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越えることの出来ないもの

 土煙が晴れ、そこには仰向けのアストラルの姿があった。


「そこまで!勝者、空!」


 勝った……勝った!


「ん……負けた……のか……」


 意識を取り戻したアストラルが、負けを自覚したようだ。

 それにしても力学的エネルギー無限の攻撃を受けてすぐ目覚めるって……。


「何故勝てなかった……教えてくれ、空……」


「アストラル、お前は下の無限にしか到達できなかった」


 濃度の無限は普通の極限などの∞とは違うが、超実数を用いた超準解析における∞とは同一視出来る。

 よって俺にも今までの∞=アレフ0だけでなく、その更に上の無限を操作することができた。

 これこそが、∞に到達したアストラルに対する策である。


「空も同じような手で来ると分かっていた……

俺はそれを踏まえて皆とω(ω(ω(……)))を目指し、到達したんだ……なのに……」


「ω……順序数か

確かに選択公理を認めれば順序数と濃度は同じものとして見ることが出来る

無限の範囲では和や積、べき乗などをするとき順序数と濃度で大きく違うが、順序数2={φ,{φ}}は濃度も2だしな

だけど、それも対策してあったんだよ……アストラルならここまで来ると思って

ベート数というものがあるんだ」


「ベート数……!?」


「ベート数も集合の濃度を表す基数だが、アレフ数とは定義が違う

アレフ1はアレフ0の次の濃度で、その間には基数が存在しないことを表す

だが、ベート数はベート0をアレフ0と等しいとし、בa=2^ב(a-1)とする

例えばベート1=2^ベート0ということだ」


 アストラルは知っているだろうが、集合Aに対してその部分集合を集めた集合をP(A)などと書き、べき集合と呼ぶ。

 例えばA={猫,犬}ならP(A)={φ,{猫},{犬},{猫,犬}}といった具合だ。

 空集合φも部分集合の一つとして見るのが忘れやすいとこだな。

 ここで濃度を考えると、Aの濃度=2、P(A)の濃度=4になっているが、実はAが有限集合なら2^(Aの濃度)=(P(A)の濃度)になっていて、実際法則に則っている。

 これに合わせ、ベート0となる集合をNとすれば、P(N)の濃度=ベート1になるように、ベート数を定めたのだ。


「ベート数は、当たり前だがアレフ数と関係がある

確か武蔵はZFC公理系を操作する力だったよな

そのC、つまり選択公理を前提にする必要があるが、武蔵が操作出来るぐらいだからこの世界では前提になってるんだろう

その選択公理から、任意の集合の濃度は比較が出来ることが認められる

お前の順序数もとい濃度と俺の濃度は比較出来るから、俺のベート数とお前の順序数も比較可能なわけだ

更に、ZFCは前提となっているが、一般連続体仮説は前提となってない」


「一般連続体仮説……」


「一般連続体仮説は連続体仮説の拡張で、2^(アレフa)=アレフa+1が成り立つとする仮説だが、これが認められないときは次の式が成り立つ

そう、אa≦בaがな」


「そういう……ことか……

ω0はアレフ0、ω(ω0)はאω0と同じ……

俺がω(ω(……))、つまりアレフ(ω(……))の強さだったのに対して、空はベート(ω(……))だった

だから俺は空に勝てなかった……」


「友情の力なんて、たまたま見つけた本に書いてあった知識に負ける程度のものってことだ」


「優勝者と準優勝者の方には明日、表彰式があります

それまで体を休めて下さい」


 審判の一声が入り、これからの流れを聞いたあと、俺はコロシアムを後にした。

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