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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
聖モリアッド修道学院編
115/329

竜都ツィーリナ1

再開です。



 早計に判断するのは待って欲しい。これには、事情があるのだ。


「今日から、聖モリアッド修道学院でお世話になります、ヨーコ・ズィラルトス・アインウェイクです。どうぞ皆さん、宜しくお願いします」


 クラスの皆から歓声が上がる。ある者は嬉しそうに、ある者は楽しそうに、ある者は顔を赤らめ、全体的に言えば、歓迎ムードと言えるだろう。こんな閉鎖空間であるから、新しい風を受ける機会は少ない。新人の加入は喜ばしいと見える。


「はい、教諭。質問、宜しいでしょうか」

「お一人ずつどうぞ。あまりアインウェイクさんを困らせないように」


「はい。アインウェイク、という事は、あの鉄竜騎士団副団長、アインウェイク子爵の御血縁でいらっしゃるのですか」


「遠縁ではありますが」

「はい! あのあの、髪が黒いのは? エルフですよね?」

「扶桑の血が入っています」

「はい。ヨーコ様は、武芸を嗜まれますのね?」


「ええ。アインウェイク子爵ご本人からも、指導いただいた事があります。帝国式はさわり程度ですが、扶桑式であれば、みなさんにお教え出来る程度の腕前と認められています」


 果たして女学院で肉体派なるものがどんな扱いをされるのか、とも思ったが、印象は良いようだ。他にも武家出身の息女が居るようで、目をランランとさせている者も居る。


 まあ、それで良いだろう。目的は目立つことだ。許可を貰って帯刀したのは正解だろう。

 またやはり、大帝国においてアインウェイクというブランドは、絶大である。

 騎士の誉、武門の栄光、戦士の鑑、というのは実に輝かしい。


 本人を知っていると、笑えて来るものはあるが。


「さ、質問はそのくらいで。後は休み時間にでもしてください。ヨーコさんは、窓際の一番後ろの席へ」

「はい、教諭」


 ここでの教師は基本的に大樹教の教えを説く『教導神官』という位に居る者達だが、呼び名は教諭で統一されている。流石に歴史ある組織であるから、その階級制も複雑怪奇だ。


 教諭に促されて一番後ろの席に座る。隣になったのは、白い肌の人間族の子だ。


「ごきげんよう」

「ええ。ごきげんよう。ヨーコです。今日から宜しくお願いします」


「エメラルダ。エメラルダ・ミダス・クリンティヌス・ジリウス・ミョルトル。分からない事があれば、私に聞いてください」


 銀の髪に白い肌。人間族ではあるが、古い血にエルフが混じっているのかもしれない。とても病弱そうで、儚げだ。


 いや……ミョルトル。ミョルトル家、皇帝家の縁戚だ。


「ミョルトル家のお嬢様でしたか」

「貴女と同じ、所詮は遠縁です。気兼ねなどしないで貰えると」

「はい。では、エメラルダ。あとで学院を案内してください。右も左も分からないので」

「私で良いの?」

「貴女が良い」


 エメラルダは、キョトンとした顔を少しだけ赤らめて、小さく頷く。


 なんだかこう、その、なんだ。年頃のお嬢様を騙しているようでとても罪悪感でいっぱいなのだが、少なくとも彼女達から見れば『ヨーコ・ズィラルトス・アインウェイク』なる人物は、黒髪ロングの超美少女である。


 自分でもビックリしたのだ。ホント、マジで、超美少女でビックリしたのである。


「あら、そうですか……基礎魔術学クラフトの先生が本日は体調不良という事で、一限目は自習にします。皆、静かに……といってもきかないでしょうけど、騒がないように」


『はーい!』


 編入初日一限目が自習とは、なんだか締まらないが、教諭の体調不良では仕方が無い。担任が教室を出ると、すぐに複数人がコチラの席に駆け寄って来た。


「今日は一日、大変そうですね、ヨーコ」

「あはは……」

「ねえねえ! 今まではどこに居たの? 何してたのー?」

「今まではその、実家に。家庭教師の下で勉強していました。勉強よりは、武芸の方が得意ですけどね?」

「あはは! 帯刀してるヒトは何人か居るけど、見習いとかじゃないんだ?」

「ええ。女性向けの護身術なども教えられますから、いつでも声をかけてくださいね」

「すごーい! クレア様とどっちが強いかなー?」

「クレア様?」

「うん! 剣術同好会の会長! クレア・シス・メンデム・バイドリアーナイ様!」


 やはり名門だけあり、集うお嬢様のランクが違う。ここ、聖モリアッド修道学院もバイドリアーナイ公爵領内にある。つまり、この学院の実質的な経営者とも言えるバイドリアーナイの息女も居るようだ。


 ノードワルト大帝国の公爵だ。そんじょそこらのお嬢様とは訳が違う。


「是非、お手合わせ願いたいですね」

『わあっ』


 お嬢様方が沸き立つ。黄色い悲鳴は、慣れない頭にとても響く。

 それにしても、皆……レベルが高い。右を見ても左を見ても、美少女しかいないではないか。

 そして……おっぱいが、大きい。


 自分を見る。

 容姿は間違いなく超絶美少女なのだが……やはり胸は……大した事が無かった。

 これは遊びではない。一人の命が懸かっている。冗談でしているのではない。


 ものすっごく、真百合まゆりに似ているが、冗談ではない。


「まあ、ヨーコ様、どうなさいましたの?」

「い、いえ。何分ヒトの少ない場所で暮らしていたもので、にぎやかだなあと」

「そういう子は結構いるよ! でも直ぐ慣れるからさ! よろしくねー!」

「ええ、みなさん。宜しくお願いします」


 愛想を振りまく。女らしく、女らしく……そう意識して生活するのは、想像していた以上の精神的疲労がある。


 ヨーコ……いいや、ヨージ・衣笠は今、バイドリアーナイ公爵領聖モリアッド修道学院の、上級部一年生である。


 決して、ひん曲がった性癖の成れの果てで、女装して侵入している訳ではない。

 今のヨージは誰が見ても、超絶美少女である。魔法ではあるが、幻術ではない。


 これには事情があるのだ。




 竜都ツィーリナ




 それはもう、酷い目にあったのである。


 現在はコンサン国東部。


 キシミア自治区からノードワルト大帝国へ戻り、侯爵領一つと大帝国加盟国を一つ越えエウロマナ共同王国側へ。


 エウロマナ共同王国最東部ノンベルク国を通り過ぎ、その北のヴィーラストリア国を頑張って抜けて、漸く目的であるコンサン国東部に辿り着いた。ここから東へ三日ほど馬車で進めば、ノードワルト大帝国首都『ツィーリナ』となる。


 もう大変だったのである。散々な目にあった。ヨージはこんな波乱万丈激動の旅などするつもりは無かったのだが、道中ヨージでなければ抜けられないようなアクシデントに三つも四つも出くわしている。


 ヨージの心はボロボロである。なお、身体は傷一つない。流石は我が神のご加護である。


「この調子だと、首都に入った瞬間ゴタゴタに巻き込まれる、などという酷い話もあるかもしれないので、速攻で東に抜けて、皇帝直轄森林地へ向かいましょう」


「なんだ、折角の帝都だぞ。物見もせずに抜ける気か、師よ」


「僕達は観光に来た訳ではないのです、弟子よ。それに何ですか、イナンナーのお姫様が敵国の首都でオアソビとは、恥ずかしくないのですか」


「もっともらしい事を言っても、流石の余も動じないぞ」

「ふむ。多少冗談は分かるようになりましたか。しかし駄目です」


 コンサン国最東部の街の宿、その大部屋で、治癒神友の会の面々はこれからの行程について話していた。正直、面倒ごとはコリゴリだ。商会傭兵団バウンサーズに絡まれるなどまっぴらであるし、復活した古の神と死闘など演じたくないし、新しい竜精とオトモダチになどなりたくはない。


 とにかく、パッと行って仕事をしてパッとキシミアに戻る、それが良いだろう。

 何せ神エーヴから貰った『星の洞』がある。帰りは果てしなく楽なのだ。


「という訳で、ここからは速度を上げたいと思いますが、我が神、ご意見などはありますか」

「んー……」

「はい」

「んー……ん……」

「ううむ」


 たぶん駄目だろう、とは思っていたが一応声を掛けた。

 どうにも、ここ数日上の空である事が多い。体調が悪い訳でも、精神的に参っている訳でも無く、彼女はどこかと『交信』している様子だった。時折『あ、うん』などと虚空に向かって肯定している姿を見ている。


「リーアの奴ぁ駄目だな。もしかして、聖地が近づいた所為かもしれん」

「グリジアヌ、どういう意味でしょう」


「アタシなんかはホラ、長い間聖地に居た訳だ。産まれて二〇年くらいな。産まれたての頃は、とにかくニンゲンの聲が五月蠅いったらなくてな」


「ああ、信徒、というか、貴女の主依代たる浜辺を信仰していた、潜在的信者の方々の聲ですか」


「そう。数年で慣れて、遮断する事も覚えたからだが、リーアはそれがまだ出来てないだろ。リーア程の力があるんだったら、恐らく主依代とされる大木も相当にデカイ。リーア個神でなく、大木そのものを拝んでいた現地民なんかの聲を、受信してるのかもな」


「ははあ。流石ですね、グリジアヌ。やはり先達の含蓄は為になります」

「年寄りみたいに言うなよ」


 リーアがリーアとして形になる前の主依代とされる物体を拝む人達、その聲。神々は自身に対する祈りや懇願を聞き届ける立場にいる。依代やお守り(シンボル)や偶像アイドルを通じて、神は人々の聲を聞く訳だ。


 リーア個神に対する信仰も増えつつあるが、それでも多くは無い。ともすると、やはりグリジアヌが言う通り、主依代を拝む者達が居り、そちらへ近づいたが故に、リーアが受信しているのだろう。


「はい、ヨージさん」

「なんでしょう、エオ嬢」

「皇帝直轄森林地って、簡単に入れるものでしたっけ?」

「大樹教総合統括庁に入場許可証を貰う必要があります」

「あ、だからツィーリナ経由なんですねえ」


「はい。あそこは本物の『原生林』です。神話時代からヒトの手が殆ど入っていない、ありのままの姿を残した場所です。あの場所から産まれる神も多い。原生生物……それこそ、魔力を持った竜の退化種すらいます」


「竜ですかあ?」


「退化種です。動物に近いので、別段と敬意を払う必要はありませんが……それなりの対応は必要になるでしょう。あと、何でもデカイ筈です。そのあたりは、ナナリが詳しいですね」


「サイテッスラが?」


「ああ。イナンナーは原生林が多い。開拓の手が一切入っていない森はアチコチとある。木や植物は当然、動物から昆虫まで、皆デカイぞ。中には理性を宿して神を名乗る生物もいるくらいだ」


「はー、田舎なんですねえイナンナーって」

「ふふん。言葉がなっていないぞ、エオ。自然豊かと言え、自然豊かと」


「あと、原住民も保護されています。僕等エルフの祖先……守人族が住んでいます」

「あ、知ってます。元はユグドラーシルを護っていた一族ですね!」


「ええ。各種大樹には、必ずそういった種族がついています。僕の一族も、一応は元『扶桑雅悦』の守人らしいです」


「ん? だが待て」

「なんです、グリジアヌ」

「ユグドラーシルの根元から、随分離れてるぞ、皇帝直轄森林地」


「ああ。ユグドラーシルは、大昔に十全皇に伐採されたでしょう。その質量は膨大でしたから、倒れたユグドラーシルの幹や枝や葉、それに実などを保護する為に、守人達は各地へと散っていったのです。『ユグドラーシル系』のエルフの血族が、世界中に居る理由でもありますね」


 すべてがすべてではないが、エルフというのは上流階級に居る事が多い。

 それも元を辿ると、伐採されたユグドラーシル保護の為に各地へと散った守人達と、赴いた土地に居たエルフ達が交わった結果ともいえる。


 当時から最高の魔法と技術を保有していたユグドラーシル系エルフは稀人として迎えられ、知識階級として現地の指導をしていた訳だ。


「僕も数代前にその血が入っている筈です」

「成程な。しかし、アンタ、ハーフだろう。扶桑人間族との」

「そうです」

「エルフエルフで繋いで来たんだ、相当疎まれたんじゃないのか?」

「そりゃあもう! が、ご存じの通り、僕ですので」

「ああ、なんか、そうだな、うん」


 確かに疎まれもしたし、親族からは苦い顔もされるが、生憎ヨージの才能を超える者など居ないので、陰口で済まされている。魔法の力が強いという事は、即ち先祖に近いという意味だ。どれだけ血を重んじようとも、これだけは覆らない事実である。


 仲違いする前までは、古鷹本家にも、丁重に扱われていたのだが、まあ過去の事である。


「はい、ヨージさん」

「はいはい、何ですか」

「ご両親は? そのうちご挨拶に伺いたいです!」

「いないですねえ」

「居ない? そういえば、家族は親戚の話しか、ありませんでしたね?」

「ええ。父は、恐らく死んだでしょう。母は……行方不明です」

「あー! なんだかすみません! この話は無しで!」

「悲しい話じゃあありませんよ。僕も全く覚えていないので」


 両親。

 父、青葉幹鷹。

 母、青葉・ジズ・イリス・美月みづき


 父はそのまま、青葉家の長男である。純エルフで武魔一体の剣術魔法の達人であった。

 ただ実直で、信念を突き通す男であり、戦死したと、十全皇から聞かされている。


 問題は母だ。この大仰な名前、実のところ何となくでつけたらしい。見た目こそ扶桑人間族だったようだが、父はどこで出会ったのか誰にも語らず、また母も何も言わなかったという。彼女が何者なのか、誰も知らない。経歴が真っ白で、個人登録籍も無い。


 一度十全皇に話を聞こうとしたのだが、適当に流されてしまった。

 生きている間に突き止めたかったのだが、機会は無さそうである。


「それでは、統括庁でサクッと許可証を貰って、サクッと首都を抜け、東へ、です。また馬車に揺られる事になりますから、皆さんももう休んでください」


「はぁーい」

「ほう。ここはフロアではなく、寝部屋だったのだな……」

「お姫様がまたなんか貴族ジョーク言ってるぞ」

「最近楽しみ方が分かって来ました」


 二か月近い旅も、そろそろ終わりが見えて来ている。首都で許可証を受け取り、東へ数日。森林へ入ったら、守人に渡りを付けて案内をして貰い、我が神の直感を頼りに主依代を探す事になる。


 自分の本体ともいうべきモノだ。我が神は恐らく、迷わず見つける事が出来るだろう。


 主依代から枝や葉、実や、主依代から産まれた苗木などを頂ければ幸運だ。

 キシミアへ持ち帰り、キシミア支部の御神体として祀る事が出来たならば、ヨージの仕事は大体終わるだろう。


 リーアの信徒は確実に増えている。ビグ村を合わせると、とうとう三桁に届く。

 キシミアの情勢が安定するようならば、そのまま支部を本部へと格上げしても良いだろう。本来ならば、安住の地を求めたい所ではあるものの、そこまでの時間が、ヨージに残されているとは思えない。


 樹石結晶灯器ランタンの灯りを消し、荷物を枕に横になる。我が神は相変わらず、どこかへ向かって交信中だ。


 この愛しい神のお顔を見ていられるのも、あと数週間である。

 それ以上は……良くない。


 長いようで短かった治癒神友の会の軌跡を思い出しながら、目を瞑る。

 あとは短い……そう、短い、はずだったのだ。



 

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