ペアノの公理っぽい力
準々決勝の翌日、俺は図書館に入り浸っていた。
最近まで利用したことがなかったが、ムーラ戦の前で行き詰まったときにここにたどり着いたのだ。
準決勝は今までと違い、前の試合との間に一日休みがある。
出場者はここで体を休めたり、敵のシッディについて調べて対策を取ったり出来るのだ。
そして俺の対戦相手、パンのシッディを調べているのだが……。
パンのシッディは、当然能力は一人一つなのだが、その内容の特異さから複数能力を持つとまで言えるものだった。
具体的に言うと、
(1) あらゆる物や概念を0にすることが出来る。
(2) あらゆる物や概念を+1することが出来る。
ただし、負の数や小数を+1することは出来ない、あくまで0含む自然数の概念に使える。
(3) -1することは出来ないが、0や+1にしたものを元に戻すことは出来る。
(4) これらだけが自然数に関するシッディとなる。
逆に言えばこれ以外の自然数に関するシッディは全て否定される。
何だよこれ……。
インターネットで有名だったので名前だけは聞いたことがあるが、これはペアノの公理というのがモチーフのシッディらしい。
ペアノの公理というのは、ZFC公理系を数学界の土の下の下にある土台だとすれば、数学の土になっている土台である。
ペアノの公理によって自然数の定義の舞台装置が整う、とこの本に書いてある。
そのペアノの公理がこれらのようだ。
(1) 自然数0が存在する。
(2) 任意の自然数aに対しsuc(a)が存在する。
(3) 0はどの自然数の後者でもない。
(4) sucは単射関数である(任意の自然数a,bに対しa≠b⇒suc(a)≠suc(b))。
(5) (1),(2),(3),(4)で構成される最小の集合のみが自然数である。
いくつか注意点がある。
まず本によってはペアノの公理の内容が微妙に違うものがあるが、内容に差異はないこと。
次にここでは0を自然数に含めること。
最後にこれだけでは自然数={0,1,2,……}と決まった訳ではなく、ペアノの公理に0と関数suc、1,2,……の定義を与えて初めてよく知られる自然数の集合が完成すること。
なるほど、分からん。
とりあえず、パン対ヴィジュニャーナで見せた二人が消える技、あれは自分とパンを0にしたということだろう。
まずはあれをどうにかしないと即死するな。
幸い、∞は自然数じゃない、それどころか超実数みたいな特別な理論を除けば数とすら扱われないから、俺のシッディがパンのシッディの(4)で否定されることはないはずだ。
上手く考えれば必ず打開策が見つかるはず……。
あとちょっと待っててくれ、ジャンヌ様。




