7章 ダンジョン 第11階層~
わずか1日で仮冒険者から初級冒険者になった俺達は気分も新たにダンジョンにやって来た。今日から向かうのはダンジョン11階層。ここはオークが主に出てくる階層らしい。オークは150センチ~170センチ位の豚型の魔物でこれを倒せるようになれば一人前の冒険者ということだ。
因みにオークの魔石は3000ゴールド以上、ゴブリンの3倍の値段だ、つまり強さも値段に比例していくという事らしい。
「いっぱい倒す~!」すき焼きの為にチチはやる気満々だ。
「目標オーク20匹ですわ!豪華なすき焼きですわ!」ヒメも食い物には目が無いらしい。
入場料3人分15000ゴールドを払い、初級冒険者用入口からダンジョンにもぐる。俺の装備は昨日と同じメインウエポンが64式小銃、サブウエポンがコルトガバだ。2人とも昨日と同様木製の槍を装備している。ヒメは器用そうなので俺が持っていたナイフを渡している。ヒメにはグリップが太すぎるがお守り代わりにシールズ2000を腰の後ろに装着させた。チチは怪我しそうなので刃物を持たせなかった。
「よ~し、今日も昨日と同じやり方で行くぞ。2人とも俺の後ろに居る事、絶対急に俺の前に出ない様に!」
今日の相手はオークになるのでガバメントの弾丸を変えている、昨日は全弾ホローポイントを装弾していたが、今日はフルメタルとホローポイントを交互にマガジンに詰めている。フルメタルの方が値段が安くて貫通力が有るのでオークサイズの魔物には有効だと考えた為だ。
11階層に転移したので俺は2人に運動靴を出してやった。一足1000円の安物の紐靴だがこの世界では抜群の性能を持っている。はき方を知らなかったので、二人に靴をはかせて紐を結んでやる、戦闘中に紐がほどけると危険なので結び目を濡らして緩まないようにした。これで二人の運動性能が大分上昇したはずだ、靴は戦闘員の重要装備だからね。
「うわ~凄く軽い!」チチは凄い勢いで走り回っている。
「動きやすいですわ、おじ様ありがとうございます。」ヒメはいつもどうり冷静だ。
平らな平原を進んで行くとオークが2匹現れた。2匹がこちらに向かって走ってくる。
「ブキャブキャ!」
なぜかこの世界の魔物は叫びながら襲ってくる、興奮してるのか、それとも威嚇しているのかわ分からないが煩いから良く目立つ。
昨日と同じ20メートルで射撃開始。2発ずつオークの腹に打ち込む。ゴブリンより大きく重いので吹き飛ばないが、その場で崩れ落ちる様にして絶命する。魔石に変わったのを確認して近づいていく。ゴブリンより一回り大きな魔石だった、大体大きさと買い取りの値段が一致する様だ。
「つまんない!チチもやる!」
「私達も役に立ちたいですわ!」
肉食女子である二人はやる気満々だ、オークにも45口径が有効なのが分かったので今度から1匹残しておく事にする。
「じゃあ、次は1匹残すから二人で協力して倒してみてくれ。」
オークは2人にとって初めて戦う魔物になるので先ずは様子見だ。昨日の動きとステータスを見る限りオークにも力負けすることは無い気がする。見た目が小学校高学年の女の子が大人と変わらないパワーを持っている事にまだ何となく違和感がある。
「すき焼き~!」
「あの程度なら軽いですわ。」
普通なら自分より大きな魔物は怖がるはずなのに全く怯えた様子が無い。彼女達は本物の肉食動物系の様だ、ライオンが自分よりも大きい獲物に襲い掛かるようなものなのだろう。チーターみたいに自分より小型の獲物しか襲わない2級肉食獣とは違う様だ。俺と同じ性格なので安心すると同時に心配する、兎に角なんにでも向かって行くので危険なのだ。この性格のせいで何度危険な目や死にかけたことか、運よく生き延びただけなことを歳を取ってから気が付いたのだ。
「二人とも油断するな、魔物が魔石に変わるまで気を抜いては駄目だ!」
彼女達は俺の命の恩人だ。絶対に傷ついてほしくない。本当なら俺一人で全部倒したいのだが、レベルアップの為に仕方なく彼女達も参戦させてるだけなのだ。
「ブキャー!!!!」
今度は3匹のオークが走ってくる。いつもの様に2匹を迎撃し最後の1匹は肩に1発だけ当てておく。2匹はそのままその場で絶命し、肩を撃たれたオークは半回転して倒れている。
「行け!」二人に指示を出し、銃口は上に向ける。
昨日以上の素晴らしい速度で二人が突撃する。倒れているオークの腹にチチの一撃が、喉にはヒメのの一撃が決まりあっけなくオークは絶命した。
その後もサクサク15階層まで進み昼飯休憩をとる。
「今日の昼飯は何が良い?」
「すき焼き!」全くぶれないチチであった。
「私達だけで食べたらシスターが可哀そうですわ。」
今日の昼飯はスパゲッティにする。エネルギーに変わりやすいメニューを選ぶ。すき焼き食ったらオークと戦うよりも昼寝がしたくなるので却下だ。手早くベーコン・玉ねぎ・ニンジンを召喚してフライパンで炒める。スパゲッティは一束100グラムの早ゆでタイプを六束召喚して鍋で茹でる。オリーブオイルやワインを使っても良いが金がかかる割には味が大して変わらないので今回はサラダ油で安くあげる。味付けはトマトケチャップだ。最後に粉チーズとタバスコを振りかけて出来上がり。所要時間20分で出来るお手軽昼食だ。
「さあ食べてくれ、粉チーズを沢山かけると美味しいぞ。タバスコは少しだけにしないと大変なことになるから注意すんだぞチチ!」
「美味しい!けど辛い!」
人の話を全く聞かないチチは涙目になりながら食べていた。
「美味しいですわ。」
手早く昼食を食べて30分程休息にする、その間にヒメと一緒にオークの魔石を数えておく。1階層で平均10匹のオークが出るのでここまでで魔石が46個、138000ゴールドだ、経費を引いても10万以上の儲けだ。これなら十分な稼ぎだボロボロの孤児院も建て直せそうだ。
普通の冒険者は何本も武器を駄目にしながら、チームを組んで泊まりがけでここまで来るらしいので一人当たりの日当にすると1万ゴールド程にしかならないそうだ。怪我をしたり武器が壊れたりすると赤字になる者も多いのだそうだ。俺の強みは銃の攻撃力とコストの安さだ45口径の玉は一発50ゴールド、2発100ゴールドでオークを安全に倒せるのだ、つまりオーク一匹当たり2900ゴールドの利益が出る計算だ。
何の苦労もなく20階層に到着。中にはオーク5匹、1匹がハイオークと言って少し大きいらしい。10階のゴブリンと同じ作戦でいく、万が一の場合は64式を使える様に遊底を引いた状態で安全装置だけをかけてストラップを斜めに肩掛けしておく。
「行くぞ!用意は良いか!」
「良いよ!」
「いつでも行けますわ!」
「グゲゲゲ~!!!!」
オーク5匹がこちらに走ってくる。中央のオークが大きく早い。肉弾戦なら大きさに恐怖を覚えるかも知れないが、射撃の場合は反対だ。大きい的程当てやすい。ハイオークに2発左右のオークにも2発ずつ打ち込む1発余ってるのでチチ側のオークの腹にも1発撃ち込む。立っているオークは1匹だけ、そのオークも銃撃の轟音と閃光でただ立ってるだけだ。
「行け!チチ!ヒメ!」
突撃の指示を出しながら玉切れのコルトをホルスターにしまい、64式を構える。左足を前にして半身に構えた立射の基本姿勢だ。
突撃した二人はあっけなくオークを仕留めて石に変えてしまった。
転送陣で上がった先でランクアップのメダルを貰い3人でギルドに行った。1日でランクアップするのは結構珍しいらしく、少し注目をあびたが当然のような顔をしておく。わずか二日で中級冒険者になった俺たち3人はタグも青銅から鉄に変わった。彼女達の年齢で鉄冒険者は物凄く珍しいらしい。
魔石を引き取ってもらうと31万ゴールドになった。ハイオークは1万ゴールドだそうだ。
「すき焼き~!」
満面の笑みで叫ぶチチと一緒に孤児院に帰る。約束だからしょうがない今晩もすき焼きだ。昨日より肉を多く入れて、酒も入れたヤツにしよう。冒険者のランクアップや自分のクラスアップよりも晩飯が豪華な方がチチには大事らしい。




