竜国姫1
いつも通りするべきだったのだろう。そう、直ぐに首都を去るべきだった。ただ、判断するにはヨージの持つ情報が不足していたという事が大きい。最良、最善であろう行動を心がけていても、他方からの思いがけない不意打ちや横槍は不可避だ。
勿論、それも加えられることを前提に動いている。最良最善とはそういう後顧の憂いも配慮したものだ。が、それでも感知不可能な攻撃というのは、避けようがないものである。
原始自然神イルミンスルが散去したのだ。
神が死ぬ、という事実は知られてはいるものの、そう簡単に出逢える場面ではない。
主依代を持つ限り神というのは不死に近く、ましてそれが土地に依るような神である場合、まさしく不死身であろう。
原始自然神というのは、その主依代を『星』と定めていると聞く。つまり、自分達が暮らすこの世界そのものを主依代としている為、この星が生きている限りは、死なないとされる存在だ。
例えば原始自然神が消えたとして、ではどうやってそれを『死』と判ずるのか。
ニンゲンには無理だ。つまり、竜種が『イルミンスルは死んだ』と判断した事になる。
「原始自然神が死ぬ、なんて、有り得る事でしょうか。ナナリ」
「ふむ。少なくとも余は立ち会った事が無い。イナンナの最高位女神等というのは、大樹教においての原始自然神相当に近い。あの女達がポックリ行くとは考え難いな。まあ、原理の違いはあるのだろう。依る大樹にも違いはあるかもしれんな」
「宗教体系の在り方で寿命が違うのでは、という事ですか」
「そうだ。余にも分からんが、彼等彼女等が宗教を支える一柱である限り、規範からは外れまい」
世間に流れている『星を依代としている』という漠然とした話は嘘で、実際は大樹に依存しているのではないか、という事だ。確かに、原始自然神は大樹の子そのものだ。大樹が枯れた状態で死ねば、原始自然神も死ぬだろう。
……だが、それを肯定出来るものは存在しない。
大樹の枯死など、誰が認めるものか。
町中が喪に伏している。ただ、原始自然神が死んだ場合の喪というものが何なのか、誰も理解はしていなかった為、その行いは皇帝陛下崩御に準ずる伏し方となっている。
女性達はトネリコの冠を被り、全身を白い布で覆っている。
男性達はトネリコの枝を脇差にし、茶色い布を被っている。
日に一度、複数種の麦が入った粥を食べ、泉の水で作られた酒を飲む。
騎士達が街中を巡回して臣民一家から一枚の銅貨を得て、集められた銅貨は小麦に変わり、大樹の葉を模したお菓子となって振舞われるという。
皇帝崩御であれば、ここから三日は全ての仕事が止まり、首都の経済活動が停止するという。
ただ今回は原始自然神である為か、そのようなお達しはなかった。
ホテルのラウンジから街を見下ろす。いつもは賑やかな街も、今はすっかり静まり帰っていた。自粛だろう。店も軒並み閉まっている。
「失礼。ナナリナナ王女殿下でいらっしゃいますか」
「ああ、余だ」
珈琲の三杯目に取り掛かっていたところで、スーツ姿の女性数人がナナリに声を掛ける。身なりが良い。顔も良い。しかし帝国人、という顔でもない。少し浅黒い肌が特徴的だ。
「わたくし、イナンナー部族連合王国大使館の公使、イランザです。お久しぶりで御座います」
「なんだ、聞きつけていたのか。此度の事件に関してなら、言及無用だぞ」
「はい。今回は別件で御座います。女王キーリッタから、イルミンスル様の神葬事にご出席なさいますようにと、お達しを受けております」
「信書は」
「こちらに」
手紙を受け取り、ナナリは顔を顰める。流石に、お姫様がどこにいるのかは把握しているのだろう。タイムラグはあるものの、しっかりと手紙まで寄こしているのだから、ナナリが軽んじられている訳でもなさそうだ。
しかし、そうなると、今回の事件も把握している事になる。それをあの女王が許容するのか。
「ヨージ・衣笠様」
「はい」
「女王陛下からお言葉が御座います。宜しいでしょうか」
「うっ……」
そういって、公使が小さな鏡を取り出す。これは、外交目的に使われる通信手段であり大玻璃鏡の、小さいものだろ。わざわざ言葉だけではなく、顔まで見せるつもりなのか、女王は。
居住まいを正し、鏡に面と向かう。
『……これ、繋がってるの? 繋がってる? ノイズ酷いんだけど。ねえ。あ、映った』
「――ヨージ・衣笠に御座います。お初にお目にかかります、女王陛下」
『あ、良きに計らえ。任務ご苦労。ナナリは壮健か』
「ハッ。隣で鏡を睨みつけて御座います」
『ヤンチャだねえ。ははあ、神エーヴからは聞いている。貴殿がヨージ……』
「はい」
『なんだこのイイ男!? おい、ナナリ! ナナリナナ!!』
このパターン、知っていた。知っている。毎度これだ。
「はい。お母様。ナナリはクソ元気に御座います」
『それぇ!? お前の師匠それなのぉ!?』
「はい。顔が良くて、馬鹿みたいに強いです。羨ましいだろお母様」
『はー! 神エーヴったらテキトーなこと抜かして……! なぁにが、わたくしのちょっと気になるだけの男よ、だぁあの女!』
女王キーリッタ……部族連合王国の長は、随分荒っぽい。いや、イナンナー女としてはこれが正しいぐらいなのだろう。見た目は狼型一種別、何故か女性向けのスーツを着ており、頭に王冠が乗っている。どんな格好だ。世界広しといえども、そんな格好の王はイナンナーだけだろう。
年の頃は不明だが、随分若い。ナナリとはあまり似ていないようだ。
あいや、胸は似ているか。スーツ越しで分かるくらいデカイ。
「それで、如何なさいましたか、女王陛下」
『それより、吾の妾にならない?』
「いや、お断り申し上げます」
『ナナリ、決闘だ』
「お母様、面倒くさいので後にして貰えますか」
『ふン。ナマイキを言うようになったじゃないか。やはり男が出来ると違うか。ちゃんと愛でているか? 夜の躾はしっかりしているか? シモの具合は丁度か?』
「……ふ、不覚にも」
『それに手出ししないとは、なんと奥ゆかしいのか。まるで扶桑女だ。それでは困るぞナナリ』
「うっ……は、はい」
『ま、後にしよう。で、ヨージ・衣笠』
「はい」
『此度はご苦労。詳細とまでは行かないにしても、粗方は聴いている。ナナリはどうか』
「はい。多少荒っぽい所もありますが、王に必要とされる広い心の片鱗が見えます。また、どのような状態でも毅然としており、此度の事件に関しても、取り乱す事もなかったと」
『うんうん。牢にぶち込まれたぐらいで泣くようには育てていない』
「しかし、その事実をご存じの上で、御座いますよね」
『旅に理不尽は付き物だ。吾も昔は一人で旅に出て、男を食ったり食われたり……』
それは女王としてどうなのだろう。
『その温室育ちには丁度良い。それに貴殿が護るだろう。ま、本当に何かあれば、該当国には宣戦布告、貴殿は打ち首』
「ひえ」
『は、勿体ないので、吾の妾にする。ナナリ、都合よく死ぬのだぞ』
「それが母の物言いか!?」
『冗談だ冗談。まったく冗談の一つも理解しないのでは困るぞナナリ。無事なら良い。イナンナーが届く範囲にいるならば、今後もこうして遣いを出す。頼むぞヨージ。あと、妾にならない?』
「ははあ。あとダメです女王陛下」
そうして玻璃鏡での遠隔会話が閉じられる。あんな調子でも、わざわざ顔を出したのだから、娘を心配しているのだろう。しかし、本当によくこの娘を外に出す決断をしたものだ。
「あんな調子なのですね」
「あんな調子だ。言葉は粗っぽいが、情の深い母である。では行って来る」
「ああ、葬儀に出席でしたか。王族貴族の出席日は?」
「四日後だそうだ。今から大忙しだな。少し開ける。構わぬな」
「はい、いってらっしゃい」
小さく礼をして(なんと男に礼が出来るぐらいに成長している)ナナリが去る。彼女がホテルを出て行くのとすれ違いで、やたらと胸がデカイ女が近づいてきた。顔は知らないが、そのサイズは間違いなく、ユーヴィルである。
この忙しい中を抜けて来たのか。
「ユーヴィル竜精公?」
「うん。今、キーリッタの魔力色を感じたけど?」
「ああ、玻璃鏡で対談を」
「なるほどねえ。何か言っていた?」
「大帝国は咎めないそうです」
「はふぅ。それは良かった。これ以上問題増えたら頭が痛くて取れちゃう」
そういって、今までナナリが飲んでいた珈琲を一気に飲み下す。
問題。確かに、誰も予想だにしなかった神の死は大問題だろう。そんな最中抜けてくるとは、一体どんな用事か。
「何かありましたか」
「イルミが死んだ」
「そうですね」
「死亡認定したのはユーヴィル」
「そうなるでしょう」
「死の数日前までの、イルミの痕跡を辿ったのだけれど」
「ええ」
「死ぬ前に、神シュプリーアに逢ってる」
「――……何ですと」
「これは誰にも漏らしていない。貴方と、ユーヴィル。それにシュプリーア本人しか知り得ない」
「どういう事でしょう。イルミンスルはもう暫くと、人前には姿を現さない者であると聞いていましたが」
「うん。さっきシュプリーアにも聴いたわ。どうやら、シュプリーアの気配を感じて、出て来たらしいの。シュプリーアは嘘を吐く?」
「まずないでしょう。貴女に偽って良い事などないと、理解しているでしょうし」
「そうよね。シュプリーアは『凄く遠い昔の知り合いらしいけど、私は知らない』と言っていたわ。ともなると、シュプリーアはやはり、原始自然神の類似神かしら」
「そう予想を立ててはいました。が、僕には知り得ない事です。原始自然神が、本当はどう生まれ、どう暮らして来たかなど、一般人では理解の仕様がない」
「だよねー」
「一つ。原始自然神は、本当に死ぬのですか」
「条件による。それ以上は、答えられない、かな」
壁だ。これはどうしようもなく、超えようのない壁である。大樹神話に連なるものの、神話の中身、現実、その詳細など、ニンゲンが知って良い事はない。十全皇がどれだけヨージと親しかろうと、あのヒトは一切を語らなかったのと、同じだ。
「条件が揃った故にイルミンスルは亡くなった。分かりました。それで、我が神が、何か」
「例えばシュプリーアがイルミンスルと同型、もしくは互換性のある神であった場合だけど」
「待ってください。そんな、工業製品規格じゃあるまいに」
「古代の大樹は選択肢が狭かったの。だから、似たような神を一括で複数産んだ。古い神には番や兄妹が多いでしょ」
「そういう事ですか。なるほど。いや、その場合、我が神が、原始自然神そのもの、となりますが」
「そうなのだけど。でも、正直言って、シュプリーアはイルミよりも力が強い。イルミとシュプリーアが出会って、どのような内容の話をしたかは知らないけれど……イルミが死期を悟り、シュプリーアと合神した可能性がある」
「つまり、イルミンスルは自分の寿命を、我が神に預けた、という事ですか」
「そのまま死ぬぐらいなら、互換性のある神に乗っかった方が良い、という判断だったのかもしれないわ。ユーヴィルもそこまで詳細には分からないけれど」
「遺書などは」
「『時が来ました。どうか輩に愛を。新しき神に幸を』とだけ。輩、新しき神を、シュプリーアとするならば、何もかも理解した上で死んだことになるでしょう」
イルミンスルの意図したところは、実際不明だ。遠い昔の知り合い、という意味も分からない。ただ、ユーヴィルの言う通りであるならば、むしろ、これ幸いとしてリーアに命を預けただろう。遺言からもそれが窺える。
……ひとつ、思い当たる節がある。
ビグ村での出来事だ。
我が神には、治癒以外にも奇跡がある。
それは、他の特性を取り込める、というものだ。リーアはビグ村を襲撃した火族残滓を殴り倒したあと、その力の一端を取り出し、自分で自由に扱えるようにしていた。また、雨秤の主依代である泉からその要素を抜き出す事に成功している。
あまり目立つことではないが、現状、神シュプリーアという神は、治癒の他に、火と水の要素を得ている事になる。
……火の神性持ちなのだ。表に出さない限りは、誰も知る由もない事だが。
他の神の力を取り込める。それが事実だとするならば、今回のイルミンスルの事も、納得出来るものだろう。ユーヴィルが予想するよりも、リーアの力が強い、という事実を抜けば、だが。
「――……」
「そう、怖い顔をしないで。ユーヴィルは、ユーヴィルに許される範囲で、貴方達の味方。今回の事も、オオヤケにするつもりはない。既に役割を終えた神だったのだもの。その命を他の神に預けたのだとしたら、むしろ幸いね。ただ……」
「ただ?」
「治癒の神イルミンスルが散去したと同時に、マスコミはマーリクが陥れようとした治癒の神について、報道している。こんな、奇跡みたいなタイミングだもの。新聞は見た?」
「今日はまだ」
「神シュプリーアは、イルミンスルを受け継ぐ為に現れたのだ、と」
不味い。不味すぎる。本当に、それは不味い。様々な偶然が重なった結果とはいえ、要素だけを抜き出して伝える新聞を見た民衆が、神シュプリーアをどう思うかなど、火を見るより明らかだ。ましてここは大樹教の総本山。信仰の塊の都市である。
大樹の奇跡を、確実な真実として受け止める臣民しかいない。
折角マーリクの魔の手を逃れたのに、今度は『善意』という形で、民衆は神シュプリーアへのイルミンスルからの禅譲を願うだろう。
「早めに出た方が良いですね。いや、もっと早く退去すべきだった」
「それが……ねえ」
「……動けませんか、僕等」
「何せ、エオの件を解決しようとしている矢先にこれだもの。一週間は動きようがないでしょう」
「そうでしたね……」
「皇帝陛下の日程を見なきゃいけないし、陛下は貴方との対談も望んでいるから」
「……う、動けない……」
「マスコミに圧力を掛けても、余計勘繰られるし。シュプリーアには、街に出ないよう言っておいて? 何か不自由があれば伝えて。申し訳ないのだけれど、一か月は覚悟して貰えるかな」
「致し方ありませんね」
「お願い。それと、エオの件に関しては、貴方にも同席して貰いたいのだけど」
「ええ、分かりました」
「うー、政治は面倒ねえ」
ユーヴィルが疲れた顔をして去って行く。マーリクを発端とした事件及び波及した問題、そして火竜党の問題、イルミンスルの散去、更には娘の身柄の問題、大きな仕事がガッと降りかかり、例え竜精と言えども心労はあるのだろう。
そしてこちらも、考える事は沢山ある。
今後、エオがどういう身の振り方をするか、だ。それはシュプリーアにも繋がる。
エオがこのまま旅を続けたい、というのならば否定する事もない。いつも通り前を進んで歩むのが一番だろう。そこに発生する責任については、勿論ヨージが全て背負う。
エオが首都に残り、皇室に新たな立場で迎え入れられた場合はどうか。その立場にもよるが、ユーヴィルが親であると判明すれば、もはや皇帝の正妻の子等もとやかく言えなくなってしまう。ユーヴィルに継ぐような神官位として大樹教に収まり、遣える事になるかもしれない。
そうなってくると、リーアの問題が持ち上がる。
こちらは、ヨージが背負うにはあまりにも大きすぎる神、という問題だ。話が進み、イルミンスルの本格的な後継として迎え入れられると、どうなるか。
マーリクの思惑とは全く別の形で、イルミンスル大教会の主となる訳だ。
治癒神友の会は、本当に解体か。もしくは残したまま大樹教加盟宗教となるか。
エオの性格を考えれば、リーアから離れるつもりもないだろう。エオが完全に空きとなったイルミンスル大教会の最高神官になれば、身分も、家柄も、血筋も、全てが相まって、否定するものはいなくなる。後継者争いにも一切噛まなくなる為、正妻の子等もニッコリだ。
もし自分がユーヴィルで、物事を自分の都合よく丸く収めようと思えば、このぐらいは考えるだろう。ここに皇帝の意思が反映されてしまえば、それこそ不動となろう。
本当に。その場合、本当に、リーアは一千万信徒の神となり得る。
治癒神友の会を『大樹教の新宗派』として立ち上げ直す場合も同じだ。
力が大きすぎる神と、出自が大きすぎる娘。
本来ならば国家に所属するべき子等だ。条件さえ揃えば、ヨージとて頷くだろう。
が、しかし。これには大きな欠陥がある。
あの一柱と一人は、絶対にヨージを離さないだろう、という事だ。
全く身に穢れなく、後ろに控えている者が居ない、というのであれば誰もヨージの所在を気にする事もないだろうが、ヨージが背負っているのは、龍だ。
大帝国の最大の仮想敵国である扶桑の長の気を纏う男の隣に、ミドガルズオルムの孫、ユーヴィルの娘、皇帝の子なんてものを、置ける訳もないのだ。
そして何よりの懸念がある。
それは予感であるし、神エーヴの予知でもある。
ヨージ・衣笠という男が、止まった瞬間どうなるか、だ。
大帝国に腰を落ち着かせ、座ったが最後。何の気苦労も背負わなくなった男を、十全皇が許しておく訳がない。後ろから、ガブリ、だ。扶桑に強制送還、めでたくお婿様復活である。
……これを、リーアとエオが、指をくわえて見ているか? 見ていないだろう。
「うあー……うあー……違う、違うのです、僕はぁ……そんなぁ……」
頭を抱える。起き上がる。唸る。珈琲を飲む。めっちゃ旨い。レベルが違う。
それはともかく、止まるのだけは、ダメだ。
一人と一柱の説得が、不可能に近い現状、エオとリーアの首都定住という安定ルートは取れない。どうする。いっそ、嫌われてみるか。そうなれば『ヨージさんがそんな男とは思いませんでしたプンプン!』となるかもしれない。我が神は……それでも受け入れそうなのでちょっと無理そうだが、少なくともエオの今後は担保される。
(……丸く収める……というのならば、むしろ十全皇に従った方が、早い……が、エオの身分が完全に明らかになった状態で、大帝国が十全皇にエオを引き渡す訳がない)
嗚呼、自由とは尊いものだ。
「むっ」
考えあぐねていると、脳内にノイズが混じる。遠隔会話を要請されているのだろう。基本的に遠隔会話というのは、相手に魔力を飛ばすものであるから、セキュリティは必要になる。普段はそこまで意識しないものだが、ついこの前竜精に直接遠隔会話をぶち込まれて頭痛が止まなかったので、警戒していた。
「はい」
『ヨーコですか?』
「ぬっ……え、エメラルダですか?」
『はい! 近くまで来ておりまして! 今は男性の御姿で?』
「あ、こりゃ、ええ、何故?」
『今からゆきますから』
「ほ!?」
『アインウェイク子爵家経営のホテルナレッジですよね?』
(な、なんだ。どうして来た……? というかなんで分かった……?)
ぼんやりと、あの男の顔が浮かぶ。
間違いなく、アインウェイクのあん畜生だろう。




