16 アルテミス
陽介は礼拝堂の出口近くで、じっと待っていた。
足下では懐かないアルテミスが何故か無防備な寝姿を晒している。春季が炎に飛び込んだあと、まもなく陽介のそばへやってきて、ごろんと長くなるなり、ぐうぐう寝てしまった。絨毯がずれて大理石の床がむきだしになった場所で、冷たいだろうに、気にするそぶりもなく熟睡している。アルテミスは男嫌いだ。多分陽介がおせっかいをやいたら怒るだろう。だから寒そうだが、今のところほったらかしてある。
頭を巡らせると、向こうではショウヤがぐうぐう寝ていた。白き炎が燃える祭壇の近くだ。脱力するとショウヤはますますでかい。ひょっとすると、この香木は、猫達にとって睡眠薬のようなものなのかもしれない。人間にはどうということはないようなのだが。
ショウヤはすばらしく立派な毛皮のコートをお召しだし、祭壇は木製のようだから、多分どうということはないだろう。
アルテミスはショートヘアだ。あまりいつまでもひっくりかえっているようなら、どこか別の場所へ運んだほうがいいかもしれなかった。
…それはさておき、春季や斎はどうなったのだろう。斎の手許に無事小刀はとどいただろうか。礼拝堂にいる陽介にはさっぱりわからなかった。春季だけでなく、春季の家族の誰一人としても、戻ってくる気配はなかった。炎は少しずつ香木を消費しつつあり、そろそろ全員が帰還する必要があることは、「手品」に何の知識もない陽介でもうすうす見当がついた。
ふと気配を感じてアルテミスに目を戻すと、アルテミスが目をあけて頭を上げていた。
どうやら香木のせいで眠っていたのではないようだった。
欠伸をしてのちこち順にのばし、なめた手で顔や耳のうしろをこすっている。
ショウヤに目をやると、ショウヤはまだ伸びたままだった。
陽介は立ち上がって香木のそばへゆき、ショウヤに触った。ショウヤはあたたかく、ゆっくりと呼吸していた。陽介はそのふさふさの猫を横抱きにして持ち上げた。....米袋のように重いが、持てないこともない。しかしだからといって普通の猫を抱くように気軽に抱けるしろものではけっしてなかった。…春季はなかなか力持ちのようだ。
斎が陽介を逃がすためにひっぺがしたカーペットは、部屋の片隅にごちゃっと片してあった。陽介はそこに近寄り、ショウヤをそっと下ろした。ショウヤは深い寝息をたてて眠ったまま、目覚める気配がない。
にゃー、とかすれた声がして振り返ると、アルテミスが陽介の後ろに来ていた。
「…なんだ、珍しいじゃないか。…用か?」
陽介が尋ねると、アルテミスはいかにも「オマエ嫌いだけど他がいないからしょうがない」という顔をして、くるっと背を向け、すたすた歩き始めた。陽介がほっとくと、もう一度もどってきて、かすれた声で、にゃーっ、にゃーっ、と急かすように鳴いた。
「…都合のいいヤツか?俺は…ひょっとして…。ああ結構ですよにゃんこ様。はいはい。爺になんでもお申し付けくださいませ。」
陽介は面倒くさそうに立ち上がり、アルテミスの後につづいた。
アルテミスが陽介を連れていったのは、外に続くドアのまえだった。
「…あ、トイレ…?」
陽介がドアをあけてやると、アルテミスはしゅるりと出て行った。
しばらく待ってみたが、一向に帰ってくる気配がないので、ドアを閉めた。
アルテミスは野良だ。ねぐらにかえりたくなったのかもしれない。
…それならここにはいないほうが良かった。どんな形であれ、ここはじきに大騒ぎになるはずだから。
猫は実はケンカが嫌いだ。いや、自分はするのだが、ニンゲンのケンカが嫌いなのだ。
陽介は母親とも父親とも滅多にけんかをしないが、父親同士が知合いであるところの年の違う知人たちとはよく大げんかになる。そうなるといつも陽介の膝にのっかっている『そうせきくん』もお客好きの『タミコ』もいつのまにか姿をけしてしまう。そしてしばらくしてから帰ってきた『そうせきくん』は、たいてい長い時間陽介の膝に乗らず、部屋の隅でひとりで毛づくろいをしつづける。…たまには逆にかえってくるなり机の上…陽介の目の前…に座り込んで顔を舐め回す日もなくはないが。
…そういえば斎とはいつも怒鳴りあいをしているが、猫達は別にそれは気にしていないようだ。まあ、斎はいつも猫共にまじって猫の餌を食ってゆくような妙な生き物なので、猫達には「でかいくせにジャンプもできず、声もへんてこりんで尻尾は頭についてて耳をちょんぎられた不憫な猫」とでも思われているのかもしれない。どうも春季の憧れの『どんぐり』あたりは特に、斎について独特な感覚を持っているようだ。かなり仲間だと思っているらしい。
『どんぐり』は斎と境遇も少し似ている。『どんぐり』は入国管理局に条約違反の輸入動物として保護されたとある国の野性種で、ホンモノのヤマネコである。輸出元に送り返して野性に戻そうとしたのだが、輸出元の国でクーデターが起こってしまい、ではクーデター後の軍事政権と話を…と連絡したところ、今、猫どころでないから送り返されても困る、射殺してくれと言われたのだそうだ。
持て余した税関が各地の動物園に連絡したが、おりからあちこち不況で、またごたごたを恐れたというのもあったのか引き取り手がなく、なにがどうなったのか、久鹿の親父が預かる羽目に陥った。(多分、「ああ、わしがなんとかする」かなんかうっかり言ってしまったものの、どうにもならなかったのだろうと陽介はふんでいる。)もちろんあそこのお上品な奥様や年中心が傷だらけの兄上などに獰猛な大猫など手におえるはずもない。(多分奥様は「あちらさん猫がお好きだとお聞きしていますし、さしあげたら」とかなんとか言ったのだろう。)陽介の住む家に立派な檻ごと送りつけられてきたとき、豪傑な母もさすがに無口になっていたが、しばらく檻で飼っていたものの(でも室内飼いだった...笑)、いつのまにかほかのチビ共にまじってにゃーにゃーと家の中を歩き回るようになっていた。
…おっと、鳴き声は「にゃーにゃー」ではなく「しゃーしゃー」だ。斎はよく遠くから「しゃーっ」と返事を返している。(近付くのは一応遠慮しているらしい。)ときどき、斎に対してだけ「かぽんかぽん」と不思議な声を出して鳴くことがある。斎はこれに対しても「みーお、みーお」と不思議な声で返事をしているが、どうやらこのために斎は仲間だと思われているようだ。ちなみにほかの猫では、やはり斎がお気に入りの『ペルソナ』(通称「おめんちゃん」)などが、『どんぐり』の友達である。
アルテミスを送り出したドアから離れて、また礼拝堂に戻ると、様子が少し変わっていた。
香木が燃え崩れて、木組みが崩れたらしい。炎が随分小さくなっていた。
「…まずくないかこれは。」
陽介は腕をくんで考えた。
とにかく全員が…いや、少なくとも斎と春季が戻るまで火を絶やすわけにはいかない。
陽介は辺りを歩き回って香木を探した。
しかし礼拝堂のなかには、香木は見当たらなかった。
…おそらくどんなに安いものでも、普通の薪よりはかなり高いはずだ。どこかに湿気らないように大切に保管してあるのかもしれない。ショウヤが起きていれば聞くのだが(この猫は非常に知恵があって、ニンゲンのことがよくわかっているらしいので。)、あいかわらず深すぎる寝息をたてて寝込んだままだった。
それを見て不意に思い立った。
「…まさかな。」
自分の変な発想をふりはらおうと首を振ったが、ほかにあてがあるわけでもなかった。陽介はもう一度アルテミスが出て行ったドアへと歩いて行った。そしてドアから外に出た。
外は終わりの桜の香りがうっすらとただよう、春の夜だった。まだ少し肌寒かったが、春のエリアに特有の柔らかい風が流れている。
アルテミスは小屋の前に金色の目をぱっちりひらいて座っていた。ナニシテンダーオソーアタマワル-という顔で陽介をじっと見上げると、ふいっと背を向けた。…何しろ黒猫なので、一瞬で闇に紛れた。
陽介は自分の背丈ほどの小さな物置き小屋の戸をあけた。開けた瞬間、匂いでそこに香木があることが分かった。天井を手で探ると裸電球がつりさがっていた。手探りでスイッチをひねると、ぱっと灯りがついた。果たして、香木は陽介の足下に、きちんと大きさを整えて割ったものが一束ストックされていた。陽介はひどく複雑な気持ちになったが、急いでその束を掴み、礼拝堂へ引き返した。
礼拝堂では脳いっ血の急患のように、ショウヤが大きないびきをたてていた。陽介は焦って祭壇に近付き、まずちらばった火をまん中にかきあつめた。それから香木の束をもどかしくほどくと、細いものを選んでくべた。中学のドーム外研修のキャンプ場で、火種を消してしまって苦労した経験が頭にうかんだが、かまってる場合ではなかった。慎重に空気を通しながら香木をくべてゆくと、幸いにも、燃えやすい香木は「白き炎」を取り戻して行った。陽介は少し考えたが、香木を半分ほど残した。連中がいつ帰ってくるものやら、見当がつかなかったからだ。
あいかわらず大いびきのショウヤが少し心配になり、近付いてそっと触ってみた。…ショウヤは起きなかった。
(…おい、しっかりしてくれ、頼むぞ、こんなときに…)
陽介は自分が着ていてたジャケットを脱ぎ、さらにその下に着ていた薄いトレーナーを脱いで、ショウヤがおちつくよう、周りを固めるようにして置いてやった。少しは温かいだろう。
すると、ひょっこりとまたアルテミスがもどってきた。
(今度はなんだよ。)
目に剣があったのか、アルテミスはくるっと向きを変えてまたすたすたと出て行ってしまった。
(くそっ…)
陽介は仕方なくショウヤのそばを離れてアルテミスの後を追った。
アルテミスが向かったのは武道場だった。さらについてゆくと、武道場のすみの、倉庫のようなところへ入って行った。そしてさらに、どんどん妙な荷物の隙間に潜り込んで言った。
「おい、そんなとこ入ると…」
陽介が言っているそばから、からの段ボールが「がこん」と落ちてくる。
「ばかっ、危ないぞ、出て来い!」
陽介は慌てて荷物を次々にどけた。
…奇妙なことに、それは全てからの段ボールばかりだった。
(…?なんなんだ?使わないならつぶせばいいのに…)
いつも家電を買い込むたびに、口を酸っぱくして母親に言われている陽介は、ついそう考えた。けれどもそれよりなにより、とにかく埋まってしまったアルテミスを助けなくてはいけない。
「アルテミス、返事しろ、どこにいるかわからん!」
するとまた段ボールがくずれた。…今度はかなり盛大にくずれた。
「アルテミス!なんか言え!」
崩れた段ボールを次々と後ろに放り投げた。半分ほど床が見え始めたところで、掴んだ段ボールに妙な重みを感じた。
「…?」
「…」
中を見ると、中にアルテミスが入っていて、陽介と目が合うと、「かくれんぼv」という顔で、声を出さずに「にゃー」と鳴くしぐさをした。
「…アルテミス…」
溜息とともに陽介は脱力し、その段ボールを傍らに置いてすわりこんだ。
「カンベンしてください、にゃんこ様。」
…ちなみに、猫はからの段ボールが大好きだ。陽介宅では、ほかにはコンビニのカサカサ袋なども人気がある。
陽介がもう一度深い溜息をついて、ふと目をやると、段ボールに埋まっていた床のあたりに、標準的なフラフープくらいのサイズのマルが書かれていた。
(…家庭内バスケでもやったのかな…まあ男兄弟5人もいればなんでもできるわな…)
(親にみつかんないように段ボールでかくしてたわけだ。…からの段ボールならすぐ積めるし、すぐくずせるからな…)
(ま、別に俺がかくしといてやる必要はねえな。勝手にバレろ。)
陽介が立ち上がって軽くホコリを払っていると、急に部屋が明るくなった。
(…?)
訝しく思って顔をあげると、その床の輪が光っていた。
アルテミスが駆け抜けて、一目散に逃げてゆくのを陽介は背後に感じた。
「……ぎゃ……ああああああああああああ!!!!」
とてもニンゲンのものとは思えないおそろしい悲鳴(というかわめき声)がして、何かが光から吐き出された。…ナニカ、といっても、こんな声をだすのは…
「おめえかどんぐりくらいだよな…。」
「ぎやああああああ!」
「もうええっつーの!!」
「あああ!!…ああっ?!陽介?!」
「おうよ。」
「ここどこ?!」
「武道場の倉庫だ。」
斎は真っ青な顔から真っ赤な顔になって、がばっと跳ね起きた。
「小夜!小夜はどこ?!」
「…知らねえよ。」
「しまった!一緒だったのに!やられたか!」
斎はぐっと歯をかみしめた。
「…ほっとけよ。どうせ相手は親だろ。とって食ったりしねえさ。」
陽介がうざったそうに言うと、斎はぶんぶん首を振った。
「陽介、急いで言うから黙って聞いてくれ!」
「…なんだよ。」
「…尾藤家は今、教団内で微妙な立場になりつつある。おとうちゃんと、4番目が神様通信受信の特殊能力を失うかもしれないんだ。そうなったら尾藤家は教団内での地位を失う。多分、お母ちゃんと長男の収入では家族8人エリアにすめない。」
「…」
「それで尾藤家は神様通信用のアンテナを作ることにしたらしいんだ。小夜に白羽の矢が立った。小夜は既にアンテナにされた。本人の承諾はなし、だ。」
「…」
「それと…刀を有難う、陽介。おかげであたしは使い捨てアンテナの憂き目を免れ、逃げて帰ってこられた。めずらしくも心から礼を言うよ。」
「ああ、やくにたったならよかった。…それより、春季に会えたんだな?春季はどうしたんだ。」
「…自分の母親の怒りの矢に…ヤブスマにされたよ。…何か気に触るようなことをいっちまったのか…それはよくわからない。でも向うの世界って、なかなか力の抑制がきかないんだ。感情のエネルギーがそのままぶつかっていってしまったりするんだよ。…よほど訓練をつんだひとでもそうなんだ。」
「…!…て…どういうことなんだ?!」
「…2メートルくらいのヤリが5~6ぽん刺さってた。動けなくなってて、血げろげろ吐いてた。」
陽介は神経が一気に逆立って頭に血が登るのが、自分でよく分かった。
「殺されたのか?!」
「…多分死んだ。でも、帰ってくるかもしれない。」
「どうして?!どういうことなんだ!!」
「…一応下ろして、処置はした。…陽介、帰ってくることに根拠はないんだ。でも、春季ちゃんそのあと元気に歩き回ってたから。」
「わかるように言ってくれ!!俺にわかるように!」
「…おちつけよ!」
斎は怒鳴った。
陽介はびっくりして、気をとりなおした。…そうだ、おちつかなくては。
「…陽介、わたしもああいうふうに死んだことがある。でも誰かが処置してくれれば助かることもあんの。あっちの世界はこっちと同じところもあるけれど、違うところもあるから。現にわたしはこのとーり生きてる。…悪いけどそれ以上のことは今はまだ何ともいえない。…ショウヤどこ?」
「…あっちに…」
「ショウヤつれて逃げよう。あの子、ここにいて、殺されたあとやらかした事が家族にバレたらこっちでも殺されるよ。何しろかるーく兄貴共鷲掴みにして親父に叩き付けたんだからね!やられた兄貴は血反吐をはいてたぜ。…それに、アンテナつれて6人かかってきたらあたしでもてこずる!…ラウールに言ってくれた?!」
「言ったよ。…応援は出せないっていうようなことを言われた。俺も手をひくようにって。」
「!!…くっそー、口だけ保護者めー!!!!」
斎はおもわずそこにあったからの段ボールをグシャッと踏みつぶした。陽介はゾ-ッとした。さっきまでそこにはアルテミスがいたのだ。
「…だけど応援なんかよこしてもらったってどうせまにあいっこないやね。…じゃあまずあんたを逃がさなきゃ!!礼拝堂に戻ろう!…ショウヤ!」
斎がそう言って駆け出したので、陽介は慌ててあとを追ったのだが、あれよあれよというまに離されてゆく。陽介は斎の背中に叫んだ。
「こっちでも殺されるって…向こうでショウヤ殺されたのか?!…さっきからやたらにでかいいびきかいてて!」
「違う!殺されたのは春季ちゃんだよ!でも多分ショウヤが春季ちゃんをささえてるの!…どけろッ!」
「ミギャ-!!」
斎の怒鳴り声にアルテミスが怒鳴り返した。やっと礼拝堂に陽介が辿り着くと、斎が陽介の服の中からショウヤを抱き上げたところだった。陽介の服をつま先にひっかけると、斎は器用に足で服を飛ばし、陽介の手に届けた。
「早く着て!」
陽介は言われるままに服を着なおした。
そのとき再びアルテミスが足下を駆け抜け、祭壇のほうへ行った。斎が何気なくその黒い疾走に目をむけ、祭壇をみつめた。
「…始末していこう。」
斎が呟くのを聞いて、陽介は震え上がった。
「おい待て! まだ向こうに何人もいるんだろう!」
「尾藤家の無礼者どもが何匹死のうがあたしのしったことじゃないよ。ひとの首を切ったら、切り返されるんだってことを教えてやらなくちゃね!…それに多分すくなくとも春季ちゃんはどっかにながれついてるはずだ、生きていれば。小夜は向うがおさえたかもしれないけど。」
「斎!春季が帰ってきて親兄弟が全滅してたらどういう気持ちだ!」
「…スカッとしたいい気持ち。」
「ふざけるな!!」
「ふざけてない。」
「頭冷やせ!」
「あんたよりずっと冷静。」
「斎!ここは連邦法下の法治社会だ!頼む、考えなおしてくれ!」
陽介が必死で叫ぶと、斎はあきれたように溜息をついた。
「…わかったわかった。説明するよ。心配しなくていい。あたしが出てきたわっか、多分あの世界からの非常口だから。ここを消してもあっこからかえってこられる。…それにこれは向うからは随意的に移動可能な出入り口の可能性があるけど、さっきのわっかは向うの噴水に場所が固定されてるから、わっかで一括して出入りしてくれたほうがこっちとしてはありがたい。時間稼げるから。」
陽介は少しほっとした。
「そうなのか。わかった。」
「…連邦法なんかあたしの知ったことじゃないけどね。一応あんたの顔たてとくわさ。…あれ、この香木、こんなに残ってたんだ?」
「…消えそうになってたから、物置きからストックを探してきてくべた。」
「ストックはこれで全部?」
「ああ。」
「大変結構。」
斎は厳かにうなづき、ショウヤを椅子に下ろした。そして火かき棒で、火のついた香木を散らしたのち、聖水の水瓶から水をすくってかけた。普通の火と同じように白き炎はきえた。それから斎は残りの香木をみずがめにつっこんだ。
「…これですくなくとも香木が乾くまで使えないでショ。ビンボ性ならまだ使える可能性にふりまわされて新しいのも買えない、と。」
そしてもう一度ショウヤを抱き上げると、陽介を促して、教会を出た。




