無限を有限に
「みんな、聞いてくれ……俺は、∞に到達したい」
「でも、無理なんでしょ?
仮に1秒に+1000000出来ても無理だよね?」
「アストラルのシッディは凄い、でも不可能なこともある」
「そうよ、あんたには無理なんだからねっ!」
総すかんかよ!
まあ確かに言いたいことは分かる。
∞はどんだけでかい自然数よりも遥かに大きい。
並みの努力じゃ無理だろう。
「あ、そうだ
ヴィジュニャーナの関数のシッディで何とかならない?」
まだまだ出るかアンナの疑問。
しかしそれはマノによって直ぐ様否定された。
「超実数というのを考えれば出来るかもしれないけど、そもそも試合前のシッディは使用禁止
勿論他人のもよ」
「そうだった……
というか超実数って?」
「ああ!」
突然俺がアンナの声を遮るように大声を出したせいでみんな驚いている。
ふと我に帰って恥ずかしくなった俺はそれをごまかすように思い付いたことを伝えることにした。
「無限という概念に到達するには無限を使うかε-δ論法のように上手く有限で抑える必要があるだろ?
そのε-δが無限に到達できる理由を使うんだ」
「何よそれ?どういうこと?」
俺が黒板にlim[x→a]f(x)=b ⇔ ∀ε>0,∃δ>0,∀x∈R(0<|x-a|<δ⇒|f(x)-b|<ε)と書いて説明する。
「⇔の左側はよくある極限、つまりxをaに近づけるとf(x)がbに近づくという式だ
それを⇔の右側で正確に定義する
意味は『任意の正の数εに対して、ある正の数δが存在して、任意の実数xに対して0<|x-a|<δならば|f(x)-b|<εが成り立つ』ことだ」
「えーと、なんだっけそれ……」
右手と左手の人差し指を頭に向けて悩んでいるアンナをマノが助ける。
「適当で良いから関数のグラフを思い浮かべて、εとδは物凄く小さい数だと思ってみて
x軸の適当な点aに同じくxが近づくと、xとaの距離が0に近づくでしょ?
それが0<|x-a|<δ、ただしxとaは完全には重ならない
そして、xがaに近づくにつれてy軸のf(x)もある点に近づく
それをbとすれば|f(x)-b|<εとなってる、ということ」
「分かったような分からないような……」
まあこればかりは慣れだからな、かといって俺も理解しきっているかと言えば自信はないが。
「とりあえずε-δ論法の、シッダにとって着目すべきところは、実際にはノータイムで行われているというところだ
実数は無限にあるので、εも無限に小さくなるが、それを単純な形にして表すことで無限の作業を有限にしている
これを俺のシッディでもやればいいんだよ」
「でも、そんな方法聞いたことないわよ?」
「それをこれから模索したいんだ」
「「「……」」」
みんな考え込んでいる。
未だ思い付かない方法を探すのは骨が折れるし、一日しかないんだから当たり前だ。
だが、みんなも分かっているはず。
ここで∞にたどり着かなければ、勝つ方法がないってことに。
「……分かったよ」
「うん、アストラルに付き合う」
「絶対、明日までに完成させるんだからね!」
「ありがとう皆……
早速色々試してみよう!」




