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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
フォラズ村編
173/319

辺境フォラズ1



 皇帝直轄森林地を抜けてバイドリアーナイ領へ。

 バイドリアーナイ領を抜けて中部大街道を西に一週間。


 旧マーリク竜支卿管理地、フォラズ村はクソ田舎であった。


 旧マーリク竜支卿管理地は東にバイドリアーナイ、南にアインウェイク領がある。治癒神友の会、ぐるっと大帝国一周の旅だ。ヨージに関しては、ポータルでの移動もあるので、もう世界を半周するぐらいは移動しているだろう。


「……壮大な旅になったものです」


 揺れる馬頭の向こうに村の入口が視える。今日からこの村が、治癒神友の会本拠地となる、予定だ。色々思うところはあるが、内陸で、知り合いの領主が近く、田舎とはいえ大街道も遠くない。田舎宗教の本拠地としては十分であろう。


 竜帝とユーヴィルの思惑は分かっている。


 エオはやはり外に出したくはないだろう。少なくとも、エオが自分の全てを制御出来るようになるまでは、国内に留めておきたいのが本音と言える。この地で治癒神友の会を盤石とし、エオの立場がより確立されたあかつきには、いよいよ大樹教加盟となっても問題無いだろう。


 竜帝達の前では大樹教加盟を否定したが、それは『現状での否定』だ。何もかも不安定な状態で加盟すれば、力関係は簡単に総合統括庁へと傾く。シュプリーアを大帝国の意のままにされては困る。そうしない為にも、リーアの出自をハッキリさせ、宗教としての強度を上げ、信徒を増やした状態になってから、やっと交渉の場に着くのが正しい。


 リーアがどう判断するかは不明だが……友の会全体の未来と、自身の身を案じるならば、加盟した方が有益であるのは間違い無いのだ。


 宗教は一年、二年で終わるようなものではない。

 神が居る限り、信徒が居る限り、宗教は続くのだ。


「驚いた。これは酷い。みろ、あのオンボロな民家を。家畜も痩せておるし、村人に覇気をまるで感じない。酷い土地を掴まされたな、師よ」


「……なんだか話と随分違いますね。確かに田舎だとは聞いていましたが、近隣の町との流通があるのですから、ここまでやせ細る理由がない……」


 さて、早速である。しかし問題は慣れっこだ。とんでもないバケモノが居座っている、とか。傍若無人な神が治めている、とか。そういうのでない限り、解決手段は幾らでもある。


「へへへ……おぅいなんだよ、逃げるなよ」

「いやよ、もう!」


 屈強そうな男が村娘にちょっかいをかけている。他の若者は何をしているのかと見れば、力なく項垂れ、怪我をしている者も多い。


「治安も悪いな。ヨージ、どういうこった」

「ううん? 村役場が自警団を持っていた筈ですが」


 ここは旧マーリク竜支卿管理地だ。管理地であった間はマーリクの持つ行政機構が政治を取り仕切っていた。今は全て引き揚げており、それに伴ってこの村は元村長を中心とした臨時村議会を組織し、運営している。そう資料ある。


 警察機構などの整備は応相談とあったが、その間は村の若者たちで組織した自警団が取り締まりなどを行っている……筈なのだが。


 一同は馬車を降りて、村役場に顔を出す。役場……というとアインウェイク領などを思い出すが、そちらとは比べ物にならないくらいオンボロだ。


「失礼。受付の方は」

「ああ、オレだよ。どちらさん」

「治癒神友の会です。この村の運営権を有しています。元村長にお目通り願いたいのですが」


「――――…………ああ!? 治癒神友の会!? おあああ!! きたぁ!! 村長ぉぉぉぉぉッッ!!」


 受付の男は、目を見開いて驚き、机を叩いて立ち上がり、物凄い勢いでカウンターを乗り越えて、外へと走り出してしまった。


 ヨージは頬をかく。これは碌でもない事になっていそうだ。

 チラリとエオに視線を向ける。

 エオは『あー……』という顔でいる。


「ははは……こりゃ、また、早速何かありそうですねえ……」

「ま、まあ! いつもの事じゃありませんか! 頑張りましょう!!」


 苦笑いが辛い。ともかく現状を説明出来るニンゲンに出て来て貰わねばなるまい。

 受付の男が息を切らして戻って来る。背負っているのは……髭の老人だ。


「そ、村長連れて参りやした!!」

「ご、ご苦労様です。そ、村長殿?」


「……アンタ等か。治癒神友の会ってのは」

「はい」


「アンタさんと神さんは奥へ。あとは、おい、お茶いれてやれ」

「へいッ!」


 よっこらせ、といった調子で受付男の背から下りて、元村長が役場の奥へと入って行く。一先ずヨージを代表として、我が神を連れてそれに追従する。


 元村長はギシギシと音を立てる椅子に腰をかけて、こちらを手招きした。一応、客にはソファを用意してくれたようだが、随分と小汚い。我が神を座らせるわけにもいかないので、控えて貰い、ヨージが対面に座る。


「治癒神友の会、第二神官長、ヨージ・衣笠です。こちらが我が神、シュプリーア様です」

「神だよ」

「ああ。こらどうも。クレスだ。元村長って事になる……村はみたか」


「ええ、入り口から見渡した程度ですが。しかしどうも、資料にあった村と随分差がある。三か月ほど前の資料ですが。その間、何かありましたか」


 クレスは苦い顔をしてパイプに火をつける。ゴツゴツとした手、立派な体躯は、働き者の農業従事者であった事を物語っているが、今はその面影ばかりで、力が無い。


「ここは元マーリク竜支卿管理地だ。貧乏ながらにヤリクリして、今までやってきた。村が出来たのは、それこそ数千年前だって言われてるぐらい、ふるぅい村だよ」


「それは年季が入った村ですね。栄えていた頃もあったでしょう」

「百年ぐらい前までだな。以降は低いところを安定……だったが、つい最近だ」

「マーリクが失脚してからですか」


「ああ。竜支卿って言うにゃあ随分と獣臭い男だったが、それでもアレが居たお陰で秩序は保たれていた。が、マーリク竜支卿が失脚して直ぐ、商会の奴等が来てな」


「商会。なんでまたこんなところに」


「おう。それだ。なんでこんな辺境に来たと言ったさ。そしたらあいつ等、ここで運送業始めるんだとよ。ここから北に向かうと直ぐ大断層ギンヌンガップだ。そこの渡しをやるんだと」


「……大断層ギンヌンガップの渡し? 気流が無茶苦茶で、化け鳶でも辛いでしょうに」


「それを何とか出来る技術があるんだとさ。実際、荷物を運ぶところも見せられた。大容量は無理だろうが、確かに、ある程度は積めて、かつ大断層ギンヌンガップを大回りせず短縮出来る。中部大街道から行政区街、行政区街からフォラズ村に輸送路を作りたいんだとよ」


 行政区街。所謂マーリク竜支卿が本拠地を構えた街で、旧領では一番大きな場所だ。


「……やり手ですね。商会と言いますが、どこでしょう」


「カイン飛行運輸商会って名乗ってたが、ありゃ大商会の末端だろう」

「でしょうね。でなければ、化け鳶の調教は難しいですし、金がかかる」

「……あんた、商人か? いや、宗教家になる前はなんだった?」

「軍人です」

「そうか。エルフで軍人か。扶桑人か?」


「はい。それで、商会が来た事と、この荒廃っぷりはどのような関係にあるのですか。流通が伸びればむしろ利益は増えるでしょう。ヒトが増える事で多少治安は荒れるかもしれませんが、これは荒れ過ぎだ」


「……商会傭兵団バウンサーズを引っ張ってきやがってな。そんな奴等、自警団じゃ取り締まれる訳がねえ。女は犯されるし、男はケガさせられて労働力はそがれるし、まともな奴ぁ皆外に出ちまったよ。ほそぼそと来てた客も行商もパタリと止んじまった。カイン飛行商会が欲しかったのは前衛基地であって、村なんかじゃあねえんだ」


「またあいつらか……」


 世界の秩序を乱している奴等が居るとするならば、まず最初に挙げられる名前が商会傭兵団バウンサーズであろう。名前の通り雇われの傭兵で、大手商会ともなれば軍隊程の戦力を持つものがある。その究極が『バルバロス通商国』だ。


 とにかくアイツラと来たら礼節の欠片も無い。金と酒と女にしか興味が無い。

 まさに有象無象の集まりだ。見つけ次第蹴散らすのが正しい。


「この村、確か、神はいませんでしたね。行政区街の神に頼っていたとか」


「ああ。神センクトだ。ただ、神センクトはフォラズが嫌いなんだよ。こちらに恩恵を与える気なんぞ、更々無い。だから、抑えようがねえんだ」


 村神は戴かず、行政区街の神がフォラズ村の神を兼任していた、と資料にある。だがどういう事情か、神センクトはフォラズに奇跡を与えないという。大樹教法としては違法な筈だ。が、元はマーリクの管理地である事を考えると、それは覆い隠されていたのだろう。


 しかし、随分申し訳ない……いや、こちらが被害を受けた事を考えれば、マーリクの処刑は仕方が無いものだが、結果として割を食うのはやはり、一般人だ。


 責任が一切ない、という事もあるまい。

 それに、こんな荒廃した村を我らが神に捧げるなどもっての外だ。


「クレス」

「……随分若い神だな。何ですかい」


「まずは貴方が元気になるべき」


 我が神が、右手をぎゅぅっと絞る。


「お、おお!?」


 するとどうか。随分と渋い顔をしていたクレスが驚愕の表情を浮かべ、足腰の変調に驚いている。鍛錬の甲斐あってか、我が神は奇跡を行使してもビカビカ光らなくなった。演出としては光っていた方が良いのだが、光り過ぎると不便である。


「足が……腰が!?」

「治癒神友の会なのですよ、僕達は」


「ほ、本当に……ち、治癒の神なのか!?」


「看板に偽りはありません。クレス殿。治癒神友の会はフォラズ村一帯の運営権を握っています。本日から僕等がこの村を運営して行くので、貴方にも是非協力して貰いたい」


「し、しかしよ。商会傭兵団バウンサーズも居るんだぜ。あんなん、どうやって付き合って行く気だよ」


「別に暴力で排除するだけなら、直ぐ出来ますよ。僕が居ますし、我が神と、もう一柱は戦神ですので、まあ五法分あれば片付くでしょう」


「い、戦神も居るのか!? な、なんてこった、全く、これっぽっちも、期待してなかったのに!」


「酷い言われようですね。とはいえ、商会さんの親玉が出張って来ると面倒ですから、まあ、ご丁重にお引き取り願う形になるでしょう。クレスさん、協力してくれますか? 新参者が幾ら喚いたところで誰も従わない。やはり元村長殿に声掛けして貰わねばなりません」


「む……村は、なんとか……なるのか?」

「しましょう。これから、この偉大なる我らが神、シュプリーア様のお膝元となるのですから」


「クレス。協力して」

「あ、ああ……ああ勿論。どうかオレの故郷を……救ってくれ……!」


 貧しいながらも清く正しくやって来たであろう村を、商会が蹂躙する。正直、良くある話だ。他の村で起こった事ならば『まあそういう事もあるでしょう』で済むが、ここではそうはいかない。


 法と秩序と宗教をまず整えねば。去って行った村人達や行商達を呼び戻すのは、それらがすべて片付いてからだろう。


「村の大樹教教会は」

「ここのすぐそばだ。旧マーリク派の奴等が、一応整備してたが……」


「していたが、何です?」

「変なのが住み着いていやがる。自分の事を、魔法少女だとかなんとか」

「はあ……」


 魔法少女。魔法が使える少女という意味ならそのままだ。まあ世の中、才能があってちゃんと魔法を勉強している娘ならば、魔法少女と名乗れるだろうが……なんだかニュアンスが違う。まるで固有名詞だ。


「取り敢えず、それの対応は僕達がやります。そこを本拠地として活動しなければいけませんしね。では、まず怪我をしている男性陣と、可哀想な目にあった女性陣を。怪我の手当てと、心のケアをします」


「すまねえ。だが、一応広義でオレたちゃ大樹教徒だが、良いのか」

「構いません、ねえ我が神」

「痛いのも苦しいのも放置する理由がないから、直ぐ連れて来て」

「……わかった。教会に集まるよう伝えておく」

「宜しくお願いします」


 随分動きが緩慢であったクレスだが、今はシャキッと立ち上がり、達者な足取りで仕事に掛かり始めた。


「計らずもマッチポンプのようになってしまったのは、心苦しいですね」

「マーリクが悪い。あとよーちゃんは何でも背負おうとするのは悪い」

「そうでした。では教会まで顔を出しますか……」


 表に出る。友の会の面々は既に外に並んでいたが、足元に……屈強な男が数人倒れている。

 速やかにやらかしていた。


「何です、その、男性方は」

「余の肩に触れようとした故、手討ちとした。何か?」


「いいや、まったく命知らずだなと思っただけです。直ぐお仲間が寄って来るでしょうね」

「こいつらは何だ? 村人には見えんな」


商会傭兵バウンサーです」


「またアイツらか! またアイツらか! ああ、どこにでも湧きおってからに!! つまりそういう事だな、この村は、この馬鹿どもが闊歩している所為でこうなったワケだな!?」


「お察しの通りで」


「まったく無秩序無軌道で頭に来る。全員肥料にしてやろうか」

「まあまあ、落ち着いて。ほら、もういらっしゃった」


 ナナリが足元の男を蹴り飛ばして転がしていると、武装した男達がニヤニヤ顔で近づいて来るのが分かる。数は一五。先頭に立っている男が商会傭兵団バウンサーズの頭だろう。商人そのもの、にはまず見えない。


 野太く短い鉈剣を腰元に差し、片手には短小銃を抱えている。獣の皮を素肌にまとった姿はまさしく蛮族だ。ザ・蛮族そのものだ。教本通りすぎて笑いが込み上げる。


「おう、いらっしゃいよ、権利者さん」

「これはどうも。治癒神友の会第二神官長、ヨージ・衣笠です。貴方は?」


「俺ぁベルナン。カイン商会傭兵ゴスホーク団の頭だ。いやあ、若いのが申し訳ねえなあ」

「間違いは誰にでもあるものです。これ、片付けてもらっても?」


「ああ勿論。おい」

「へい」


 気絶した男達を、傭兵等がサッサと片付け始める。片付けが出来るのは良い事だ。


「本日から運営に入ります。権利問題等の整理も考えているので、商会の交渉役に渡りをつけて貰えますか」


「そらご大層なこって。しかし女ばっかりな宗教だな?」


「諸事情ありましてね。見目麗しい方々ばかりですが、誰一人としてまともではないので、商会傭兵の方々も、あまりお手を触れない方が無難かと」


「――神は二柱かい」

「はい」


「そうかい、そうかい。んじゃあカインの奴に知らせておくぜ。いつ戻ってくるかは、わからねえがなあ」


 ニヤニヤと笑う。そう簡単に交渉役は出て来ないだろう。


「有難うございます、お願いしますね」

「ああ、こっちも御贔屓にな」


 顔合わせだけ、だろう。ベルナンという男自体はきっと大した事はない。問題はそのカインだ。いったいどんな嗅覚があったら、治外法権になった村なんて場所を即座に割り出して乗り込んでくるだろうか。小商会とは思えないネットワークであるから、やはり大商会の末端と考えるのが正しいだろう。


「なんだ、叩き伏せないのか。あの無礼な男達」


「後です後。どうやら村民は被害を受けていますし、加害者を割り出します。そこで引き渡し拒否、というのならば殴りつけてでも処理しますが」


 法律自体は臨時の村法(大帝国刑法準拠)であろうから、それに従う事になる。だが被害者が訴え出たとしても、証拠が見えないのではどうしようもない。自警団もまともに動けていないであろうから、捜査も難しい。


 が、現行犯で順次逮捕すれば、全員捕まえる事になりそうな奴等ではある。


 ……ユーヴィルに文句を言うつもりはないが、せめて友の会が到着するまでの間ぐらい、騎士ナイトか警察機構のニンゲンを配置して欲しかった。


「で、教会ですね。我が神達の母屋となりましょう」

「おー。屋根がある」

「見た目はそこそこだな。古いが」


 神が生きているこの世界において、古い神社シュラインや教会なんてものは、神からすれば家が中古物件と同じである。観光の目玉に出来るならまだしも、こんな田舎では得が無い。キシミア支部の三分の一の規模だ。本部が支部より小さい。その内建て替えだろう。


 とはいえ暫くはここを拠点とするのだから、住み着いたネズミは排除せねばならない。


「全員、下がっていてください。なんか……変な人が住み着いているらしいので」

「前途多難ですねー。何が居るんです、ここ」

「魔法少女だそうです」

「魔法少女……なんですかそれ」

「さあ……」


 ヨージが扉に触れる。違和感。即座に飛びのく。


「……」

「よーちゃん?」


「魔法式のトラップです。魔法少女とか名乗るだけあって、そこはちゃんとしているようですね」


 魔力の流れを辿り、起点となる部分を探す。どうやら内側だ。根本解除となると中に入らねばならない。他の出入り口を探すのも面倒なので、ヨージはそのまま、扉を叩っ斬る。


「……どちら様かいらっしゃいますか」


 トラップが発動しない事を確認してから踏み込む。返事はない。教会の造りは一般的なもので、ここは入口直ぐに礼拝堂、長椅子が並び、その正面に竜と大樹のレリーフ、そして説教台が見える。神官用の控室、もしくは母屋に繋がっているであろう場所は、その奥の扉だ。


 散らかったゴミ、煮炊きした跡。一人が生活していたであろう痕跡がある。ただ、ここ数日煮炊きされた形跡がない。既に引き払った後か。


 ヨージは奥へと進んで扉を開く。異臭……排泄物のものか。

 目を凝らすと、ベッドの上に、布切れを被った盛り上がりが見える。


「ああ最悪だ……子供の死体なんて見たくないのに……」


 部屋には吐しゃ物が渇いたものもある。血が混じっていた。どうやら、何かしらを患い、そのまま……という状態だろう。まだ死体は腐っていないのかもしれないが、無惨な姿であろう事は想像に難くない。


 布を捲り上げる。その中にあったものは、やせ細った女性の……いや、まだ息がある。


「我が神」

「んー」


「お願い出来ますか」

「生きてる? 生きてるね。よいしょぉっと」


 我が神の力がなければ、絶望的な場面に遭遇した事だろう。強い力を必要とする為か、今回は随分と光る。


「あ」

「あ?」


「よーちゃんに似てる」

「……はい?」


「白い。この子、よーちゃんと同じ色を持ってる」


 それは、主依代探索で語った、ヒトや神の色についてだろうか。

 よーちゃんは良く分からない、と発言していたのを覚えている。大体は赤か青らしいが……この娘は、自分と同じ発色があるらしい。


「それは、後々。どうですか」

「おっけー」


「うぐ……」


 やせ細った身体が、みるみるうちに平均的な人間族少女の体格へと戻って行く。いつも思うのだが、治癒や蘇生というのは、どこを基準にして『回復』とするのだろうか。ヨージは一応五体満足のままであったが、エオなどはそれこそ、肉体の部位を幾つも欠損した状態から蘇生していた筈だ。


 我が神の力はまだまだ分からない。


「お嬢さん、意識はありますか。大丈夫ですか」

「……――み、みないで」


 ――茶髪、人間族。扶桑人か。言語は大帝国語だ。


「はい?」

「この……散々たる有様は……男性には見せられないわ……」


「失礼。お湯を沸かしてきます。整えてからどうぞ」

「有難う……」


「エオ、ナナリ、手伝ってください」


 彼女は女性陣に任せて、火を起こす準備を始める。

 どうしてこんな場所に居たのか、何故死にかけていたのか、聞きたい事は多いが、中でもやはり、我が神の発言は気になる所だ。



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