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全能は誰にも持てない石を作れるか?

「後は学園の授業でやるじゃろう」


「ありがとう、ジャンヌ様」


「気にするな、ワシもシッディを授ける者として常識知らずを学園に送るわけにはいかんからの」


 常識知らずを否定できないのが悔しい。

 それはともかく、この異世界の歴史について知った後に聞くべきは学園のことなのだが、コーヒーブレイクとして一つ気になることを質問してみた。


「ジャンヌ様は全能のパラドックスについて聞いたことある?」


「ああ、あるぞ

『全能は誰にも持てない石を作れるか?

全能なら何でも出来るから、誰にも持てない石を作れる

そして、誰にも持てないなら全能にも持てないことになる

でも、全能なのに持つことが出来ないのはおかしい

結局、全能の存在はあり得ない』

という有名な話じゃな」


 どうやらこちらの世界でよく知られた話も通じるらしい。


「ジャンヌ様は『神は全能』って言ってたが、俺は全能はいないと思うんだ」


 気になることは気になるのだ、しょうがない。

 こんな性格ももしかしたら転生前にぼっちだった理由の一つかも知れないが。


「確かに神様が全能である根拠はないのじゃ

だが少なくとも、シッディを授けるのは神様の力じゃし、全能に近いのは間違いない」


 なるほど確かに、シッディは普及している。

 余計な質問だったと反省している俺を尻目にジャンヌ様は続ける。


「それに全能ならば、人間が考える程度の矛盾を越えていてもおかしくないしの

神様が全能に近い存在なのか本当に全能なのかまでは分からんが……」


「対話のときに聞いたりしないのか?」


「戦争を止めてくださったりシッディで文化の発展に貢献してくださったり、神様には恩があるからの

余計なことは言わないんじゃよ」


 ジャンヌ様は神様に頭が上がらないのか。

 そんなジャンヌ様がなぜ、シッディは出血大サービスで配ってるのか気になったが、余計な質問はここで控えることにする。

 閑話休題、この世界の学園について聞くと、ジャンヌ様は更に色々答えてくれた。


 学園はネーションとカントリーに一つずつあるという。

 この教会はちょうど二国の国境にあり、どちらの学園に行くかは自由。

 学園の存在意義は、シッダを教育して国の文化の発展に貢献させることらしい。

 ゆえに、ジャンヌ様の紹介状さえあれば無償で入ることができるという。

 もちろん問題のある人間は紹介状が貰えず学園に通うことはできない。


 ジャンヌ様は続ける。


「学園では月曜から木曜に数学理科社会を勉強し、金曜には戦闘訓練があるのじゃ

戦闘訓練は、表向き戦闘を通して自分のシッディを見つめる意図があると学園側は言っておるが、実際にはいつか起こるかもしれない戦争の為じゃろうな……」


 ジャンヌ様が悲しそうに俯く。

 過去に戦争を止めたこともあるし、命を懸けた争いが嫌いなのだろう。

 それよりも、国語と英語がないのと社会を学ぶのはまだ分かる。


「何で数学と理科をやるんだ?」


 この異世界で、独特な科学法則でもあるのだろうか?

 だとしたら着いていけるか不安だが……。


「数学と理科は何よりシッディの理解に役立つのじゃ

まあそれは学園で他のシッダに会えば自ずと分かるじゃろ」


 後のお楽しみということか。


「大体説明し終わったかの」


「長々とありがとう、ジャンヌ様」


「こちらからも質問するぞ

お主の名前を教えてくれ、紹介状を書くのに必要なんじゃ」


「そういえばまだ名乗ってなかったっけ

俺は海濶空だ」


「長い名前じゃのう」


「そうか?名字と名前合わせたら短い部類だと思うが……」


「名字?なんじゃそりは」


 名字を知らない……?

 そういえばマヤもジャンヌ様も、名字らしきものは名乗っていない。

 この世界には名前しかないのか。


「空でいいよ

漢字で書くとお空の空だ」


「漢字……、お主もしかして棄糸の出身か?」


「ん?何で?」


「漢字で名前を書くのは棄糸だけだし、何より棄糸は第二戦争以来シッディを放棄して独自の文化を持つからな

棄糸の辺境出身なら或いは我々から見て世間知らずでもしょうがない」


 よく分からんが、とりあえずそういうことにしといた方が面倒は起こらないかもしれない。


「そ、そうだった!俺は棄糸の辺境出身なんだ!」


「そうか

ちょっと待っとれ」


 ジャンヌ様が右奥の部屋に引っ込み、しばらくしてからまた出てきた。

 その小さな右手には封のされた手紙がある。


「これが紹介状じゃ

空の行きたい学園に持っていけば入れてもらえるじゃろ

それで、どちらへ行きたいんじゃ?」


 そういえば考えていなかった。

 聞いたところ棄糸以外の二国に大して違いはなさそうだ。

 せっかくネーション国の住民であるマヤに世話になったのだから、ここはネーションの学園にしておこう。


「ネーションの学園にするよ」


「そうか、せっかくだしお主の能力を使ってみたらどうじゃ?

もう夜だし、今から歩いて行くわけにもいかんだろう」


「俺の∞にする力か?」


「ネーションの学園付近とお主の距離を∞に小さくするんじゃよ」


「分かるような分からないような……

大体俺はネーションの学園の場所なんか知らないし」


「大丈夫じゃ、シッディはある程度使った人間の都合の良いように働く

体への反動とかも気にする必要はない

きっとこれも神様の思し召しじゃな」


 つまるところ、ネーションの学園の場所を知らなくてもシッディの対象に出来るし、速すぎて体が空気との摩擦で燃え尽きることもないのだろう。


「よし、ちょっと使ってみるよ

お世話になったな、ジャンヌ様」


「荒くれものでもない限り案内するのがワシの義務じゃよ」


「それじゃ、またいつか!」


 周りの景色が溶けだし、白くなっていく。

 そしてすぐに再構成され、目の前には、例によってレンガで建てられた学園があった。

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