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Darkness -under the tree-  作者: 一倉弓乃
6/26

6 魔法樹

 自宅に戻ってニュースを見た陽介は思わず目を覆った。

「…あらまあ」

 母もあきれて開いた口が塞がらないようだった。

 陽介は他に言う台詞が見つからず、そこにいない斎を小声でののしった。

「…バッカ野郎が…」

 ちょうどそのとき電話が鳴った。

 陽介は気をとりなおしてさっと素早くとった。

「久鹿です。」

「先輩、僕です。…ニュース、今さっき見ました。」

「ああ。俺も今見た。」

「…なんなんですか、これ。」

「…なんだと言われてもな。」

「隕石が落ちたみたいって…どういうことなんですか。」

 陽介は少し考えた。

「…さてな。俺にもわからん。…」

「…幻覚とか、そういうものじゃないみたいですね。…すみません。見当違いでした。お役にたてなくて申し訳ないです。」

「いや、いいんだ。俺だってまったく見当もつかないから相談してみただけなんだ。…かえって悪かったな。変な話に巻き込んで。」

「…あのひと何者なんですか。」

「…俺もわからん。」

「…」

「…おまえのとこのエリア、臨海地区からのモノレールの駅あるだろ。念のために戸締まりしっかりな。」

「…そうですね。…今、してるんです。戸締まり。…姉さんが礼拝堂締めにいってるとこなんです。」

「うん…兄貴たちもいないんだろ。いやだな、こんな日に。早く寝ちゃえよ。」

「そうですね。…あ、先輩、そう言えばアルテミスのことなんですけど。」

「おう、いたか?」

「いました。姉がだっこしてきて、今一緒に戸締まりしに行っています。」

「そうか。いや、元気ならいいんだ。」

「小母さんによろしくお伝えください。」

「ああわかった。じゃ明日学校でな。」

「はい。じゃまた。…あれ、アルテミス…姉さんは?」

 陽介は置きそうになっていた受話器をにぎりなおした。

「いたたっ…ツメたてないでおくれアルテミス…なに、どうしたの。」

「春季、どうしたんだ。」

「…あ、いえ、アルテミスだけ戻ってきました…。…様子見に行って来ます。」

「…」

 陽介は何か予感のようなものがあって付け加えた。

「…そうか。何かあったら電話してくれ。」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい。」

 受話器を下ろした。

 それから陽介は斎のところへ行った。

 斎は起きてきれいなお古に着替え、汚れた服をたたんでいた。

「ああ、お袋が洗濯してやるっていってたぜ。」

「あっそう。悪いね~。んじゃ頼むわさ。こっちは私がしっかり洗濯しとくね。」

「…ニュースに出たぞ。おめえ本当に爆弾使ってねえんだろうな。」

「爆弾持ってりゃ早かったしもすこし被害も小さかったとおもうよ。でもチューブラインのランチ降りたばっかだったから。乗る時の身体検査に引っ掛かるんだよ、爆薬は。…とりあえず、臨海エリアでよかった。民家とかないし。」

「どうやったらああいうふうになるんだ?!」

「どうっていわれてもねえ。…木をひっこぬいたとき…とにかく凄いパワーでさ…」

「なにが。」

「だから木が。」

「??」

「いやつまり、まるで生きてる動物みたいにさ…それでちょっとあーんつまりなんていうかこう、ようするに、吹き飛ばしたのね。」

「だからどうやって。」

「どうっていわれても。」

 斎はそう言って口を尖らせた。

「…やってみる?」

「やめろ!!」

 陽介は慌ててとめた。

「…えーと、それで追っ手は?」

「一緒にふきとんだよ。」

「殺したのか?!」

「いきてるってーの。んで、約一名けが。ちょっとビジュアル系のキレイな男の子だったわさ。」

「男の『こ』?」

「うん、うちらといっしょか少し上くらい。」

「…へえ。じゃ本当に反連邦テロリストかもな。流行ってるだろ、俺らくらいのヤツらの間で、今。」

「ふーん、そうなんだ。でもあたしがラウールの養いッコだってことくらいで、あんな大袈裟なことするかな。…あたしよりも宣伝用の『うさぎちゃん』とかのほうがインパクトあると思うし。」

「わからんぞ。お前クリスマスにテレビに映ってたからな。」

「えーなに、パレード?」

「ああ。」

「うっそー、ビデオとった?みたい~vv」

「とるか!!」

 陽介は吐き捨てるように言った。

「…んーまあでもね…反連邦の連中なら、ハーブ投げたりしないと思う。爆弾投げるほうが早いし…もしあのまんま事態が進んでいたらあたしあそこで大木になってたと思う。そしたらすんごい通行の邪魔ッてーの?社会派は多分そゆことしない。」

 いつきはそういって、ぐしゃぐしゃのポニーテールを掻いた。

「…おまえ、なんか心当たりあるんだろ。とりあえず言っとけや。」

 陽介がそう言うと、斎は口をとがらせて言った。

「…おまえらみたいなコチコチ頭共に何をいえってさ?」

「…ここに追っ手が来るかもしれないんだぞ。お前には言う義務がある。」

 斎は不機嫌そうに顔をしかめて言った。

「…そーかも。」

「言っとけ。」

「…うー。」

 低く唸ってから斎は言った。

「あんたに、あたしのオヤジがヘンタイだった話はしたっけ?」

「…さっきよそのオヤジがスレスレだって話ならきいたが。」

「あはーん。そうだねまだだね。えっとー…あたしが爆弾なしでどっかーんとやるのは親父の遺伝なんだわさ。その親父がホモでねーっ!あんたなら『実は彼氏がホモだった』と『実は父親がホモだった!』とどっちが耐えられる?」

「…本題をとっととやってくれ。」

「うんうん、わかってるよ。ホモなのになんであたしが産まれたか、でほ?」

「…」

「もうそこいらの男よりうんとオトコマエな女がいてさ、おかげで更生できたってわけ。めでたしめでたし。」

「だーからそれがなんだってーんだよああムカツクなてめーはよ!!!」

 拳を突き出す陽介に、斎は突然真顔になってひそひそ言った。

「…奥様は魔女だったのです。」

「…真顔で言うな。」

「ほんとです。母はまじょだったのです。…いや、つまり、…そう、ハーブばらまいて呪文唱えたりする人だったの。ほんとだよ。」

「…文明から取り残されたど田舎の村のシャーマンかなんかだったってことか?」

「うん、そうね。それが近い。巫女さんだったのさーらららー♪」

「…じゃあ、その追っ手はおまえの母親がらみだってことか。」

「思い当たるのはそれくらいかな。」

「…おまえの両親て、…死んだんだよな?」

「多分ね。確かめてはいないけど…ああ、父は多分まちがいなく死んでる。弟が確認した…。」

「お母さんは生きてるかもしれないのか。」

「…どうかな。…ところで陽介、アクセスしてみた?」

「ああ。タカノ氏の守りがかたくてまったく入れない。それに…スピリットハザードって何だ?連邦の法律用語にそんなもんがあるなんて知らなかった。どういう意味なんだ?」

「さてね。精神衛生上よろしくないって意味だったら笑うけどね。…あたしも例の日以来近付く手立てがなくて、行ってないんだよ。どうしようもないわさ。そのうち歩っていってこうかと思ってるけど…。今はとにかく生きる財源の確保が優先さね。墓参りはいつでもできるし、できればラウール坊やの御機嫌をそこねないように行きたいし。」

「…母親がらみだったとして…なにか思い当たる理由は?」

「あたしに木をはやす理由?…せめてあたしに木を生やすことの意味がわかれば動機も見当がつくわさ。でも、通行のじゃましてなんかいいことあるんかね?」

「…どうかな。」

「…どうだろ。」

「…お前の母親がお前以上の問題児だったとして…お前が苦悶の末に死んで喜ぶヤツは?」

「とくになし。」

「あっさり言うなよ。」

「だっておかあちゃんが生きていればともかくさ。あたしバラしてなにかあるわけ?国だってもうないのに。」

 陽介は黙って少し考え込んだ。

 そして意を決したように言った。

「おまえさ、『翼光教団』て知ってる?」

「よっこー?知らない。」

「この間縁あって、俺はそこの教典をぱらぱらめくったんだ。」

 斎をそれを聞くと「うっさんくさ」という顔で言った。

「いかんなあ、新興宗教になんかハマって。」

「ぢがうわい。春季や小夜のうちって、教団の伝道師の家なんだ。」

「げえっっ。付き合うなよそんなれんちゅううう。」

「そこに、封印された聖地の話が出てくるんだ。それが…まあ言わば世界樹的な流れの神話なんだろうけど…お前が言うような、大木が出てくる。」

「んあ、ユグドラシルのこと?それともセフィロトの木のことかな。魔法樹はユグドラシルとは縁もゆかりもないと思うよ。神様の寝床で、契約の証だから。」

「…下で神様が寝てるんだろう?それもケガをして。お前以前そう言ってたよな?…教団の聖典でも、そうなんだよ。…なんだっけ、『ミルエの多く降りしとき…』」

「ミルエ?そりゃうちらの古語で、離乳食のことだ。」

「離乳食?」

「うん、流動食全般をミルエっていうんだ。林檎のすったやつとか。芋のつぶしたやつとか。病人のお粥とか。」

「へえ…お前んとこの神さま、名前は?」

「しらない。名前なんかないよ。あるとしても偉い巫女さんしかしらないさ。失礼だろ、みだりに名前呼んだりしちゃ。」

「あー、そうか。」

「…で、その続きは?」

「ああ。なんだっけ。『ミルエの多く降りしとき、傷つけるあり。…』…いや、思い出せん。」

「…きをうえてそこに寝た…?とかそういうのじゃなかった?」

「あ、そうだ、木を植しそこに眠る。この木を守るものに水をなんとかかんとか。」

「…なんて教団だって?」

「よくこう。」

 斎は難しい顔になった。

「…なんだそれ、あやしいな。…あんたが今うろ覚えで言ってるのは、例の町の縁起だ。総長宮と東西南北の門に刻まれていた文句。」

「…つまり、関係者なんだな。」

「多分。…おかあちゃんのいた神殿は支部みたいのがあったから、ひょっとしたらそっちの流派の流れなのかもしれない。」

「…で、心当たりは?」

 斎はだまりこんだ。

 そのとき陽介のお母さんが、飲み物を持って来てくれた。

「お加減はいかがですか?」

「はい、大丈夫です。すみません、お世話になってしまって。」

「8時ころ夕食にいたしますので、食べて行ってくださいね。」

「えっ、あっ、そうですか。すみません、是非御馳走になります。」

 斎は頭をかいてぺこりと御辞儀した。…ものすごくうれしそうだ。斎は人の家で御飯を食べるのが大好きらしく、いつもいつも嬉しそうに美味しそうに食べるので、母子2人で常時煮詰まっている久鹿家ではまんざらでもない客ということになっている。…まあ野良猫に餌をやる延長だ。

「…斎さん、この件はお義父様に御連絡は…?」

「ああっ、そうだラウールに言わなくちゃ!しかも急ぎ!」

「電話でいいのか?画像つなぐか?」

「画像はヤバい! 服の件突っ込まれる!」

 それを聞いてお母さんはくすくす笑った。

「じゃ、お電話お持ちしますね。」

「すすすすみません。」

「かまいませんよ。」

 お母さんは笑いながら出ていった。その戸の隙間からうにゃーうにゃーと2匹ほど猫が入って来た。

「ああっ、おめんちゃん! おめんちゃんだ! おめんちゃん!!」

「お前は未だにおめんちゃんしかおぼえられねえのかよ。しかも声でけえんだよ。」

「だってこの猫ものすごいインパクトなんだもん! おいでおいで。」

「…おまえほどその猫に熱中するヤツは俺の交友関係の中でもおまえだけだ。」

 むぎゅあーと変な声で鳴く『おめんちゃん』にうしろから襲いかかってゲットすると、その背中に顔をずりずりする斎。

「はふー。ねこかわいー。きもちいー。ふかふかー。あったかーい。」

 ぐえーと『おめんちゃん』は鳴いた。

 もう一匹の猫は陽介の後ろに隠れるように座った。

「…タミコが怯えてるぜ。まったく…。」

 そこへお母さんが戻って来て電話を差し出した。

「ありがとうございます。」

 斎は礼を言って、番号を押した。

 そのとき突然電話が鳴った。

 陽介は斎の手から電話を取り上げた。

「…久鹿です。」

「…先輩、僕です。」

 春季の…妙な声音だった。陽介は眉をひそめた。

「春季だな?どうしたんだ?何かあったのか?」

「…先輩、小夜姉が…みつからないんです。鍵全部閉っているのに…どこにもいないんです。何度もさがしたんですけど…。警察に行こうかと思うんですけど…その前にもう一度だけ探したいんです。探すの手伝っていただけませんか。」

 陽介は厳しい顔つきになった。斎はその顔を見て、何かが起こっていることを察したようだった。斎はなぜか陽介にうなづいてみせた。陽介は言った。

「…これからお前のトコいくよ。母屋の鍵全部閉めて、行くまで動くな。」

「…すみません。ありがとうございます。」

「待ってろ。」

 電話を切って、陽介は斎に電話を渡した。

「…俺はこれから尾藤の家に行く。小夜が家ん中で神隠しにあったらしい。どっかで倒れてるのかもな。…お前はどうする?」

「…どうするって、そんなアブナイところにおぼっちゃん一人で遣ったら、小母さんが泣いちゃうよ。…ボディガードについていってやるからさ、あの春季坊やから、教団の話ききだしてくれる?」

「おまえがついて来たほうが余計危ないような気がするが、まあいいだろう。…5分で仕度してくるから、お父上にちゃんと電話しとけ。」

「ラージャ、サー。」

 斎はふざけて敬礼した。

 その敬礼は連邦軍の正式敬礼だった。

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