実数を超えた実数
「人にもよるけど、写像と違って関数は矢の行き先が数のときに用いられるのよ
X={1,2,3,……}→Y={2,4,6,……}の対応関係を1→2、2→4、3→6、……と定めれば、自然数から矢が放たれて数に行くので、これは写像であり関数でもあるっていうことね
ちなみに、XとかYは箱に名前をつけたのを数学の書き方で書いただけよ」
「関数は矢の向かう先が数になってるってことかー
じゃああたしは関数じゃない普通の写像だね!」
「そういうこと
ここで、Xから適当に一個要素を取り出して、それをxと呼ぶことにするわ
どんな数かは確認してないし、数学の常識に則ってかっこいい名前をつけてあげたわ
このとき、x∈Xと書いてxはXの要素と呼ぶの
ところで、y = 2xとすれば、もしx=1だったらy=2だし、x=3ならy=6で、さっきの対応関係をまとめて書けて便利になるでしょ?
これが、y = ほにゃららが関数と呼ばれる理由なの
確認すると、ちゃんとy∈Yとなってるしね
ちなみに、xを写像(関数)fで飛ばしたということをf(x)って書くと、これはまさしくf(x)=2x!
だからy=f(x)みたいに書かれることもあるのよ」
「なるほど、なるほどね……」
「分数や無限小数などの数を全てひっくるめて集めた集合、つまり実数を今度はRと名付けてあげると、R→R(実数から実数への対応関係)も関数となるでしょ?
さっきのy = 2xはX→Yへの関数だったけど、R→Rとして見たら、x=2.5としてy=5が出てきても良くなるわ」
「……」
「そこで、自然数から色々追加して実数Rになったように、Rに更に新しい数、∞を付け加えることにする
R+{∞}(Rに∞という要素を追加するという意味)を*Rと書いて、超実数と呼ぶのよ!」
「分かった!数学に名付けセンスがないのは分かったからもう良いって!
で、∞があるとなんなの!?」
「私のシッディは、まずブラックボックスがどういう関数なのか、例えばy = 2 x^2という風に設定してあげるわけ
そこに1個物を入れたら、x = 1を入れたことになって、y = 2になり、2個物が返ってくるのよ
そこで、R→*Rの関数を考えて、x=3(3次元空間)の孤立系を入れてy=∞(∞次元空間)の孤立系を取り出したってことなの!」
マノが追加説明を加える。
「私だけではそんなことは出来なかったな
アストラルの仮説だった、元々∞を扱えるシッディなら∞にする負担が少ないというのが正しかったというわけだ
ヴィジュニャーナは理論の舞台装置を考え直すことで、元々∞を扱えるシッディだと解釈出来たということだな」
再びヴィジュニャーナが語り出す。
「で、あの年増が言ってたように3次元は3つのベクトルで表せるからあいつは操作してたけど、∞次元の∞個のベクトルは流石に扱えなかったみたいね
孤立系が口元を覆って、空気が入れなくなったからそのまま酸欠で倒れたってわけ!」
「要するに、仲間がいるのは凄いってことだね!」
アンナがざっくりとまとめた後、マノが弱音を吐く。
「∞次元の孤立系を扱うのは流石に苦労したけどな……」
元から∞を扱えるシッディでもない限り、数が増えるほど負担が大きくなるのは、俺が身をもって体験してきたことだ。
+1し続けて、+10万にするのにもかなりの疲労が襲ってくる。
仲間がいたから負担が軽くなったけど、それでもマノにとってそこそこ大きな負担だったのだろう。
そんな俺達でも勝てたのは、仲間がいたから。
俺が言うのもなんだけど、1+1は2じゃなくて200になることだってある。
空、いつまで一人で戦い続けられると思い込むつもりだ?




