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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
ビグ村編
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ビグ村情勢5



 他に残滓の気配は無い。一先ず困難は去ったと見える。


 奴にトドメを刺したグリジアヌを『いやぁお強い! 流石は戦神でありますなあ!!』などと祀り上げて村民に語ったので、こちらが注目される事はないだろう(目撃していた数人の村人は数に入れない)。幾分かこちらに不利になるが、彼女に貸しを一つ作ったのは大きい。


 彼女は律儀そうであるから、何かしらの形で返してくれるだろう。


(にしても、狂暴な残滓だったな)


 神と同じようにして彼等は自然発生し、勝手に生きている。コミュニティを作るという噂も聞いているが、噂話でしかない。


 触れればヒトは被害甚大、利益も無い為ヒトが自ら彼等の生活を脅かすような真似はしないので、大型の野生動物と扱いは同じである。


 人里へ降りて来るのは、本当に少数だ。

 また、神が村に住んでいる場合は、ほぼ無いと言っても過言ではない。


 村神募集の張り紙では、たびたび襲われている様子であるから、この村に神が居ない事を差し引いても、頻度が高い。ミネアに話を聞く必要がありそうだ。


(見られたなあ、アレ)


 エルフ族が魔法を使う事自体は、誰も疑問には思わない。人間族ヒューマン獣人族ライカンに比べるとずっと魔法適性が高い為だ。


 が、ヨージが放ったような魔法を使える者となると、大きな街で数えて片手で足りる程度である上に、残滓を『ふっ飛ばす』人類種など、更に少ない。噂にならなければ良いが。


(はあ――)


 ヨージが勢いつけて踏み抜いた為に出来た地面の穴を眺めていると、後ろに気配を感じて振り返る。そこにはリーアと、顔を真っ赤にしたエオが居た。


「これは、我が神。とんだお恥ずかしい所をお見せしました。混乱に巻き込まれてお怪我などは?」


 神が転んだくらいで怪我はしないだろうが、一応嗜みとして問いかける。

 そも、彼女は浮いている。


「見てたよ」

「あらま」


 身内だ、いつかは己がどういった者なのか、明かす事になったであろう。


「失礼。黙っているつもりは無かったのですが。こう見えて、一応色々出来るのですよ。なので我が神は是非ご安心を。如何なる愚か者が現れようとも、不詳ヨージ衣笠が退治してご覧にいれます」


「うん。それは良いの」

「はて」

「それより、よーちゃんが戦っている姿を見てたら、エオちゃんがなんか変なの」


「確かに、顔が赤いですね。風邪でも引きましたか、エオ嬢。というか残滓が現れたのに神様を連れて来るなど何を考えているのでしょうかねこの子は」


 エオに視線を向ける。

 彼女はそれに気が付くと、リーアの後ろに隠れてチラリと顔を覗かせている。

 考えれば、彼女の事についてはあまり詳しくない。あのような魔法にトラウマがあるのかもしれない。


「……解りました。エオ嬢が居る前での魔法使用は控えましょう……」

「た」

「……た?」

「た、戦えるヒト、なんだ……」


 それはどういった意味合いか。


「頼りにはなるけど、口先ばっかの人かと思ってたんです……でも、た、戦えるんだ……かっこいい……」

「なるほど」


 なるほどである。ヨージはすぐに分かった。自分は『やってしまった』のだ。

 それにしても口先だけ、とは酷い評があったものだ。


「ヨージさん」

「衣笠さんじゃなく?」

「えへへ……」


 エオはリーアの後ろに隠れて服を引っ張ってぐいぐいしながら、照れ隠ししていた。リーアは何だか酸っぱいモノでも食べたかのような顔をしている。


「神、どうされましたか」

「わかんない。モヤモヤする」

「さ、左様で……」


 感情が胸に宿るのであれば、そのモヤモヤとやらを抱えたリーアが胸元を気にするのは必然である。であるが、そんなに自分で胸を揉みしだく姿を公然と晒すのは宜しくない。


「おーい」

「ああ、神グリジアヌ」


 村民に囲われて居た様子だが、どうやら抜けて来たらしい。彼女は手に持っていた木剣を頭上に放り投げる。何事かと思ったが、その木剣はそのまま姿を消した。


 神の能力は同じ物が一つとしてないと言われている。個人と同じだ。彼女の場合、分かり易く力の権化であり、またそれを象徴する物体も暴力そのものと言えよう。


 地面に空いた大穴と、崩落した家屋。これをやったのは彼女である。


(敵対したくはないですね)


 神はヒト、そして残滓に対して強い耐性を持つものの――神同士であれば、その限りではない。

 当然、強弱はあるが。


「よう。アンタがコイツの神様かい」

「ん。シュプリーアだよ。神だよ」

「まあこんなふわふわした人類は居ないだろうよ。兎も角これも何かの縁。メシ食いに行こう」


 その言葉を受けて、リーアが眼をパチクリさせた後、ヨージに視線を向ける。


 リーアが彼女に懐柔される事は無いだろう。そも、彼女に交渉らしい交渉が通じるとも思えない上、何を決めるにもヨージを通しているので、問題は無さそうだ。


「我が神。お駄賃です」

「うん」


「神グリジアヌとご飯食べて来て良いですよ。あ、お酒は控え目に。世の中お酒で神生をダメにする方も居られますからね」


「いいの?」

「勿論。神グリジアヌ、あまり……」

「わーってるよ。アタシがそんな無粋な神に見えるか?」

「計算は高そうですがね。我が神は人里にまだ慣れていませんから、考慮してください」

「あいあい。じゃ、行くか、シュプリーア。長いな。リーアでいいな?」

「グリちゃん」

「あはは。良いよ」


 リーアがグリジアヌに手を引かれて商店街へと向かって歩き出す。途中、リーアが振り向いてこちらに手を振るので、ヨージも振り返す。


 それが二回、三回程続いた。


「超心配ですねこれは」

「ヨージさん。エオ達も行きますか?」

「……ま、そうしましょう。たまには外食もしないと、舌が獣臭くなりそうだ」

「わ、やった。麦を煮ただけのモノと肉を煮ただけのモノにはそろそろ飽きが来ていたんです」

「調味料調達しないと……」

「じゃ、行きましょ、ほらほらっ」

「あ、ちょっと。何故腕組みなど、むっ、なんか結構力強いな……」

「失礼な! いいじゃありませんか! ふふふっ」


 妙に張り切るエオに引っ張られて、自分達も神二柱の後を追う。

 強力な魔法は体力消耗も激しいので、だいぶ腹も空いていた。食事というならば願っても無いのだが、エオには少し困ってしまった。


 自分と彼女は神官長という立場であって『公』だ。輩として交友を深めるのであれば心穏やかであれるが、エオの態度は女性のソレである。


 ヨージ・衣笠という男は、既にその殆どの『私』を捨てたと言って良い。であれば、神などもっての外、神官や信者と深い交流を持つなど、許されるものではない。


 ――それだけ、罪深い事をして来たのだ。


「ヨージさん、どうしました?」

「あ、いえ。なんでも」


 ふと、振り返る。

 そこには大穴がある。そして、残滓の残骸もまだ残されている。

 残滓とて、本能に従ったまで。また、根本的には自分よりもずっと高次の存在だ。

 そのようなモノを、ヒトの為とはいえ無残にも殺害せしめた己は、きっと碌な死に方をしない。


(友の会としての、供養方法も考えませんとねえ)


 小さく首を振る。自分がどうなろうと、問題ではない。今はただその全てを、こんな命を繋いでしまったシュプリーアの為に、使うべきである。


 ヨージは黙とうし、改めて商店街へと足を向けた。




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