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とある召術士の冒険1

外伝として投稿しました!

世界初のVRMMO,『名も無き世界』。

それが発売された時、日本中のゲーマー達が『名も無き世界』を買うために店の前に集まっていた。


日本中で『名も無き世界』が売りに出される三十分前、俺こと、勝良龍輝(かつらりゅうき)もまた、その長い長い列の中に加わっていた。

目の前の電子機器の店では、俺が移動可能な範囲で最も多い数の『名も無き世界』が発売される予定になっていた。


しかし、俺が自宅を出て、この店に前にすでにできていた行列に並び始めたのは、午前四時だった。だというのに、俺の目の前にはすでに七十を越える人たちが集まっていた(暇だったから数えた)。


「はあ、もうあきらめて帰ろうか?いや、それでもこれだけ待ったんだから、報われてもいいはずだ」


等とつぶやきながら、目の前に並んでいる人たちをもう一度見回すと、見知った顔がいた。


菊池(きくち)美鈴(みすず)。俺のクラスメイトであり、学校では一二を争う美少女である。


典型的な日本人スタイルで胸はないが、真っ黒な髪と、見ていると吸い込まれそうになるこれまた真っ黒な瞳は、モデルや女優としてやっていけるのではないのかと思えるほどのレベルに達している。

しかし、問題は午前四時に列に並んだ俺よりも前に並んでいることだ。


――もしかして、あいつって相当なゲーマーなのか?


こちらからの視線に気がついたのか、菊池が俯き気味だった顔を上げて周りを見回した。

あわてて目をそらそうとしたが、その前に見つかってしまったようだ。


列の前と後ろの男性に声をかけてからお辞儀をして、こちらに向かって走ってくる。


「お、おはよう。こんなところで会うなんて、奇遇だ――」

「あ、あの!!」


ん?菊池はかなりおとなしい性格で、相手が話している最中に声を挟むようなまねはしないはずだったよな?と心の中で首を傾げる俺に対して、菊池は畳み掛けるように話し続けた。


「あの……勝良君も『名も泣き世界』をやるんですか!?」

「あ、ああ。そのつもりだ。」

「な、ならっ、その場所だったら販売台数も考えるとたぶん買えないからっ、わ、私が買いますからっ、いいいい一緒に『名も無き世界』をやってくれますか!?」


学校のアイドルからの思わぬ提案に、俺の思考に空白が生じた。


「…………………………え?」


「なので、あ、あの、一緒に冒険してくれません……か?」


上目遣いで潤んだ目というコンボを食らった俺が断るわけも無く、思考に生じた空白が消えた瞬間、俺は一も二も無くうなずいていた。


「ハイ、喜んで!!」



その後すぐに店が開いたが、彼女の予想通りに俺の少し前で『名も無き世界』は売り切れてしまった。


結局菊池が買っていた二つ目の『名も無き世界』を買い取ることになったのだが、


「あ、あの、少し条件があるんですが……」

「ん?無茶なことじゃないのなら受けるぞ?」

「こんな事言って申し訳ないんですが、不遇職でプレイしてもらえますか?」


こんなことを言ってきた。

俺は本来なら手にすることのできなかったはずの『名も無き世界』をもらった時点でゲーム内でのことなら(PKなどを除けば)ある程度の事は聞くつもりだったので、あっさりと認めた。


「そのくらいならいいぞ。だけど確か、『名も無き世界』は職業じゃなくてスキル制だったよな?」

「えーと、いくつかのメインのようなスキル、例えば片手剣や魔法系は補助のためにほかのスキルが必要なので、基本的にはそれ農地のいくつかが不遇職って呼ばれています」

「なるほど。最初に選んだやつを極めるしかないってことか」

「そういうことになります」

「だけど、何でわざわざ不遇職でプレイするんだ?」

「普通のスキルよりも、極めた不遇職のほうが強いって聞いたので……」

「へえ、菊池も考えたな」


俺がしきりに感心していると、菊池がまた上目遣いで話しかけてきた。


「あ、あの、私の事は美鈴って呼んでくれますか?」

「え、あ、ああ。別にいいけど、なら、俺のことも勝良か龍輝かで呼び捨てにしてくれ」

「は、はい!喜んで!」


龍輝は、美鈴が先ほどと同じ台詞で返した事にも、周りから突き刺さる――


『リア充爆ぜろおおぉぉぉ!!』

『くっそ、惨たらしく吹き飛べ!』

『勝ち組だからっていい気になるなよ……』

『ふん!負け組みは悲しいなあ。俺勝ち組ィ!!』

『『『くたばれ!!!』』』


――今は一人の男に向けられている人を殺せそうな目線が、今さっきまでこちらに向いていたことにも全く気づかず、まさに初々しいカップルの関係に見える二人は、いそいそとそれぞれの家に帰っていったのだった。



『おーい。龍輝君と話せた?』

「うん!ありがとうございます、サヤ」

『親友の恋を成就させるためだもの!どんなことでもやってみせる!』

「本当にありがとう!ところで、何で勝良君があの店に来るってわかったんですか?」

『そこは日ごろの情報収集のなせる業!それにしても、へーえ』

「な、何でしょうか?」

『とうとう龍輝君を名前で呼ぶような関係になれたんだねぇ』

「ひぅあ!?」

『ふっふっふっふっふ。これでこそ向かい側のビルの屋上から望遠鏡で眺めてたかいがあったってことよ!』

「え!?そんなところから見てたんですか!?」

『片思いからはや三ヶ月、ついに私の親友が恋道に足をかけました!』

「私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない」

『照れないでよ、もう。話は変わるけどさ、本当に私は不遇職でやらなきゃいけないの?』

「もちろんです。そのための道具は誰があげたと思ってるんですか?」

『その辺だけはしっかりしてるというかしたたかというか何というか……。電話の向こうで真っ黒い笑顔を浮かべてる美鈴が見える……』

「龍輝君は不遇職でやってくれるらしいし、ハズレの中のハズレを引いた人には別のアカウントでやってもらいます」

『好きな人が自分に依存する状況を作りたいからってそこまでするものかね……』

「じゃあ、【第一の(ファーストタウン)】の中央の噴水で会いましょう」

『スルーされた!?……わかったよ。龍輝君にはもう伝えたの?』

「あ、まだ伝えてませんでした!」

『まあ、電話のときくらいは落ち着いてね』

「はい。今度は【名も無き世界】の中で会いましょう」

『そうだね。じゃあね、美鈴!』

「さようなら、サヤ!」


電話を切った美鈴は、自分の部屋を見渡す。

その表情は、ほんの少し前とは打って変わり、憂いと苦しみ、そして嫌な予感が入り混じったものになっていた。

女の子らしい部屋の中の机には、名も無き世界とそれをプレイするための機械が五つ、並べられていた。


「……お父様、今、どこで何をしているのですか……?」


一人の少女の質問は、誰に届くことなく空気に溶けて消えた。

野崎信也の一番の親友である父にも届かずに。



これは、もう一人の主人公のお話。

野崎信也とともに消えた美鈴の父が、二人で名も無き世界を電子の檻に変えるまで、残り僅か。

一日おきくらいで投稿していきます!

合計五話です。

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