その頃のマンション
「やっほー、自販機ちゃん、なんか暇だからお話をしに来ちゃった」
『どうもです、優奏様。何かご入り用でしょうか』
「うん、それなんだけど何かおススメないかな、最近コーラとかお茶ばっかりだから、あ、でもやっぱり炭酸がいいかな、できれば」
『……あなたも面倒くさい人ですね」
「ちょっとちょっと、お客様なんだからもっとちゃんとしなきゃダメでしょ、愛想尽かされちゃうよ」
『良く言われます』
「まあ、秋聞様なんだろうな、そんな事言うのは。それで、何かあるかな」
『これなんかどうでしょう、今なら百円でご提供しております』
「え、何これ、――言われるがままに一応買ってはみたものの、なんだかよく解らない飲み物だぞ。ボク、できれば炭酸って言ったよね、ちゃんと」
『もちろん、仰ったとおり炭酸飲料でございます。何か』
「だって、これコーヒー飲料って書いてあるよ、でも炭酸なんだよね、えっと、ちょっと何言ってるか分かんないよ、何でこんなの仕入れてるの自販機ちゃん」
『話題の飲み物は仕入れるようにしております。味の方は考慮しておりません』
「……おや、どうかしましたか、優奏さん」
「お、コーヒーの人こと香芝さん、おや、とか言って登場する割には実はさっきからいたりするわざとらしい人。ちょうどいい所に。これ見てください、これ」
「いかにも秋聞さんが言いそうな紹介ありがとうございます。でも本当に今来たところですよ、何ですか、見たところコーヒー飲料ですよね」
「ところがこれ、炭酸飲料です」
「え、そうなんですか。それはまた珍妙な飲み物ですね」
『コーヒーの人ですから、飲んでみては如何でしょう』
「じゃあ、頂きましょうかね。――さて、どんなものやら」
「あ、それならボクと一緒に飲みましょう、開けたらなんか吹き零れそうな嫌な予感もするけど」
「それほど強い炭酸ではないと思いますよ。――ほら、軽くガスが抜ける程度です、微炭酸ってやつでしょうね」
「本当だ、そ、それじゃあせーので行きましょう」
『私が合図いたしましょうか』
「え、それじゃあ自販機ちゃんお願い」
「面白そうな時は、参加したがるようですね。相変わらず可愛らしい」
『それでは、いきます。三、二、一。――如何でしょうか、お味の程は』
「うう、ひ、ひどすぎる、なんてもんじゃない、こんなの人間の飲み物じゃないよ、ボクにはまだ早すぎるよ……うっぷ」
「おや、そうですか、意外とイケると思いますけど。ふむ、そうなると、優奏さん的には僕は人間じゃないってことになりますね」
「え、いや、そんな積りで言ったんじゃないですけど……すいません」
「いえ、いつもブラックのコーヒーを飲んでいるせいだと思います、意外と炭酸というのも合うかなと言う気が。まあ、コーヒーに対する冒涜だと言われればそれもまた然りかもしれませんが、僕はこれ意外と好きなフレーバーです。それに、ふふ、《人でなし》なんて言ったら褒め言葉じゃありませんか、同じ趣味を持つ者同士なんですから、ははは」
「な、なるほど、それは確かに言われてみればそうでした。コーヒーみたいに奥が深いです、香芝さん。さすが鬼畜眼鏡ですね、ははは」
『それでは、次からコーヒーの人は鬼畜眼鏡と呼ばせていただきます、ははは』
「えっ」




