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魔王の装備一式を洗いたい  作者: 篝火ノキア
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王子のおかげで説明回

「なぜこうなった?」


王子は呟く。蚊帳の外で。皆は自己紹介をしてるだけなのになぜ笑っているのか。なにがそんなに面白いのかわからない。父は無駄に名前を付け足すし姉も付け足し、かしこも取り入れるわ本当に面倒くさいことを。しかも勇者も勇者だ、かしこをわざと言い忘れるのはまだいいとして、座右の銘が「とりあえず殴ってから考える」だと?ふざけてるのか?王子の私に折檻かましてくれたときには殴ることはなかった。目、あの目だ。あかりの目と目を合わせると深い闇に引きずられるような感覚。思わず頭を下げてしまう。


うぉっほん。話が逸れてしまったな。


とにかくだ、私は王子だ。次期グラントバック15世を名乗る者としてこのへんで立場というものを思い知らさないことには始まらんのだ!


そう!勇者に、うむ勇賢者に………何だと?勇賢者?


いかん、召喚されて数日しか経ってないのに勇者を越えて勇賢者だと?そんなことしていては益々あかりが調子に乗ってしまうではないか!


王子はあかりコールが鳴り止まない大広間の中央、テーブルの上に立ち、浮かれる一同に一喝した。


「静まれい!毎度こうお祭り騒ぎを起こせば話が一向に進まぬ!あかりもそろそろなぜ召喚されたか知りたいはずだ!」


まったくである。王子の空気の読めな…機転のお陰でようやく説明出来る。祭り騒ぎに名残惜しそうな王達の涙目なんてまったく見えない見えない。


この国の名はグラントバック。王国政で大陸一の大国である。初代グラントバック1世が未開の地を切り開き、豊かな土地、暖かい気候により民は温和な気質を自然に持つようになった。そのせいか上下関係は薄く、歴代の王でさえ気にしない者が多かった。その為か14代続く王政は常に平和だった豊かだった。魔王を名乗る者が現れるまでは。


10年前、突如魔王は城の玉座の前に現れこの言葉を残した。


「平和ボケした愚かな王よ民よ、我が名は魔王。この世界に不幸を撒き散らす為に生まれた最悪の存在なり!思い知るがいい!知らぬうちに大事なものを無くす恐怖を!思い知るがいい!忘れられた存在の恨みを!」


黒いローブに黒いフード。長身で細身というのはかろうじてわかったがそれ以外はまったく覚えていない。声色さえも。不気味な笑い声とともに魔王はゆっくりと消えた。悪夢が覚めるように。しかし、その日から悪夢が始まった。


世界中の人間が無気力に陥りやすくなり、流行り病に飢餓。同じ人同士で争いまで起き出したのだ、些細な理由で。


何度もこの事態を解決しようと試みた。世界中魔王を探し回った。しかし一向に解決せぬ一向に見つからぬ。ゆっくりと死にゆく世界をただただ見てるしかなかった。


そのうち絶望すらもどうでもよくなりゆっくりと死にゆく世界に身を委ねてる時に偶然見つけたのだ。勇者の物語を、勇者召喚の方法を!


それから国を上げて勇者召喚を始めた。文献通りに召喚を行っても成功しなかった。けれども諦めなかった。いや、それしかもはややることはなかったのだ。


それが成功したのだ。奇跡だと思った。上位の神、ダ・サンはまだ我らを見捨てていないと確信した。勇者と話していると生きていると実感出来る。勇者を見ていると生きることを思い出せる。


気を抜くと今でも無気力になりそうだ。だから皆何かにつけて騒ぎたいのだ。不安なのだ、またゆっくりと無気力になるのが。


だからお願いだあかりよ!我らを救って欲しい!魔王を探しだして倒して欲しい!いかなる困難もいかなる弊害も怖じけはしない!全力で、いや命懸けで勇賢者あかりの元に我々グラントバック家は尽くそうぞ!!!


王子は感極まり涙を溢した。天井を見上げ思わず泣いてしまったことを恥ずかしながら涙を拭き取り目を開いた。


「すまぬ、思わず感傷に浸ってしまったよう……だ……とぅ??」


王子が話し始めるまで大広間には沢山の人がいた。それなのに話し終え周りを見渡すと誰もいない。いるのは一人。大広間にテーブルの上に乗っている行儀の悪い王子(笑)だけだった。


「くっそぉぉぉぉぉ!」


王子の叫びは魂のこもったシャウトとなった。今の王子は無気力なんかではない。やる気満々のみなぎる活力に溢れた全力王子だ!

ありがとう王子。じゃ、先に中庭の池の湯行ってるね。

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