登場人物紹介、用語説明4
四章読了お疲れ様です。四章読後推薦です。
登場人物紹介、用語説明の4です。
人物、集団
『カイン飛行運輸商会、ゴスホーク傭兵団』
新進気鋭の商会 (だったもの)
第二次南方大陸戦争で、バルバロスによって滅ぼされた『アルヴ盟主国』はその後、バルバロスの第四主要湾として稼働している。そこで一旗揚げようとやってきたのが、帝国人のカインであった。(バルバロスは世界から国家として認められておらず、基本的に不法占拠した土地を繋いで商売をしている。旧アルヴ盟主国は現在『港』扱い)
生来から敏く、小狡く生きてきたカインだったが、自分はこの程度で終わるニンゲンではないと奮起し、バルバロス系商会に所属、飛行運輸部門の下っ端として働き始めた。そこで詰んだ経験と知識、そしてせっせと溜めた小銭を上納金とし、幹部に取り入って小商会を任されるようになる。
文字に起こすと努力のヒトのようだが、性根が曲がっている為、小銭稼ぎも当然碌でもない手段である。ただし、欲しいところに欲しいものを届けるのが非常に得意であった。
頼んでもいない荷物だが、その土地では今一番求められているもの、であったり。
頼んでもいない商品だが、そのヒトは喉から手が出る程欲しいもの、であったり。
小さくも張り巡らせたカインの情報網、そして経験と勘は確実に人々から欲される能力であった。
そんなカインとは打って変わって、ベルナンは元軍人だ。第二次南方大陸戦争でバルバロス軍に従軍。扶桑国所属島を襲撃して根拠地化した場所の防衛を任されていた。
この島を抑えられると、扶桑軍は南方へのアクセスが面倒になるため、当然派兵と相成る。
そこに現れたのは、運悪く扶桑軍のエリート中隊『山鷹重撃中隊』の一個小隊である。
本来は集団後方から重撃を行う集団だが、隊長である青葉惟鷹に扶桑国女皇陛下から勅命が下り、特殊編制小隊として奪還に当たったのだ。
五〇〇名からなる防衛隊はみるみる消耗、司令部での籠城戦を余儀なくされた。
司令部を落とすには、少なくとも三日かかる。その間に援軍は来る。そう聞かされていたベルナンだったが――非常識な事に、司令部は魔法防壁と建物ごと『両断』され、一撃で崩壊、三法刻で全滅(損耗十割)という結果に終わる。
唯一生き残ったベルナンは軍人を止め、港湾労働者として働き始める。刺激は無いが安定した日々が手に入った。戦はもう懲り懲り……そんなところに現れたのが、カインだった。
頭脳労働のカイン、肉体労働のベルナン。仲が良い、とは言えなかったかもしれないが、お互いを無くてはならない片腕と思っていたのは確かだろう。
今ならば、大きな仕事ができるのではないか。
そうして目をつけたのが、哀れ、フォラズ村であった。
『ダカンタ・ランダ』
髭面の老人。年齢にそぐわない程肉体はしっかりしていた。
普段は髪やフードで隠しているが、耳は人間族よりも長い。
元フォラズ民。フォラズ恩恵教会の神官一族に生まれる。
表向きは大樹教に所属する、カタチの得ない村神を祀る教会だが、実際は火の神性を持つ土地神を崇拝する一族であり、それは長らく隠されてきた。
火の神性こそがフォラズ村へとやって来る死神を退ける唯一の手段であったからだ。土地に眠るという神の力を宿して、それを表す事で死神を退ける――巫覡の家だったが、時間を追うごとに血は薄まり、とうとうダカンタの代でそれは失われてしまった。
フォラズを去ったダカンタは諸領地を巡り、大樹教の修道士として生きる事になる。その中で出会ったのが、未だ強さを求めて止まず、身分を隠して武者修行に勤しんでいた古鷹佐京守在綱である。
古鷹佐京も真面目に教えたつもりはないが、ダカンタは愚直に基礎を繰り返し訓練し続けた。刀一つで切り開ける道があるという事実に、感銘を受けたらしい。しかし、情熱的であったとはいえない。生きる手段の一つとして、訓練しただけだ。
このまま他方で大樹教の修道士をしながら、老いるのを待つばかりと思っていたダカンタだったが、その身に潜む守人の血がそれを許さなかった。日に日にフォラズへの意識が強くなる、幻覚幻聴が現れ始め、耐えきれなくなり、忌まわしい土地フォラズへと戻らなければならなくなった。
草臥れたフォラズ恩恵教会を再建し、散った一族を集めて再び神官として暮らす日々が訪れる。ただの大樹教の神官としての日々だ。それはそれで悪くない時間であったろうが、既にフォラズは死神を退ける力がなくなっている。
訪れては命と食料を奪ってゆく死神に業を煮やし、過去成し得なかった火の神祭祀を再び執り行う。一時は成功に見えたが、やって来る時間を引き延ばしたに過ぎない。
当時流行った疫病も重なり、死神を退ける事が出来ないフォラズ恩恵教会は役立たずだと、村人達は無責任にも責め始める。
娘は殺され、家は焼かれ、代々の墓も壊された。
復讐という選択肢はあった。あったが、それはせず、何もかもを諦めてフォラズを去り、交易街(行政区街の前身)で浮浪者として、希望のない毎日を送り始める。
マーリクが現れ、出身地である交易街を領地として与えられたのは、それから数年後。
人材を募り、その中で見出したのがダカンタだった。
『ニナ・ランダ』
一応はエルフも入っているが、耳は短い。
中性的な顔立ちが美しく、非常にきれいな金髪をしている。
胸はでかい。
ダカンタ・ランダがフォラズへ舞い戻った際、再び火の神を祀る為に集めた縁戚の子孫。
火の神祭祀が失敗に終わった後、一族はすぐ土地を去る筈だったが、皮肉な事にその血は呪われたままであった。ダカンタ以上に強烈な、守人の強制力が発現していたのだ。
村から捨扶持のような畑を与えられ、それを耕すだけの人生。改善するように何度も村に申し出たが聞き入れられず、貧しい一族はそれでも生き続けた。
やがて一族が死に絶え、残されたのはニナだけだった。酒場のマスターの下で働きながら、いつかこんな村は捨てるのだという意識が、絶えず頭の中にあった。
機会は何度もあった。何度も村を抜けようとした。
しかしそれでも、この土地は自分を離してはくれない。夢枕に立たれ、やがては現実まで浸食するような、強烈な守人の楔を、ニナは振り払う事が出来なかった。
惰性の中を生きる。成功も失敗も無い、ただ低く低く、苦しいだけの日々。
そんな毎日を繰り返す中、村へ商会がやってきたという。何かの機会になればと、ゴスホーク団の男と寝たのが運の尽きであっただろう。
容姿に優れたニナの噂を聞いたゴスホーク団の男達に拉致され、都合の良い道具として扱われる事となる。
何もない人生であった。夢も希望も叶う訳がなく、逃げ出す事も出来ない世界だった。
女としての武器も、この通り、上手く扱えず、翻弄されるだけだった。
世間を知らず、事情も分からない田舎娘が抵抗出来る相手ではない。
このままぼろ雑巾のようになり、谷に投げ捨てられて終わり。
自身のくだらない人生の全てを諦め始めた、その時の事である。
『彼』という男は、何もかもをぶった斬って見せた。
暴力という悪が、もっと強大な『何か』に、完膚なきまでに滅ぼされる姿を見た。
存在そのものが、夢物語のような男だった。
まあなにより……顔がよかった。
友の会に組み込まれてひと悶着あった後は、環境の変化に驚きつつも家事能力皆無の友の会を家庭的な面で支えている。
一緒に暮らすにつれて、友の会の異常性を目の当たりにする機会も増えたが――ここには収入があり、家族があり、信仰があり、何よりも、自分が一番欲しかったもの――自分が何者であるかという定義と、自分の役割が存在しているので、余程の事があったとしても、友の会に殉ずるという覚悟が出来てしまっている。
『美月』
長い茶髪にハッキリした顔立ち。
扶桑のエルフ混血に酷似した特徴があるも、耳は人間族。
胸はびっくりするぐらい無い。
後期型魔法少女。太古の昔に稼働していた対竜人造兵器。肉体の基礎は扶桑人を用いているが、中身は当時最先端の魔法科学の結晶であり、例え肉体が破壊されても、魔力の肉で補って再生するリジェネイト能力を保有している。
魔法は全元素を使用可能であり、どれをとってもヨージを軽く凌ぐ。特に広域破壊が得意であり、細かい魔法は少しばかり苦手だ。
火の原始自然神スルト・ムスペル・マレフィクス依代。
『三千世界大炎上』
大規模広域破壊魔法を唱える際は各竜が保有する占有根幹魔力帯に侵入、セキュリティを破壊して強制的に根幹魔力を引き出す、竜にとって最悪な手段を用いる竜族共通の敵。
機械的な行動が多かった前期型魔法少女を省みて作られ、情緒豊かになっている。前期型以上の能力を発揮したが、情緒が豊か過ぎて懐柔される事もしばしば。
使命感は無く、目覚めた今の世を楽しく生きようと考えている。
ちなみに、守人達を拘束していたのは彼女だ。土地を去ろうとする一族を強く引き留めようと無意識に強制してしまった結果、ランダの一族は地獄を見る事になった。
誰も知らない事実であるし、本人も覚えていないので、暴かない方が皆の為である。
なお、既存の占有根幹魔力帯とは別の魔力帯ルートを持つ。
使う場合は最終手段。
美月という名前は『どうやらまだ生きているらしい独自の情報統合体』から取得した。
『加古蒼鷹』
古鷹四家加古家当主代理。加古家長男。
赤毛の美丈夫。
加古の次代、そして古鷹の未来を背負う事になってしまった男。
エルフ種にしては陰湿で、気位というよりも劣等感が強い。
武家であるから、幼い頃から武人となるべく育てられた。周りよりも頭が半分出る程度の実力で、抜きんでてはいないものの、相応の武術と魔術を身に着けるに至った。
青葉惟鷹という化物がいなければ、ここまで捻くれる事もなかっただろう。
初顔合わせは扶桑本土、一族会合の場。幹鷹の代理として現れた青葉の倅は、蒼鷹の想像の斜め上を遥かにカッ飛んだバケモノであった。そのあまりにかけ離れた強さに畏怖と感銘、そして対抗心を燃やした蒼鷹は、己の才能に驕る事なく鍛錬を積み重ねる。
数年後、本土に舞い戻った惟鷹に対し、己の力を示してやろうと意気込んだ蒼鷹であったが、結果は散々――両足骨折、頭部裂傷、鎖骨骨折、肋骨骨折、脾損傷――緊急手術と数か月の入院を余儀なくされた。
皆の前でそこまでやられてしまっては、普通ならば近寄りもしたくないものだが、彼は違った。軍学校に入った後も、惟鷹も執拗に絡み続け、その都度逆襲される日々である。
何度挑もうとも負け続け、それどころか、指一本すら触れた試しが無い。
実力に差がある、などという話ではなかった。身動きの取れない虫が、ニンゲンに踏みつぶされる以上の、理不尽な差がそこには存在していた。
気合の入った性悪……と言う訳でもなく、そういった態度は惟鷹のみに向けられた。惟鷹に負かされ、他から蔑まれようと、彼は気になどしない。むしろ他に対しては謙虚であると言っても良い。
蒼鷹が狙うものは惟鷹のみである。そこに、どのような心情があるかは、本人のみぞ知る。
『シュプリーア"ニブルヘル"ギンヌンガップ』
治癒神友の会主神。
白銀の髪と蒼い目。黙っていれば天上の美とも言えるが、喋り方が多少幼い。
学ぶ事に積極的で、日々語彙を増やしている。
胸は当然でっかい。
彼女が何者であるか、これを知るものは多くない。
類稀な治癒の奇跡、そして竜種すら蘇生可能な力。
これだけで、この神が他のどの神よりも優れており、尋常でない事が伺えるが、ヨージ達の冒険の中、更に様々な奇跡を用いる事が判明した。
かなり基準はあいまいだが、『ニンゲンに害成すもの』の判別が出来る。それは病原体であったり、有毒な物質であったり、これからやって来るであろう死に至る脅威であったりと、とにかく生命に危機が及ぶものに対して、非常に敏感である。
また治癒、蘇生といった力もつまるところ『生命に対するあらゆるものごと』の内でしかなく、命があるものであれば、どのようにでも扱える、という疑惑がある。
ユーヴィルは彼女について、あまり警戒はしていない。最終的に大樹教に取り込めればそれで良いと考えているので、娘であるエオとの仲が良好なのは好都合である。世界最大級の治癒能力と、世界名を受けた娘の力があれば、大樹教は――それこそ、世界を併呑可能だろう。
ユーヴィルがむしろ懸念しているのは、フィアレスだ。友の会にかなり入れ込んでおり、シュプリーアが気にする男――ヨージとの間に割って入られた場合、余計なイザコザが起きる。これはどうにかしなきゃなあ、とは考えている、ものの、恋は止められないのよね、とも思っていた。
それよりも問題がある。
十全皇だ。このままでは確実に衝突する。女王ヘルの義理の娘として、占有根幹魔力帯を引き出して拮抗しだせば、戦争では済まない。お互いの竜脈が消し飛ぶまで殴り合いになる可能性がある。その場合、ヘルも絡むだろう。
ユーヴィルも、どうすべきかと考えてはいるが、答えはない。
また十全皇当人も、それは薄々勘付いている。ヨージが暮らし、生きたいと思う世界を壊したいとは思わないが、如何なる形だったとしても、決着はつけねばならない……というのが悩みだった。
そして十全皇が、もっとも『恐怖』している事。
十全皇には、リーアの容姿が『見えていない』のだ。
何か得体のしれないもの――比喩でなく、黒い塊に見えている。『雰囲気として胸の大きな女』というのは分かるが、十全皇の視界からすれば異形以外の何者でもない。
ここで少し、十全皇が初めてシュプリーアに出会った場面を見てみよう。
……。
惟鷹が見つかった。本当に、途方もない覚悟で十全皇から逃れたのだろう。占有根幹魔力帯を使用するまで、発見叶わなかったのは、驚きだった。
しかし彼は使ってしまった。十全皇との、途方もない縁を。絶対的な契りを用いた。
使わざるを得ない程のものを相手にしたのだから、仕方がないとはいえ。
自分は、そこまで嫌われてしまったのか。そんなにも自分が恐ろしいだろうか。
少しやりすぎたのかもしれない。彼は天才なれども、いちエルフでしかないのだから、もう少し控えた方が良いのだろう。寛大に、寛容に、加減して。
けれど、どうにも。自分は与える事しか出来ないモノであるから、彼が本当に欲しているものが分からない限り、真の望みを叶えてあげる事は出来ない。
……それにしても。本当に良かった。手遅れになる前で。
自分という存在から離れたら、彼にいったいどんなものが纏わりつくやら、想像も出来ない。
彼は因果そのもの。
彼は特異点そのもの。
地上の雌にとって、あれほど魅力的な男はいないのだから。
「――……冗談でしょう」
ビグ村役場。ド田舎の役所に彼はいた。その気配を追って、分身を顕現させた、その瞬間。
全身に悪寒が走る。分身を通じて、扶桑首都にある日没宮の、支配体にまで波及する。
目の前に現れた――『何か』なんだこれは。
「――神様? ううん、もっと大きい。綺麗だけど怖い」
何かが喋る。得体が知れない。黒い触手と粘液に塗れた、ヒトのカタチをした、浮遊体。
偽装か。魔法だとすれば、一体どれほど高位の魔法か。
こんな事、ニンゲンには出来ない。明らかに、第二、第三文明世界レベルの魔法だ。しかも、それだって最高位の魔法でなければ、十全皇という怪物の視界を誤魔化す事は出来ない。つまるところ『対竜処置』出来る力がなければ無理だ。
「酷い。なんて醜い。どちらさまでしたかしら」
「神だよ」
「神というには禍々しい御姿ですのねえ」
「よーちゃんは可愛いっていう」
「……彼の審美眼、狂ってしまわれたのかしら……いいえ……」
ちがう。なんてことだ。これは、他には『普通のカタチ』に見えているのだ。
つまり、何者かが、十全皇に向けて、十全皇用に、『何か』に見えるようにしているのだ。
……だから、だから彼は、離れてはいけなかったのだ。
龍という、この世でもっとも強力な『魔除け』がないからこそ、このようなものを呼び寄せてしまう。しかも、尋常ではない相手だ。冗談ではない。明らかに、他竜の仕業と見るのが正しい。
……ともすると、迂闊に対処出来ない。迂闊に殺せない。
他の竜の息がかかったものを殺せば、それは争いに発展する。
いま、その判断をするべきではない。
いまは、比較的安定している。これを壊すのは、十全皇としても躊躇いがある。
それになにより、青葉惟鷹という奇跡が産まれた世界なのだ。おいそれと壊せない。
なんてこと。なんてこと、なんてことなのか――どうして、上手く行かないのか。
待ち焦がれた、自分が唯一、心の底から、愛を伝える事が出来る相手が、やっと生まれたというのに――このような障害が立ちはだかるのか。
長い長い、幾千幾万幾億の時を越えて現れた、奇跡を前にして、足踏みを、しろというのか。
苛立つ。久々に、はらわたが、にえくりかえる。
「惟鷹様に、余計な事は、しないで、ください、まし」
「なにそれ」
「朕から、彼を奪おうなどと、考えたりは、しないでくださいまし、と。そう、言っておりますの。どこの、だれの、差し金か、存じ上げませんけれども」
「……」
「……いざとなれば、朕は躊躇い無く、いつでも、貴女を引き裂き、細切れにして、魚の餌にする事が出来ますの」
「あなた、だれ?」
「肝に銘じてくださいまし。それでは」
視界がブレる。息が苦しい。
絶望感に、膝が震える、力み過ぎて、歯がくだける。こめかみが破裂する。
(――いいえ、いいえ。待ちに、待ったのですから。その希望だけが、数百万年の間、朕の自我を保ったのですもの――)
(絶対に、絶対に――諦めない!! 愛しいヒト……愛しい貴方様……ッッ!! 朕の、最初にして、最後の愛なのだから……ッッ!!)
膝をつく。止めどなく溢れる涙が、床に滴る。木製の床は突如として枝を伸ばし、葉をつけ、実り、そして枯れて朽ち、また伸び。彼女の周囲に、生命の懊悩と輪廻が繰り広げられる。
(朕は――絶対に負けない――絶対に負けない……ッッ)
……。
一体どんな偽装が施されているのか。そもそも、偽装する必要があったのか。
あったとしたら、誰の差し金か。最初から見えなかった。
最初から見えなかったのならば、最初に施した奴がいる。
それはヘルか?
何のために。シュプリーアは、ヨージ達にどのように見えているのか。
あの異形が、何を含んでいるのか。
――ヨージに気に入られるだけの容姿。思い当たる節がある。それは――とても昔の話になってしまう。違う。ここでそんな話をしてどうする。誰が見ているかも分からないのに。
魂の数値。途方もない桁数の、天文学的数字の、奇跡の一致。それがアオバコレタカだ。
そんな奇跡である彼の魂に寄り添うもの。
十全皇にとって、シュプリーア程、恐ろしいものはこの世に無かった。
わからない、など、一体いつ振りの恐怖なのか。
この女は絶対に引き剥がさなければならない……――と、考えている。
『冥界竜脈』の担い手。
用語
フォラズ村(土地)
大帝国内陸部、大断層の南側。
起源は定かではないが、大帝国の歴史資料をひっくり返してみると、その名前はおよそ三千年前にまでさかのぼる事が出来る。のだが、大帝国の大断層の脇にある、主要街道から外れたギリギリの村の歴史を、首都の編纂者が認めている訳もなく、また村史も無い為、何となく古代から続いているだけの村、という事になる。
閉鎖的ではないが開放的でもない。百名程度の村人がほそぼそと暮らす村であった。
主要産業は農業。大断層を題材とした冒険小説が大ヒットした頃は、一応観光業もあったが、ブームが廃れると同時になくなった。土地資源は無く、枯れており、ヒトも少なく、夢も希望もあったもんじゃない、終わり一直線の村。
北は大断層を挟み皇帝直轄森林地。南はアインウェイク領、東はバイドリアーナイ領となる。栄えた領地の本当に隙間の、何とも言えない場所だ。
旧マーリク竜支卿管理地、現外宗教特別管理地(大樹教に属さないが、信徒が多く従順であるから、その地の自治を任せている、という土地)。
行政区街の手前ほどまでが友の会の土地となっているので、フォラズ民が思っているよりもずっと村が広くなっている。
治癒神友の会が入村、ゴタゴタを全て片付けた後は、ユーヴィルの宣伝のおかげ(せい)で大帝国各地から治癒を求めるニンゲンがやってきている為、とにかく道路整備や宿の整備、客を賄う為の商店その他諸々を、村の公共事業として早急に進めている。
同時進行として治癒神友の会本拠地建立、信徒向け宿舎の建造と、やることが多すぎて関係者各位も自分が何の仕事をしているのか分からない程に忙しくなっている。
行政区街竜の止まり木とは和解が成立、訴訟取り下げ。現在は街道の整備と神センクト道祖神の設置が急がれている。『交流』の神であるセンクトが直々に繋ぐため、道路そのものが信仰の対象となる。嫌々繋げはしたのだが、今まで誰も関わりを持とうとしなかった田舎村との交流を持つよう決断した寛大な神様、という噂を誰だかわからないが、なんか胡散臭そうな男が嘯いて流布した為、意外と都合よく進んでいる。これには神センクトも満足。
現在、今まで仮拠点にしていた廃教会を改築、新しい神を招く手筈をしている。
神の名前はオーモート。豊穣の神だ。
大断層(土地)
ノードワルト大帝国を東西に貫く大きな谷。フォラズ村では十全皇の爪痕として語られている。
通常では渡る手段も限られるものだが、古代ではポータルでの移動が日常茶飯事であった為、そこまで考慮されるものではなかった。
魔法が薄まった現代においては、絶対的な物理の壁である。渡るには竜精が設えたポータル、狭まっている部分にかけた橋など、限られた手段しかない。また大断層沿いには大きな原生林……皇帝直轄森林地が在る為、大変険しい。
この不便な谷を、大帝国はどうして残したままなのか。竜の力があればいくらでも埋め立てられる……のだが、谷は谷で別の所有者が居る為、不干渉となっている。
結果大街道は北部と中部に断裂があり、中部と南部だけが繋がっている。経済的に考えると、街道の整備が出来ないのは、国家として大変宜しくない、のだが、こればかりは竜の采配なので、ニンゲン如きがどう喚いたところで意味はない。あるものはある、と受け入れる他無い。
大断層の主はヘル・ギンヌンガップ。
竜王ミドガルズオルムの妹であり、最古の竜の一柱。
人物紹介ではない為割愛するが、地獄に相応しい性格の筈である。
守人(職業、血族)
守人、という名称を正式に用いるのは、各宗教において大樹を守護する役割を担った者達である。各大樹を治める国家で多少呼び名は違うものの、守人で通じる。
大樹の根元に居を構えて護る守人達に比べると、ユグドラーシルを護る守人は特殊であり、大体の場合は伐採された大樹の枝や葉、実や種などを保護する為、各国に散って行ったエルフ族を言う。
大体の場合古代からほぼ純血のエルフで繋いでおり、ヒトと神の間の存在となる。その土地から離れられない代わりに、大半の国では高等な身分を授けられている。皇帝直轄森林地で出会ったエイルーンもまた、他所から来た神官達に頭を垂れられるだけの階級を持つ。
古鷹家も遡れば守人が祖先となるが、武人の一族として生きて行く、という契約を扶桑雅悦と交わし、十全皇が許可を出した為、守人としての拘束は無い。
打って変わってフォラズ村のランダ一族だが、これは亜種となる。特定の高位な原始自然神を祀ったが故に、ほぼ呪いとして受け継がれたものだ。本来ならば死神を退ける事が報酬となる筈だが、それがなくなってしまった為、単なる害悪だけが残った。




