学園最強の女
瞬間移動し、再び理学部の門戸を叩いて、部屋に入る。
日曜日だが、部室には一人の女性の姿があった。
娯楽の少ないこの世界では、暇潰しを求めて部室に来るようだ。
ちなみに、理学部は部活の名前で、工学部とか文学部みたいな大学の組分けとは違う。
「見かけない顔だねー、どしたの?」
一人ポツンといた、茶髪の、若干年上に見える女性が話しかけてきた。
「少し相談がありまして……」
「そかそか、まあ座りなよ」
言われるがままに、端の方の椅子に座る。
部屋の中は割りと汚く、椅子や机が無秩序に置かれていた。
「で、どした?」
「自然演繹を操作するシッディ、というのに勝つ方法を教えていただきたいのですが」
「ふうん、あえて事情は聞かないことにするよ
ともかく、自然演繹を操作出来るなんて、下手したら滅茶苦茶な推論が可能だよね
見ると相手は死ぬ、みたいな」
「そこまで……」
「私でも無理かもしれんね」
私でも?と疑問に思ったが、無視して話を進める。
「私のシッディはあらゆる物や概念を∞にする力なんですが、何とかならないでしょうか」
「何とかならなくもない、かな
証明図って分かる?」
証明図?聞いたことがないな。
首を横に振ると、茶髪の女性が黒板に下の図を書き始めた。
A∧B A∧B
―― ――
B A
―――――
B∧A
「これが命題論理の証明図
命題論理と一階述語論理ってあるんだけど違いはひとまず置いといて、
補足すると、この証明図はまずA∧Bが真という仮定があって、A∧BからNJの規則の一つ"∧-除去の規則"を使って∧を取り除き、Bが真、Aが真を推論し、更に∧-導入の規則を使ってB∧Aが真を推論したって意味ね
何でこんな面倒くさいことをって思うかもしれないけど、こうやって式の形に整えることで、より誤解がないようにしたのよね」
なるほど、分からん。
「さて、この証明図、当たり前だけど有限回しか行ってないよね?
無限回推論するには、無限論理っていう別の枠組みが必要なんだよ
自然演繹では無限回の推論に対応できないの
つまり、君の力で命題や論理式から命題や論理式への推論を∞にしちゃえば無効に出来る!」
「……」
言葉が出なかった。
あのガルバが、一旦は匙を投げるほどのシッディだということが、改めて分かった。
ま、まあシッディは本人の都合の良いように働くから大丈夫だろう。
「あ、まだ私が誰か言ってなかったね!
私の名前はパン、四回生で理学部部長!
前年の学内トーナメント優勝者だけど、気軽にパンちゃんって呼んでね」
前年学内トーナメント優勝者……、ってつまりこの学園最強の生徒!
「参考になりました、ぱ……パンさん」
「もう、パンちゃんだってば!
パンちゃんって呼んでくれるまで帰してあげない!」
人をちゃん付けで呼ぶなど、童貞の俺には一度もなかったので、非常に躊躇われたのだが、言わないとこの場を抜け出せそうにないので、勇気を振り絞って言う。
「あ、ありがとうございました……パンちゃん」
「う、うん、帰ってよし!」
他の部員がいなくて寂しいのか、帰ってほしくなさそうだったが、無視して部屋を出る。
勝算も生まれたところで、俺はガルバの部屋へ瞬間移動した。




