知恵の輪
文化祭二日目もとい最終日、朝会を済ませ、自然と体が、空き教室に向かう。
そんなとき、後ろから声をかけられた。
「兄君さま!」
俺を兄君さまと呼ぶのは一人しかいない。
「なんだ?」
「私達のクラスでは鉄から輪の形をした糸を外すという知恵の輪展覧会をやってるんです
見に来ませんか?」
わざわざ誘ってくるということは俺を気に入ってくれてるのだろうか?
思えば、初めて現れたときも何故か俺の手助けをしてくれたっけ……つくづく謎だな。
あ、そういえばあのとき、速度を∞にしてはダメだって言ってたけど理由聞き忘れてた。
まあそれはいいや、暇だし行ってみよう。
「分かった、行ってみるよ」
「やった!」
ヨーニのいる二年生の教室を覗くと、数十個もの知恵の輪が配置され、数人の生徒が挑戦している。
「知恵の輪なんて懐かしいな、年少組らしい展覧会だ
自作なのか?」
「結び目理論って知ってますか?
トポロジーという位相幾何学の一種なんですが、例えばΩって形の紐を丸めるとαみたいな形になりますよね
これを同じものだとみなすのが結び目理論です
これを応用すると知恵の輪が考えられるので、後はシッディでちょちょいと」
前言撤回、全然年少組らしくなかった。
ある意味この世界らしいけど……。
「そ、そうか……
それはヨーニのアイデアなのか?」
「はい!」
いくら隣の可能世界の事が過去から未来まで分かるとはいえ、ここまで理解できるものなのだろうか。
「とりあえずいくつか遊んでみるよ」
「分かりました!私は友達と色々見ていきますね」
え?行っちゃうの?
成人してる男が一人で知恵の輪やってる姿はかなり物悲しいものがあるぞ……。
俺はヨーニの姿が見えなくなってすぐ、部屋を出ることにした。




