宇宙の外の外
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
僕はネーションに付こう!」
突如、プラーナが寝返り宣言をする。
「またスパイか?」
「違う!僕は長いものに巻かれたいだけなんだ!」
何たる情けない台詞だ。
長いものから思いっきり外れているぼっちの俺からすれば、哀れという他ない。
プラーナが事情を語り出した。
「僕はカントリーで割りと活躍していたんだ
そんなとき、ガルバが学園を支配し始めた
流れは一気にガルバへと傾いていたんだ
僕は幸い女性にモテるから、ガルバにも取り入ったらあっさり僕を気に入って、ちょうど新設する予定だった諜報機関の唯一の構成員に任命された
そうやって優秀そうな偉い人の元に付いて、最悪責任を上に丸投げする、それが一番気楽じゃないか!」
「そ、そうか……」
いつも冷静だったプラーナが、裏ではこんな感情を抱いていたのか……。
やっぱり人間は信用できないな。
とりあえず、今のうちは仲間に入れておこう。
「分かった、ネーションのために協力してくれ
ところで、君」
「そういえば兄君さまに名乗っていませんでしたね」
「彼女はヨーニ、ネーションの学園の二年生じゃよ」
横から懐かしい遮り声が聞こえ、そちらを振り向くと、ジャンヌ様が何事も無かったかのように立っていた。
「ジャンヌ様、無事だったか!」
「僕へ出された命令はジャンヌを殺すことじゃないからね
勿論最悪殺すことも視野に入れていたけど」
とにかく無事でよかった。
それより、俺には聞きたいことが山程ある。
一つ一つ頭の中で整理して、順を追ってヨーニに質問する。
「さて、ヨーニ、君は何者なんだ?」
「私はヨーニ、10歳
ネーションの学園の二年生です!
そして、私のシッディは隣の可能世界と記憶を共有する力なんです」
可能世界……?
全く聞きなれない言葉だな。
頭上に?マークを浮かべていた俺を見て、ジャンヌ様が、今までの比じゃない規模の、この世界について話し始めた。
「今ワシ達がいるこの地球やその他の星は皆、一つの宇宙に収まっておる
そして、その宇宙もまた、更に無限次元ヒルベルト空間に収まっておるのじゃよ」
「え?」
「要するに、宇宙は一つではない
無限にあるんじゃ
その無限の宇宙を全て内包するのが、無限次元ヒルベルト空間なんじゃ」
「無限個の宇宙を内包……ってあり得るのか?」
「例えば自然数の集合{1,2,3,……}は無限個入っておる、これと同じじゃ
無限個は人間が有限だから想像しづらいだけで大したことではない
さて、無限次元は言わずもがな、ヒルベルト空間というのは内積が定義されていてコーシー列が必ず収束するベクトル空間のことじゃが、要するにワシ達がいる空間が無限次元になったみたいなものじゃな
量子力学もヒルベルト空間を舞台装置にしているしの」
「で、その無限個の宇宙を内包するヒルベルト空間がなんなんだ?」
「ヒルベルト空間もまた、無限個あるんじゃ
ただし、ただ無限個あるわけではない
可能性によって分岐しているんじゃよ
だから、ヒルベルト空間一つ一つが実質、可能性の世界、即ち可能世界となっているんじゃ
ワシらの宇宙が含まれる可能世界の隣には、また可能世界があり、そこではほんのちょっとだけ違う可能性の宇宙があるということじゃな」
結局、パラレルワールドみたいなものか。
「私、ヨーニのシッディは隣の可能世界の私と、記憶を共有できるんです
そして、それは時間によらない」
「え?それって」
「過去のことや未来のことも何でも分かります!」
なるほど、だから俺やプラーナのことまで知っていたのか。
って、どんだけ強力なシッディだよ。
非戦闘要員として優秀すぎるな。
「二人ともありがとう、何となく分かったよ
ロリコンビって感じだね」
「ロリコンビじゃと?」
そう、ジャンヌ様もヨーニも幼女だしな。
「って、ワシは幼女ではないぞ!」
心のなかを読まれた!?
「さすが兄君さまです!
私もジャンヌ様は好きですから、コンビになれたら嬉しいです!」
そう言うとヨーニは、ジャンヌ様にぎゅーっと抱きついた。
「ば、馬鹿者!離せえ!」
「えへへ、嫌です」
何たる微笑ましい光景か。
いや、俺は決してロリコンビを眺めて喜ぶロリコンではないのだ。
ただ可愛いものは可愛い、それだけのことだ。
「しかし……」
急にシリアスな顔で、ヨーニが弱気な接続詞を吐く。
「この世界は、あと数十分後が存在しないんです」
「え?」
未来が存在しない?どういうことだ?
「ガルバさんのところへ行けば分かります」
そうだった、プラーナは戦意喪失したし、残るはガルバだけだ!
ジャンヌ様、ヨーニ、プラーナと共に、瞬間移動する。
夜明けの空には、白い光の輪が浮かんでいた。




