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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
ビグ村編
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価値と神1

前話までのあらすじ


エオから見れば、ヨージ・衣笠とは不思議な人物である。

自分を雑エルフだなどと言う割に魔法は高等であり、知識は一般人のものではなく、しかも良く働いて、気が利いて、とにかく顔が良い。

少し口煩い事に目を瞑ると、ビックリするぐらい好みである。

辛い事は沢山あったけれど、自分にも運気が向いて来たのだなと思うと、大変ハッピーであった。



 価値と神



 食って行く為だけではない。教団には金が必要なのだ。何をするにも呼び水としての金というのはとても大切で、兎に角コイツが無いと身動きなどとれはしない。


 金を持っていない者は掛け金が少なく、また失った時の被害も大きくなる。

 金持ちが何故金持ちなのか、それは金を持っているからである。酷い話だが、ヒトの世の理だ。


 とはいえ、こうして毎日汗水垂らしてあくせくと働き小銭を稼ぐ事について、ヨージは肯定的だ。疲れはあるが苦はない。これも全て麗しい我が神と生活力の無い女を一人支える為だと思うと、非常に活力が沸くものだ。この労働こそが彼女達の未来を支えるのである。


(家族と信心はやはり持つべきだ)


 などと思ってしまうぐらいには、ヨージは毎日働いていた。

 ビグ村商会に顔を出し、女将さんの機嫌を取りつつ商人達との交流をはかる。

 お手伝いの依頼を日に三つ貰い、住民とのコミュニケーションの場も得る。


 西に腰を痛めた老人があると聞けば駆けつけて手助けし、東に森の迷子があると聞けば駆け回って見つけてやり、北に大型獣が出たと聞けば討伐して肉を分けて貰い、南にやたら絡んで来る美少女女神があると聞けば南を避けて通る。


 農家に対価とオマケの野菜などを分けて貰って、足らないならば夜でも森に入って狩りをする。

 更には村議周辺に対して工作もしている。


「よーちゃん」

「はい、我が神」

「……少し、やつれた」

「ハハッ。何を仰いますか。ヨージは元気です」

「帰って寝た方が良い。エオちゃんと見ているから」

「結構。こんな夜更けにお二人を置いて男がどこに行くというのですか」


 草で偽装された小さな小屋に、リーアとヨージ、そしてエオがギッチリ詰まっていた。小窓から望む景色は畑。この畑に植えられている作物を見守るのが今の仕事である。日が完全に沈んで、もう数時間になる。


 幸い月明りと、この時期は篝火が焚かれているので視界は良好だ。またヨージの場合は夜目が利く。


 リーアはほんのりぐったりしているヨージの腕を摩りながら、眉を顰めていた。『神様はデンと構えているのが仕事』という方針である為、今回の手伝いに付き合わせる気はなかったのだが、どうしてもと聞かない為に連れて来た。


 一人用の見張り小屋に二人と一柱である。うち一人と一柱が少女とはいえ、狭いものは狭い。

 あと二人の胸が凄く当たってすごい。


「エオ嬢、向こう側の小屋に行ってくださいよ」

「えー! 嫌です!」

「うるさいです。何故ですか」


「神様はスキンシップが激しいですから、二人にしておいたら見張りの間に良い雰囲気になってしまうかもしれないじゃないですか」


「おっと。面白い事を言うお嬢さんだ。例え我が神の御触れ合いが激しいからと、僕が我が神に何をするというのでしょう。ねえ我が神」


「何もしないの?」

「しませんよ」

「はあ」

「なな、なんです。我が神」

「ここは、私とエオちゃんに任せて、帰った方が良いよ」

「ですから……おっと、何か動いた」


 神様としては信者の疲労困憊ぶりを懸念しているのだろうが、本人と言えばむしろ、休んでいると心に良くない気分であった。リーアによる信仰獲得の手筈は整えたが、上手く行くとも限らないし、準備はしても神様ランキング最下位である事実は変わらない。せめて何があっても良いようにお金ぐらいは用意しておきたいのだ。


「……ヒトですね。酔っ払い」

「ところでヨージさん、エオ達はナニを見張っているんでしょう。害獣じゃないって事は、ヒトですか?」

「農家からしたらヒトも害獣ですがね。問題はそうではなく、作物そのものです」

「作物そのもの?」

「はい。もう少しですね……」


 暫くと待つと、やがて変化が訪れる。丁度畑の真中辺りに何か動く影があった。篝火に照らされたソレは、灯りを避けるようにして畝の間を、その小さい身体で走り始める。


「エオ嬢! 網!」

「は、はい!」


 ヨージはエオから、丈夫に作られた虫取り用の網のようなものを受け取ると、監視小屋から躍り出て飛び上がる。


『待たれよ』

「ぬっ」


 ヨージが網を構えてソレに近づくと、声が響く。目標であるソレが喋っているのだ。


『お主……ヒトであるか。何故そのような愚かな行いをするのか。お主とて他にやる事があるのではないか。農夫の畑で追いかけっこをする為に、お主は生まれて来たのか?』


「ふむ」


『考えよ。我を捕まえる事が人生ではない。お主の生きる道は……』

「問答無用、お覚悟」


『ぐにゃあああッッ』


「はっ、根菜風情が、ニンゲン様に説教とは良い身分ですね」


 網が降られ、ソレが収まる。

 暴れるソレを押さえつけながら、ヨージは身を屈めてゆっくりと畑を後にし、小屋へと戻る。


「ふえっ、なんですかそれ?」


『離せぇ! 離せぇ! 外道め、おのれぇぇッッ』


「……えー、大根? よーちゃんこれ、大根? すごい喋るんだけど……」

「よいしょ」


『ぐえっ』


「はい。マンドラアシナガアカダイコンです」


 大根……の所謂葉の部分を締め上げてやると、ソレは動かなくなった。見た目は大根だが、赤カブのように全体的に赤みを帯びており、また根が足が如く二股に分かれている。


 毒劇物指定されるマンドラゴラ亜種の品種改良種で、食用だ。

 煮て良し焼いて良し揚げて良し、乾物にしても良し。


 特に葉ごと干されて水分を抜かれた『姿干し』は高値で取引されており、ビグ村の特産品として売り出されている。


 見た目は悪いが味は最高級。とても都合の良い食材なのだが、この通り、生産上の問題点がある。

 マンドラゴラは時折一本もしくは複数で歩いている姿などを見かけるという者もいるが、コイツの場合は食用に品種改良されたクセに逃げるのである。しかも喋る。


 こればかりは改良しようが無かったらしく、余計値段が上がる原因となっていた。


「はー、行動植物は、残滓以外で初めて見ました。なんで柵を設けないんです?」

「飛び越えます。柵にかける経費が無駄になるぐらいに飛び越えます」

「そんな跳躍力が……あ、何故逃げないように畑の真ん中で監視しないんですか?」

「一度逃げた方が、美味しいそうです」

「わかんない野菜ですねー」


「全部が逃げる訳ではないのですが、一本でも逃げると儲けが減りますからね。僕等のお駄賃を払うよりも損害が大きいので、こうして人を雇っている訳です」


「あ、それでお野菜……」


「トリ肉と最高に相性が良いそうなので、頑張りましょう。規格外品を少し分けて頂けるので。我が神、大根好きですか?」


「食べた事ない」

「では大神官殿、我が神に供物を捧げる為にも、頑張ってください」

「あ、うーん。はい、うーん……」


 納得行ったのか行かないのか、曖昧な顔付きでエオが返事をする。


 兎に角、仕事は始まった。ちなみに、この大根の逃亡を防ぐ為に、収穫前の時期の夜は周囲の農家総出で畑を見張る事になる。もう既にあちらこちらで逃げただの捕まえてだのという言葉が飛び交っていた。


「エオ嬢、もしかして、喋る食べ物は苦手ですか?」

「え、苦手とかそういう問題ですかこれ……?」



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