先へ進むための一歩
部室に着いて早々マノがガルバのシッディを洗い直そうと提案する。
俺がそれを頼むと
「分かった
まず、ガルバのシッディを復習しよう」
と説明を始めた。
「ガルバのシッディは自然演繹を操作する力だ」
「それなんだけどさー、自然演繹が公理や定理から定理を導くって言うけど具体的になんなのよ?」
混乱しているアンナ。
ガルバとの試合前にシッディを聞いても理解できなかったようだし、無理もないか。
「まず数学の文章には書き方がある
それが一階述語論理
複雑な名前をしてるけど要は"、"と"。"の使い分けみたいな、文の内容じゃなくて文をどう書くかのルールを定めたもの」
「作文みたいなものよね
日本語で『xが人間ならば全てのxは死ぬ。』と書く文章を一階述語論理では『P(x)⇒∀xQ(x)』と書くだけだし
xは変数、P,Qはそれぞれ"人間である"と"死ぬ"という意味の述語記号とこの場では考えて、∀は"全ての"と読み替えられる記号ね」
ヴィジュニャーナが噛み砕いたところで、マノが続ける。
「そう、そうやって公理や定理は作文されている
そこで、公理や定理から定理を導く方法としての規則も、一階述語論理の形を使って決める」
「ちょっと待って、そもそも公理とか定理ってなんだっけ」
アンナの素朴な疑問を
「公理は正しいと決めた数学のルール、定理は別の公理、定理から推論規則によって推論されて分かる結果よ」
ヴィジュニャーナが解決する。
更にアンナは続けて
「その推論規則をまとめたものの一つが自然演繹
ガルバの場合はNKから排中律の公理を抜いて規則しかなくなったNJを操作できるんだよね?」
という質問を投げ掛けてきた。
ガルバのシッディを正確に聞いているのは俺とアンナだけ、アンナはあまり理解できていないみたいだし俺が答える。
「ああ、そうだ」
「ふと思ったんだけど、一階述語論理の一階って何?」
またまたアンナの疑問が炸裂する。
「一応授業でやったんだけど……
書き方のルールにも色々あって、一階述語論理の他に命題論理とか二階や三階などの高階述語論理がある
それらの一番の違いは量化記号に現れてる
量化記号とは、一般的には∀(任意の、全ての)と∃(ある~が存在)の二つ
命題論理では量化記号がなく、一階述語論理では変数に量化記号が使えて、二階以上の高階述語論理では個体変数の集合など様々なものに使えるってところ」
「よく分からないんだけど、アストラルの力で一階述語論理を二階とか三階にすればいいんじゃない?」
確かに俺の力なら量化記号の対象を拡大できるが……
と思ったところでヴィジュニャーナが否定に入った。
「自然演繹は二階や三階でも適用出来るわ
対象を広げられる、って規則の追加は必要になるけど、ガルバならそれが出来るかもしれないんじゃない?」
「分かった!それじゃ∞階述語論理にすればいいんだよ!」
アンナの提案に、俺は狼狽える。
「確かに、∞階述語論理なんて聞いたことないしメタれるかもしれないけど……」
悩んでる俺をよそにヴィジュニャーナがズバリと指摘した。
「そもそも+1する能力では∞を扱えないわよ?」
「確かに……」
……それでも、他に手があるのだろうか?
+1や+10000程度じゃガルバには歯が立たないのが事実だ……。
それに、空はあのシッディを応用して∞以外の様々な数にすることも出来る。
最初は似た能力でも俺の方が上だと思っていたのに、今は空の方が上……。
ラッキーでガルバに勝てたとして、このままで空に勝てるのか?
……。




