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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
八月の鳴嶺女学院にて
82/92

えっちな単語調べてマーカー

「ごめん、調子に乗りました」出水は床に正座である。何で部活始動って記念すべき日に、部長が正座しているのだろう。答えは簡単、石動が怒って正座を命じたからだ。

「それでな、あれだよ、原稿用紙の使い方についてってのが本題なんだから。今回の何か書いてもらうのも、書式をそれっぽくな」

「解り易く相手に伝わるように、そう言う事ですね」宗谷が答える。

「でもな、まだその前に。この文章に限らず日本語で書く場合はほぼ必ずってな具合に守らなければいけない規則ってのが有るんだな。それについても説明しとかなきゃ」

「それは大丈夫じゃないかなぁ」

「基本的な事ですからね」確かに、松風や御厨なら大丈夫なのだろうけど。

「うんまあ、そんなのいらないよって思うかもしれないけど、とりあえず話を聞いてくれ。とは言え。とは言え、もう解ってる事とは思うんだよ」

「でも、話したいんですよね、大丈夫ですよ、ちゃんと聞いてますから」

「そうだな。じゃあ、解ってる事とは思うんだけど、一度再認識と言うか再確認だ。今回使ってもらうのは、レポート用紙でも白紙でもなくて原稿用紙だな。何かもうめっきり使わないんじゃないかって感じもするけどさ。だが、これについての書き方ってのが、恐らくこの國の書き方のルールとしては、正攻法な感じ。で、例えば解りやすいものだと、一マス一文字とか」

「せんせ、それは――」正座の出水は、目を丸くしている。

「解るよ、きょとんとしてるけど、もっともだよな。言いたい事も解るけど聞いてくれ。一マス一文字、これは知ってるだろう。これは説明書の文章みたいなもんだ、解り切った事だけど書いてないと、問題になるから。これは食べ物ではありませんとかな、見ればわかるだろうって事だ。でも改めて、インプットされたはずだ、情報の上書きだ。一マス一文字、再認識できたな。それで、段落を変えていく時には一マス下げます、だよな。それを説明しなきゃ。で、縦書きも横書きも、この國ったら両方あるという特徴も持ってるけど、とりあえず縦書きでの場合をイメージしてくれ」

「縦書きが正しいんですよね、昔の文法に則って考えた場合は」

「そうだな、多分。詳しい事は知らないってば。で一マス一文字、楷書体で、筆記用具は、鉛筆万年筆など指定された筆記用具を用いて、誤字・脱字・当て字などの無いように注意して書いてくれ。こんな感じ。そして、実際にこの何か提出したりする時には、インクで書かなきゃいけないと言う場合が多い、かな。だから小説賞とか送る時ってそんな感じなんじゃないか」

「万年筆かぁ。筆記用具も大事な所ではこれって決まってるのかな」

「例えば。マークシート問題の場合は、鉛筆もしくはシャープペンシル、芯の濃さもできればこれにしてくれって指定があるだろ。そんな具合だ。ちなみに俺は指定された濃さで塗り潰してなかった。だからって読み取りに誤認識されたりとかはなかったはずだ、でなきゃ今ここには立ってないからな。でも原稿用紙のマスを塗りつぶすなんて事はしちゃいかんぞ、面白くないからな」

「黒なだけに面白くない、なんちて」

「出水、廊下に立ちたいならそう言ってくれれば、先生は喜んでそうするよ」

「ごめんなさい」

「それから、誤字・脱字・当て字っていうのは、お前ら笑ってるけれども、結構書けないだろ、書けないぞ、漢字ってやつは。そうだろ。曖昧な事にはしてはいけない。その都度もし分んなかったら辞書を引くとかする癖をつけておくと、この先結構重宝するかもしれないぞ、疑問に思うのは大事だからな。そうだ、お前ら小学生の時に辞書学習とかやった事あるのかね」そう言うと、全員手が挙がった。それは良い教育を受けてきたものだ。小学校の時点で行うそう言う経験が、授業が、何のために有ったのか、改めて考えてみてほしいのである。俺みたいなアナクロな人間は特異なのかもしれないが。

「辞書を引く時間は無駄な時間などでは決して無い。これは俺個人の意見として断言しておく。ただ、さっき言ったみたいな論文を書こうってんじゃないから、根拠とかは特に無いんだな、とにかく言いたい事は、やっぱり紙の辞書を引くのが一番良いぞって事だ。お前らは手間に思うかもしれないが、慣れれば電子辞書なんかより情報収集率は上がるんだ、本当に必要なことしか書いてないからな、辞書は」

「それで、えっちな単語調べてマーカー引いておいたりするんだよね、私はお姉ちゃんの辞書を借りたりして調べてるから、そう言うの見つけるのも面白いよね」と、柘植が楽しそうに話してくれるんだが、こういう無邪気さはどう対応すればいいのか解らんな、出水の馬鹿と違って。

「せ、せんせ、瑞葉もえっちとか言ってるよ、正座しなきゃ駄目だよねこれは」案の定、出水が柘植を巻き込もうと讒言を謀った。仲間が欲しいからって、姑息な事をする。

「え、ご、ごめんなさい先生」やっぱり素直な柘植である、そういう心算で言ったのではないので、恥ずかしそうにしている。

「いや、柘植よ。辞書ってのは、そういうもんだ。教科書にだって落書きするし、教室のホワイトボードマーカーに油性マジックペンを混ぜて先生を陥れたり、プールに池の魚を放流してみたり。そう言う悪戯がやれるうちにやっておいたりするのも、また青春なんだな」

「先生ってやんちゃだったのかな」

「結構ないたずら坊主だったんじゃない」

「そう――だな、高校の時には教室のガラスを一日に二枚、事故で割った事がある程度には、やんちゃだったかもしれない。まあそこは男子特有の粗雑さとでも思ってくれ、俺が特別暴れてたって事じゃあ無い」

「あやしい……」妻木はずっとジト目で俺を見ているが、そこまでせんでもよかろうに。目が疲れるぞ。

「まあ、柘植は特に悪い事を言った訳ではないさ。正座したかったらしてもいいけど」

「じゃあ、しません」笑顔で即答。素直なのは美徳だ。出水が不公平だとか文句言ってるけど、調子に乗ったという自覚があるのに同じ事を繰り返すタチの悪いやつは正座がお似合いだろう。しかしな、正座を命じたのは俺ではなく石動なのに、なぜ俺に反駁するんだろう。それこそ不公平ではないだろうか。まあ、戯れである。気にしたら負けだ。

「お前たちにとっては辞書なんか重くて持ち歩けないかもな。しかし時代ってのは変わってるんだ、今の辞書は軽いし、凄いんだぞ、丈夫で薄くて防水で。そういう紙が開発されたのがでかいよな。もちろん携帯とか、スマートフォン使ってもいいよ。あるんだろ、そうした機能とかさ。それから、漢字の話に戻るが、常用漢字の範囲外――つまり新聞とか普通の週刊誌で使われてる漢字に関しては、平仮名で書いたら恥ずかしい。ええっと難しい字、例えば何がいいかな、一家団欒、団欒の欒とか多分常用漢字だから、書いてくださいね。平仮名で書くと変だよって事だな。あと、人名もそうだ、俺はちゃんとお前らの名前だったら、漢字でも書けるぞ。あとはそうだな、枚数が多い場合、十枚以上そうなった時に、最初の一行目って言うのはそこ空白にして、二行目にタイトルを書いて、さらに一行空けて名前書いて。書く感じだ。で、原稿用紙のマスの使い方だ、参考に。これが記号に関してだけは、例外だ。一マスじゃなくて、あのあれ、ダッシュと、三点リーダとか、あとは算用数字などは、それぞれに従ってやってみよう」

「先生、ホワイトボードがあるんだから使ったらいいじゃないですか、せっかくだし」そう言って松風がキャスター付きのホワイトボードを引っ張ってきてくれた。

「ありがとう、じゃあちょっとこれに書くけども。――これのことな。ダッシュってのはこれ(―)ね、棒線。棒線だけども、これは必ず二マス使う。縦書きの話だから、二マスに縦に繋げて書いてくれ。三点リーダてのはこれ(…)のことなんだけども、こっちは六つ点を打って二マス使う、そういうルールなんだな、基本的には。ただし、論文のスタイルって言う場合には、論文にはこれの登場する余地ってのは無いわけだ」

「え、何でですか」

「何でか、うん、何でだろうな」

「それは説明してほしかったなぁ」

「まあ、感覚の問題だと思うぞ。三点リーダは使わない、というか使っちゃ駄目だろうな。これってほら、余韻だとか、余白を表す効果を持ってるだろ。論文で余韻なんか出されても困るだろうからな。読み手に迷惑かけちゃいかんって言ったろ、そう言う繋がりだと思っておけばいい。しかしだ、これダッシュはある程度だったら使えるかもしれん、括弧の代わりになったりもするから。それでもし仮に使う時には、こう、二マス使えばいいんだな。それと、アルファベットの小文字、これは原稿用紙の中に無理やり詰め込むなら一マスの中に二文字入れても大丈夫だ」

「そうなんだ、だから一マス一文字なんて先に言ったんだね」

「原稿用紙で英単語書いたりしたことなんて無いよね」

「そうだな、見やすくするって事が大事。で、さっきも言ったか、段落字下げって言うのがあるな、一つの段落を作った時には必ず、冒頭の一マスを空ける。これもまあ解ってるだろう。ここは大丈夫だ。で、ここ最近は曖昧になってる事について説明しなきゃな」

「曖昧……」饗庭がぽつりと反応した。

「これ、禁則っていうのが有るんだな、やっちゃいけない事だ。で、禁則は主に二つあって。行頭禁則と行末禁則ってのがそれな。まず行頭禁則って言うのは、原稿用紙見た時の一番上の段、この横列全部に関して、行末禁則って言うのは原稿用紙の一番下の段に関する事だ。この行頭禁則に関しては厳しい、これは絶対に厳守。対して行末禁則っていうのが、やや緩くて、人によって違うんだよな、曖昧ってのはここだ」

「人によって違う、とかって大丈夫なんですか」

「曖昧、つまり意外と適当なんだ。だから具体例を挙げる、マス書くぞ。――これ、こうマスあるだろ。えーっと、文が繋がってくる――今日は部活動です。――仮に文がこう繋がってきた時に、一般的には、丸って言うのはここに打つよな。です。ここで終わった場合にはその字の下に。で、もし一マス。超過した時に、一番下で文が切れる時に、一番上に来て丸を打ってはいけません。行頭禁則って事だ。――今日は部活動です

。――こう次の行の頭に丸、これは禁止だ。こういう時には、行末処理と言って、マス目の外に出して丸を打つように。纏めると、文の終わりで丸を打つ場合には、行頭に書いてはいけないので、その下のマスの外で処理をするって事だ。閉じ括弧も外に出しておこう。で、開く方の括弧が来る時は下を空けたまま、次の段落へ移動して大丈夫だ」

「そか、せんせの場合がそうなんすね。でも――」

「そうだ、お前の場合はってのが有るんだ久家。これがな、皆も聞いてる時に思った奴がいる事だろうけど、一番下。中に入れても良いって人いるだろう。しばらくはそう言う風にしろって教えられてたらしいけど。だがこうすると、見辛くなるだろう。最後の一マスの中に丸とか括弧とか入れると、見辛くなる。極力外の方に出した方が見映えは良いはずだ。まあ、やりたいようにやってくれていい。後は、ちっちゃい文字がある。よ、とか、や、とか。これは別に上に来ても構わないんだぜ。意外に思っただろ、だってお前らほら、今だいたいもう、行頭禁則処理ってワープロソフトだか、何だかが勝手にやって、段落の後の方に行くようになってるんだけども。これは原稿用紙で書く時には、文字は上に来ても良いんだな。ただまあ、これもやりたかったらやってもいい。私は、上にちっちゃいよとかやとか来るのは感覚的に嫌だ、と思うんだったら下に出しても構いませんって事。てな感じで行末は緩かったな。ここら辺は散らかってて大丈夫、とにかく上だけ奇麗に、ってな訳。ただ行頭だけは徹底的に奇麗にしないと、これは、一発でアウトだ。厳しいよな。気をつけろよ。あとは、えっと、良く間違えがちなやつってのがこれかな」

「ああ、それか」

「それ、って何だっけ、読みとかあったっけ」

「まあそうだよな、こいつは単体では機能しない。これとか、それとかしか言い様がない。《々(ノマ)》とか言うような奴だ」

「――ノマ、ああ、確かに」

「これも、行頭に来てはいけない奴なんだな。但し、固有名詞の場合は大丈夫らしいぞ。佐々木とか代々木って場合だな。これで続いてきた場合には行頭に来ても構わない。その場合は佐々木、代々木みたいに三文字繋がって一つになってる扱いだからって言ったらいいのか。でもこれが日々、だとか、木々、人々って言う風に、これが行の中で上から繋がっている時にはいいんだけど、この繰り返しの記号ノマちゃんが、段落の頭に来るようになっちゃった場合は、この記号を使わずに元の漢字を使うのが正しいやり方なんだな。面倒くさいけど、《日日》《木木》《人人》こんな感じ。これが原則だ。言われたとおりに決まりを守るのも大事、ただ、めんどくせって時には、文字数をコントロールすればいいんだな、これがテクニックとか言うものらしいぞ。禁則に引っ掛からない、そうならないように適宜、文字をこの行の中で処理仕切るんだ。解るか、言葉を言い変える時、文字の表現を変えたり、なんとかそうならないようにしていくって方法だ。そこはお前らがご自由にな。とにかく、守らなきゃいけない事は、行の頭の所をきちんとルール通りに」

「原則って言う割には、めっちゃアバウト」

「それじゃ最後に、句読点に関して説明して終了だな。これ、句点、丸の打ち方で迷う事はないはずだな、文の切れ目。逆に読点の場合は迷う事があるよな。句点が丸とすれば、こっちは点だ。受け売りだけども、これを打つ場合の目安を。点の打ち方で迷った時には、小説は別だぞ、小説とかは別だ。あくまでさっき言ったスタイル、論文っぽいのを書いている時に、どこで点打ったらいいか判らないなって自分で思っている。そういう時には、文全体を書き直したほうが吉だ。その一文全体、その部分を丸ごと。と言うのも、曖昧だからだな」

「出た、曖昧」

「自分で書いてて、良く解らない文を書いてる時、これ点いるのかな、いらないのかなって迷った時って言うのは、もしかすると文が、どこかで切れているはずなんだな。だから、文全体を書き直す時に主語述語修飾語とかその辺りで関係を直さなきゃいけない。点打つのに迷ってる文だったら、迷わない文に書き換える。その方が、こういうスタイルの場合には良いんだな。これが、英語とかは点の打ち方が文法で決まってるだろ、それだけ言えば簡単って事になるんだが、日本語には点の打ち方にルールは無い。ただあくまで見易くするとか、そういう意図のために使うものだからだ。必要だと思った所に打たなきゃいけない。で、原稿用紙の時に、点があまりにも多いと見辛いよな。つっても、そこ感覚の問題なんで、困ったら誰かに聞いてください。基礎的な事はこれでまとめておこうかな、俺も曖昧だから。間違ってたら教えてくれ」

「そうか、やっぱり読点多いと読みにくいのか……」饗庭が真面目にうなり始めた。読点打ちまくってるんだろうか。別にそれでもいいと思うけどな、俺は。

「もう一つ余談だ。推敲を重ねていく時、要するに文章を均整取れた型にしていく時には、短くなる事はあっても長くなる事は決してない、って言った文豪がいるが、論文だったらそうかもしれない。誤解無く簡潔に。俺もそれは正しいと思う。でもな、お前ら小説書く時に、誤字脱字とか探すのは良いけど、推敲なんてしなくていいよ。全部感覚の問題なんだから。最初の表現に立ち帰るとそれが一番しっくりきたなんて、良くあることだ。自分の感覚を信じろ」

「うわ、良い事言ってるようだけど中身すごい適当だ」


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