地底の女王4
変則で投稿です
ヒトが、神が歩めば、変わらないなんて事はない。川の水が流れ、元と同じ水であり続ける事がないように、我々が歩めば、多少なりとも変化が起こる。
その良し悪しは不明なれど、知識と経験で場当たり的に対処して行く他無い。
残念ながらそれが人生だ。
幾ら綿密に計画を練ろうと、誰かが掻きまわしたらそこまでだ。
どれだけ警戒しようと、警戒以上のモノがやってくれば、どうしようもない。
エオは言う。真実も真相も、大した価値はない。今ある全てが、自分なのだと。
ではその通り、今ある限りを尽くすほかない。
「これが我が神の主依代の欠片……」
「はい。大断層の底にありました。通常誰も手を伸ばせないものですし、ちょっと運ぶには難儀なものなので、割れた一部分だけを持ち帰りました」
「これ……なんです?」
「種子の殻ですね。とても立派な木の種なので、大きくて」
「はー。やっぱり樹木関連の神様だったんですね! よほど立派な木の種なんでしょうねえ。なんだか……凄く懐かしい気配はしますけど、気のせいでしょうか」
「ははは。もしかしたら、大樹に連なる樹木の可能性もありますね」
「ですよねー!」
皆のいる前だ。おいそれと説明も出来ないので、一先ず誤魔化す。エオには後でしっかりと、説明するつもりだ。何せエオにも、ヘルに逢って貰わねばならない。
「おー。立派な種子の殻だな。これがリーアの主依代の一部か。一つがビグ村、一つがキシミア、んでコイツはフォラズ村用だな。主神様の主依代だ、安置所を設けたいところだが……ヨージ」
「はい。今我々が根城にしている教会に関しては、大樹教会として再建させます。村の奥に我々治癒神友の会の新しい……本当の、本拠点を作る事を計画していますので、ご安心を。同時に僕達の母屋もですね」
「いい加減長椅子で寝るのは腰が痛いぞ。まったく、領主等にこんな生活をさせておいて、村人どもは何も感じないのか」
「今は自らで手一杯でしょうからね。宗教的な問題はほぼ片付きましたから、村の再建をしながら、僕達の環境改善に努めましょう。ああそうだ、神美月」
「なにかしら?」
「大断層に降りた時に、死神……骸体神達と、色々話をつけました。神美月の祭祀にも関連しますから、後程お願いします」
「いいわよ! まったく仕事の早い男だわ。旦那にするなら貴方ぐらい有能な男がいいわね!」
「遠慮します」
「はー、私様即答されたわ。そんなに魅力ないかしら。魔法少女なのに」
「キヌガサがこんな場所で軽い返事するかよ。重いぞその男、激重だぞ、神様」
「重いぐらいが丁度良いわよ。ただ腰は軽そうだから、少し参ったわね」
ヒトが話をしている時に、ヒトの品評会は止めて欲しい。
庶務は様々残っているが、これで宗教関連……特に主依代探索という大きな目標が達成され、ひとつ肩の荷が下りたと言えよう。ただし、ひとつ降りただけで、二つ三つ増えたのは言うまでもない。
「ここは汎用礼拝堂となります。神センクトは、村人に受けが悪いですから、無宗派の別の神を招きます。村人の一部、観光客や商人などが主に利用する場になるでしょう。神官はフィアレス竜精公が手配済みです。本拠地に関しては商店通りの終点にしようと考えています。村の整備計画の一つとして組み込みましたから、これから大規模な発注をして……急いで半年、というところですかね。大断層の縁にあるフォラズ恩恵教会は、神美月用の祭祀施設として整えます」
「まあ。一応新入りなのに、個別の信仰施設があるのね」
「扱いが特殊ですからね。残念ながらスルト祭祀がどのように行われていたのか、痕跡もありませんでしたから、友の会形式で行きます。良いですか」
「好きにすれば良いわ。食べて寝てたまに魔法使うだけで暮らせるだなんて天国に近いわよ。なんて良い時代に目を醒ましたのかしら。起きては殺し、寝ても起こされて殺し、なんてことしなくて良いのだもの!」
彼女の境遇、考えるだけで胃が痛い。戦闘兵器としての自覚を持ち、それを当然と行っていたのであろうが、こうしてニンゲンのように生活する事に憧れを持っていたように言うのであるから、戦に追われる日々の中、己の存在について葛藤する事もあったのだろう。
「……美月、お菓子ありますから、食べて来て良いですよ」
「ほんとう?」
「し、幸せに……うぐっ……なってくださいね……」
「ええ……ヨージさんめっちゃ泣いてますけど……」
「せ、戦争の記憶でも思い出したんだろ……そっとしてやれよ……」
女の子を兵器化して戦わせるとか、古代人は頭がおかしいに違いない。
そんなだから滅びるのだ。
「ともかく、当初の目的以上のものが、得られましたね。村の大きな問題は解決、竜精公にも渡りをつけましたし、根回しも終わっています。そして何より我が神の主依代を得られた」
「……」
「"地に足の着いた"宗教として、やっとスタートラインに立った訳です。僕の肩の荷が一つおりました」
「……よ、よーちゃん、その」
「……ええ。代わりに二つ三つ更に背負いましたので、僕はどうにも、まだまだここを去る訳にはいかないようです。で、これです」
そういって、ヨージは一冊の雑誌を机に提示し、頁を捲って皆に見せる。
雑誌の名前は『大樹に寄り添う』大樹教機関雑誌だ。
「アタシが読む。えーと何々? 『大原始自然神イルミンスル散去に伴い、イルミンスル大教会の存続が危ぶまれた中、一柱の神が手を挙げた。フォラズ村を拠点とする宗教"治癒神友の会"主神のシュプリーアである。耳聡い信徒であれば、首都で起こった事件も耳にしている事だろうが、その問題の渦中にあった、正真正銘の治癒の神だ。これはユーヴィル・ラグナルタ・マナシス竜精公及びフィアレス・ドラグニール・マークファス竜精公が直接確認した大奇跡であり、疑う余地もない程の力である。現在イルミンスル大教会には神シュプリーアの偶像が祀られており、大樹教非加盟ながらイルミンスル大教会の代理主神として、日々信徒達に新たで正当な治癒の神の後継神として拝まれている……』」
という話が、二〇頁に渡って特集されている。
……信徒の誰もが目にする大樹に寄り添うという機関雑誌で、大特集しやがったのだ、あのユーヴィルとかいう女は。ちなみに発行部数は一千万部。あらゆる大樹教関連施設と信徒の下へと届けられる雑誌だ。
「……ド、ドン引きだぞ、余は」
「お母様ったら加減の仕方が雑ぅ」
「押し寄せます……大樹教の信徒が……世界各国から……押し寄せます……波のように……治癒を求め……押し寄せるのです……この村に……」
「これ、写真? 写真だー。私綺麗に撮れてる」
「我が神、取材受けたのですか……?」
「受けた。知ってるものだとばかり思ってた。テヘ」
「ちょっとぉ我が神ちょっとぉ……報連相!! リスクマネジメント!! ああ!!」
ヨージがぶっ倒れる。雑誌を寄こされて読んだ後も倒れたので、本日二度目の卒倒である。
まずい。こんなこんな、寂れた村に、大量の治癒希望者が押し寄せたら、とても許容しきれない。どこにも収容出来ない。みんな外で暮らす事になってしまう。それは宗教としてマズ過ぎる。宿の一つも提供できない宗教などガッカリ甚だしい。
「ギギギ……ギギギ……」
「あ、アンタ大丈夫か?」
「我が神グリジアヌ……お願い……聞いて……」
「おうおう。グリジアヌ様が何でも叶えてやるぞ。えっちでもするか?」
「えっちはいいです……宿泊施設……食料……インフラ……諸々が無理無理の無理……」
「まあ家建てるぐらいなら出来るかもだが……大量となると、マンパワーとマネーとのご相談になっちまうぞ」
行政区街に応援要請を出さねばなるまい。しかし今行政区街は行政区街で首脳部がぐちゃぐちゃだ。あちらの首脳部を介さず土建屋に大量発注すると、それはそれで軋轢が産まれる。大体土建屋というのは土地を作る基礎を担っているようなものであるから、政治との関わりがどうやっても深い。行政府の頭上を跳び越すような真似は不義理であるし、問題しか生まない。
「建築業者と商会の仲介者がいれば……しかし村もまだ安定していないのに、これでは」
「……ごめんなさい」
「いいえ、いいえ。突然の事に少しビックリしただけですよ我が神。そもそもユーヴィル竜精公がちょっとアレだっただけです、ねえエオ」
「そーですよ! お母様ったらワザとやってると思うので、気にしたらダメですよ!」
機関雑誌の発行は昨日。今日にも行政区街から、治療を希望する人々が訪れてもおかしくはない。
「第一神官長。身銭を切りましょう。キシミアの仮拠点を思い出してください。やはり治癒を授けるのであれば、清潔な空間でなければいけない。一先ず体裁を整えます。必要なものを買いそろえて設えてください」
「はーい!」
「神グリジアヌ。建築業者は元村長のクレス氏が懇意でしたから、そちらに当たって貰えますか。せめて一時的な宿の一つや二つ設けておかねば、形が整わない。お金はそこまで交渉する必要はないので、手あたり次第使えそうな若者なども見繕ってください」
「よし来た。ちなみに建築の神様でもあるぞ、アタシ」
「神性の幅が広すぎる……お願いします」
「おうよ」
「ナナリ、お願いしても?」
「断っても構わないのだが、断る理由もないので構わぬ」
「め、面倒な受け方だな……何にせよヒトが増えればいざこざも増えます。自警団長と打ち合わせて、警備計画を練って貰えますか。警備や防備に必要なものは請求してください」
「分かったぞ。丁度女どもの教育も進んできたところだ。自主性というものを見せてやろう」
「お願いします」
「まあ、お礼もあったからな。うむ」
「ニナは食材と調味料の買い増しを。お酒は少し高めのを用意してください」
「構わねえけど……保存どうするんだよ。幾ら冬でもまだ氷もねえし、氷塊石は高えぞ」
「良いです、買って構いません。神美月」
「何かしら?」
「今から魔法で穴を掘って床下収納とか、造れます?」
「地属性魔法は比較的得意よ」
「というわけで保存はそちらに、ニナとお話し合ってくださいね」
「いいわ!」
「よーちゃ、よーちゃん」
「はい、我が神」
「私は?」
「これからたぶん忙しくなるので、デンと構えていてください」
「えー。私も働く」
「えーと……では、在庫の樹石結晶のお守り化をお願いします。数は、沢山です」
「んっ。加工していい?」
「加工?」
一先ず出来る事をやるべきだ。神も信徒も非信徒も総動員でこれからやってくる客に対応せねばならない。村の沽券とこれからの未来が掛かっているのだ、ここを生かさずして何を生かすか。
リーアには一先ず落ち着いて座っていて貰いたいのだが、仕事はしたいらしい。
彼女は樹石結晶の在庫を運んで来ると、その中から一つを身繕い、握りしめる。
「出来た」
「……? ?? んん? 握ると……形が出来るのですか? 何ですかその奇跡?」
「樹木関係だからかな?」
「あー……」
樹石結晶なのだから当然樹木関係だ。が、そんなゴツゴツした、形の整っていないクルミのような石を握りしめたからといって、若芽の形にはなるまい。いや、よく見ると、それはヨージとエオが治癒神友の会のシンボルにしようと、幾つか図案を出していたものの一つだ。
左右非対称の扇状に拡がった樹木の若芽だ。葉の大きさはそれぞれ異なる。
『生ける者とは差異者の総称であるが、老いも若きも男も女も、全ては神シュプリーアの下、健全で健康であり、その生は常に新芽の如く瑞々しくあるべきである』
などという意味を込めてデザインされた。
「素敵ですね」
「これが一番好きだった。なのでこれが良い」
「分かりました。では、ほどほど沢山作ってください。ほどほど」
「んっ。ほどほどガンバル」
彼女が微笑み、意気込む。竜達とて予測出来ない可能性を秘めた存在である彼女だが、やはり、真実を知ったからと、そう変わるものでもないのだろう。
……願わくば、このまま。
世界の大きなうねりになど巻き込まれる事はなく……小さな村の大きな奇跡として、ほどほどの繁栄を形作って貰いたいと考える。
それがきっと一番幸せなのだ。
それがきっと、一番正しいと思える事だ。
「ヨージ神官! お客さん! なんか、列出来てるけど!?」
「は、早い……! ああ、ええと、そうだ、整理券、整理券配って下さい! 他は皆、先ほど話した通りの仕事に!」
『はーい』
「治癒神友の会は……ここですか?」
「はい! いらっしゃいませ。治癒神友の会へようこそ。私はヨージ・衣笠。こちらが、我等が主神、治癒の神、シュプリーア様です」
「神だよ」
「ささ、皆さん、お席へどうぞ。何分古い教会ですから、手狭ではあるでしょうが、何、問題ありません。我等が神の力は、このような古い教会に収まっているような、小さなものではありません。あらゆる病苦、あらゆる怪我に、我等が神の力が齎されるのです。貴方達は今から、大神イルミンスルの奇跡と違わぬ驚くべき力を、目の当たりにするのですから。その施しは、ちっぽけな窮屈さなど、いとも簡単に吹き飛ばしてしまうことでしょう!」
語る。
一言一句間違いなど無い。ここで齎される奇跡は、貴族が大枚を叩いてやっと手に入れられる程の治癒なのだ。しかしこれは、いわば、ニンゲンの為ではない。
我が神がそうしたいと願うからこそ、存在するものなのである。
「よーちゃん」
「はい、我が神」
「頑張ろうね」
「――……ええ、勿論」
また忙しい日々が始まる。
次に寝られるのは、さあ、さて、いつになるやら。
ヨージは新しいシンボルを手に、また適当で適切な煽り文句を、お客さんに振りまいた。
了
今年最後だったので、キリの良い場所まで。
今年もお世話様でした。
次の投稿は少し時間が空くと思われます。
続きに関しては、フォラズ内での出来事、治癒神友の会の新しい神官と、村へやってきた派遣騎士。
そして舞台は運命の地、南方大陸へ。
無貌の影。九頭樹覚醒。大勢力達の反応と行動。グリジアヌ、妹グリジアナの運命。
大樹とはなんなのか。『この世界』は何なのか。五章からは踏み込んで行く内容となります。
まだまだ長いお話となりますが、どうぞお付き合いください。
コメント、評価の程を宜しくお願いします。あると喜びます。




