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部活が楽しいのはリア充だけ

 異世界に来て二回目の土曜日、朝の支度を済ませてぼーっとしていると、ノックの音が部屋に響いた。

 戸を開けると、アナンダ先生がいていきなり、


「空くんは部活とか興味ある?」


 と言い出した。

 そういやこの学園には部活があるんだっけ。

 もし友達がいたら「お前どの部活にすんの?」みたいなやり取りがあるのだろうが、友達はいない。

 正直クラスでも全く馴染めない俺が部活で馴染めるとは思えないので


「興味はないです」


 と答えると、非ぼっちの先生には衝撃だったのか


「えー?見てから決めたら?

ほら、昨日ペアを組んだアストラル君と仲良くできるかもしれないじゃない?」


 と少々強引に連れ出そうとする手段に出る。

 一回ペアを組めば仲良くなると思っている辺りがいかにも非ぼっちの発想だ。

 先生としてはクラスにぼっちがいてほしくはないのかもしれないが、俺には無理だ。


「すみません……部活には興味なくて」


「どんな部活があるか知ってるの?」


「知らないです」


「じゃあ興味あるかどうかも分からないでしょ?」


「ぐぬぬ……」


 上手く言いくるめられてしまった。

 アナンダ先生は俺に白黒の部活パンフレットを渡し、去っていった。


 よく考えると、元の世界ではネットやらアニメやら一人で時間を潰す方法がいくらでもあったが、そんなものがないこの異世界では一人だとあまりにも暇すぎる。

 家でぼーっとしているくらいなら部活を見て回った方がマシかもしれない。

 なるほど、だから昔の日本はぼっちが少なかったのか?


 まずは歴史研究部。

 スポーツがあまりないこの世界では文化部の方が部活としてはメジャーらしいので、その中でも更にメジャーな歴史研究部を尋ねてみる。


「失礼します」


「第一戦争を終結させた三国勇者、ジャンヌ様、アーサー、武蔵について研究しよう」


「特に武蔵は第二戦争でも活躍したしね、実に面白い」


 あ、ダメだこれ。着いていけんわ。

 この世界の歴史なんかほとんど知らないし。

 次行こう。


 お次は調理部。


「失礼します」


「見てこれ!美味しく出来たの!」


「パクっ、美味しい~」


 うん、これもダメだ。

 歴史研究部が男の集まる部活だとすれば、調理部は女の集まる部活。

 こんなキャピキャピした空間は俺には眩しすぎる。


 天文学部、理学部、新聞部などを見て回ったがいずれも俺には合わなかった。

 いよいよ最後に残ったのはアストラル、アンナ、マノのいるなんでも屋部。

 勇気を出して入ってみる。


「失礼します」


「何よそれ!昨日のは中断されなきゃ私が勝ってたのにー!」


「先生の采配を信じられないの?」


「やれやれ、二人とも落ち着けって」


 よし、ダメだな。

 立ち去ろうとすると、アストラルがこっちに気付き声をかけてくる。


「あ、空

ちょっと二人を止めてくれ!」


「え、そんなこと言われても……」


 狼狽えている俺にアンナが近づいてきて、下から顔を覗き込むように見る。


「あんたがこの前入ってきた新入生かー」


 アンナに続きマノも話し出す。


「イディオットなんて呼ばれてるけど、アストラルは本当は物凄く強い

そんなアストラルを簡単に倒すなんて……」


 そう褒めるなよ、と照れている俺をよそにマノが続ける。


「でも、アストラルのシッディも鍛えればきっと∞まで行くはず!」


「そうそう、アストラルの潜在能力は凄いんだから!」


 結局アストラルの持ち上げかよ。

 こんなところにいてられるか!俺は帰って寝るぞ!


「すまない、そろそろ……」


 別れの挨拶(と言えるかは考えたくない)をした俺を、再びアストラルが呼び止める。

 しつこい奴だ。

 前の世界でも、興味本位か俺に話しかけてくる奴がいたが、コミュ障でつまらない奴だと分かると接してこなくなった。

 こいつも同じ部類だろう。


「なんでも屋部はなんでも屋みたいなものなんだ

何か依頼はない?」


 考えても特に何も思い付かなかったので、何となく気になっていた、


「何でアストラルはイディオットと呼ばれるようになったの?」


 を聞いてみる。


「それ依頼じゃないよね……まあ良いや

この前やったように俺のシッディは攻撃に向いてないからさ

実用性は実戦では評価されない項目だからね」


 どこかの主人公が言ってそうなことを……と思ったが、こいつは俺のシッディと近いし、戦闘向きじゃないとは言えない。

 使いこなせていないだけなのは事実だろう。


「それに、俺は数学以外出来ないから、他の科目ではかなり成績が悪いんだ

言われてもしょうがないよ」


 弱音を吐くアストラルを、


「大丈夫だよ!私達が勉強見るから!」「ええ、あなたが気にする必要ない」


 とアンナとマノがカバーする。


 こんな部活に、他の男子が集まるわけないわな。

 かくいう俺も、アンナとマノのアストラルを囲ってる感が、近くにいると受け付けない。

 結局、俺に合った部活はなかったか。まあ知ってたけど。


 そう思うと面倒になったので、逃げるように部屋を出て、寮へと向かった。

 寮でぼーっとすることが、あまりにも気持ち良い。

 部活見学で時間を有意義に使えるなどと思ったちょっと前の自分を殴りたくなる。


 この世界の神に会ったら聞いてみるか。

 あなたは何故友達の出来ない人間を作るのか、と。

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