何度も、何度も、
どうも、尖角です^^
本アカも含め、久々にファンタジー系の恋愛を書きました。
ほんのり甘く、でも なんとなく切ない、、、
そんな話に仕上がっていると思います。
少し短いかもしれませんが、よろしくお願いします。
記憶の底に眠る、一つの“思い出”というものが存在する。
それは、前世の記憶であり、私達が生きていくための命でもある。
そんな一つの記憶は、それぞれ持つものが違い、
自分の前世がなんであったかによって、変わってくる。
私の前世は、どうやら“人間”であったようだ。
そして、今の私は“桜”。
千年という長い間 咲き誇ることの出来る、千年桜である―――
私は、丘の上に住んでいる。
そこは町のはずれにある小高い丘で、町を見下ろすにはちょうどいい。
だから、私はこの場所が好きだ。 この場所から見える景色が好きだから。
そんな私は昔―― 桜になる前の私は、ここから見える町に住んでいた。
だから、少しだけかもしれないけれど、知った顔もいくつかある。
だけど、昔の私が死んでから植えられた桜は、
自我を持ち、前世の記憶に気付くまでに相当な時間がかかった。
そう、人間とは違い、 桜は長い時間をかけて、成長していくからだ。
だから、私が“私である”ということに気が付いたのは、少し前の話。
昔の私が死んでから、十数年もの時が経ってからのことであった。
だからか、昔の人間だった頃の私の知り合いは、もう多くはなかった。
昔の私が早死だったのは事実だけど、それでも多くの人が死んでいた。
私は、そのことが少しだけ、ほんの少しだけ寂しかった。
やっぱり、昔の知り合いが春になると今の私の姿を見に来てくれて、
それで「綺麗だね」って言ってくれることが何よりも嬉しいから…。
そんな私は今日もこの丘から町を見下ろし、町の人達を見守っている。
私の大好きだった人達のことや、その子供、その孫の姿が見えるから…。
さて、少し話は変わってしまうが、
私は一日だけ桜の姿から、他の姿に変わることが出来る。
それは、“桜の精霊”と呼ばれたり、“春の妖精”と呼ばれたりもする。
とにもかくにも、私は春に一日だけ、姿を変えることが出来るのだ。
(ちなみに、季節は春とは限らないが、他の生物も姿を一年に一度だけ別のものに変えることが出来る。)
っといっても、「今、違う姿なんだ」
――という事実を他の生物に伝えることは出来ない。
だから、私は“そっと”姿を変えて、その日を無事終えなければならない。
そして、私は毎年、人間の姿に変わることを決めている。
(ちなみに、姿を変えるといっても桜が急になくなるのは不自然なので、身体である桜はそのままその場所に居て、他から存在を確認することの出来ない精神の一部が桜から離脱し、それが具現化されることによって新しい姿を生み出すのである。 よって、桜から他の姿に形を変えるというよりかは、一日だけ本来の身体とは別の身体を使うことが出来るといった方が、より正しいのかもしれない。)
そして、私は例年通り、今年も人間になった。
それは、大好きな人達と、大切な一日を過ごすために―――。
「うむ、今年も綺麗に咲いておるのぉー」
人間の姿になった私の隣で、年老いた男性が嬉しそうに言った。
「そうですね」
それを聞いた私は、姿を変える前の桜を見て そう言う。
「それに、あんたも美しいこと この上ない」
そうやって、私の方を見るご老人。 その顔には、微かに笑みが―――。
しかし、私はそのセリフ――「美しいこと この上ない」
という言葉を、このご老人から何度聞いたことだろうか?
もう、覚えてなどいない。 そもそも、数えてすらいないのだから。
だって、昔の私の幼馴染の言葉を、私が指折り数えたところで、
っといっても、もはや桜である私に指と呼べるものは存在しないのだけれども、 今更 彼から聞いた言葉を懸命に数えたところで、きっと後 数回聞けるのがやっとなのだから、そうやって数えている暇があったら、私はその言葉を永遠に噛みしめていたい。
なぜなら、彼の命はもう限界に近づいてきているのだから―――。
だから、私は今年も彼に逢いに来て、去年と同じセリフを言うのだ。
「きっと、美しいと言って貰えてこの桜も喜んでますよ」
「だから、来年もここに来て、同じことを言ってやってください」と。
だって、貴方が桜に向けて言う「美しい」は、
今の本当の私に向けられた最高の褒め言葉だから。
だから、本当は来年も、再来年も、ここに来て同じことを言って欲しい。
だって、貴方が私に逢いに来てくれるということは、『早死にした私』と『長生きしている貴方』との距離を一瞬で縮めることの出来る唯一の方法だから。
だから、出来ることなら、 何度だって、何度だって私に逢いに来て欲しい。
例え、「私はいつも丘の上にいるよ」と話すことが出来なくとも。
例え、「私は、貴方のことをずっとずっと愛してる」と言えなくても。
例え、『何度生まれ変わったとしても、私は貴方のことが好き』という想いが届かなかったとしても、きっと私の何処かから伝わっていると思うから。
だから、私は信じているよ。 以心伝心だって。
私達の心は、一蓮托生だって信じてるよ。 今もまだ。
幼き日に誓ったことだけれど、
貴方は遊び半分で「大人になったら結婚しよう」って言ったかもしれないけれど、それでも私は今もまだ 貴方のその言葉を信じてる。
だって、そうでしょ?
貴方が今もまだ結婚しないでいるのは、そういうことでしょ?
きっと、貴方も心の何処かで私を忘れられないんだと思う。
だって、私もそうだから。 だって、私自身 貴方を忘れられないから。
だから、私は貴方がよぼよぼになって死にそうでも、愛しています。
貴方が私を愛してくれていると思うだけで、私は十分 幸せだから。
だから、例え この口から貴方に「好き」ということを伝えられなくても、
心の中で、何度だって、何度だって、私は貴方に向かって叫び続けているの。
また、いつの日か、
貴方と二人で笑って過ごせる日が来ると信じているから…。
一生一緒、 死してなお。
そんなことをイメージしつつ書き上げました。
それでは、次話。 篠宮さんの作品をお楽しみください。