ナジェーナ
俺は逃げた。
あの世界から逃げたのだ。
ガルバに頼んだ最後の願い、"シッディを消すのではなく、シッディを止めてくれ"。
これで、俺の"あの世界の人間と俺が会うまでの期間が∞"は保持されたまま、シッディが使えなくなったことになる。
あの世界の人間とは今後一生会うこともないだろう。
この地球に帰ってきてから一ヵ月、最初は地球が治ってから俺が戻るまでにタイムラグがあったので、親が心配していたのをなだめるのに大変だった。
そして今、俺は小さな会社ながら働いて一人暮らししている。
異世界へ行く前はあんなに嫌だったのに、今はもう、定時に帰ったり飲み会を断ったりして疎まれても気にならない。
いざとなったら逃げればいいのだから。
それでも、人に頼られて、他人と競い合って仕事をするというのは楽しくもある。
異世界へ行かなければ俺は、その事に気付かずニートのまま終わっていただろう。
思えば、渡り鳥のようだ。
ただある意味での強さを手に入れるために、少し別の宇宙へ渡っただけなのだ。
ネットのない生活に慣れたというのもあるが、俺がぼっちでも仕事したいと思えるようになったのは異世界のお陰だろう。
周りの人間は異世界を、神を知らない。
そしてその神を俺が倒したことも。
それがまた俺をぼっちにする。
でも構わない、俺はぼっちに酔ってるのかもしれないが、ぼっちであることに誇りがあるから。
一生ぼっちで生きていく、そんな人間が俺以外にもいたら面白い。