深緑を往く6
風呂上りの神様達が苦い顔でロビーの椅子に腰かけている。エオはむしろ機嫌が良い。
ナナリはどうかといえば、興味深そうに彼女を観察している。
エイルーンは、何が起こったのか分からずキョロキョロしていた。
場の空気を乱している張本人は、ソファに座ってお茶をすすりながらくつろいでいる。
「ごきげんよう皆さま」
「ごきげんよう、奥方様!」
「はい、良い子。貴女は良い子ね。神様方はご挨拶も有りませんのかしら」
「ご機嫌よくない」
「そういやあアタシは、直接会うのは、初めてだったっけなあ……」
「信義女王陛下。大玻璃鏡越しでしか、お顔合わせしておりませんでしたわね」
「あー、えーと。グリジアヌだ。オタクの婿様について回ってる。不都合はあるか?」
「いいえ、何も。扶桑と南方は今後とも手を結んで行く仲。貴女様が野に下られていたのは、驚きでしたけれども……信愛女王陛下とは、以降も何度か対話の席を設けましたのよ」
信愛女王陛下……信義女王たるグリジアヌと、信愛女王たる妹のグリジアナの事だ。
南方では彼女達の名は尊いものである為、口にしない決まりとなっている。
「アイツ元気だった?」
「放埓な姉がいないと、ほんの少し物足りない、と漏らしていたくらいですわ。確かに、貴女様のカリスマが足りませんと、南方の運営はいささかばかり難しいものとなりましょう」
「要領いいから大丈夫だろ、と思って出て来たんだがな。そうだ、もっとウチと上手くやりたいなら、南方現地民の待遇をもう少し改善してもいいと思うぜ?」
「まあ、まあ、ここで政治のお話ですの?」
「元南方北東部の代表と扶桑の頭がいたら、そうなるだろ?」
「ええ。それもありましたから、あまり貴女様の前には、出ないようにと心がけておりましたの」
「だろうと思った」
「『ヨージ』様?」
……呼び名を配慮した。ナナリの前だからだろう。
「はい、なんでしょう」
「信義女王陛下は、お優しいかしら?」
「気が利く。旅慣れている。能力に汎用性が高い。性格もしっかりしている。戦闘力もある。容姿にも優れています。ハッキリいって完璧に近いかと。僕も大変お世話になっています」
「うわ、アタシの評価高っっか」
「そらそうでしょう」
「じゃあ努力に見合う報酬でも貰うか。なあ、皇」
「それはそれは……では南方現地民の権利拡大の件、信愛女王陛下にご相談致しますわ」
「政治ってなんだよって死ぬ程思うけど、機会が出来るなら悪かねえか……」
酷い空間だ。さっきまで『やっぱり温かいお湯に浸かるのが、一番疲れが取れますねえ』なんて話をして、じゃあ酒瓶でも開けるか、となったところでこの闖入者である。いつの間にか政治の舞台になっており、しかもその政治……南方現地民の権利問題が、ヨージの意見一つで決まったのだ。
辛すぎる。どうしてそう、自分を基準にして大多数のニンゲンの命運を弄るのか。
度し難すぎる。
「シュプリーアさん。そう睨まれましては、落ち着きませんの。もう少し和やかになりませんかしら」
「何しにきたの?」
「そう、それ。この度はシュプリーアさんの主依代探索と伺っております。何せ広大な森、幾らシュプリーアさんのお力が優れているからと、大変骨が折れる事でしょう」
「そうでもないから帰って?」
「まあ辛辣。そこで朕、お手伝いしようと思い至りまして。グラム」
『んぎょっ』
十全皇がグラムの名を呼ぶ。ヨージの脇でブルブルと震え出した。
しかも、どうやら声が、皆にも聞こえるらしい。
「朕の愛しいヨージ様が、独り言を喋っているように見えて不気味になるのは、多少看過出来ませんので、皆さまのお耳にも届きますように致しました」
「うわ、ヨージさんそれ喋るんですか」
「喋るんですよコレ」
『ああー私の麗しい声がー、皆に聴こえるー! まあ十全皇と同じ声なんですけどね、皆さん』
「グラム。少し機能を拡張致しましょう。シュプリーアさん。御髪を一本頂けるかしら?」
「えー……」
「我が神、お願い奉ります」
「むー……」
リーアが渋々髪の毛を一本抜き、十全皇に手渡す。ヨージはグラムを差し出した。
「これ。分かりますかしら」
『うわー、独特の神気ー。ナニコレ……意味不明……独特というか、毒々というか……』
「探知機能を追加しますわ。といっても、ご本人確認が出来るものがあればこそ、という機能ですけれど。何もないよりはマシでしょう?」
『え、アップデートしたんですか? 今? うわされてるわ。やべー、この女ホントマジ』
「誰に向かって口を聞いているの」
『はい、失礼いたしました、麗しの大御神』
「宜しい。はい、ヨージ様」
「また珍妙なものを……便利だから良いですけれど……」
魔法なら魔法で誰かが感知出来たろうに、今の瞬間に何が起こったのか、神様すら分からないだろう。当然ヨージも意味不明だ。意味不明ではあるが、グラム自身はそれを自覚しているようである。まったく、龍のやる事はサッパリだ。
「主依代、直ぐ見つかると良いですわねえ、シュプリーアさん」
「……」
「あら、見つからない方が宜しいのかしら? 見つかると、不都合が? まさか、もう主依代の場所をご存じ? いいえ、もしかして、記憶が無い、何てことも、嘘?」
口元を隠し、目を細めてリーアを責める。
十全皇的には『はやく惟鷹様を解放してくださいまし』といったところなのだろう。主依代探索などの主要な事柄が片付けば片付く程、ヨージの扶桑強制送還が近づくのは間違いない。
「十全皇。随分下品になられましたね」
「いやですわ。惟鷹様に纏わりつく異形から、少しでもお早く離れられる事を願っていますのに」
「記憶はない。場所もわからない。そう言われても、困る」
「左様ですのね。ま、そういう事と致しましょう」
本当に、シュプリーアに対するアタリはかなり強い。十全皇程にもなると、目の前で反逆者が乱痴気騒ぎを起こそうとも涼しい顔で眺めているものだが、リーアに対しては違う。積極的に攻撃している。
ただ、直接手を下したりは、しないようだ。
「十全」
「あら、南西犬神。ごきげんよう」
「お初にお目にかかる。ナナリ・クォム・サイテッスラである」
「キーリッタには似てませんのねえ」
「扶桑の大龍神は聡明で知己に溢れ、おおよそ寛大であると聞いていたが、随分と子供のようではないか。そんなに危機感があるのか?」
誰も十全を咎めない中、ナナリがピシャリと言い放つ。言い難い事を言った、ともいえるし、皆分かっていたけど黙っていた、とも言える。彼女は好きな事を好きなだけ言って、満足して帰るだけなのだから、いちいち突っ込みを入れない方が無難だからだ。
「貴女様もイナンナーの姫であるならば、そこな異形の神には、十分と警戒なすった方が、宜しいかと存じますわよ」
「龍の視点でどう見えるかは知らぬが、少なくとも貴龍の愛でる他竜の子と婿殿は、シュプリーアを慕っておろう。神一柱にささくれ立つ理由が余には理解出来ん。なんだ、貴龍にとってシュプリーアというのは『よっぽど』なのか?」
「――……」
じわり、と空気が悪くなる。今までも冷たい空気ではあったが、今度は寒い。
これはイカン。
「ナナリ。龍が感じるものと、我々が感じるものは、同一ではない。考えるだけ無駄です。どうにも、十全皇は我等が神をお嫌いなようだ。そも、本当に十全皇が、これは自分の危機となる、とあらば、我々に一切配慮する事無く、我が神を殺すでしょう。そうしないのであるから、絶対的に都合が悪い、という事でも、ない。そうですね、十全皇」
「龍がいちいち、塵芥にかまけてなどいられませんもの。ただ、ニンゲンである貴方がたにとっては、致命的に成り得る、というお話ですのよ」
「ふむ。左様か。まあ確かに。認めぬ女が婿の近くにいれば、どんな女とて気分が悪かろうな。貴龍は龍である以前に女か。ニンゲン味溢れる話である事だ」
「貴女様も、認めている訳では有りませんのよ」
「一人の男に固執する龍か。とんだ呪いだな、師よ」
「ナナリ、口がでっかすぎます」
「別によかろう。それとも龍というのは、ニンゲンの大言如きで腹を立てるものか?」
「まさか、まさか。キーリッタよりも品がありましてよ、ナナリ」
「母上は……まあ……あんなカンジだからな……」
「ではそろそろお暇します。皆さんが手厳しくて敵いませんもの」
「あ、お帰りですか奥方様。お茶のおかわりは?」
「遠慮致しますわ。エオも、また今度」
「はーい」
そういって、またその場から立ち消える。
定期的に襲って来る超常存在だが、今回はナナリにやられて退散していった。
あまりヘイトを溜めると碌な事にならないので、次はやんわりお帰り願おう。
「……――」
「エイルーン女史、大丈夫ですか」
「なんですあれ……なんです……なんですかあれ……」
内輪の話だ。入って来られないのは分かっていたが、今さっき現れた女が理解不能であるあまりに、部屋の隅で縮こまっていた。あれは分身故にそこまで精神的ダメージのあるものではないが、感受性の高い、なおかつ若いエイルーンには辛かったかもしれない。
「な、ナナリ。ケアをお願い出来ますか」
「む。エルフ娘。そうかそうか、どれ診てやろう」
「我が神、大丈夫ですか」
「多分呪い」
「はい?」
「さっきの会話で、呪詛を五つくらいぶつけられた」
「あの女、相変わらず碌なモンじゃありませんね」
リーアは頬を撫でながら憂鬱そうに言う。龍から直接呪いをぶつけられて平然としている時点で何もかも可笑しいのだが、そもそも人様とお話の最中に神に呪いをぶつける奴も狂っている。
「ご無事で」
「分身だからだと思う。大した事ない」
龍の真体に直接呪いをぶつけられたら、それこそ生きながらにして全身が壊死するだろう。
「グリジアヌは」
「何にも。アレがアンタの嫁かい」
「認めてはいませんが。アレに婚姻関係云々など論理の外です」
「しっかし……確かに、アンタが頭を痛める理由も解る。何事にも、アンタを絡めるんだな」
「……」
「南方北東部なんて、扶桑からしたらそりゃ小さい地域だが。それでも数万人のニンゲンが暮らしてるんだ。その現地民の権利問題を、アンタの行動一つで決めやがる。アンタは分かっていると思うが、権利なんてものは、戦ってこそ手に入るもんだ。戦なり政治闘争なりデモなり、権利を求める者達が、武器を取るか声をあげるかして、結果勝って手に入れる。それを……」
「……そういう女なのです。しかも、良かれと思っていますよ、アレは」
「良かれ?」
「『貴方様の素晴らしい采配によって、南方現地民の人権がより一層向上致しました』という理屈になるのです。彼女にかかると」
「噂にゃ聞いてたし、何度か大玻璃鏡越しに会話もしたが……そこまで度し難いとは。一度、南方に戻って様子見しなきゃならんかもな。妹がアイツに対処しきれるとは思えん」
「信愛女王……グリジアナ女史の政治手腕は?」
「アタシより優しい。というか温い」
「そういう事でしたか。もし、危急とあらば言ってください。『星の洞』を貸します」
星の洞。神エーヴから授かった古代魔道具だ。膨大な魔力を消費して、特定の場所に瞬間移動出来るシロモノである。グリジアヌの神殿が南方にあるならば、あとは消費魔力を出して貰うだけで移動可能だろう。
「あんまポータルとか使いたくはねえけど、その時は頼む」
「ええ、分かりました……ん?」
まるで『戦闘後の処理』をしているような気分だ。各人の被害状況や消耗を確認する作業に近い。元から安全を保障されているエオ以外は大体満身創痍である。
そんな中、部屋の端から大声が聴こえた。エイルーンだ。
「あれが龍!? じゅ、十全皇!? なんでこんな場所にいるのですか! あ、貴女達はいったい何なんですか! あんな……あんなバケモノ……ひっ、ひっ、ひっ、すひっ、ひっ……!!」
「駄目ですねこれは。我が神、すみません、処置願いますか」
「んっ」
森の中で変化も刺激も変動も少ない生活を送って来たであろう彼女からすると、竜精と関係を持つ謎の宗教団体、扶桑剣士の襲撃、挙句龍の分身が現れたとあれば、もう頭の中がいっぱいいっぱいであろう事も仕方が無い話だ。
よほどストレスがあったのか、過呼吸を引き起こしている。
「はい、落ち着いてー」
「なんっ……はっ、はひっ……はっ、はあ……はあ……」
「どうです」
「大丈夫」
「エイルーン女史、買い物などは僕がやります。寝ていてください」
「はぁ……はぁ……はい……」
エイルーンから買い物のメモを預かり、ナナリに付き添わせる。女の子の世話を焼くのが本当に好きらしいので、ここはお任せしよう。
「無垢な少女にアレは刺激が強すぎましたね。というか皆さんが平然としているので、感覚がマヒしていました。そうですよ、あんなの、普通ではないのですから、こうもなります」
「私も診てくる。大丈夫だろうけど、一応」
「済みません、お願いします」
「ヨージ、買い物だったらアタシが付き合うぜ」
「それは助かります。エオ、貴女は明日に向けて荷物の整理と手入れを」
「はーい」
ゆっくりする予定でいたが、そのような雰囲気でもなくなってしまった。財布と手荷物だけを持って、グリジアヌと宿を出る。
相変わらず十全皇の『親切』には参らされる。やはり存在力というか、彼女そのものを取り巻く因果の大きさ故か、彼女が少しでも動くと、周囲に様々な影響が波及する。小さな親切は大体、大きな物事となって帰って来るだろう。
「何を買うんだ?」
「森の中で使う為の儀式品ですね。僕達の知らない儀礼のものですから、どれ一つとっても、用途不明ですけれど……」
メモには『クサムラワシの乾燥糞 ヒトホシオオテントウの粉末 褐石製乳鉢 ニジイワナ魚醤』など、日用ではまず見かけない品が並んでいる。ここ数時間のガイドであったが、蒼鷹の術に惑わされた以外は、一切迷いもなく、巨大生物や巨大昆虫に襲撃される事もなく、平穏であった。
彼女の魔法と勘と知識。その一体とした総合的な力によって齎される安全である。
「なあ、ヨージ。大人の話をしても良いか」
「お子様達はいませんし、構いませんよ」
「アンタは幾つであのバケモンと出会ったんだ」
「確か、二〇……幾つかの頃ですかね。軍大学校を卒業後、近衛師団に配属になりました。そのまま戦いもしないエリートとして上を目指すつもりでいましたが、急に転属となりまして。戦場を幾つか渡り歩いて、戻って来た時に初めて謁見したのです」
「巨人族制圧もその頃か」
「ええ」
「それで、アレと出会って、どうなったんだ」
「また近衛師団に戻り、陛下直属の部隊に配属となりました。それからは……暗殺紛いの事を、沢山させられましたね」
「もうその頃には、会話もしていたのか」
「ええ。呼び出されては、アレをやれコレをヤレと命令されて。その頃のあだ名は『龍の御使い』ですよ。笑っちゃいます」
「婿になれって言われたのは」
「それから二〇数年後ですかね。第二次南方戦争。バルバロス通商国が協定を破棄、扶桑植民を虐殺。イナンナー部族連合王国が扶桑植民地に侵攻。両面から迫る敵に対して……まあ、僕が投入されたわけです。『ひと段落つきましたら、祝言をあげましょう』なんて言われました……あ、ご主人、これと、これを三つずつ」
「ふーむ。結局のところ、十全皇はアンタの何が好きなんだ?」
「それが分かったら僕の苦労も百分の一くらい軽減されそうです。ただ、本人談を信じるならば、本当になんとなく、というか、一目惚れされたそうですよ、僕」
「したのか?」
「呼び出された日は、ほぼ必ずしていましたねえ……」
「――……子供は?」
「……――」
したら出来る。勿論相手が龍であるから、ニンゲンの理通りとはいかないものの、彼女が愛する男の情報を直接的に得たのであるから、作ろうと思えばいつでも作れただろう。
しかしヨージが否定した事で、彼女もそれを守った。
十全皇との間に、子はいない。勿論、彼女が嘘を吐いていなければ、だ。
「いません。しかしそこに、問題がありましてね。今まで以上に、僕は女性と交われない。貴女は大人ですし、話して欲しいとあらば詳細を説明したくはあるのですが、政治的に考えると、少しダメですね」
「女王なんてあってないような肩書ではあるが。まあ十全皇の弱みに繋がるような話は出来んか。しかしなんだ、比較的寛容に見えたが?」
「僕が他人と交わる事自体に否定感はないらしいです。そこは好きにせよとは言われています」
「ほぼ答えを言ったようなもんじゃないか」
「言わないとは言っていません」
「そっか。じゃあつまり……子供を作らなきゃ、誰と寝たってかまわんって事かい」
「そのようです。無茶言いますよね」
「無茶言うなあ……」
随分と赤裸々な話になってしまったが、こういう事を語ってもコミュニケーションとして成立する彼女には随分と助けられる。ここ最近はエオやリーアに掛かりっぱなしであったし、なんとかご奉仕して恩返ししたいところだ。
「ご主人。そこのお酒は?」
「これ。森林地に生える特定の木の樹液を醸したもんだ。正直美味いかと言われると首を傾げる。あと、度数が高い」
「しょ、商売っ気がないなあ。じゃあそれを」
「いいのか? 呑むと口の中に森の味が広がるぞ」
「だそうです、グリジアヌ」
「変なお酒すげー好き」
「ください」
「毎度」
グリジアヌにお酒は基本である。特定供物でもある。
思えば、出会った頃から常に交接を求められてきた気がする。余程好きなのか、ヨージとシたいだけなのか。彼女はそのあたりを細かく説明しないが、特定供物の『信者とのキス』は便宜上で、たぶんキスだけではないのだろう。
「買い物はこれで良し。お茶でもしますか」
「戻らないのか?」
「たまには、貴女の為だけの時間を用意しませんと。すみません、騒がしくて」
「な、なんだよ急に。直ぐ戻らないと、今度はエオが五月蠅いぞ」
「『神グリジアヌですか? 良いのでは?』という事でしたので、大丈夫ですよ」
「エオもエオで色々可笑しい奴だわな……まあ竜精の娘じゃあなあ……」
「それで、嫌でしたか、お茶」
「馬鹿言うなよ。なんだ、少し自信無くしてたんだぞ、アタシは。でも、ちゃんと興味持ってるんだな?」
「正直、ある程度何でも話せて、甘えられるのは貴女ぐらいですし。先ほど十全皇にお話した貴女に対する考えは、一つも偽りありませんよ。強く優しく可愛らしく美しい。そして何よりも、信頼出来る。貴女が居なければ、友の会は回りませんね……」
そんな話をすると、グリジアヌは……嬉しそうに顔を綻ばせた。何よりも頼られる事が一番の幸福である彼女であるから、ヨージに信頼されている、という言葉はかなり大きく響くようだ。
「くぅぅ……あ、なんかダメだ、そういう気分」
「え? それは流石に」
「まあまあ。直接でなくとも、他で楽しむ方法なんて幾らでもあるだろ? なんだよもう、もっと早く言えよ。言ったろ、すんごい得意だって。喫茶店は人目があり過ぎるかなー。少し森の中にでも入るか? 楽しいぞ、外」
「あーあー……そういう意味じゃあないのですけど……」
「えー、なんだよ。じゃあなにか、またアタシの胸でも借りたいか?」
……思い出す。ビグ村の時などは『致せ』ず、彼女の胸の中で眠りについた。以降、何か辛い事があれば彼女は積極的にやって来て胸を貸すと言っていたが、他の女性の目もあったので控えていた。
比較的幼い容姿の神なのだが……やはり経験と性格故か、包容力が違う。
胸はなくとも、彼女の胸は大きいのだ。
「我慢のし過ぎは身体に悪いぞ。ま、今夜にでも、部屋に行ってやるからな」
「こ、肯定はしません。肯定しませんからね?」
「はっはっは、英雄様がヒト恋しい事だってあるさね……これは良いご奉仕だ、ヨージ」
「く、くそう……なんか久々に負けた気分だな……」
「よしよし、可愛い可愛い」
愛だの恋だのというものは、言うなれば理性的だ。言語に当てはめている時点でそこには理論がある。そういう意味で、彼女の求めるものは言語化の不要な欲求であろう。好きだからする。ひたすらに、ただそれだけなのかもしれない。彼女の場合はそこに、より深い慈しみがあるだけだ。
自分のように何でも、正しい形や答えを求めたがるニンゲンとは、根本的に違うのだろう。




