優勝をねらえ!
説明会も終わり、寮に戻る途中、声をかけられた。
「兄君さま!」
「ヨーニか」
「トーナメント、応援しています!」
「あ、ああ、ありがとう」
誰かに応援されたのなんて何年ぶりだろう。
「ところで兄君さま」
「ん?」
「ジャンヌ様に会いに行ってあげてください」
ジャンヌ様?何で急に……、もしかしてヨーニのシッディか?
「……分かった」
「この大会が終わったら、また会いましょう」
そう言い捨てると、ヨーニはその場を去っていった。
相変わらず何を考えてるのか分からんが、まあいいか、ジャンヌ様に会いに行こう。
「久しぶり、ジャンヌ様」
「空か……数ヶ月ぶりじゃな」
数ヶ月ぶりだけど、何となく分かる。
ジャンヌ様の元気がない。
「どうした?元気がないみたいだけど」
「……実は、神様の声が聞こえなくなってしまったんじゃ……」
「それって……」
「ワシにはもうシッディを授ける力もない、ということじゃ」
ジャンヌ様がただの人になってしまったってことか?
「ワシの体が育たないのは、きっとワシが神様に役目を与えられて、それを全うするまでは死なせないという意思の表れだったように感じるんじゃ
しかし、今のワシは役目を終えてしまったらしい……」
「つまり、死期が近いのか!」
「せめて統合した学園の生徒たちが卒業して、どうなっていくかを見届けたかったんじゃが……
流石に欲張りすぎかの!」
ジャンヌ様が……死ぬ……。
ジャンヌ様は笑っているが、きっとそれは乾いた笑いだ。
確かにジャンヌ様は人よりずっと長生きしているけど、それでも未練がないわけじゃない。
死にたくない、という感情があるのも当たり前だ。
「何とかならないのか?マヤのシッディとかさ」
「……ならぬな、マヤのシッディでは神様の血が流れている者を治せない」
「え?それってどういう……」
いや、血とかどうでもいい。
友達のいないこの世界で、俺が誇れる唯一のものをくれたジャンヌ様は恩人なんだ。
何かしてやりたい……でも、俺にはそんな力がない……。
待てよ、ヨーニなら……あいつなら何か分かるかもしれない。
「ヨーニに聞いてみれば何か分かるかも」
「……無駄じゃよ
それより、トーナメントに優勝してほしいんじゃ、空」
「優勝?何でだ?」
「ワシの勘じゃが、トーナメントに優勝すれば、お前は何かを越えられる……そんな気がするんじゃ
だからその時までワシは待つよ」
「何か?
とりあえず、優勝は元から狙ってたから大丈夫
俺に残されたのはこの力だけだからな」
「うむ、その時になったら……」
ジャンヌ様が急にうつむき、少し黙ると、再びこちらを向いて口を開いた。
「ワ、ワシを助けに来てくれ!空!」
なるほど、その年にもなって人にお願いなんて、慣れてないから照れてたのか。
「分かった、必ず助けるから」
具体的な方法は分からない。
でもジャンヌ様がこう言ってるし、優勝すればきっと手がかりが掴めるはず。
必ず優勝して、ジャンヌ様を助ける!




