきます」


「そうか。聞いてないな? 十全は居ないな? 頭の中に話しかけると、逆に魔力で関知されるかもしれんから、言葉にするぞ」


「大丈夫ですよ。どうしました」


「実はアンタに話しておきたい事が、山ほどある。しかしタイミングがなかった。十全皇に聞かれるのは少しまずいが、九頭樹グルジュの記憶だ」


「むっ」


「旧世界には、数多の名のある神と神話が存在した。その名をかたる神は現在も存在しちゃいるが、同存在じゃない」


「同名の別存在、と」


「ミドガルズオルムも、ファブニールも、ヴァーベルも、同名の竜が存在した。今この世に存在している、あらゆる竜は、旧世界にも名前があった」


「要領を得ませんね。なんです?」


「唯一、十全だけ無い」

「――……」


「十全皇なんて名前はない。モデルにしたのは恐らくアマテラスって当時の極東の最高神だろうが、十全皇なんて単語はどこにもない。九頭樹グルジュがどれだけ探っても、その正体を掴めなかった」


「それが、何を意味するのでしょう」


「わからん。わからんけど、アレが唯一無二の"何か"であるのは間違いない。今の世界を創ったのも、間違いなくアレだ。名前ってのは大事だ。名前を変質させてしまったら、それまで稼いだ信仰がなくなっちまう。世界に対する影響力が減るから。だから、奴がもし『元から強力な存在』で『強力なまま世界を創り変えたい』と思ったなら、変えない筈だ」


「……」


「別れ際に悪いな。ただ、アンタを婿にしようとしている女は、本当に得体が知れない。下僕としての忠告だ。しっかり見極めろ」


「グリジアヌ、今の貴女には、いったいどんな世界が視えているのですか」

「……ま、追々、な。ほら、花子が来たぞ」


 空を見上げる。花子はこちらが話しているのを知って、待機してくれていたのだろう、空を旋回していた。


「分かりました。去り際に不穏な話題有難うございます」

「まあまあ。お礼はキスでいいぞ」


「口ですか?」

「口は、えっちな気分になるからまた今度」


 頬を撫で、その手を髪に。前髪をあげて、額にキスをする。


 くすぐったそうに、嬉しそうにする彼女を――守る事が出来た。彼女は当時のままとは言えないが、それでも、記憶は継続し、一個神としてひとり立ち出来る、れっきとした神のままに、今を迎える事が出来たのだ。


 十分だろう。よくやったと思う。そしてこれから、良くやれた原因を探しに行くのだ。


「では、近いうちに」

「ん、またな、ゴシュジンサマよ」


 花子に飛び乗り、空を往く。


『あああああああーーー!! センセェーーー!!』

『ホントに帰っちゃうのーー??』


 気が付いたらしい住人達が、こちらに大きく手を振っている。

 ……下心はありありではあるが、こうして惜しまれて去るのは、随分と久しぶりな気がした。


「花子、フェニクス島へ。お参りと……あと、我が神を拾いませんと」

「ピィ」


 どうやって南方に来たか分からない、という彼女である、帰り方も分からないのだ。この一か月と少しの間はフェニクス島に避難した住民たちに対して施しをしているのだ。


 布教活動は控えるように言ってある。

 最後に顔を合わせたのは二週間前だが……次第にフェニクス島の全貌が見えて来る。


「……げぇ!!」


 目に飛び込んで来たのは、花壇の植え込み。


『我等が神シュプリーアの島』と、綺麗なお花で文字が書かれていた。


「祭り上げらてるぅ……ッ」


 事前に迎えに上がる時間と場所を伝えているのだが……そこには島民が集まっており、各々が旗や横断幕を持ち『神の使徒歓迎』『フェニクス島の大英雄』『おかえりなさい』などという戦慄の文字が並んでいる。


 ……扶桑に向かう前に、このカルト島からシュプリーアを引き上げて行くのが、また随分と大きなミッションとなりそうだった。




 九頭樹グルジュ編 了




一番長い章になりました。一先ず区切りがつき、次回から扶桑編です。

逃亡者ではなくなり、ヒトの身にあまる力を得たヨージが相対するのは、ニンゲン主導による世を築こうとするバルバロスであり、それに付随する勢力達です。


バルバロス、月、ニーズヘグ。

十全皇の望みと、目的とする青写真。

そしてなにより、シュプリーアとヘルの思惑。


新章投稿はすこし先になりますが、どうぞ今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の終わりに近づくにつれて、ワクワク感が止まらない [一言] グルジュ編お疲れ様でした まゆりとの絡みを期待して待ってます
[良い点] 章完結お疲れ様でした。 [一言] 流石に長かった。全体的に重い印象でした。 次話の更新がもどかしいことも度々。 大きな舞台設定も見えてきて。 再開お待ちしてます。
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