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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
八月の鳴嶺女学院にて
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その調子で頑張りましょう

 このままの扱いだとさすがに可哀そうなので、妻木にもう一度自己紹介をさせた所。

 こいつはアニメだとか以外に、以前持ってきてたようにぬいぐるみとかも好き――その割にはアレは扱いが酷かったが――で裁縫が特技、コスプレ衣装とか演劇部の小道具とかも作れるらしい。自分で作れるというのは羨ましい、コスプレがどうと言う意味ではない。それを聞いて、俺は美術の授業で、絵ばっかり描かせてないでもっと別の事を、何か造形でもさせて見ようかなとも思ったが、しかしそっち方面に俺はセンスがあまり無かったりする。まあ、二週間くらいであればそういう授業を試しにやってみるのも有りだろう、これから芸術の秋とかいうのがやってくるわけだしな。多分こいつらなら付いてきてくれると思う。或いは小学校の時を思い出すかもしれないが、とりあえず粘土でなんか作ってみろって言ったら、何を作るんだろうか。そんな事を考えるのも日々の楽しみである。それにしても、妻木は演劇部の小道具係の助っ人なんかやらされるのに、どうして部活には入っていないのかと言えば、個人でふらふらしてるのが好きだから。何で今回部活に関わることにしたのか、出水たちが一緒だから逆に入らないという理由が見つからない。そんな感じである。もちろん、自分たちで設立した部だから緩く自由に動ける点では、部活に入ってないときと大差ないだろう、放課後集まってまったりする以外に、それだって普段の日常の延長みたいなもので。この通りやってることにも違いはないからである。

「じゃあ次は私ですね」元気に立ち上がったのはツインテの柘植である。小柄である故に、この髪形は実に良く似合っている。無邪気で子供っぽい感じが、なかなか好感触。しかしそれを結んでいるリボンには髑髏を模したストラップが付いているのが、ちょっとしたアクセントと言うものだろう、。

「瑞葉、よろしくー」出水はしゃっちーとかではなく、名前で呼んだ。たた、他の連中に対しても毎回あだ名で呼んでいるわけではないが、音が似ているものはそれとなく区別しているのだろうか。はっちーしゃっちー、確かに並ぶと何となく被って聞こえる。名前は瑞葉だから、みっちーとかみっちゃんでもいいかもしれないが、それだと饗庭のいっちゃんともはっちーとも被るしな。って、何の推理をしているんだ俺は。

 俺の周りで今のところあだ名があるのは、コーヒーの人――鬼夜鋸こと香芝、相方こと広津、あと会社の新人君か。あんまりあだ名って感じではないが。ちなみに彼の本名は新田豪人(にったひでと)である。間違っても新人(にいと)とかではない。

「どうも、柘植瑞葉です、こうして皆で集まって食べたり飲んだりするのが好きです。私はね、こうして人と話したりするのが楽しいんだよね、えっと、趣味って言ったらカラオケとかになるのかな。あと人と会っていない休日とかには、目的も特になしに、町をぶらぶら散歩したりして、そうして何気なく見つけたお店とかに立ち寄って何か食べてみたり、そこで小説とか読みながらゆっくり過ごしたりしてます。あ、ラノベも読むよ。そしたら、次に誰かを誘って一緒に行ってみたりとか。でも、食べ歩きブログとか書いてるわけじゃないですー」

「それは、何て言うか、羨ましい趣味だな、何がとかじゃなくて、羨ましい」

「瑞葉はたくさん良いお店知ってるんだよ、お財布の心配はしなくていい所ね。お休みのうちに私たちと一緒に行こうよせんせ」

「……お前に財布の心配とか言われるの腹立つな。柘植はなんでブログとか書かないんだ、そういうのも面白そうじゃないか」

「あー、それはですね、私苦手なんですよそういうの。解らないとかじゃないんですけど、苦手なんです。情報系の授業も結構危うい成績だったりするんですよ、あと文章書くのも苦手なんです。ブログなんてとてもとても。あ、先生も携帯持って無いんですよね」

「も、って事はお前持って無いのか、携帯」

「あ、いえ、持ってはいるんですけど、今こうして学校に通ってる間は特に使う機会もないじゃないですか、自宅でメールの確認とかはするけど、それほど急な用事とか連絡ってする人もいないから。今日も持ってくるの忘れちゃいました。全然携帯じゃないですよね。でも、この先はそうも言ってられませんよね、だから、そうなると先生ってすごいなーって思います」いつの時代になっても、こうしてその時々の時代にそぐわない、こういう人種も中にはいるって事なのだ。改めて柘植に親近感が湧いてきた。

「俺の場合は、そうだな、最初から興味が無かったから持たされてもいなかった。必要無いなら無いで、何とかなるもんだよ。困るって事もあんまりないな、一応パソコンだけは使えるからさ」

「なるほどです、あと、私はカラオケで皆が歌うアニソンが気になって、そこからアニメを見てみたりしてますね」

「とりあえず、一つ、お前らの話聞いてて思うんだけども、例えばお洒落な店とかで食べててもアニメの話とかしてるのか、妻木みたいに」

「あはは、そう言う時もあります。それじゃあ、私はこれで」そうして席に着く柘植。妻木がジト目で俺を見ているが、それも気にしない。

「んじゃ、えーっと、久家椎奈です。あたしもそこの妻木と映画見たりカラオケ行ったりしてます。でも、あんまりアニメは、こいつほど見てなかったりするので、たまに話についていけなかったりする事があります」

「お、何か椎奈がていねいだぞ」久家の事もあだ名ではなく、名前で呼ぶようだ。しかし出水が言うように、けっこうマニッシュな性格の久家であるから、今こうしてですますで喋っている事自体、奇妙なものがある。見た目は清楚なお嬢様っぽいんだけどな、こいつは。

「おい何だよ千枝、あたしは意外とさ、こういうの苦手なんだよ。あ、ごめんなさい先生」なるほど、少し挙動不審である。

「いや、別に俺相手に畏まらんでも、今さらだろ」と、俺はリラックスを促す。

「でも、こういうの苦手なんすよ、改まって自己紹介なんて、恥ずかしいじゃないっすか」そんな事を言いながら、若い女の子が腕を組んで仁王立ちしてるんだが、どの辺りが恥ずかしいのだろうか。実に堂々としたものである。

「先生、今どの辺りが恥ずかしいのかって思ったんだろうけどさ」

「鋭いな、その通りだぞ」

「あのね、あたしは緊張するとこう、腕組んで落ち着こうとする癖があるみたいでさ、ほんと、そろそろ顔とか赤くなってきて、ヤバいから、座ってもいいかな」まあ、確かに腕を組むと落ち着くっていうのはあるかもしれない。昔、小学生の頃に先生に説教されてる最中腕を組んでいたせいで、追加で鉄拳制裁をもらったのを今でも覚えているが、そんなに腹が立つ事だったのだろうか。確かに失礼だったと反省する点ではあるが。

「なるほど。でもみんながちゃんと立ってやってんだから、お前も頑張ってみようぜ」

「わりかし意地悪なんだな、秋聞先生」だんだん、もじもじし始める久家。本当に恥ずかしいらしい、意地悪とは言うが、しかし久家のこういう姿は新鮮なので見ていて面白い。

「椎奈、先生は意地悪だよ」

「すごい意地悪だよ」

「ドSだよ、ドS」

「ほら、頑張れ頑張れ」

「うう、えっと、これあんまり言ってなかったんだけどさ、皆の話聞いてたから言うんだけど、あたしは昔から、少女漫画とか、恋愛小説とか、ファンタジーだとか、そう言う女の子っぽいのが好きなんだ、あと、可愛いものとかも大好きなんだ、妻木のぬいぐるみとか譲ってもらったりしてさ。わ、笑っちゃ、やなんだぜ」言いながら、真っ赤になっている。そう言うお前が一番可愛いんじゃないのか、とか俺が言ったら大変な事になりそうだから黙って頷いておこう。しかし松風はお構いなしに、椎奈かわいすぎる、とかずっと言ってる。とりあえず君は落ち着こうね。

「笑うわきゃないだろ。ところで、前に見せてもらった時のお前の私服ってけっこうハードな感じだったけども、何か楽器とかやってたりするのか」

「や、あれは好きで着ているだけで、いや、ロックとか好きだけども、人前で演奏とか無理だしあたし」

「カラオケは行くのにか」

「そ、そりゃ別だよ先生、今ここで歌えとか言われたらあたし恥ずかしくて泣くぜマジで、ほんと許してくださいよ」なるほど、そう言う所は、次の石動と同じタイプなのか。そのうち克服してもらいたいものだけどな。意外と慣れてしまえばどうってことないぞ、と。

「解った解った、じゃあ次行ってみようか」

「こほん、えっと、石動穂と申します、この同人活動研究会の副部長を――」

「すいちゃん、研究部だってば」もう良いだろどっちでも。あと何回そのやり取りをするつもりだ。

「あ、すいません、同人活動研究部の副部長を務めさせていただいてます。至らないところもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」そうしてお辞儀をすると、この場の全員もよろしくお願いします、と一礼。あっという間に、真面目な会合のような雰囲気に変わった。これが石動の作りだす空気と言うものか。

「私自身は、アニメや漫画にはあまり関心が無かったのですけれど、でも久家さんのように、少女漫画だけは少し読んでたと記憶しております。皆さんには釈迦に説法かと思いますけれど、少女漫画にもいろいろありまして、私は舞台が英国だったり、仏蘭西だったり、そういう異境とか、やっぱりファンタジーと言うものには、幾つになっても惹かれるものがあると思います。いつか、白馬の王子様が迎えに来てくれるとか、ね、久家さん」

「ええっ、え、あ、いや、その、……そ、そうだね、憧れるよね、うん、解るよ穂、ははは」あの石動が、久家をいじった。真面目な雰囲気が一気に和やかになった。人心収攬とはこの事か、出水と付き合うようになって、しっかりこういう付き合いを吸収してくれたようである。

「最近は専ら、ライトノベルを読むようになって、またファンタジーと言うものの魅力を噛み締めている所です。異世界とかもいいですよね、自分もそういう冒険をしてみたいなって気分になってきます」素直な感想だ。作品を楽しむなんてのは、それでいいのである。細かい事なんかどうでもいいのだ。

「じゃあ、次はここの皆でTRPG(テーブルトーク・アールピージー)とかやってみようかすいちゃん」

「え、何ですか、それは。ロールプレイングゲームは解りますけど」

「そんな事をしたら本格的に何の部活どうだか解らなくなりそうだ」確かに面白そうではあるが、実際にこの初心者だらけでやろうとしたら、準備とか大変じゃないか。俺は知っているだけで経験はない。大学にはそう言う専門のサークルがあったという事も何となく記憶にあるだけだ。

「えっと、とりあえず、私は皆さんとこうして一緒にいれるのはやっぱり、とても素晴らしい事だと思います。副部長なんて私にはもったいないですけれど、頑張りますね」そうして皆に拍手されながら着席。一発芸してくれとか言ったら、やってくれたかもしれない。

「それでは、どうも、部長の出水千枝です。同人活動研究という看板の部活ではありますが、皆とこうして一緒に過ごす時間が増えたら嬉しいなと思って、まあ見ての通り皆でお茶なんかしておしゃべりしてればそれでいいかなって言う部活です。先生、ごめんなさい」

「知ってたっつの」

「でも、もしかしたら同人誌とかちゃんとつくれるかもしれないっていう希望はあります、何の作品にしようかって言うのは、皆で決めなきゃいけないけど。うちの学院の漫画研究部と違うのはそこかな、みんなで楽しく、お絵描きとかしようぜってスタンスなのね、せっかく顧問が秋聞先生なんだから、きっと大丈夫だと思うけど」

「どうだろうな、言ったと思うけど俺だってそういう経験はないんだぞ」やっぱり、鬼夜鋸先生をここへ引っ張って来てもいいんじゃないだろうか。俺がちゃんとしてやれよって自分でも思うんだが、広津の相手をした時のようにこいつらと付き合えるかと言ったら、やっぱりちょっと待てと思う所だ。

「はっちーが言ってた同人音楽とかも、面白そうだよね。そうなるとそっち分野は私たち完全素人になるわけだけれど」

「それだったら、軽音楽部のバンドの生徒にでも応援頼めばいいんじゃないか。詳しくは知らないけど」となると、広津の奴も同人音楽に関わったりしていたはずだ、CDのジャケットイラストを描いたり、そういう交流の広いやつである。広津なだけに。夏休みだし、仕事も済んで暇してるだろうし、――香芝はどうか知らないが、呼びつけられたら呼ぶとしよう。話聞くだけでもためにはなるだろう。

「バンドやってる友達は私にはいないよー、残念ながら。それはまた後で聞くとしよう。私の趣味は皆もう知ってると思うんだけど、最近はネットゲームをやってたりするんだな。RPGじゃなくて、FPSってのね。これはナッキーやそーちゃんにもお勧めしたいところだな」

「え、つまり、どういうことかな」と、宗谷が返す。

「ファーストパーソン・シューティングゲーム。簡単にいえば、ドンパチして撃ち合うゲームだね、サバイバルゲームのゲーム、って感じかな、ちょっとややこしいけど」

「ああ、それなら、やれるかも」

「あとで教えてー」

「了解した。そんな感じで、私はなんでもやる感じ、でも小説とかはちょっと書けない感じかな。漫画もあんまり描けないな、いつも一枚絵だね」

「なるほど、それは俺も同じだ、漫画なんかかける気がしない。そんなこと言って、まあ、テストで四コマ漫画描かせたりしたが、あれはちょっとした遊び心だ。改めて言うが皆のあれは良く出来てたと思うぞ、その点心配いらないかもしれないな、お前たちは」

「おー、先生のお墨付きだぞ、これは励みになるね。そいじゃ、私もこの辺で、着席します」

「それじゃ、トリを務めるのは饗庭だ。よろしく頼むぞ」

「うん、わかった。えっと、饗庭乙歌です。ずっと寮で暮らしてます、部屋には色々なものがあります、最近は千枝が持ってきた私物で一角が埋まってます」それはちょっとひどくないか。

「ごめん、いっちゃん……」

「ううん、大丈夫。そうだね、誰かが他にも泊まりに来てくれると嬉しいな」そう言うと、皆にこやかに反応してくれた。饗庭もほんのり嬉しそうだ。寮で暮らしているのは饗庭だけというのは、いつも気になるが、他の連中はホームシックになってしまったというのだから仕方がない。饗庭はその辺りたくましいのだ。

「私も、千枝と一緒にオンラインゲームのFPSをやってます。クランというグループを組んで、ちょっと大会とか出てみたりしました」前にもどこかで聞いたことがあるような気がするんだが、何なんだろう。

「その、クランって何だ」

「あ、それは他のRPGとかのギルドとかと同じ意味だよ。FPSだとそう呼ぶって言う事だね」

「ギルドか、なるほど。同じ目的を持った仲間と言う訳だ」しかしそれで大会とか出てるのか。饗庭の部屋がどうなっているのか少し気になってきてしまった。たぶん、そんな事に興味を持つのは、それは俺にとっては良からぬ事なのだけど。部屋に置いてある出水の私物ってのも、いわくあり気のものかも知れない。

「あと、たまに小説とか、書いたりするようになったよ。でも特に、どこかに出そうとか、あの、そういう意図とか、目的があって書いてるものとかじゃ、なくて。あのね、千枝と一緒に遊んでる時に、何となく思い付きで始めてみたんだ。私は、あんまり文章とか書くのは、得意ってわけじゃないけれど、こうして自分で楽しむために書いている時は、段々楽しくなってきたりするんだよね」のんびりと言葉を紡ぐ饗庭。どうやら少し寝ていたので元気になったようである。

「小説、か……その、察するところ、つまりは二次創作とかじゃなくて、オリジナルで何か書いているって事なのか、お前さんの場合は」

「うん、千枝が私の部屋でも、そういうゲームするでしょ、それで――」うん、そういうゲームっていうのが何を指すのか、解りかけてる。先ほどからのFPSで創作意欲が湧いたって言うなら、このお嬢様たちはどういうわけかドンパチが好きな娘が四人もいるという事になるわけで、銃弾の雨が降り注ぐ血と硝煙香る鉄火場のアクション小説みたいなものを書いてしまいたくなるって気持ちもあるかもしれないが、しかしそれとは違うゲームの話だ、今のこの話の場合は。

「恋愛シュミレーションゲーム、って言ったらいいのかな。えっとね、私、そう言うのって、私たちが生まれる頃の辺りまでは、ごく一部の人たちの娯楽みたいな、位置付けだったと思うの。ううん、それよりもっと前から、だいぶ一般化してたみたいだけど、今は当たり前だった事が、当り前じゃなかったんだよね。例えば、ゲームも、フルボイスが当たり前だけど、ずっと前は、そうじゃなかった」俺自身が直接携わっているのは、そういうゲームである。うちの会社のゲームはフルボイスでやっているが、そこに主人公にもボイスが付いているのが演出上の特殊な点だろうか。確かに主人公が喋らないというのは、視点としての問題とかいろいろあるんだが、新人君のシナリオはそういう具合のものではないのだ。熱い、と言ったらいいのか。

「えっとね、今の話、小説を書いてみたくなったきっかけって言うのが、千枝がやってたゲームって事なんだけど。ごめん、良く解らなくなってきちゃった。恋愛シュミレーションゲームって言っても、主人公は男の子。攻略対象は、女の子。そういう、ノーマルなやつ。でも、そういうものでも、千枝がやってるのは皆が言ってた、冒険活劇とか、ファンタジーとか、戦記とか、現代伝奇ものとか、そう言うジャンルの世界観で、果てにヒロインと結ばれる。そういうゲームなの。何か大きな目的があるんだけど、そこにヒロインありきで、ストーリーが組み立てられて、展開していく。こういう物語の作り方もあるんだなって。そしたら、いつの間にか小説を書いてた」ううん、その、ヒロインありきでって言う所が、饗庭なりに言葉を選んだ結果なんだろうか、ようするに出水は止まり先の饗庭の自室でエロゲーをやっていやがるという事である。他の皆は恋愛ゲームと聞いて、それがエロゲーなどとは露ほども知らない事だろうが、出水の奴は少し不意打ちを食らったような顔をして、俺の方をちらちらと見てくるのである。ああ、やっぱりそう言う事なんだな。確かに、俺はさっき気にしないとは言ったが、友達の部屋に行ってまでエロゲーをやるような友人は俺の周りにだって一人もいないぞ。他の皆は饗庭の話を黙って聞いてくれている。そうだよ、何か創作したいと思ったら、なんでもいい、始めて見ればいいのである。どうなろうがお構い無しだ。やってみたらいい。ここは同人活動研究会。名目上は、何をしたっていいのだ。自作小説を持ち寄って、れっきとした同人誌と言うものを作ってやったっていい。それも、文芸部顔負けのモノをだ。饗庭の話を聞いて、この場の全員が胸に手を当ててみたり、肘をついたり、あごに手を当てたり、髪の毛をいじったりしながら、それぞれ何かしらの思案を始めた。この部活動に活動方針はないが、とにかくみんなで何かを作ろう。そう言う具合である。だったら、俺はそこに手を差し伸べるのではなく、ほんの一押し、きっかけを与えてやればいい。ああ、しかし、この歳の女の子が二人でエロゲーをやっている所を想像したら、少し気分が悪くなってきた。別に現行の法律では、こいつらがエロゲーをやって咎められる事はないはずであるから、俺は黙ってようがどうって事はない。しかし、モラルというものは考えなければならないところである。俺が言うのは甚だ奇妙であるが、個人的な問題ではなく学院の品位に関わる事である。出水には後で厳重注意だ。

「よし、皆お疲れ様、ありがとう。ここで俺から提案があるんだ。この部活の活動方針について」

「なあに、せんせ。私たちの話を聞いてて、何か思いついたのかな」気を取り直した出水が、興味有り気に身を乗り出してくる。

「ちょっと、同人活動ごっこをしてもらおうと思います。つっても、二次創作をしろと言うんじゃない、漫画研究部っぽい事をするってんじゃ無しに、今回はあえて違う方向で、言い変えたら文芸部ごっこをしてみたいと思う」

「どういう事かな」と言う蜂須賀に合わせて、皆もうんうんと頷く。基本的には俺が話を始めると全員静かになるのである。そう言う所はいつ見ても感心してしまう。

「皆が小説なり詩なりを書いて、同人誌と言う感じの小冊子として一つまとめてみるという事をしてもらいたいんだ。解ってるぞ、文章が苦手だって話も聞いてたからな。そう言う事をする前に、俺から課題みたいなもんを提示させてもらう」課題と言った途端、ため息をつくような生徒もいない。どうやら、こいつらが嫌がるのはテストとかヤバいかもしれないものだけのようである。静かに聞いてくれているので続けよう。

「さっき自己紹介してもらったのに悪いとは思うが、試しに原稿用紙一枚を使って、好きなものについて書いてきてほしいんだ。原稿用紙持ってないってやつは、後で俺が持ってくるからそれを使ってくれればいい。一枚だけでいいんだ、四百字くらいで丁度いい。小学校の作文の宿題みたいだ、と思ってくれればそれはそれでいいんだが、ここでもうちょっと、俺が説明したい事がある。えっと、ここまでで質問とかってあるか」そうすると、誰も手を挙げなかった。

「そんなのやりたくないって人、いたら遠慮なく言ってくれ」

「だいじょぶだよ、ここの皆は、夏休みの宿題は七月中に終わらせちゃってるからさ」

「な、なんだと。遊びまくった挙句最終日に必死こいてやるのがセオリーだろう」

「その苦しみは去年味わいましたので」

「皆、部活が楽しみだったんですよ」

「と言うか、他にやることもなかったので」

「読書の合間にちゃちゃっとね」

「この前勉強会開いたりしたんだよー」

 ああ、そうか。なるほど、そう言う事か。当初の予定では、俺は七月中に部活に顔を出すはずだったのに、仕事のおかげで日にちが伸びてしまった間に、こいつらはやるべき事を済ませてしまったという事だ。間違いなく、良い事なのだろうが、何か釈然としないものを感じる。俺がひねくれているからだろうか。

「ああ、解った解った、優秀ですね君たちは。先生が間違っていました、夏休みの宿題は早めに終わらせてゆっくり過ごす、素晴らしいですね、その調子で頑張りましょう。ええと、それでな、お前たち原稿用紙って普段使わないだろう、そうだろ、読書感想文くらいでしか使わないはずだ。今からそれについて話す事にする」


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