因果律の定義
実際、マヤには因果の結果を否定するシッディがあるし、哲学系はメタれないから、これなら三世のシッディを無効化することが出来たように思える。
しかし、反事実的条件文による因果律の定義を簡単に言えば、aを原因としてbが起こるとは、aが起きbが起きる可能世界の近傍の可能世界には、aが起きbが起きるまたはaが起きずbも起きない世界しか存在しないということだと、大会の時読んだ本に書かれていた。
これを考えれば、マヤのシッディは、この可能世界をaが起きbが起きない世界にし、近傍の可能世界もaが起きbが起きないまたはaが起きずbが起きる世界に変える力となる。
一方三世は、近傍の確率測度が0より上の可能世界に移る力だ。
bがマヤを誘拐する事象だとすれば、マヤのシッディでbを否定しても、bが起きる可能世界が近くにあるので、そこに移れば結局誘拐出来る。
だからマヤは何も出来ないんだ。
ネタは分かった。
しかし、今俺は三世に先手を打たれてシッディを封じられている。
せめて一瞬でもシッディを使えれば……。
「……サインし終えました……」
ペンと契約書を三世に手渡し、俯く。
ショックを演じるために。
「いい子ですね」
「一つ……良いですか?
マヤの安全を、確認したいんです……」
「それは神を殺してからですよ」
ダメか……。なら!
スマホを速攻で取りだし、テキストを入力する。
プラーナなら伝わる!
「貴様!あの女を殺しますよ!?」
「出来るならやってみてください」
「……!死を感じない!
哲学系シッディに阻まれている!?」
「来た!」
シッディが復活したのを感じる。
プラーナには今連絡してこっちまで瞬間移動してもらい、マヤに掛け合ってもらった。
マヤのシッディはすぐ三世に防がれるが、そのわずかな一瞬だけマヤのシッディが通り、俺のシッディを使ってメタれる!
「確率測度には全空間Ωに対してμ(Ω)=1というルールがあります
これを俺のシッディで変えました
よって確率という概念が破綻しあなたのシッディは使えない……あなたの負けです」
「バカな……私が、負けたと、いうのですか……?
フフ……まだだ……」
何やら異質なことを呟く三世。
その右手にはナイフが握られていた。
「君のシッディは私のシッディのメタに使われています……
私の物理攻撃にシッディを使って対処することはできないはずですよね!?」
走り寄ってナイフを刺そうとしてくる。
間一髪避けることが出来たが、これからどうなるか分からない。
こいつの目は本気だ……。