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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
聖モリアッド修道学院編
135/319

世界樹の根元1



 よーちゃんが聖モリアッドに行って一週間と少しが経つ。


 状況といえば、停滞、が正しい。よーちゃんが術者をコロコロしに行ってから、あまり大きな変化はない。エオちゃんは相変わらず、目を覚ませばギョロ眼で何かを探すような素振りを見せたかと思うと、直ぐ眠る、という事を繰り返している。


 とてもニンゲン的では無くて、不健康だと思う。健康の神様的には良くないと思う。


「でっかあーい」


 なので、私達治癒神友の会としても、する事が無い。エオちゃんの維持は、特級神官のニールちゃんが何か魔法のようなものを掛けているので、私がする事はカラダを拭いてあげるくらいだ。その仕事だってナナリがとってしまうので、神様は本当にお暇だ。


 だから、外に出てユグドラーシルを眺めるぐらい。


 世界樹、宇宙樹、原初の木『ユグドラーシル』は、とてつもなく大きい。上の方は伐採されて無くなっているという話だけれど、その上がまるで見えない。この幹の反対側に行くまで、整備された道を歩いて一日半掛かるらしい。でっかすぎる。


 自分の記憶にある木よりも大きい。植物学的に考えると有り得ない。物理学的にも有り得ない。という事を本で読んだ。本凄い。とにかく、この世界のニンゲンが用いる『無魔力式学』ではとても解析出来ない存在だ。私も理解しようと頑張ってみたけれど、頭が痛くなるばかりだった。ちなみに魔力の関係を含めた魔力式学でも解明されていないので、考えるだけ無駄、とグリちゃんに言われた。もっと早く教えて欲しい。


 そんな世界の根元であるから、魔力の量もけた違いにある。普段出来ないような事が平然と出来てしまう。超自然の存在、神様になる前の精霊や妖精が、ちょっとイタズラするだけで大ごとになるらしく、周囲には竜精の生み出した監視生物(それこそイノシシから鹿からトンボから蝶まで)が常に監視して、悪さをする者が居たら報告、というシステムが組まれているらしい。


 けどココは、そういうものもいない。大げさな事が起ころうとも、ユグドラーシルという世界に飲み込まれてしまうという。なんだか良く分からないけど、怖いので追及しなかった。


「綺麗な泉」


 ニールちゃんの別荘の横にある泉。小ミーミルというらしい。ユグドラーシルの根がろ過した水が溜まった場所で、飲んで美味しい、料理に宜しい、美容と健康に良いと、素晴らしい効果を発揮している。


 木陰に座り、ぼんやりと空を眺める。ユグドラーシルの葉は光をある程度透過するようで、巨大な木の影だというのに暗さがあまりない。透過した光がまた別の葉に反射して、いろんな光彩が降り注ぐ。いるだけで、現実感が薄れてしまうような場所だ。


(……――…………)


「また声がする」


 ヴィーラストリアを出てから、私の頭の中に何度となく話しかけて来るヒトが居る。ヴィーラストリアを過ぎて、大樹が見えるようになった辺りからだと思う。それが誰で、何を喋っているのかは、全然分からない。グリちゃんは『アンタの主依代そのものを拝んでいる信者の聲じゃね』って言っていたけれど、それなら言語が分かると思う。


 私の聞き方が悪いのか、耳が悪いのか、頭が悪いのか、理由は分からないけど、相手はとても必死にこちらへ語り掛けて来る。返してあげられなくてごめんなさい。


「おう、リーア。なにしてんだ?」

「グリちゃん。エオちゃんとナナリは?」


「ナナリはずーっとエオに付きっきりだ。『高熱を出して亡くなった妹がいてな……』と、そんなカンジで、妹と重ねて見てるようだぞ」


「可哀想」


「ニールの魔法とアイツの看病で安定してるから、アンタは主神らしくデンっと構えてヨージ待ってりゃいいと思うぜ」


「私、良くない顔してた?」

「良くない顔してた。でもそうか、アンタの力で治せないものって無かったもんな」

「うん」


 エオちゃんが掛けられている魔法を、私は取り除く事が出来なかった。あれから私の治癒能力がどのくらいの範囲にまで効果があるのか、よーちゃんと実験したけれど、私の治癒は『身体を害すると思われるもの全て』に効果があるらしい。なので、それが魔法による呪いだろうが、得体のしれない伝染病だろうが、とにかく『身体を害する』ものならば全て取り除けた。


 それなのに、今回は効果無し。ニールちゃんの話では、原始自然神が編み出した術式なので、現代の神様がどう足掻いても解呪出来るものではない、という事だった。対抗魔法も編めないから、術者を殺害するしか方法が無いらしい。


「ま、アンタも万能じゃなかったってこった。むしろアタシは安心したぜ?」

「なんで?」


「アンタにも出来ない事がある。つまり限界が有るってこったろ。何でもかんでも際限無しに治せる神様なんていうのは、もうきっとただの神様じゃあない。いや、今だってちょっとオカシイぐらい力が強いけどもさ。それでも限度がある」


「限度が有るのが、良い事?」

「良いとは言わないけど。ただ、アンタが強大すぎると、ヨージの奴、抱えきれないぜ」

「じゃあ加減する」

「出来ないだろ」

「出来ないー……」


「あんま考え無しに治しまくると、大樹教のオエライ様が五月蠅いだろ。ほら、原始自然神オリジンイルミンスル。あの神様に治癒して貰うのは、莫大な金が掛かる訳だろ。それを安価提供し続けたら、市場価格馬鹿下がりで、その金目当てにしてる奴等が、アンタを消しに来るかもしれない」


「市場って規模はないとおもう」

「無いが、無いが! 利権屋ってのは、意地でもそういうの排除したがるんだよ」

「原始自然神イルミンスル……あっ」

「いや、その神様でもエオは治せないんじゃないか」

「何で言おうとする事が分かるのー?」

「流れ的にそうだろ……それに、ニールも言ってたが、まず会えないらしい」

「ひきこもり?」

「あんま、他人が好きじゃないんだとか。面倒な神様だ」


 原始自然神というからには、きっと私より強い力を持っているのだろう。それならば、エオちゃんの呪いも解呪可能かもしれない。でも会えない。他人が嫌い。なんとなく、その気持ちは分かる。今はそうでもないけど、ビグ村に行った当初は、ニンゲン達の欲求が怖かったし、キシミアでは俺を私を治してくれ、というヒト達に押しかけられて大変だった。


 治癒の力を持つという事は、それだけ望む人と、望むものを得る為に無茶をするヒトが沢山居て、沢山の欲求をぶつけられる、という事なのだと思う。もしかしたら、イルミンスルはそれが怖くなって、ヒトに逢いたくないのかもしれない。


「でも、一応、聞いてみる。ニールちゃんは?」

「特級神官だからなあ。普段は事務仕事で忙殺されてるだろ」

「特級ってどのくらい偉いの?」

「大樹教がニンゲンに与える神官の最上位。だからこんな場所に別荘が持てる」

「めっちゃ偉い」

「めっちゃ偉いぞそりゃ。地方行ったら神様より偉いぞ」

「えー」


「神様より絶対数少ないしな。噂によれば、大樹教管理の根幹魔力帯パルスラインなら使えるそうだ。つまり地域限定でも神様並の力が発揮出来るってこった。エオを維持してる魔法だって、たぶんソレだろう」


 根幹魔力帯パルスラインは基本的にニンゲンの使うものじゃない。私も物凄く曖昧だけれど、例えばよーちゃんだって普通には使えない。魔力純度がとても高くて、比重が重くて、ニンゲンの力では汲み上げる事が出来ないし、汲み上げても純度が高すぎて身体を傷つける。


 だからこそ、カルミエはやっぱり可笑しい。あれに直接接続するなんていう真似が出来る訳だから、よーちゃんにして『怪物すぎる』と言わしめるぐらいには可笑しい。


「じゃあ暇」


「大切な信徒が病床に伏せているとはいえ、もう一週間以上だもんなあ。外には出ない方が無難、なんて言われてるし。ココに来た当初はその光景に感動もしたが、毎日大木眺めていられる程、悠長な精神は持ち合わせてないわな」


「どーしよ」

「大樹探検でもするか?」

「戻って来られる自信ない」

「アンタ、保守的だなあ……誰の影響だ。ヨージか?」

「いざという時にその場に居ないのは、困ると思う。みんな」

「ごもっとも……――うん?」


 大樹探検。楽しそうではあるけれど、大きすぎて二度とココに戻って来られないような気がしてならない。よーちゃんが居るなら思い切った事も出来るけれど、今は居ないし、エオちゃんが目を覚ました時に居合わせられないのは、神様として間違っていると思う。


 結局何も決まらないままぼーっとしていると、グリちゃんが何かに気が付いた。トネリコの森の奥に、人影が見える。ここはニールちゃんの占有地らしいので、居るとすればお知り合いだろうけど、随分数が居る。


 ガチャガチャという金属音。魔力反応。


「剣呑だな。リーア。ありゃきっとお仲間じゃないぞ」

「そんな気はするー」


 集団は十人。先頭を歩いている男はたぶん騎士ナイトだろうけど、他と装備が違う。


「特注甲冑だ。量産型とは違うみたいだな」

「偉い人ってこと?」

「自己顕示欲の塊ってことだよ。アタシが前に出る。アンタ後ろにいな」


 グリちゃんが立ち上がり、先を行く。私はその後ろについて行く。騎士ナイト達もこちらに気が付いたらしい。近づくにつれてその集団は広がるように動く。


「相手を囲う時の動きだ。どうやらお仲間じゃないどころか、敵かもしれんな」

「こんなところ、勝手に入ったら怒られない?」

「指揮系統が違うのかもしれん」

「つまり?」

「ニールは大樹教のオエライだが、アイツラの上が別のオエライかもしれんってこと」

「なるほどー」


 ガチャガチャ音を立ててやって来る騎士ナイト達が、とうとう目の前に現れる。先頭に立っていたリーダーらしい男が、あまり「好感の持てない」、もしくは「印象の宜しくない」顔でこちらを見降ろしている。兜は被っていない。髭面で、深い緑色の甲冑。年の頃は、人間族で三〇代ぐらい。目つきが鋭くで、嫌な感じだ。


「これか?」

「はい。報告にあった神です」

「おう、なんだアンタ等。どちらさんだ」

「そりゃこっちのセリフだ、南方の田舎もん」

「実際田舎だから何とも思わんが、人様の土地で随分偉そうな顔してやがるな?」

「……人様? ここが誰の土地だか知ってんのか貴様」

「特級神官ニールだろう」


 深緑の男が顔を顰める。たぶん、ええと、そうだ。私の『生理的に無理』の顔だ。色んな顔のニンゲンが居るけれど、あんまりヒトを見下すような顔は好きじゃない。


「誰だそりゃ。んな神官いねえいねえ。ボケてんのかクソチビ」


「はー、無礼な奴が居たもんだ。いいから連絡取れ。騎士ナイトごときが入れる場所じゃねえだろココ。ユグドラーシルの根元だぞ」


「やかましいガキだな。んなだから扶桑にボコボコにされるんだぞ、女王様よ」

「あ、手前。そういう事を言うなそういう事を」


「まあ南方の田舎者が何億人死のうが知ったこっちゃあないが。で、泥くせえ神如きが、なんだってユグドラーシルに居やがる。オメぇは退去だよ。おら、連れてけ」


 この深緑のインチキくさいヒトの話が良く分からない。グリちゃんが南方の神様だって事は知っているけれど、女王様だったなんて初耳だ。なんだか周りに偉い人ばかりいる気がする。


 まあそれはともかく。


「ストップ、深緑」

「あン?」

「神様の敬い方を知らないヒト。無礼千万だし、顔が嫌い」

「あ、あ?」


 何か面白かったのか、周りの騎士ナイト達が笑いを堪えている。


「普通に考えて、誰の許可も無いしに、こんなところには居ないでしょ。だからつまり、貴方達には報告が行っていないのかもしれない。あんまり偉い騎士ナイトじゃないんじゃない? ニールちゃんに連絡取って」


「お、大人しい顔してひでえ事言いやがるな。んだから、んな神官はいねえよクソガキ」

「じゃあ、ここは誰の持ち物なの?」

「ここぉ? ホントにしらねーでココに居やがるのか」

「誰?」


「ユーヴィル様だよ。ユーヴィル・ラグナルタ・マナシス竜精公。竜精序列一位。大樹教総合統括庁長官様だよ。神のぅん千倍えっらいえっらい竜精様の土地に手前は居やがる訳だよ、解るか」


 序列一位。確か、フィアちゃんが序列六位だった気がする。そんなに偉い人の土地だったのか。でもニールちゃんが無関係では、こんな場所使わせて貰えない筈だ。特級神官というぐらいだし、ユーヴィルちゃんにお借りしたのかもしれない。


「じゃあユーヴィルちゃんに連絡取って」

「取れるか、んなもの。いっかいの騎士如きに会うわきゃねえだろ」

「え。じゃあ誰の許可でココに来たの?」


 その問いに対して、深緑がほんの少し言い淀む。

 嘘の気配。隠し事の気配。


「俺たちゃ首都防衛守護騎士団所属『ドーエル剣隊』だ。ああもう面倒くせえな、問答無用、お前等、引っ立てろ」


「おいおい。神様相手に騎士ナイトが何するってんだ。ドーエル隊長さんよ」

「そりゃ手前ェ、対処出来ねえ奴等が来るわきゃねえだろクソガキ」


 そういって、騎士ナイト達が構える。私は目をパチクリとさせてしまった。グリちゃんも気が付いて、凄く嫌そうな顔をしている。


 このヒト――『神』だ。


「――ッッ!! リーア!! ぶん殴れ!!」

「エオちゃん直伝、騎士徒手術」

「おっ――ぶぉッッへ――――ッッ!!」


 私は、グリちゃんに言われるのが早いか遅いか、目の前に居た深緑――ドーエルのお腹を思いっきり殴りつける。ドーエルはそれをまともに食らって鎧が陥没、まるで投げ飛ばされた蛙みたいに吹っ飛んで、遠くの木にぶち当たった。


 ニンゲンなら即死だけれど、神ならたぶん死なない。


「おうおうおう! 手前等! アタシの事調べて来たんだろうが!? どうやって使いっパシリ如きが、戦神に勝てるってんだ、その道理を教えてみやがれッッ」


 グリちゃんも、拘束しようとした騎士ナイト二人の腕をそのまま回転して投げ飛ばす。もう少し抵抗するのかと思ったけれど、なんだかよわっちい。


「神様って軍隊にいちゃいけないんじゃ?」

「首都防衛だけなんだろ。流石に大帝国が協定破れないさ」


「あんま強くない」

「おい! ドーエルくそコン畜生! 戦力見誤ってんぞ!!」


「いちち……ああくっそ、なんてぇ馬鹿力でやがる……産まれたてだって聞いたんだが?」

「神の力量なんて曖昧なもん、年数で測るな馬鹿が」


「いやあまあ、そうだがよお」

「隊を下げろ。ユーヴィル竜精公に連絡付けろ。じゃなきゃユグドラーシルを汚す事になるぞ」


「おーこわ。南方の野蛮人がえらっそうに良く言うぜ」

「……こりゃイカン。リーア、やられたぞ」


「余裕すぎるもんねえ……降参しよ。ダメだ」

「……ああ、くそ」


 ドーエルがお腹を擦って、汚らしい笑みを浮かべて近づいて来る。弱すぎる、というよりも、抵抗が無さ過ぎる。余裕過ぎる。つまり、もう既に手を打ちました、という事だ。


 私達の後ろ。館の中から手を振る騎士ナイトがいる。……人質を取られた。エオちゃんは動けないし、ナナリは幾ら強くとも、完全武装の神には勝てない。


「館の中の子を傷つけないで」

「そりゃ手前ェ等の態度次第だ」


「ううん。そういう事じゃなくて」

「あン?」


「中の子達を傷つけると、大帝国が多大な損害を被る事になるから、止めた方が良いと思う」

「お、賢い事言いやがるな。ま、こっちは手前ェを拘束出来りゃ良いんだ」


「あと、ベッドで寝ている子は動かさないで。あの子の為にココに居るのだから」

「そりゃ無理だ。ここからは退去してもらう」


「……じゃあせめて、私と同じ牢に入れて」

「前提が違ぇな。手前さんは外だ。他は牢屋だがな」


「それだと実質的に、ベッドに寝ている子が傷つく事になる。私は、言葉がまだ得意じゃないけど、ロンリ的なお話をしていると思う。あの子は、傷つけると、大変良くない事になる」


「なんでぇ詳しく言ってみろや、ぼやかすな」

「……」


 ドーエルが顎髭を擦りながら何か考えている。帝国の騎士ナイトを名乗るならば、帝国臣民を傷つけて良い事は無い。少なくともエオちゃんは、大帝国の子だ。それに、恐らく貴族だ。騎士ナイトが貴族の子を傷つけましたとあらば、死刑を免れない。


 ただ、明確では無いし、ヘタをすれば逆手に取られるかもしれない。どうしようかと少し悩んで、黙る。


「他の奴等の処遇は、上とご相談だな。手前はこっち。おう、南方の田舎モンはあっちだ」

「アンタ覚えておけよ」

「クソガキの話なんぞ覚えてるわきゃねえだろ。つれてけ」

「グリちゃん」

「おう」

「なんとかする。大人しくしてて」

「……わーったよ」


 相手方の目的が分からない以上、不用意な事はしない方が良い。よーちゃんから学んだことだ。状況を見て、取引出来るならばして、それが駄目なら、全力で暴れる。ニールちゃんに連絡が取れれば良いのだけれど……いったい、どうなっているのだろう。


「どこ行くの?」

「偉い人がお呼びだ。治癒の神様よぉ」


「あー」

「なんだ、心当たりはあんのか。治癒なんてうっさんくっせえがなあ」


「ほい」


 神様として、自身の能力を疑われるのはコケンに関わる。仕方なく、私はドーエルのお腹を治す。あんまり気持ちを込めなかったけれど、私の気持ちとは裏腹に力はちゃんと発揮された。


「――……マジでやがる。『神人』にも効果有りかよ」

「『神人しんじん』?」


「あーあー。なんでもねえや。ヘタな真似すんなよ」

「私、お話合いがしたいー」


「ぶん殴ったの手前だろが……」

「弱いのが悪いと思う」


「手加減してやりゃ調子に乗りやがって。木端の神如きが何だってんだ」

「こわーい。でも私が怪我をすると、たぶん、貴方は物凄い怖いヒトに死ぬまで付け狙われると思う」


「なんだそりゃそりゃ。こわーいカレシでも居たか?」

「ニンゲンだけど、たぶん私もグリちゃんも勝てない」

「いるかそんなバケモン」

「いるよー。竜とか斬る」

「手前不敬罪で捕まりてぇのか?」

「えー」


 どうやら、よーちゃんが懸念したり、グリちゃんが気にしていたりしたこと……『治癒の大盤振る舞い』が、とうとう問題になったようだ。痛い辛いを治して悪い、なんて話は全然納得出来ないので、グリちゃんのいう『利権屋』さんには、ちゃんと分かって貰わなきゃいけない。


 それに直ぐ戻らないと。あの館から連れ出されたエオちゃんの容態が、悪化してしまう。




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