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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
ビグ村編
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価値と神5



「――ご子息殿。やはりこのような力、疑いますでしょう」

「まあ、そりゃな」

「私がこの神に治癒を受けた時も、半信半疑でありました。毒を塗られた矢で打たれ、熱病に浮かされながら数日、私は森の中を歩いていたのです。木陰で腰を下ろし、朦朧とする意識の中、そこを終の場所と定めようとした所でした」

「……――」

「しかしそうはならなかった。シュプリーア様がいらしたのです。脳が焼けるような熱も、腕を割くような痛みも、シュプリーア様の力によって消え失せ、安息が齎されたのです。どうか、今一時だけでも、信じてみてください。さあ、背を出して」


 ヨージの物言いに気圧されたようにして、ムジカ氏の息子がリーアに背を向ける。


「なあ神様」

「んっ。なあに、定命」

「本当に消えるか、これ。肉、抉れて、気持ち悪ぃだろ。これの所為でよ、なんつーか、嫌な思い結構したんだわ。手品じゃねえんだよな?」

「別に気持ち悪くない」

「そうかよ」

「よーちゃんは、矢傷で肉が抉れて、膿が沸いてた。毒が入って熱も出して、死にかけてた。エオちゃんは、頭が割れて、手足が折れて、お腹かからも血を出してた。それと比べたら、別に全然」

「あの巨乳のお嬢ちゃんが? エグイなおい」

「定命。大丈夫だよ」


 口は悪いが、きっと根は態度程腐ってはいないのだろう。彼を取り巻く環境と、傷口が、精神を毒しているのだ。

 ――それぐらいならば、なんてことはない。我が神にかかれば。


「いくよ」

「ぬうぉ!?」


 先ほどよりも光がずっと大きい。その光は、衝立の先にまで漏れていた。エオに目が行っていたお客からも大きな歓声が漏れる。


「では失礼、我が神」

「……? あっ」


 そういって、ヨージは衝立を外す。衝立越しに治していても良いのだが、やはりヴィジュアルというのはとても印象に残る。神の奇跡を是非とも、皆々様にお伝えするべきである。


「むう……」


 ちょっと恥ずかしかったのだろうが、それよりも、目の前の傷を癒したいという気持ちが先行したようだ。


『おお、すげえな』

『衝立越しってのもそれはそれで良かったんだけど。それっぽいサービスみたいで』


 光り輝く力を目にした村人達から、感嘆とした声が漏れる。一部不敬な奴も居る様子だが、何、神の容姿に見惚れて信徒になるものだって沢山居るのだ、それで良い。


「出来た」

「あ、自分じゃ解らねえが……おい、アンタら、どうだ、消えたか?」


 ご子息氏が皆に向かって背を突き出す。そこには、苦労の知らなそうな肌だけが広がっていた。


「サッパリと。スッキリと」

「なんだいアンタ、傷がないとただのデブだねえ」

「女の背中みてえだぞ、ムジカのガキ」

「いやあー、あんなのも消えるのか。こりゃ、おい、凄いんじゃねーのか、おい?」


 村人達が口々に、その力を目の当たりにした感想を漏らす。彼の背中にはもう、何も残っていない。


「――マジか。なんか、そうだな。疑って悪かった」


 ご子息氏は、何かを思い出すようにして、少し涙ぐんでから、集会場を後にしていった。

 ヨージがウンウンと頷き、手を後ろで組み、皆の前に出る。

 ヨージの最も基本的な仕事をしなければいけないからだ。


「さあ――ビグ村の皆さま。これこそが、我等が神、尊き治癒神、シュプリーア様です。この村にはお医者様はいても、ご高齢と聞きます。お医者様を探すとなると、神様を探すよりも難しいのは、誰もがご存じの筈。もし、シュプリーア様をこの村の神に選んで頂けるのならば……この力は、貴方達に齎されるのです。ヒトは何より体が資本。農村は殊更健康が必要でしょう。勿論、この力も無制限という訳ではありません。神も多大な消耗を要しますから、次に次にと治癒の奇跡を授ける訳のも行きませんが……思い出してください。貴方達の御友人、ご家族を」


 実際のところ、リーアは消耗などしていない。人体に働きかけるような奇跡は、一般的にかなりの地力を必要とするのだが、リーアが疲れるような事はなかった。

 が、だからと言って無尽蔵です、などと言ったら終日ヒトが押しかけてきてパンクしてしまう。

 これはヨージとしても悩みどころである。リーアの奇跡は凄まじい。だが求められすぎても、いつか限界が来るであろう。信徒獲得の為にも強い力を示して、なおかつ、それが特定の事象にだけ齎されるものだという印象を最初から持って貰う必要がある。


「何せこんな農村だ、大きなもの患っちまったら、もう助からねえしなあ……」

「……この神様がいたら、あのヒトも死なずに済んだのかもしれないわ……」


 回復力の弱い人類種、特に人間族は、一つの怪我でも侮れば命取りだ。この村に伝わって来る医療技術や医者では、たかが知れる。

 自然と共に暮らすという事は、自然の猛威にも晒されるという意味だ。

 リーアの力は、この村で望まれている。それは確信出来る。


(まあ上出来ですね)


 今のところこちらが欲しいのは『この神様ならば』という村人達の心の確証である。

 力の限度や制限に関しては、また精査せねばなるまい。


「さて。今日はこの辺りで。もし、傷を癒したいという方がいらっしゃったならば、村の西部にある納屋までお越しください。勿論、神とて疲弊しますので、タダという訳には行きませんが……ご覧になった通りの力が、信じるものには齎されます……本日はお集まり頂き、誠に有難うございました」


 半信半疑で集まった人達だったが、リーアがお辞儀をして退場すると共に拍手が起こった。


(エオ嬢。参加されたお客様達に粗品をお配りして)

(あの、ヨージさん)

(何でしょう)

(エオは……神官長していましたか……? だいぶ、その、小間使いのような……)

(貴女はこれからです。僕が居ない時は貴女が頑張るのですから)

(そ、そうでした……)

「え、あ、はーい皆さん! 本日はお疲れさまでした! こちら、我が神が力を込めたお水です! とても疲れが取れますけれど、とっっっても苦いので、お子様には薄めてお使いくださーい!」


 自分の役目(客寄せウサギ)に疑問を抱く大神官様を宥める。神は力を見せなければいけないし、ヨージが客引きでは胡散臭い上、客の視線を引き付けられない。若くて見目麗しいエオを前に出すのは必然なので、少なくとも今回は納得して頂きたい。あれだけの才能があるなら、仕事は他に沢山ある為今後に期待である。

 一先ず、ヨージはリーアの手を取って裏口から退散する。疲れた様子は見受けられない。


「よかった」

「何がですか?」

「役に、立てた」

「……そうですか」


 裏口のベンチに腰掛けさせ、水を差し出す。彼女はそれを一気に飲み干した。お召し物がびちゃびちゃになって透けている気がしないでもないが、神様はそんな事を気にする必要が無い。見えないから大丈夫だ。


「あのね、よーちゃん」

「はい」

「私、自分の力は、良くわからないの」

「そのようですね」

「でも、その。心? 胸の中? にね。困った人を、助けなきゃっていう気持ちが、ぐるぐるしてるの」

「ええ、ええ」

「独りじゃ、無理だと思う。よーちゃんはその、ちょっと強引なところ、あるけど」

「……し、失礼致しました」

「ううん。独りじゃね、きっと、何も出来なくて、森の中を歩き回っているだけだったと、思う。エオちゃんはその、あんまりこういうの上手じゃなさそうだし。その、ええと」

「……」

「有難う? かもしれない。私、人里に出て来て良かった」


 恐らく、この神には、ヒトを癒したいという根源的な欲求があったのだろう。

 自然から生まれたのか、はたまた人々の願いから生まれたのか、出自こそ知れないが、彼女はヒトと共存すべくして生まれた神なのだ。

 独りでは絶対に叶わなかった欲求の解消を手助けしたヨージに対しての、感謝なのだろう。

 神の能力とは個性であり、個人である。またその使用こそが欲求であり、存在意義なのだ。


「神様、お疲れさまですよ」

「んー」


 粗品を配り終えたのか、エオがやって来る。

 彼女に対する仕事の配分は兎も角、今回の集会は成功と言えるのだろう。


「これで、神様の力が間違いのないものだって事は、直ぐ広まるでしょうねえ。大きい村ではありませんし」

「うんー」

「あ、神様は、力を使って疲れたりとかは?」

「あんまり。エオちゃん治した時は、ちょっと疲れたけど」

「なるほどぉ……何にせよ、神様には無理させられませんから、疲れたら言ってくださいね?」

「うん。でもそれより、よーちゃんが気になる」

「僕は大丈夫です、我が神。それよりも、今回のイベントは大成功と言わざるを得ないでしょう。下準備した甲斐があるというものです。やはりですね、村に突然出て行って治癒を施すなんて事はしなくて良かったですね。緊張した神様が力を発揮出来るとも思えませんし。それにしても我が神の威光に触れた人々の顔を見ましたか? あれほど誇らしく思える事はありません」


 誤魔化すようにして話を切り替える。リーアは余程ヨージの体調が気がかりであるようだが、それほど問題は無い。リーアのお水効果もあって、少なくともこの先一か月、ぶっ倒れるような事はなかろう。


「ちょっと恥ずかしかった」

「まあまあ、慣れて行きましょう。これから更にエオ嬢に治癒神友の会の教義も作って貰って、それに則った説法会もしないといけませんし。いやー、やる事がたくさんあるッ」

「よーちゃん」

「はい、我が神」

「大義である」

「おっ。良いですね、威厳があります。恐悦至極です」

「褒美をとらせようぞ」

「ううん。そこまで来ると何か、武将めいていますが、貰えるものは貰いましょう」

「何欲しい?」

「……しかし考えると、我が神が何か持っている訳でもありませんしねえ。お褒めの言葉だけで十分です」

「本当に大丈夫? おっぱいとか揉む?」


 自分の胸をぐっと持ち上げてヨージに差し出す。そんな乱暴に扱われるとヨージは悲しい。

 一体何を考えているのか。いや、自分の持っているものはこれしかない、という確証の上で下賜してくださるのかもしれない。ヨージには自分の神の深淵なるお心持が理解出来ない。


「エフンッ! エフンッ! まさか。結構です。お気持ちだけで」

「あ――これはいけない」


 そういって、リーアが目をパチクリさせ、顔を赤らめる。


「な、なにがです、神」

「むしろ貰っちゃったかも」

「は、はて?」

「よーちゃんの恥ずかしがる顔、こんなにも楽しいなんて」

「いやいやいや。何を仰る神様、だ、だから、やめてくださいってば、押し付けないでください……」

「よーちゃんは年上なのに、恥ずかしがり」

「あー、ちょっとー。なんで二人でそんなに楽しそうなんですか。エオにだってちゃんとあります、ほら、ヨージさん、ほら!!」

「たすけて」


 両脇から襲い来る圧力に、このままでは負けてしまう。

 エルフは数年に一度程しか発情期が来ないので、目の前でセクシャルな行いをされてもサッパリなのだが、生憎ヨージはだいぶ人間族の血が入っている為、自制は利くが性欲は人様並である。幾ら年下と言っても、見目麗しくふくよかな女性に迫られては、たまったものではない。

 困ってしまう。

 そんなに好意を向けられて良いニンゲンではないのだ、自分は。


「あら……お取込み中でしたかしら……」


 四つのスゴイモノに挟まれた状態で、何者かが声をかける。

 そこには更に二つ、スゴイモノがあった。


「ひ、日を改めて……おねがいしまふ……この後も……仕事がありゅのれ……」

「あら、ふふ……ええ」



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― 新着の感想 ―
[一言] 客寄せウサギ…。 水着に近い衣装…。 はっ?! バニーガール!?
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