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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
八月の鳴嶺女学院にて
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ただしロリコンではない

 二日目である。

 昨晩はよく眠れた。しかし、何度か昼寝をした事はあるが、こうして一晩ここに泊ってみると、朝は決して弱い方ではないのだが、どうも調子が出ないというか、狂うな、というやつである。

 これは朝の日課である自販機さんが、この学院寮には存在しないという至極単純な理由によるもので、昨晩堅城に御馳走してもらったラーメンが不味かったというのは関係ないはずである。

 いや、不味いというほどのものでもなかった、ただお勧めだからと言ってせっかく出来上がったシーフードヌードルに、あの女は牛乳を流し込んできたのである。ご馳走してもらっている手前文句も言えないが、その最後のひと手間がかなり余計だったと、後で会ったら言ってやらなければならない。これで腹の調子まですこぶる良くない状態だったなら、さすがにアレも原因であることを疑わざるを得ない所なのだが。

 そんな事は余談として、問題は自販機さんである。さりとて我ながら、何を考えているのだろうか。二週間ばかり家を――俺の家ではないのに今は広津が居候しているという勝手極まりない状況だ。この状態で何の連絡もなく姉が帰宅したらどうなるのか、考えない方がいいがそう言う展開が可能性としてゼロではないという事は何度も自分に言い聞かせるだけでなく広津にも言ってあるのだが、段々心配になってきた。しかしこの件で悩んでも仕方無い。ただ、こうして離れているだけで、いい大人が何を考えているというのだ、自販機さんに会えないのが何だか残念である。

 そこが問題だ、全く持って情けない。しかし何となくこうなる事は解っていた。その点について、対策を講じるという事も念頭には有った。それで答えが見つかったわけではないので、こうして煩悶としているのだ。一定に保たれていた生活のリズム、そのサイクルのルーティンに。俺の場合は自販機さんとのやりとりが日課として身に染み付いてしまっているというのが、こうしてみてやっぱりか、と実感できてしまった。

 自己嫌悪、するほどの事でもないか。実際に携帯ゲーム機の恋愛ゲームなんてン十年前からあんな感じだったはずだ、俺一人がおかしいとかそんな。

 ――何を今さら。

 ああ、そうなのだ、何を今さら、である。こうして朝目が覚めて、部屋の景色がいつもと違うのに気付いて、さて顔を洗うのには洗面台に行かなければいけないが、こうして景色の違う部屋の中で俺の意識はそこまでたどり着くことが出来るのだろうか。そういう薄らぼんやりとした《日課を済ませる》一連の行動で、とりあえず結果的には何の問題も障害もなく辿り着いた洗面所で、顔を洗って目を覚まし、朝ごはんをどうしようかと考えたところだった。そういえばここには自販機さんはいない。当り前である。

 ――何を今さら。俺は二次元大好きなのだ。二次元美少女が大好きである。ただしロリコンではない。それだけは重要な点である。

 例えば鬼夜鋸のイラスト諸作品に見られるぷにっとした肉感の実に柔らかそうな、それでいて繊細で華奢なラインで描かれた女の子たちは、絵柄としては俺の好みではあるのだが、ぶっちゃけロリ臭いのである。

 だから出水の奴にいろいろ言われることになるのだ。お前だって鬼夜鋸先生のファンだろうに。それはいいとして、今後の予定である。その鬼夜鋸先生を、特別講師としてここに呼ぼうという話を個人的に考えていたのだった。広津はまだ呼ばなくていいだろう。あいつはうるさいからいけない。

 うむ、今日の予定は昨日出しておいた宿題を回収して、もう後は考えていない。昼頃に部室へ顔を出せばいいだろう。

 さしあたっては、自販機さんで一服する代わりに談話室で紅茶でも淹れて飲むとしよう。部屋を出て廊下を進む。談話室は、中でいくら騒ごうが戸がしまっている限り外に喧騒が漏れる事はない。だから通り過ぎるだけでは実際、中に誰がいるかは解らない。

「あ、せんせ。おはようございまーす」まだ泊まってるだろうとは思ったが、先に起きているとは。しかしソファーでは饗庭が首をもたげ、幸せそうな寝息を立てている。無理やり連れてこられたんだろうか。

「お、おはようございます……先生、朝早いんですね」新顔である。最も、寮で顔を合わせるのは、という意味でだが。

「松風、お前本当に泊まりに来たんだな」長い黒髪が寝癖で所々ハネている。いかにも寝起きな感じである。

「あ、は、はい。一度家に帰って、準備してから来ました。そっか、先生もいるんだよねここ。忘れてた」

「あらら、寝起きを見られてしまいましたね、まっちゃん」

「千枝、からかわないで、勘弁してよ」

「そう恥ずかしがらなくてもいいだろう。……なんか修学旅行の朝みたいなやり取りだな。この新鮮味も恥ずかしさも、やがて失われるんだけどさ」

「せんせ、朝からテンション低いね、地味にひどいこと言ったぞ今。なんか今日はちょっとご機嫌斜めかな、枕が変わって寝れなかったとか」

「枕がどうってことはないが、確かにちょっと沈んでるかも知れない。安心しろ、昼頃には浮上すると思うから」

「あ、先生、紅茶淹れてあるんですけど飲みますか、私カップとってきます」

「そうだ、ちょうど紅茶を飲もうと思ってたんだ、頼む」

「お安いご用です」そう言って食器棚からカップを取ってくる松風は、ルームウェア姿だが優雅なものである。黒髪ロングの後姿が美しい。ひざ裏のラインとか、実に綺麗だ。と言うのも、出水と饗庭のものと違って丈の随分と短いショートパンツタイプだからだ。普段見れないラインが露になっている。カップをテーブルに置くと、出水が紅茶を注いでくれた。連係プレーである。

「二人ともありがとう」

「どういたしまして」

「せんせ、さっきから、まっちゃんの脚見過ぎだぞ」

「……そうだな、さすがにいつまでもまじまじと見てたら失礼だ。しかし歩いてる時の筋肉の動きとかくっきりしていてな、特に膝周りがかっこいいよな」

「先生、そう言う事あんまり言わないでくださいよ、今は寝ぼけてるって事で見逃してあげますけど」

「……悪気はなかったんだ、申し訳ない松風」

「いえ、冗談です。自分でこういう格好をしているわけですから、ね。でも、素敵な男性だと思うのに、何かあんまり女っ気とか、無さそうですよね先生って。むっつりなんですか」

「枯れてるとかジジ臭いとかよく言われるじゃないか、俺は。ちゃんと俗に言うエロ本だって読んでるぞ、ここには無いが」

「せんせ、昼までお部屋で寝てた方がいいんじゃないかな、ちょっとネジが抜けてるぞ」

「へー、どんなの読んでるんですか」

「まっちゃんもぐいぐい行くね。面白がってちゃ駄目だってば」こういう時は出水は俺を庇ってくれる。よく解らない奴だな。自分がからかってる時は良いんだろうか。

「俺たちの部活は何だったっけ出水。割と気にしなくても平気だって言っただろう。――そうだな、俺も百合が好きだったりするぞ。TSFとかも面白い。まあ、よくある話だ、ライトノベル何かでも幾らでもあるだろ。ただ、そういうのってストーリーを意外と重視してしまうから、エロ漫画として純粋に楽しんでいるかは微妙な所だな」

「へえ、結構濃い趣味ですね。先生とこういう話をするのって、ちょっとドキドキします」

「じ、じゃあ、私も聞くぞ、せんせは何フェチなのかな」

「手とか脚とか、そういうラインは描いてて楽しいから好きだな。そういう感覚ってあるだろ出水も」

「ああ、それなら私は乳、尻、胸、お腹。胴体のラインが一番好きだな。まっちゃんはどこが好きだい」

「髪の毛……あと、指先。胸も好きだけど」

「ほら、と言う訳で皆HENTAIなんだな、良かったじゃないか出水」

「やっぱり部活仲間ってこういう会話で盛り上がらなきゃだよね」

「朝からなんて会話をしているんだろう、私たちは」

「言っただろ、恥ずかしさなんて失われるって」

「それは、何か釈然としません……」


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