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ここを耐えれば勝てるんだから

 走り回り、大きな赤い門をくぐると、そこには変な格好の女と空がいた。


「話や戦いは、彼らに任せますよ」


 空がこちらを振り返りながらそう言う。

 そうか、俺と戦ったときに背中に瞬間移動したように、ここにも瞬間移動してきたのか。


「ハッハッハ!新たな来客か

歓迎するぞ、アストラルとマノよ」


 これが、ヴィジュニャーナから話のあったガルバか……。


「そういうわけだから、後は任せる」


 それだけ言い残すと、空は消えた。

 まあ良い、ガルバを倒せば目標達成だ。


「ガルバ、お前を倒しに来た!」


「こっちは威勢が良いな

まあ待て、私の話を聞いていけ」


「……分かった」


 話を聞けば情報が得られるかもしれない。

 ヴィジュニャーナがいないし、そもそも彼女もガルバのシッディをよく知らないと言っていたしね。

 マノも俺に合わせて、黙って聞いてくれるみたいだ。


「さて、かくかくしかじかで、私はアチュートとなり、差別を受けていた

アチュートの中でも無能だった私は、そこでも仲間はいなかった

そんな私が上の命令で棄糸の量子観測技術を調査しに行ったとき、私はそこで武蔵の話を聞いたんだ」


 武蔵と言えば、第一戦争第二戦争共に活躍した英雄……。


「アストラルは武蔵の能力を知っているか?」


「確か……ZFC公理系を否定できるシッディだっけ

歴史研究部から俺達の部活に依頼が来たとき、聞いたよ」


「その通り!

数学という学問は、理論の積み重ねによって今の形が成されているが、その理論の出発点こそがZFC公理系だ

ZFC→A→B→……

大体こんな流れで数学は理論形成されていく

そのZFC公理系が否定されたらどうなる?」


「数学で解釈できるシッディはほぼ全て使えなくなる……」


「ご名答、だからこそ武蔵はシッディを無効化するシッディと呼ばれ強力であった

そして、私は棄糸でその話を聞き、目覚めた!

ジャンヌに聞いたときはまるで意味のわからなかったシッディが、武蔵と類似したものだと気づけた!

大した能力じゃないと思われていた私が、覚醒して最強となった瞬間だった!

手始めにカントリーの学園長を殺し、私がこの王座を奪い、支配したんだ

堪らないよ、この感覚

ずっと差別を受け、孤独だった私が、今や人の頂点だ!」


 孤独……だった……。

 頂点……。


「……本当か?」


「何?」


「孤独だったと言ったが、本当に今孤独じゃないのか?」


「私には右腕左腕のムーラとダーラや、特別諜報員のプラーナがいる!」


「そいつらは部下だろ!友達じゃない!」


「私の同胞だぞ……?

こんなにも人を従えているのに、孤独じゃないと言うのか?」


 可哀想、としか思えなかった。

 頂点に立ち、部下も出来たのに、仲間がいないガルバが……。

 それを孤独じゃないと言い張るのは、そんな自分を認めたくないから。


 差別を受け、アチュートの中でも仲間がいなかったガルバの不満は、きっと恐ろしい速さで溜まっていったのだろう。

 それが、能力の覚醒をキーとして開放され、ここまで突き動かしてしまった。


 結局孤独のままで、それでは報われないと心の底では分かっている、だからこそ自分は孤独じゃないと言い張る。

 可哀想だ。


「ガルバ……お前は俺が止める」


「無理だよ、私は武蔵より強い」


「これ以上進んだら、苦しむのはお前だ

その前に俺が助けてやるよ」


「アストラル……あんた……」


 マノが心配そうな声で俺を呼ぶ。

 戦争の張本人を助けるなんて言ったから、呆れたのかもしれない。


「まあいいや、手伝うぞ、アストラル!」


 マノがそう言うと、孤立系がこちらを取り囲む。

 更に、俺が+1する力でガルバの癌細胞を増やそうとする。

 マノの力でバリアを張りつつ、敵の体を蝕む作戦だ。


「無駄だ!」


 ガルバの一言でマノのバリアが消え、俺の力が通用しなくなったのを感じた。

 本当に武蔵と並ぶ力を持っているらしい。

 くそっ、どうすればいいんだ?

 俺を増やそうとしても何故か出来ない、本当に武蔵のようにシッディを無効化出来るのか?

 なら、どんな力なんだ?


 公理を否定する力ではないことはガルバの言い方から推測できるが……仮に武蔵と同じシッディだったら、俺にはどうしようもない……。

 マノのシッディはZFC公理系が否定されても実際の現象として表現出来るはずだが……武蔵の逸話からして数学という言葉を使わないで人間が物理を理解することはできないからシッディも使えないということか?


「弱いくせに私に楯突いたのは君達が初めてじゃないから安心してくれ

今楽にしてあげるからな」


「くっ……」


 ガルバを救いたいって、そう思ったのに、こんなにあっさり死ぬわけにはいかない。


「うおおおお!」


 雄叫びで自信を増やして、ガルバに向かって全力で走る。

 シッディが使えなくても、体はある!


「最後は脳筋か、失望したよ

さようなら」


 気づいたときにはもう意識が薄れていた。

 体は殆どバラバラになり、血や肉片が辺り一面飛び散っている。

 激痛が走る間もなく感覚が抜け、考えることも……できな……。

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