バトルしようぜ!
金曜日、同じクラスの人間はみんなここ、コロシアムのような場所に集合した。
初の戦闘訓練の日である。
この日になれば巻き返せる、そんな期待をしていた俺の心は、アナンダ先生の一言によって一瞬で砕かれた。
「二人組作ってー!」
このクラスの人数は偶数のはず、何で俺は余ってるんだ?
もちろんその答えは分かっている。
誰も俺と組みたがらないからだ。
今までの四日間で、コミュニケーションの取りたくない人間扱いされた俺に、ペアなどいるわけない。
今までの経験から言えば、こういうときは先生と組むか休むかのどちらかだ。
どちらに転ぶかじっと待っていると、
「俺と組もうよ!」
優しそうな、例えるならラノベの気弱系主人公のような声が後ろから耳の中を通り抜けた。
しかし俺は振り返らなかった。
この声がもし俺を呼んだものでなかったのなら、振り替えると物凄い恥ずかしいからである。
「そ、空……だよね?」
空とは俺のことだ。
確信が持てたので、振り返って返事をしてみる。
「え?」
「男と組みたかったんだ、余っててよかったよ」
こいつ、喧嘩を売っているのか?
女と組みたくない男なんかいるわけないのに!
よく見ると、優しそうな顔、細い体、人のことは言えないがなよなよしている感じ、アストラルだ。
アストラルは同じクラスの男なのだが、盗み聞きによるとしょっちゅう周りに女の子が集まっていて、その子たちと放課後によく分からない部活で楽しく過ごしているらしい、いけすかない有名人物である。
試験も実戦も成績が悪く、周りからはイディオットというレッテルを貼られている。
もしアストラルが主人公の本があるなら、タイトルは"異能学園の無能者"だろう。
と、心の中で思いながらも、表面には出ないように返事をする。
「う、うん よろしく」
「よろしくね」
軽い挨拶を交わしたところで、ギャーギャーと女の子の騒ぐ声が遠くから聞こえてきた。
「しょうがない、あんたと組んでやるか」
「何よそれー!」
先に発言した方が長く青い髪のマノ、後に発言したのが短く赤い髪のアンナだ。
こいつらこそ先に挙げたアストラルのハーレム要員である。
マノとアンナの取り合いに照れたアストラルが、ぼっちである俺に声をかけたので、この二人が組むことになったのだろう。
そんなこんなでペア分けが終わり、アナンダ先生が指示を出す。
「ストレッチし終わったら、ペアで模擬戦を始めるわよ」
模擬戦!
シッディを使った初の戦闘で、しかもアストラルをフルボッコに出来る機会だ。
アストラルによると、月に一回、ペアを組んで模擬戦をやるという。
実際に戦闘訓練をしたり他人の模擬戦を眺めることで得られるものがあるらしいが、そんなことは俺には関係ない。
俺が作るはずだったハーレムを他人が作ってる事が許せない!
必ずこいつを瞬殺してやる!