とある召術士の冒険4
途中で本編でも書いてある説明文が入ります!
スルーしてもいいです。
俺がたった二回の攻撃でウォーウルフが散っていったことに対する説明をすると、やはりみんなは呆れていた。
「運営って結構ゲームバランスの扱い雑だったんだな……」
「そうですよ。もっと考えて行動してもらわないと、私たちが不遇職を極める間も無くトッププレイヤーたちが現れてしまいます」
「だからといってリュウ君のチートをGM通告する必要も無いと思うんだけどなー」
「それは……そうですね。これこそ不遇職は極めれば最強であるということの証左です」
結局、この話は不遇職は極めれば強いことを肯定していると言う事になる。
全員不遇職である俺たちにとっては心強い事実だった。
「まあ、その話は後でしよう。美鈴、サヤ。あのホワイトラビッド二体を倒してみてくれ」
「分かりました」
「分かったよー!」
そういって、いつの間にか出現していたホワイトラピッド二体に向かう美鈴とサヤ。
「美鈴だけで戦わせてもいいんじゃないのか?」
「いや、実はさっき聞いた話だがな。祈祷師のスキルを持ってると、攻撃用のスキルを一切使えないんだと」
「なるほど。自分一人じゃあ一切の攻撃ができないから不遇職なのか」
「そういうことだ。まあ、その分支援役としてはかなりの力を持ってるがな」
俺たちが話している間に、サヤがおそらくアサシンのスキルと思われる一撃を後ろから放つ。
たった一撃で、Lv2~3ほど格上のホワイトラピッドのHPが、七割ほど削れていた。
「ぜんぜん不遇職じゃないだろ、あの攻撃力」
「いや、こんどはベータのときに聞いた話だが、アサシンの初撃はめちゃくちゃ強いが、通常攻撃は普通以下だし布装備しか装備できないから紙装甲」
「なるほど。それなりの代償があるってことか」
確かに初撃以外の攻撃力のダウンに紙装甲となればなかなか厳しい。
「要は攻撃を食らわなければいいんだろ。ステータスをAGIに振ればいいんじゃないか?」
「そうは言うけどな、簡単じゃないんだよ」
「そういうもんか」
俺たちが美鈴たちのほうを向くと、ちょうどサヤの一撃でホワイトラピッドが倒されたところだった。
一瞬隙ができたサヤを狙って、もう片方のホワイトラピッドが体当たりをしようとして、空中ではじかれた。
「あれが祈祷師のスキル。確か味方の周りに結界を作る能力だったと思うぞ」
「あれで防御したらノーダメージってことか?」
「そういうことだ。ただし、一度に出せる結界の数は限度があって、しかも平面に作ることしかできないからな、なかなかのプレイヤースキルが必要だ」
「つまり、相手の攻撃を先読みしろと?」
「ついでに味方のことも考えないとだめだな。あれは敵味方問わずぶつかるらしい」
こうして考えると、不遇職って基本結構なプレイヤースキルが必要なだけなんじゃないのか?ベータのときは扱い切れる奴がいなかっただけで。
「それにしても、やっぱりここらには人がいないな」
「どういうことだ?オレもおかしいとは思っていたんだが」
今俺が言った通り、周りには正式サービス開始から五時間近く経っているものの、それでも人の数か少なさ過ぎる。視界の範囲内にいるのはせいぜい五、六パーティーだけだ。
首を傾げている忠村の質問に答える。
「たぶん、ここから南にある『始まりの森』に行ったんだろ。レベルは少しここより上だけど、あそこのモンスターはEXPを多めにもらえるからベータのいるパーティーはほとんど『始まりの森』か、さらに先に行ってると思う」
「なるほど。ベータテスターがいれば、少しくらい強いモンスターでも倒せると考えたわけだな」
「ああ。ついでに言えば、そのおかげでこっちはモンスターの取り合いはなっていないけど、『始まりの森』は結構な人数が押しかけてるんじゃないか?」
「つまり、オレたちは運がよかったってことか」
「いや、こっちが向こうの考えの裏を突いたってことだ」
俺が説明を終えたちょうどそのとき、俺たちの前でホワイトラピッドが倒された。
「終わったよー!ちょうどレベルも上がったし、ステータス振っておくね」
「サヤさん、お疲れ様です。あの、私たちの動きはどうでしたか?」
「なかなかよかったぞ。特に美鈴、結界を作るタイミングとかはかなりうまかったぞ」
美鈴の質問に忠村が答えている間に、俺も先ほどレベルアップした分と残してあった初回ボーナス分のポイントを振っておく。
とはいえ、俺がAGIやSTRに振ってもたいした意味は無いから、もっぱらINTかDEXに振り分けることになるけど。
そして、俺がみんなの会話に加わろうとした瞬間、体が青い光に包まれた。
「なっ!トラップか!?」
「いや、最初のフィールドでそんな物が――」
俺が忠村の台詞を冷静に否定したが、それを言い終える暇も無く、俺たちはどこかに転移させられた。
「なあ、これってどういう事か分かるか?」
「いや、オレにも分からん」
なぜか転移させられた俺たちがいたのは、【第一の町】の広場だった。
「少なくとも、ベータのときはこんなことは無かったはずだ」
「もしかして、何かのイベントなのかもしれません」
「いや、たぶんそれは無いだろ。周りの人数が少なさ過ぎる」
美鈴の考えを否定しながらも、俺は頭をフルスピードで働かせていた。
なぜか、猛烈にいやな予感がしていたからである。
誰かのいたずらか?いや、周りの人数は少なくとも二千人は超えている。こんな大掛かりなことを仕掛ける意味は無い。
間違って何かのボタンでも押したか?そんなことはないし、さっきの一瞬でほかの人たちも転移させられたようだ。同時にこんなことが起こるとは考えられない。
運営の仕業か?美鈴の説と同じ用に否定できる。今の時間帯ならログインしていた人数はもっと多かったはずだ。人数を絞り込んで行うようなイベントは、日頃からうるさい倫理団体等から運営が非難される、絶好の的になるだろう。
GMの仕業か?たった一人でこんなことを行えるわけが――いや、できる!!このゲームは製作者がたった一人で作ったといっても過言ではないと何かのサイトで話されていた。
一人で作ったとはいえ、本当に製作したのは根幹の部分だけだろうが、そこに何かのウイルス的なものを仕組んでおけばできるんじゃないか!?
「おい、もしかして――」
俺の発した言葉は、地面が急に揺れだしたことによってさえぎられた。
そして、
「なんだあれは!?」
「と、塔!?ってあの人は!!」
広場の中央から三メートルくらいの塔が突き出ていた。そして、その上になんとなく見覚えのある、白いローブを着た巨大な人間のアバターが浮かんでいた。
「サヤ、あれが誰だか知っているのか?」
俺の質問に、サヤが心底驚いたという風な表情で言葉を返してくる。
「あの人は、このゲームのGMにして、この世界を作った,野崎伸也だよ!」
「「なっ……!!」」
あまりの驚きで声を出せない俺。
驚きすぎて固まっていた美鈴にも声を漏らしていた。
それもそうだろう。ゲームが始まった数時間後にこんな風に出てくるとは、まったく予測できなかった。
さきほどのいやな予感について考えた俺は、直感的にメニューを開き、その一番下にあるボタンを確認し、完全に硬直した。
「ロ……ログアウトボタンが……無い……?」
俺の声が聞こえたのか、美鈴たちもメニューを確認して驚愕の声を漏らす。
「そ……そん……な」
「お、おい。嘘だろ!?」
「こ、こんなことってあっていいの!?」
「いいわけない。だが、もしもそう(・・)なら、俺たちがどうするべきか。考える必要がある」
俺はこれが、たちの悪い冗談だとは思わない。もともとの企画だとも思わない。
そういう風に考えるには、野崎信也のまとっている雰囲気はあまりにも不気味すぎた。
以下は野崎信也の宣言です。『現実』と変わってないんで、読み飛ばしても大丈夫です。
「やあ、二千九百五十二人のプレイヤーたち。何人かは気づいてくれていると思うけど、僕は野崎伸也だ。君たちにはあるグランドクエストを受けてもらおうと思う」
「さて、僕がこの世界を作った理由を話そう。面倒くさいことを言うのも疲れるので、さっさとリアルのもう(・・)ひとつ(・・・)の(・)現実について話そう」
「君たちの中にはこれから言うことが信じられないと言う人たちがいると思う。しかし、悲しいかな、これは紛れもない事実だ」
「現実世界には、『裏の世界』がある。そこでは、『化け物』と呼ばれる寿命を喰らう者たちと、それと戦い、倒す『異能力者』たちとの戦いが起きている」
「『化け物』たちは、さっきも言ったが人類の寿命を喰らう。そうして『裏の世界』で生きている」
「それに対抗するのが『異能力者』。まあ読んで字の如くだけど、異能の力を使える人間たちのことだ。彼らによって構成された組織が世界に散らばり、『化け物』たちを倒している」
「しかし、ここ最近『異能力者』たちが絶滅の危機に立たされている。理由は簡単。あまりにも『裏の世界』に入ってくる人の数が少ない。それに比べて、世界から消えてゆく『異能力者』の数は毎年百人を超える」
「このままでは危険だと判断した上層部は、強引な方法でもいいからとにかく異能力者の数を増やすことにした」
「その時に目をつけたのがこの仮想世界のゲームである、VRMMOだ。そこで上層部は、君たち異能の素質のある人たちを選び、検査を受けさせようとした」
「しかし、その動きに僕は気づいた。そして先ほどの話を聞かされた僕は、実行しようとしていたデスゲーム化などをやめさせることを条件に彼らに協力することにした」
「このままでは人類は滅びてしまう。『化け物』に喰われても、一度に減少する寿命はせいぜい数時間分だ。しかしそれが何十回、何百回と繰り返されたら?」
「そこで君たちに協力を願いたい。ここにいるのはすべて、異能の力をもったプレイヤーだけだ。リタイヤしたいのなら、それでもかまわない。この世界はデスゲームではない。すべてのプレイヤーにこの世界で生きていくだけの最低限を少し超えたフルは与えるつもりだ。この町にとどまっていればいいだろう。ただし、町防衛クエストなどでは単なる足手まといにしかならないから、そのときは罵倒を受けるつもりでいてほしいね」
「グランドクエストの内容を伝えよう。ここはさっき僕が言った【裏の世界】の一部だ。そこに魔王が存在する」
「魔王が軍勢を率いてこの世界にやってくるのは三年後だ。奴とその軍勢から、この世界を救ってほしい。たとえ失敗しても成功してもこの世界からは開放する。記憶を消したいという人がいれば消してあげよう」
「後、注意をひとつ。この世界には、痛みが『裏の世界』と同じくらいに設定してある。気をつけるように」
「そして、この後からはログアウトボタンは無くなり、その場所に掲示板システムが出てくる。最大限活用してくれ」
「この後に君たちは解放され、新たなる、そして元から持っていた異能が開放される。異能の能力は人によってさまざまだ。その能力を使ってこの世界で生き抜いてほしい」
「話は以上で終わりだ。そして、異能の力については、長年秘匿されてきた歴史を破って現在上層部が『表の世界』の人間に公開している」
「君たちがどのように生きるのかは自分で決めるべきことだ。分からないことがあったらGMコールをしてくれ。可能な範疇で、できる限りのことをする」
君たちがどのように生きるのかは自分で決めるべきことだ。分からないことがあったらGMコールをしてくれ。可能な範疇で、できる限りのことをする。
最後に、この世界での三年は、現実世界でのたった二時間でしかない。つまり、現実に帰ったら年寄りになっていたということはない」
「そして、この世界をだれよりも知り、だからこそ誰より無知なGMからの助言だ。
グランドクエストをはじめとするすべての物語が、君たちの動きで変わってくるだろう。君たちが感じ、考えた通りに行動することを勧めるよ」
「君たちの健闘を祈る。」
広場のどこかで悲鳴が上がる。それに続く叫び声が上がる前に、俺は美鈴とサヤの手をとって駆け出していた。
「忠村、来てくれ!!」
「お、おう!!」
後ろをふりむいて、その場に突っ立っていた忠村に声をかけてから、俺は一気に広場から駆け去ろうとした。
しかし、またもや俺の体を青い光が包みこんだ。
美鈴とサヤの手を離さないように、必死で握る。この手を離したら、二人とはもう会えなくなってしまうような気がしたからだ。
「あ、あの……少し、痛いです」
「わ、悪い」
いつの間にかつむっていた目を開き、美鈴とサヤの手を離す。
俺たちが転移させられた場所は、もといた草原だった。周りを見回すと、忠村もいた。
「リュウ、お前大丈夫か?」
「あ、ああ。たぶん大丈夫だ」
「そんなことはありませんよ。顔が真っ青です」
「今日のところは【始まりの町】で休んでおいたほうがいいと思うよ」
皆の言葉に感謝を覚えつつも、俺はさっきたどり着いた答えを言う。
「ありがとう。だけど、これから先は、とんでもないことが起きるはずだ。何かとはいえないけど、【始まりの町】にいることはよくないと思う。忠村、野営用のキットは持ってるか?」
「ああ。いくつか持ってるが、そんなもんをどう使うつもりだ?」
「これからは【始まりの町】はきっと、いろんなものの争奪戦になる。なら、ここから最寄の町か、忠村の知っている町に行くのが最善だと思う」
「なぜですか?【始まりの町】にいたら、安全は保障されますよ?」
美鈴のもっともな質問に、俺は答えを返す。
「さっきの話を聞いたろ、町防衛クエストがある。いつになるかは分からないけど、こういったゲームでは定番だしな。それにPKプレイヤーも絶対にはびこってくる。ログアウトできないのなら、現実になったも同然のこの世界では、一体何をされるか分からない。それに最低限の情報は掲示板とやらで手に入るはずだ」
「……分かりました。それでは次の町に、そうですね……明日出発しましょう」
「ああ。一日あれば野宿用アイテムとかもそろえられるだろ。行き先としては、そうだな……西の町【ルーナニ】にしよう。あそこなら出てくるモンスターもそこまで強くないし、三日あれば着くはずだ。……ベータのときと同じなら、だがな」
「大丈夫だと思います。道具の準備などは入念に行ってください。忠村さん、案内よろしくお願いします」
「おう。任せとけって!」
「よし。それで、サヤはどうするつもりだ?」
蚊帳の外に放り出されていたサヤに声をかける。
「もちろん付いてくよ?難しいこととかはよくわかんないから皆に任せるけどね!!」
「ありがとう。それなら忠村、出発する前に買っておかなきゃいけない物を考えてくれ。それと、スキルや武器の更新をしたい」
「分かった。オレが案内するから、ちょっと待っててくれ」
明日更新して、この話は終わりです。