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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
梅雨入りディゾルブ
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梅雨入りディゾルブscene1

「うわ、こりゃあひどい。まいったな……」

 急に雲行きが怪しくなって来たので、ちらちらと外を見ながら授業を行っていたのだが、それが終わる頃になってみれば黒雲がすっかり空を覆い尽くしてしまっていた。

『そろそろ本格的な梅雨入りですので、なるべくこまめに、ご自身でチェックなされるほうがよろしいかと思います』と、昨日の自販機さんの丁寧な忠告が脳内でリフレイン。天気はこまめに確認。こいつは覚えておいたほうが良さそうだ。

 実際はこの忠告、あまり気にも留めていなかった。自販機さんの反応にちょっとばかり気を取られ過ぎていたって事もあるが、天気なんて気にする生活を送っていなかった事がそもそもの原因だ。

 イラストレーターは、部屋からでなくても仕事ができる。もっとも、打ち合わせの時に出版社にお呼ばれに預かるようなこともあるにはあったんだが。

 学院の同僚にも、学校で授業を教えた後は移動して大学でも授業を行う人や、塾で講師をやっているような人もたくさんいる。大変そうだがそれも楽しそうだと思う。俺にはイラストレーターという副業(前はこっちがメインで時々にフリーアルバイターだった)があるわけで、まだ慣れないうちに、そうそう仕事を増やしても居られない。

 今のままでくいっぱぐれさえしなければそれでいい。

「せんせー、今日も自宅に引き上げなんですかー」と、窓の外を眺めていると声をかけられた。溌剌としながら、語尾を伸ばす陽気な調子は出る水の、出水千枝、千の枝。

「そうだね。しかし傘が無いんだよ。僕と相合い傘でもしてくれるっていう申し出なら、謹んで断るけど」

「んー、この雨じゃ台無しだと思いますよ、傘も保たないです。私は折畳み傘ちゃんと持ち歩いてはいるんですけど、ほら、小さいし、これじゃ二人も入れません」出水は鞄から取り出した傘をバッサと広げてみせる。教室の中でまあ。しかしたしかに、ピンク色で可愛らしい傘だが、骨も華奢だし、この雨じゃあ一分と耐えきれそうにない。

「早くたたみなさい。そうだなあ、これじゃあ寮まで行くにしたって、濡れ鼠が風呂場を求めて群がっている事だろうしな」

 想定外の驟雨でせっかくの学園の景色が、霧靄でさっぱりわからん。どうせしばらくすれば止むんだろう。いや、そういう淡い期待が通用しないのが梅雨のお天気ってやつだ。まだ梅雨入り宣言なんてしてなかったはずだがな。しかし、天気の確認を怠っていた手前、自分の持っている情報はあてにはならない。

「あれ、せんせって、寮の大浴場使ってるんですか」と、うちの寮には彼女の言う通り大きな浴場もあるのだが、教員使用時間と生徒使用時間に分かれている。隣に別に設けられているシャワールームは、男女別で備え付けられているのでいつでも使えるというわけだ。浴場も分ければ良かったんじゃないのかな。まあ広い浴場だからそうもいかないか。

「いや、そっちに浸かった事はまだ無いんだよな。シャワールームは一回使ったけど」

「これじゃどっちもてんやわんやでしょうね。あれ、でもそれって午後の授業すっぽかす気満々ですよね、四限で上がるってことですから」

「昼休みの時間だけで全部済ませる気なんじゃないか。でなければ四限上がりのクラスもあるさ、時間割けっこうバラバラだからね。ところで、出水さんはお昼どうするんだい」

「え、何言ってるんですかぁせんせ」

「何ってお前さん、いやだよこの娘ったら。ただの興味だよ、生徒に何か奢ったりなんてしないよ僕は。昼休みが終わる頃には雨がやんでるとありがたいんだけど」

 直後、教室でカメラのフラッシュでもたいたかのような閃光が迸った。

 数秒遅れで、地鳴りのような雷鳴が轟く。ほかの子たちはその光景にキャーキャーと騒ぎ散らしている。雷くらいでかわいいもんだ、お嬢様たちは。

 とはいえ正直なところ俺も泣きたい気分だった。家で別件の仕事を片付けるために早く帰りたかったと言うのに、このままじゃどうしたって濡れて帰らなきゃならないし、バス停まで行くのも気が滅入る。そのままバスになんて、乗る気がしない。

 こりゃ諦めるしか無いか。

「雷すごいですねー。今日って晴れるって言ってたんですよ、天気予報」

「まるであてにならないね……」

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