木
空、君の出した木が目から焼き付いて離れない。
勿論あれは本当に出した訳じゃなく、集合論の木がシッダの力を通して映っていただけ。
それでも強く印象に残っているんだ。
学内トーナメントで負けてすぐ俺は勉強した。
ただ上を目指して可測基数の力を手に入れた。
それを君は、木という変わり種で打ち破ってきた。
木が様々な方向に枝を広げるように、強さや生き方は多様だってことを教えられたかのように思えた。
だから今、俺は空を、ぼっちを否定しない。
嫌いだとしても、否定しない。
それが成長だと思うから。
「何ぼーっとしてんの?アストラル!」
「考え事はよくあるけど」
「今日は一段と入り込んでたんだからねっ!」
アンナ、マノ、ヴィジュニャーナ……。
「空のことを、な」
「あー……可哀想だったね
空くんは何も悪くなかったのに」
少し悲しそうな顔をするアンナ。
「うん、でも、自分で決めた道だから」
表情を変えずそう言い放つマノ。
「私は正直、殆ど接点なかったし
そりゃ可哀想だったとは思うけど……
もしも別の形で会ってたら、どうなってたんだろう……」
それでも、あいつは悪い奴じゃなかった。
ただ俺達が公平一致の幻想に捕らわれていただけなんだ……。
「ま、空のことは置いとくか
今日はどうする?」
「せっかくの休みだしアストラルの家に食べに行こー!」
「うん、そういえばあそこ行ったことないしね」
「そうそう、アストラルの家は料理店だったわね!」
こんな形で帰省するのも恥ずかしいな。
「ほら、アストラルなら瞬間移動が使えるし!」
アンナの真っ当で迷惑な提案。
「しょうがない、行こうか!」
と俺が同意すると、マノが変なことを言い出した。
「やった、アストラルの手料理が一番に食べられる」
「何よそれ!私が一番に食べるんだから!」
「二人とも落ち着きなさいよっ!私が最初に毒味してあげるんだから」
「「何よそれ!!」」
三人とも俺が作るという勘違いをしているが、まあ放っておこう。
俺の戦いはこれからだ。
俺の未来は、まだまだ木のように広がっているから。