アナザースパイ
突然戸が開き、そこに立っていたのは、紫の長髪をしたかっこよさのある女性だった。
「様子を見に来てみれば……」
「だ、誰よあんた」
「友達は重荷、だっけ」
「それって……!
まさかスパイは三人いたの!?」
「違う!
その男がスパイじゃないんだ!」
そりゃそうか、ヴィジュニャーナじゃない方のスパイは通信手段を持ち合わせている。
仲間が来ることも知ってて当然だな。
紫女の目線がこちらに移る。
「知られたならしょうがない……」
紫女のその発言の直後、俺の体は突然硬直し動けなくなった。
正体は分からないが紫女のシッディだろう。
まあ、アナンダ先生によるとこの学園では誰も怪我しないから今は安心だ。
「そこの君、この男を消してくれないか」
「私はヴィジュニャーナよ!」
「そうやって情報を与えるからへまをするんだ……」
「た、確かに……」
色々言いたいが、体が硬直しているので口が動かない。
相手のシッディが分からない以上、今下手にこちらのシッディを使って抵抗しても危ないし、大人しくしておこう。
「今はまだこの男に知られただけだ
こいつさえ何とかすれば支障はない」
「そ、そうよね!なら私のシッディで!」
そうヴィジュニャーナが叫ぶと、いきなり人一人入りそうな大きな黒い箱が現れた。
明らかに、この箱に俺を入れようとしている。
……しょうがない。
俺はシッディを使って即座にヴィジュニャーナの背後に回る。
「動くな!
動いたらヴィジュニャーナの首を思いきり絞めるぞ!」
ヴィジュニャーナの背後に回った俺はヴィジュニャーナの首を腕で軽く絞め、人質にした。
端から見れば確実に悪役は俺だろう。
「ちょ、ちょっと空……耳に息かかってる……!」
動くなというのは一瞬の威嚇でしかない。
動かずに俺を硬直させた紫女のシッディの前には猫だまし程度しか意味がないし、言ってみたかっただけだ。
相手が驚いた隙に俺の力で自分の部屋に逃げることにする。
「僕のシッディが無効化された……?
空……君のことは調べておくよ」
紫女の言葉が、景色の溶ける中、駆け抜けていった。




