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想いの。

作・篠宮

コメディ風味の恋愛のお話です^^

ファンタジー! 春! ときたら、篠宮の脳内はお花で埋め尽くされました(笑)

どうぞよろしくです^^


「ここ、どこ?」


屈強な騎士やローブを纏う魔術師がずらりと居並ぶ中、その女は呟いた。








でっかい星の、まぁ大国とは呼ばれるんじゃない位の規模を持つ我が国は……あーつか名称とかどうでもいいっしょ。

あ? 端折りすぎ?

んな事言ったって、詳細設定を短編に組み込むのは大変だってば。

え? もう少しやる気を出せ?

えー。


女神フィリシアを崇拝し……、あ、ごめん。もう勘弁。

大体神様信じてないし。

まぁ、よーするにさ。



「ウィリア、おっはよー!」


声が聞こえたかと思った瞬間、腰にドンッと衝撃がはしる。

「……っ!」

丁度寝起きで歩いていた私は、それに耐えられず前のめりに床にぶっ倒れた。

なんとか両腕を前に出して顔面は守ったけれど、地味にあちこちが痛い。


「ウィリア、へたれだねぇ」

「他に何かいう事ないのか、このお転婆娘!」


床に転がっている状態から上体だけ起こして後ろを見ると、ちゃっかり自分は倒れずにそこに立っているフブキの姿。

その姿を見上げつつ頭をガシガシとかきながら立ち上がると、私は目を細めた。

「魔術師に、騎士並みの体力はないんだよ」

「人並みの体力もないじゃない」

蹴り倒してもいいだろうか。

額に青筋が浮かびそうになるのを意図的抑えて、もう一度深く息を吐き出す。

「私じゃなく、ラダをかまってやれ。こっちは忙しいんだ、全く」

そう言って歩き出そうとする私のローブを後ろからフブキが掴むものだから、引っ張られて足を止めざるを得なくなる。


すでにイラつきを抑える事さえ忘れた私は、その表情のままフブキを振り返った。

「……」

そこには。

ぎゅっと私のローブを掴んだまま、俯いている彼女。

その姿を見てしまうと、さすがの私も何も言えなくなる。

片手で顔を半分隠して、はぁ、と諦めのため息をついた。


「ため息ばかりついていると、幸せが逃げるんだっけ?」

フブキに言われた言葉だ。

罰悪そうに肩を揺らしたフブキの頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。

「そんな顔をするな。ほら、行くぞ」

そう伝えれば、フブキは満面の笑みを浮かべて大げさなくらい頷く。

「師匠の部屋までだからな」

「うん!」

返事だけはいつもいいんだがな……、そう思いながら何度目かになる溜息をついた。








フブキは、半年前……春先にやってきた異世界の人間。

我が国で最も神聖で警備の厳しい場所……皇宮内神殿に、現れた迷い人。

その日は私達魔術師が皇宮全体の結界を強化する為、はりなおす作業をする予定だった。

そこには状況を確認するために、管轄省担当の第三皇子もいて。

そしてその警護に当たる近衛騎士たちもその場に複数人いた。

結界を一時的とはいえ弱める為、皇宮自体の警備も通常時より強化されていた。

だから、ありえないのだ。


自分達の目の前で、神殿の祭壇に突然人が現れるなど。


ほんの一瞬だった。

ほんの一瞬、祭壇が光り風が吹いたかと思うと、もうそこにフブキはいたのだ。

それは……祭壇の近くに植えられている桜の花が風に耐えられずひらひらと舞い散って、一種幻想的な光景だった。

横たわるフブキを見て誰もが呆然としている中、ゆっくりと目を開いた彼女は幾度か瞬きをして体を起こす。

本来ならばとても神聖な場所である祭壇に人がいるのだから、引きずりおろしても構わない場面だったのだけれど。

その光景と状況に、誰もが身動きが取れなかった。

固唾を飲んで見守っていた私達に気付いた彼女は、小さく首を傾げて「ここ、どこ?」と呟いて気を失ってしまったのだ。

彼女が再び祭壇に倒れ込む音でやっと我に返った私達は、騒然となった。


すぐに呼び出された女官長と魔術師に付き添われながら騎士に運ばれた彼女は、三日ほど目を覚まさなかった。

そして目覚めた後に語られた言葉は、にわかには信じられないものだった。

「ここは、私の住んでいた世界じゃない。だって、月が三つもある」

月が三つあるのは、この世界では常識。

彼女のいた世界には、月はたった一つしかなかったそうで。

そう言われても、誰もが皆、記憶喪失なんじゃないかと疑っていた。


異世界……それは次元の違う……の存在は、理論的に証明されている。

そして本等の小物ならば、この世界に落ちてくることも稀ではあるけれどない事もない。

それによって。異世界の存在は理論的にも物証的にも証明はされているのだけれど。


人が迷い込んできたことなど、過去一度もなかったのだ。


困惑する私達を見て、彼女はその異世界から落ちてきた本を見せて欲しいと願った。

もし自分の世界のものなら、読んでみせるからそれが証明になると。

半信半疑だった発見者の一人である第三皇子がいくつか持ってきた本の中の一つ、小さな本を彼女はなぜか笑いながら手に取った。


それは書いてある事は不明だが、他の本と違って手書き文字ではなく、また手のひらサイズの小さな本だったため、研究材料として珍重されていた国宝級の本。


それを伝えるとますます彼女は笑いだし、苦しがりながら朗読し始めた。


「……」


内容はご想像にお任せする。

そこで初めて知った十九歳である彼女が朗読したこと自体、記憶から消し去りたい。

……国宝級の本に、そんな事が書いてあるとは思わなかった。


他にもいくつか読ませたが、読める言語と読めないものがあり、異世界と言っても一つではなく複数存在していることが仮定できた。

その事実に研究者たちは沸き立ったが、魔術師たちは彼女の存在に違うものを見ていた。



それは彼女の内蔵する魔力量が、半端なくでかかったこと。

本人に自覚はないらしく、彼女の為にも早く制御出来るようにならなければ危険と判断されるほどの大きさ。


すぐに、私たちは動き出した。

最初は戸惑っていた彼女も、ひと月もすれば自分の状況を受け入れた。

何かあったのか、元の世界に帰りたいと言い出す事もなく。

その立場ゆえに皇宮から出すことはできなくなったが、王族の庇護(悪く言えば監視する)のもと魔術師になるべく、この世界の事を学びながら日々頑張っている。









きっと彼女にとって、穏やかな日が続いているのだろう。

私にとっては、面倒事を持ち込んだ小娘なのだが。



くっついてきたフブキを彼女の師匠でもある私の恩師に預けて、私の穏やかな日常を壊すもう一人の男の元へと足を向けた。

本当は行きたくないのだが、仕方ない。

第三皇子に命令されれば仕方がない。

しがない役所勤めだよ、ちくしょう。


物凄く面倒な雰囲気を醸し出しながら、奴がいる東の塔に足を踏み入れる。


「……」


まだダメか。


塔の内部をぐるりと見渡して、私はもう数えるのも億劫になった何回目かの溜息をついた。




螺旋階段を上って辿り着いた最上階の部屋のドアを、足で蹴破る。

中にいた男は、驚いた拍子に座っていた椅子から転げ落ちた。

「びっくりするじゃないか、ウィリア!」

尻餅ついた状態で叫ばれても、全く怖かないね。

私はずかずかと部屋に入り込むと、奴の座っていた椅子に腰を下ろす。


「びっくりするなら、この状況をどうにかしろ。蹴破らないと入ってこれないのは、お前もよく分かっているだろう」

地を這うような低音ヴォイスで凄めば、奴は……ラダは申し訳なさそうに肩を落とした。

「お前は、いつから庭師になったんだ?」

そう問えば、情けない顔が見る気も失せるほどへたれる。

「だって」

「大の男が、だってとか使うな女々しい」

「それ言うなら、ウィリアだってそうじゃないか! 女なのに言葉遣い、僕より男前で……」

「あぁ、だからフブキは私に懐くのかもな」

実際は女だからなんだけど。


魔術師に女は少ない。

故に、今現在唯一の上級魔術師の女である私が、フブキのに最初に紹介されることになったのだから。

まぁそんな事説明してやるいわれはないので、ラダが目に見えて落ち込んでいるが私には関係ない。


「そんなにフブキが好きなのか」

そう問いかければ部屋のあちこちで、ぽぽんと音を立てて花が咲き始める。

芳しい香りが立ち込めて、これはこれで綺麗なんだけど。

「ラダ」

何も答えないラダの名前を詰めたく呼べば、年齢よりも激しく幼く見えるその顔をふにゃりと緩ませる。

「うん」

あぁ、また香りがきつくなった。






ラダは、この国にたった三人しかいない最上級魔術師。

むかつくが私は、その下の上級魔術師にあたる。

そして力量にあった仕事が割り振られ、ラダには皇宮全体の結界の維持調整が課せられていた。

本来なら何十人もの魔術師を動員する仕事なんだけれど、ラダならたった一人で事が済む。

だというのに。



額を手で押さえながら、もじもじしているラダを睨みつけた。

その間にもぽんぽん音を立てて花は咲き、ずるずると音を立てながら蔓は増殖していく。



……だというのに。

こいつが仕事しなから、どんだけ周りに迷惑かかっているか。


はぁ、と息を吐き出す。



あのフブキが祭壇の上に現れた時、ラダも私もその場にいた。

他に何人もの騎士や魔術師がいたわけだけど、彼女を部屋に運ぶ際、ラダは率先してその付き添いを申し出た。

イレギュラーの事態に結界強化は後日に見送られたから、仕事的には別に良かったのだけれど。

魔術バカであんまり他人に興味を持つことの無かったラダのその行動に、周囲は突然現れた不可思議な女性に対する興味だろうとあまり重く考えていなかった。

が。

実は。


……一目惚れだって。


頬、真っ赤にして言われちゃったよ。

二十五も過ぎた大人であるはずの男に。

しかもこの阿呆は、事もあろうにフブキに一目ぼれして以来、魔術が使えなくなってしまったのだ。

……いや違う。

使えなくはない。

たった一つ。




「いつまで花を咲かせ続ける気だ」




こいつの脳内お花畑を現実にしたように、いたるところに花を咲かせ始めたのだ。

ラダは元々居住場所と実験室を兼ねて東の塔の一つを与えられているのだが、まぁなんていうか。

綺麗にツタと花で、デコレーションされまくっとる。

メルヘンだな、メルヘン。

これでお姫様でも住んでれば可愛いもんだが、実際は二十五歳の童顔男。

どうもフブキの事を考えると勝手に咲いてしまうようで、咲きまくった花=フブキへの想いという事だそうで。


……うわ、重い。


内心うんざりとしながら、花を咲かせ続けているラダの頭を足のつま先でちょんちょんとつつく。

「いい加減、東の塔をお前の頭と同じお花畑にするのはやめてもらえないか。お前の代役を担っている魔術師たちも限界だ」

休息を取れば回復する魔力量も、こいつが役に立たない分交代間隔短く完全に満タンにならないのだ。

主に、中級魔術師が十人以上集まって、凌いでいる状態なわけなのだから。


けれど当の本人であるラダは、両手をもじもじさせて気色悪さを垂れ流している。


「だって、吹雪ってばさ。中々僕の所に来てくれないし。僕が会いにいっても、中々会えないし」

――それは、フブキがお前を避けてるからだよ。

とは、さすがにいえない。



誰だって嫌だろう。

会うと満面の笑みを浮かべて尻尾ふってやってくる……まではいいけど、その周囲に花をぽこぽこ咲かせる男なんて。

しかももじもじして、ぼそぼそなんか言ってるだけとか。

私でも怖いわ。


そんなこんなで、フブキは私の方に懐いてしまったわけだ。




片や、恋する大の男。(花付き)

片や、お転婆娘。(と言っても十九歳)


そして一番怖いのが、上司である第三皇子。

ラダにさっさと仕事をさせろと、つめたーい、いい笑顔で迫ってくるわけですよ。


私が知るかぁぁぁぁっ!!















あれから、半年。





「あの、フブキ。僕……」

「あ、ウィリア! 私にもお茶頂戴!」

「……」



とうとう東の塔だけにとどまらなくなったラダの咲かせる花たちは、ゆっくりと皇宮全体を覆いつつある。

その花が結界の維持が出来る特性を持っている事が分かったのが、つい先月の事。

摘み取って王城の敷地外へと持って行くと、瞬時に消えてしまうらしく悪用される心配もなし。

第三皇子はいいました。


「結界の維持が出来れば、どーでもいいや」


……うわあ、諦めたよ、皇子様。

大国の威厳ある王族の住まう荘厳なお城は、今や花と蔓に囲まれたメルヒェンな世界。

いいのかおい。



あれからラダとフブキの間が発展したという事もなく、相変わらずラダは彼女を追いかけフブキは私の所に逃げてくる。


それでも。



最初は逃げまくっていたフブキが、ラダと遭遇する回数が増えたという事は。




「素直じゃない小娘と、ヘタレな魔術師ねぇ」




今日も今日とて、脳内お花畑男が咲かせる花が皇宮を満たしていく。



――そして巡りくる、彼女がこの世界にやってきて二度目の春。

次話、愛莉さんです。

よろしくお願いします(^_^)/~

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