夜明けの谷1
「ニナだ。元は酒場のウェイトレスだけど、宜しく」
実際格好も少し際どいウェイトレスの格好のままだ。
彼女はニナ・ランダ。商会傭兵団に囲われて、酷い目にあった女性だ。その心は痛く傷ついただろうが、本人の性格からか、あまりそういったものを表に出さない。
我が神の治癒もあり、殴られて腫れた顔もすっかり元通り。中性的な表情と、豊満な肉体に強烈なギャップがある、見目麗しい女性だ。短い金髪は他の女性よりもずっと美しくくすみのない輝きを放っている。
彼女は今日から見習い四等神官である。
何故元のウェイトレスに戻らなかったのかと聞けば『アタシが連れて行かれる時、マスターは助けを呼びもしなかった』という事なので、ニンゲン関係的に修復不可能なダメージを負っている。
また、どうして彼女だけが商会傭兵団等に攫われた後も、救出計画すら立てられなかったのか……自警団長にその辺りを詰め寄ったが、言葉を濁されてしまった。
とにかく、何やらこの村で、ニナ・ランダという女性は扱いが怪しい。美月の知り合いという事で、見習いではあるが『現地神官』第一号となって貰った次第である。
治癒神友の会的には、読み書きが出来さえすれば良いので問題ない。
「ニナー! 今日から宜しくお願いするわね! 先輩に何でも聞いて!」
「美月。ちなみに立場はニナの方が上ですよ、貴女は見習い雑用ですからね」
「え、そうなの?!」
「そうです。ではニナ、我が神にご挨拶を」
村人の協力もあり、すっかり綺麗に整えられた教会の中央で、神官任命の儀式を執り行う。
治癒神友の会形式、というのはキシミア支部で確立された。
ニナが神饌(神への供物。この場合リーアの好物であるアシナガ大根と、グリジアヌの好物である酒)を手に前へと出て、リーアとグリジアヌに傅く。供物を捧げた後、一度両手を合わせてから、その手を前に突き出し、水を受けるような形を取る。
そこへグリジアヌとリーアが、自身の魔力を込めた樹石結晶を一つずつ差し出す。
「これより我は尊き御神の輩。苦難満ちる日々も、幸多き日々も、その全てを御神と共にあらん」
『輩』としたのはリーアからの指摘である。『下僕』にしましょうと言ったが断わられた。
一応敬ってくれればあとは友達みたいなもん、だという。なんだか田舎の不良の上下関係のようだ。
「ニナ用の制服は少しかかるので、待ってくださいね」
「うん。神様達、宜しく。それで、神官見習いっていうけど、アタシ何すりゃいいの?」
「何が出来ます?」
「神官らしいことなんて何も出来ないけど」
「まあそれについては、治癒神友の会の手引きを参照にしてください。特技などは?」
「掃除洗濯炊事」
「完璧です。皆、ニナを敬ってください」
「え、みんな出来ないのかよ」
「出来ますよ。一部は。ただ、家庭的なニンゲンが一人も居ないので」
「ま、仕事がそれで良いってんなら、アタシは構わねえけど。じゃ、メシでも作るか。昼だし」
「お願いします」
そういって、受け取った樹石結晶をポケットにしまい、新設した炊事場へと消えて行く。
凄まじい、大型新人が来た。完璧だ。有難う。感謝の念に堪えない。
「そこの雑用」
「扱いが違い過ぎるわ! せめて名前で呼んでくれないかしら!?」
「だって貴女、掃除一つだって雑ですし……買い物は余計なもの買って来るし……料理すれば鍋一つダメにするじゃありませんか……ナナリを見てください、ナナリを」
「え、余?」
「コレだって最初はそんなカンジでしたけど、今はちゃんと、鍋を焦がせば焦げを落としますし、オヤツは一個までになりましたし、掃除は……まあ甘いですけど、貴女より出来ますよ」
「わ、私、そういう家事の才能無いのよ!」
「他に就職を考えてみては」
「ええ!? 嫌よ、捨てないでよ! 頑張る、頑張るから!」
「……じゃあニナの手伝いをしてください。あ、邪魔だけはしないように」
「い、いいわ! やってやろうじゃない!」
そういって美月も裏へと消えて行く。アレは本当に扱いに困った。初期状態ナナリよりもヘタをすると使えない。寝床と飯を用意している分ぐらいは働いて貰いたいのだが、大体マイナスだ。
「我が神達、美月、どうしましょう」
「賑やかで良いんじゃないか? アタシは好きだぞ?」
「可愛い。間抜けで」
リーアの辛辣さがすごいが、悪印象はないらしい。確かに、顔面にお茶をぶちまけたり、服にソースをぶちまけたりと散々やらかしたが、リーアが『むすっ』とした事はなかった。まるで子供の間違いを諭すようにして教えている。
「私、娘が出来たならああいう子が良い」
「神シュプリーアの推しですか……では解雇も出来ませんね……」
主神様がお気に入りなのではしょうがない。美月の解雇は保留となった。
正直、遠ざけたい。ベルナンの事がある。
治癒神友の会の未来に、ベルナンの失踪は一切かかわりが無い。故に気にする必要はない、と周囲には言ったが、それでも気になり、ヨージは調査に向かった。
結果、美月が監視を担当していた場所付近で、動物のものと思われる灰が見つかったのだ。
魔力痕跡は綺麗に消されていたが、物的証拠が残っていた。
銀貨三枚。超高温で融けて、くっついていた。
美月が買い物をする際、持ち出した硬貨と同一の造幣局で作られたものだった。貨幣流通が少ない村では、とても目立つ。
カインと同じくして、証拠隠滅の為にバルバロスによって燃やされたのかとも考えたが、所詮は傭兵でしかないベルナンと商会長であるカインでは、握っている情報に差があり過ぎるだろう。
美月は怪しい。
(火属性魔法使い、か。どうにも出自が不明であるしな……なるべくなら排除したい……)
不安要素は取り除きたい。だが、我が神が不機嫌になるのも、頂けない。
(食あたり起こして死にかけていたニンゲンだしなあ……我々を狙って現れた、という線は薄い。一応、警戒だけはしよう)
善悪で判断出来るようなニンゲンではないだろう。
それに、我が神の発言……『よーちゃんと同じ色』というのも、気になる。
「ヨージさん、今日のご予定は?」
「そうですね。行政区街大樹教会に訴訟を起こす旨の書状を叩きつけたので、返事待ちです。村の庶務は山積みですが、今から取り掛かれるものが少ないので、今日は大してやる事はありません」
「じゃあエオは帳簿を書いているので、ヨージさんはごゆっくりどうぞ!」
「お願いします」
仕事はしたいが出来ないタイミングというものはある。しかし動いていないと気が揉んで仕方が無い。
「……そうだ、ナナリ」
「なんだ」
「稽古をつけましょう」
「おお! 構わぬぞ、さあ剣をとれ」
出来る事があった。少なくとも一年後には、ナナリは故郷へと戻る。それまでの間に、他の姫達から抜きんでるだけの知識と力量を身に付けさせねばならない。
「僕は木刀にします。ナナリは得意の得物でどうぞ」
「ふふん。怪我をしても知らぬぞ?」
教会の裏手に出る。丁度草刈りを終えたので、なんだか青臭い匂いが漂っているが、開けていてよい場所だ。ナナリは『神剣召喚』と『魔法戦衣』『魔法反射障壁』と『魔法防御壁』を唱えて準備万端だ。
召喚したのは細身の剣だ。元から女性向けに作られたものだろう。
「では口上を伺いましょ」
「ダーインスレイヴ・レプリカだ。大樹教における魔剣を模して鍛えられたものだな。余のご先祖様が、まあ余と似たようなシュミだった故に、自分用に拵えた為、女性向けに凝らしてある」
「ほうほう」
「が、一応五〇〇年の時を経ている。この剣は過去、神を殺した故に神殺しの不名誉を受けてな、神殿深くに封印されていたが、余が引っこ抜いて来たシロモノだ」
「え、なんですその曰く付きの剣……」
「斬った対象に呪いを付与するぞ。さあ、全力で避けろよ、師匠」
師匠から訓練を受けるのに、どうして『呪刻』がエンチャントされたものを持ち出すのか。もしかして、ナナリは自分の事が嫌いなのかもしれない。
怖いので無銘を持ち出す。
「……師よ、どうして刀に持ち替えた。木刀で良いのではなかったのか」
「呪いは怖いですし。代わりに防壁は『魔法防壁』だけにします」
「良かろう。では行くぞ――ッ」
ナナリが構える。左手と左脚を前に。剣を持つ右手を引き、突きを狙う姿勢だ。行動が読めるような構えを推奨しない扶桑系の剣術とは思想が違う。特に彼女達イナンナーの女性は、野太いブロードソードやメイスで鎧を叩き潰すのではなく、鎧の隙間から剣を叩き込む剣術が主となるからだろう。
魔力を感知。彼女の周囲に五本のナイフが浮かび上がる。神剣召喚ではない、魔力で編まれたナイフで、魔術に分類される。彼女の突きは、一撃で都合六回攻撃となる訳だ。
「――ッ」
最初のナイフ、二本がヨージに向けて射出される。ヨージ程の魔法防壁を貫通するのは容易ではない為、これは何もせず自動的に叩き落とされる。問題は本体だ。
ナナリの突きがやってくる。避けるか、受けるか、考えてから、受ける事とする。
「む、手を抜くな、師匠!!」
「戦闘中喋るな」
「あぐっ」
突きを受け流して足払い。ナナリが転倒――すると思いきや、器用にも手をついて跳ね上がって態勢を整える。同時に残り三本が射出された。これを刀で斬り落とす。
反撃に転じる。構え、踏み込み、斬る。この当たり前の所作はしかし、大半のニンゲンを斬り伏せるに十分な動作であった。ナナリの魔法防御を一撃で割り、ダーインスレイヴ・レプリカとかち合う。
「ぎ、ぎぎっ、ぐっ」
「力量も筋力も魔力も相手は全部上です。このままでは剣ごとへし斬られますよ」
「なん、のッ」
「むっ」
後方から殺気。ナイフか。今まで叩き落としたものよりも、魔力の濃度が濃い。
違う。魔法のナイフではない。実体がある。
「くっ……ッ」
ナナリから離れ、ナイフを避けに掛かる。が、それは追尾するようにしてヨージの眼前に迫った。結節点をつん裂くようにして、魔法防御を貫通。ヨージの頬を掠める。
「つぁッッ!!」
「――ふんッ」
間髪入れずナナリが突撃、複数の魔法のナイフと同時に突きが迫る。
なるほど。これは仕方が無い。
ヨージは手を構え、無造作に無属性衝撃魔法を放ち、押し迫る全てを、弾き飛ばす。
「ぐあっ……ッ! が、いっ、たぁ……ッ」
「そこまで。やるじゃありませんか、ナナリ」
流石に感心した。搦手であるし、ヨージが手加減している事もあるが、正面からの殴り合いで怪我をしたのは、恐らくアスト・ダール以来だろう。才能はあると思っていたが、彼女は常々考えて、今回の作戦を実行したのだろう。
なかなか愛い弟子である。
「怪我は」
「ない。ううむ……駄目か」
「駄目なものですか。通常の果し合いならば貴女の勝ちも有り得る動きでした。さあ今の戦闘について考察しましょう」
「むっ。分かった。実のところ、貴殿は初撃を避ける事を想定をしていた。受けられて焦った」
「いつも躱していますからね。しかし魔法のナイフを分割して攻撃にあてられるのは便利です。もう少し応用が利きませんか」
「現状五本までだ。追尾は多少するが、貴殿の魔法防御を破る程ではない」
「数を増やすよりも、突破力を上げる工夫をしましょう。いいですか、ええと……こうかな?」
「魔法のナイフか? 随分不格好だが」
「初めてイメージして作りましたからね」
「余、そこまで作るのに三年かかったのだが。まあ師と比べてもしかたない。で、なんだ?」
「ナイフである必要性は?」
「格好いい」
「針に出来ませんか。もしくは、不可視化出来ませんか」
「魔力で編んだ時点で魔法使いにはどうしても見えるだろう……針は……格好悪い……」
「ではせめてもう少し細身に。そして形に気を遣うのではなく、切っ先に力を籠めるように」
「ふむ……こうか」
「そうです。それを五発叩き込めるなら、一般的な魔法防御を貫通し得るでしょう。そこから貴女の突きが入れば、勝ったも同然です。それにしても、僕の後ろに召喚したアレは?」
「あれは成人の時に賜る、王家女性のナイフだ。大した力はないが、余と良く適合する為に、魔力を通しやすい」
「加減していたとはいえ、僕の魔法防御を貫通したのはお見事です」
「そうか……そうか?」
「ええ。ナナリは素晴らしい。筋が良い。やはり才能がある」
「へ、えへへ……」
「あとは貴女本人の突きですね。少し失礼します」
「む、こら、女の素肌を勝手に触るな」
「肩は上げる必要があるのですか? 脇を絞りましょう」
「はひっ、も、もう……」
「脇を絞った状態で手首も捻り、まっすぐ、そう、まっすぐ、剣と手と腕が、正面から見た時に点となるようにです。ニンゲンはその殆どを視界に頼っています。視界に映り難いという事は、それだけ避け難いという事」
「う、うむ」
「足の運びも、姿勢をもう少し真っ直ぐ。相手の肩口から喉元へ突き刺して抉る。足がバタついています。もう少し静かに。そう、そうです」
「こうか?」
「僕に向けてやってみてください」
「ふっ――ッ」
「格段に良い。先ほどの突きより殺傷力三割増しです。大変見え難い、避け難い。それを弁えた上で、先ほどと同じ状況を再現しましょう。さ、構えて」
「わ、分かった。行くぞ」
何にしても、自分の事で手一杯であったニンゲンが、こうして他人様に教える立場になるとは思わなかった。自分が一番強くなければいけない。そうでなければ、何も護れない。
訓練して、訓練して、訓練して、気が付いた時には、もはや並ぶものはいなかった。
それでも、不安で仕方が無かった。自分に自信がなかった。
十全皇という化物を目撃したその日から、強い者、という定義が覆ったからだ。
訓練して、訓練して、訓練して、しかし、当然龍なんてものには及ばない。無駄だと分かっていても、訓練していないと、自分が弱くなってしまうのではないか、いつか自分を越えた者が襲ってくるのではないかと、まるで偏執狂のように、訓練を重ねた。
『幼鷹。その剣で何が護れる。何を斬る。誰を殺す』
『いつかアンタは殺さなきゃならないとは思います』
『それは至極楽しみな話だ。では殺るか?』
『化けて出るなよ、クソ爺……ッ』
結局、剣術だけであの男に勝つことは出来なかった。
本当に、どうなっているのだ、あの化物は。
「こうだッ」
「焦りましたね」
「あぐっ……い、たぁッ!」
「まだまだ。その足の運び、毎日練習するように。戦闘中、貴女は『点』だ。線である必要はない。的が小さければ小さい程、相手は当て難く、こちらは貫き易い。当然の道理です。それを意識してください」
「はあ……はあ……う、うむ。了解した」
ナナリに手を差し伸べる。彼女は、少しだけ躊躇った後、手を取った。
嬉しそうだ。随分可愛い弟子がいたものである。
イナンナー女というのは、実に怖ろしい。イナンナーと戦争をしていた頃、その無慈悲さには頭を痛めさせられた。戦略も戦術も無く投入される男達。軍人も民衆もすべて巻き込んで、奴等は攻めて来る。
一体どうしたらそんな、恐ろしい戦い方が出来るのかと、当時のヨージは小首を傾げたものだ。
……ナナリが特別なだけかもしれないが、それでも、ナナリを見ていると印象は変わる。
「剣術、戦闘術に関しては、ある程度としましょう。貴女に必要なのは女王選定における試練対策ですからね。近くに里山があります。時間をとって、山行も始めてしまいましょう。弓は得意ですか?」
「それなりだ。ただ余の国の弓は短弓だ。貴殿の国は長弓であろう」
「エルフに扱えない弓はありませんよ。僕はハーフですがね」
山の中に籠るとなると、長弓は邪魔となる。故に担いで行くのはいつも短弓だった。戦時中となると、今度は古来からの長弓ではなく、ヒトを殺す為に特化した弓となる。竹と魔化鉱物の複合製品で、矢も魔法が乗りやすいよう特殊な加工がされている。
超長距離に対して重爆(無属性魔法の長距離射撃)を行う場合などでお世話になった。
銃も使えるが……ヨージは弓の方が得意だ。
「弓を作るところから始めましょう。楽しいですよ、弓づくり」
「嬉しそうだな。では宜しく頼む。いつでも構わん」
(その胸では長弓引き難そうだなあ……)
「師よ。何だその目は」
「いえ。胸当てとか、あります?」
「剛の者は乳房を切り取るそうだが、余は怖いので、魔法でなんとかした」
「え?」
「見てみよ」
ナナリが短い呪文を唱える。すると、胸が……引っ込んだ。
……なんだそれ。なんだそれは。
高位の神や竜精が操るような、肉体の操作か。
「え?」
「肉体を操る魔法は幾つかあろう。もはや失われつつある技術らしいが、限定的に引き継がれている魔法もある。貴殿が使用した女性化薬などは、この魔法の大本となるものであろうな」
「はー、それは便利ですね……あの、他意は一切一毛一毫も全く欠片も無いのですが」
「ふむ?」
「逆に……大きくとか、出来るんでしょうか」
「出来るぞ?」
「参考までに見せて貰っても」
「構わん」
これは弟子の能力を確認する為であり、下心などはない。何か教えるにしても、どこまで出来るのかを把握しておくのは、教える者として当然であろう。である。だ。
「こんなものか」
「……牛かな?」
魔法戦衣を解放。普段着に戻してから、また呪文を唱える。
……服が張り裂けてしまう。質量も……しっかりあるように見える。
なんてことだろうか。ユーヴィル越えは人生初目撃だ。
「牛型の獣人もおるだろう。かなり数は少ないが」
「扶桑では見ませんね」
「余の国では神聖化が進んで、彼女達の乳は神乳として儀式に用いられる」
「なるほど……なるほど……」
「……師よ、見過ぎだ、見過ぎ」
「失敬。やはりナナリは器用ですね。水魔法も操作が難しいものが多いのに、貴女は容易く扱うでしょう。そこは尊敬します」
「この身体操作も水魔法の応用だからな」
「皇龍樹道には残らなかった魔法ですね……いや、貴重なものを見せて貰いました」
「……別に、触っても構わぬぞ」
「……いえ!? いえいえ、いえいえいえいえ。とんでもない、とんでもない」
「ふ、ふふ。貴殿が女の胸部に興味津々である事など知っておるわ。さあほら、弟子の胸だぞ」
「(大変な事になってしまった)」
偽乳……ではあるが、その圧倒的存在感はもはや畏怖すら覚える。体型慎ましやかな扶桑人の多い環境で育った故、豊満な身体というのはある種アトラクション的だ。
しかし良いのか。いや良い訳があるか。弟子だ。それに胸など触ったら『もはや婚姻では?』などと言われかねない。
「う、うぅぅ」
「あ、頭を抱える程葛藤しているのか……!?」
「よーちゃーん、お客さーん……何してるの?」
「我が神助けて! ナナリが誘惑するのです!!」
「師よ、それはあまりに大人げなかろう!!」
「ナナリ、そのおっぱい……そこまでして……よーちゃんを……」
「ち、違う……ひ、酷い思い違いだ! これは師が……ッ」
「うんうん。気持ちは分かるよ。でもお昼からそれは無いと思う」
「そういう気持ちが全くなかったかといえばウソだが、そもそもは師が……」
「うんうん」
「くそぅ、治癒神友の会は邪悪だ……ッ」
ナナリが走り去る。走る後ろ姿からでも、胸が揺れているのが分かるのは凄いとヨージは思った。
「よーちゃん、あとで謝ってあげてね」
「ぐっ……」
「お客さん、きた」
「お、応対します……」
そして大体の事は見通している我が神はやっぱり神なのだと感心する。
少し遊び過ぎたか。ナナリには、後でしっかりお詫びの品でも献上しよう。




