灯火scene1
僕には、一つ年上の、幼なじみの女の子が居た。
いつでも元気溌剌、礼儀正しく、成績もよく、僕は彼女にずっと憧れていた。
僕の方はと言えば。
いつも、隅っこの方でもじもじしていた。
男のくせに、だ。
しかし、僕の顔つきはずっと、まるで女の子のようだとみんなに馬鹿にされていた。大きな瞳は、いつもに何かに怯え、涙で潤んでいた。
そんな僕を、いつも守ってくれていたのが、彼女だった。
自分より大きな男の子にだって平気で立ち向かって行ったし、たとえ反撃を受けて怪我をしようとも、ちっともひるむ事無く、女の子とは思えないそのたくましさは、まさに勇猛果敢を極めた。
しかしそのために、いつも女の子に守られてばかりの僕は、次第に、男としての自分にまるで自信が持てなくなって行った。しかしそんな事全く歯牙にもかけず、ぼくにちょっかいをかけるみんなに、彼女は敢然と牙をむいた。
そうだ、僕も強くならないといけない。
そうしなきゃ、僕はいつまで経ってもいくじなしの、女の腐ったみたいなやつのままで、これから先も、ずっと。
想像したら、急に恐ろしくなって来た。
いつまでも。
そんなわけあるはずもない。
いつかは、彼女だって、とてもじゃないが男の相手に喧嘩で勝つ事なんてできなくなってしまうだろう。
それだけじゃない、いつかは彼女も、僕を見捨てるかもしれない。
このままじゃ、駄目だと、強くならなければいけないと、小学三年の時になってやっと、本当にやっとの思いで決めたのだった。
僕がその決心を彼女に伝えると、
「そっか、ついにその気になってくれたんだね。いつまでも私の後ろにくっついたままなのかな、とヒヤヒヤしてた。いや、もちろん私はそれでも良かったんだけど。でも、君がそう思ってくれたのはとても嬉しい事なんだよ」
その時の彼女は、今まで見た事無いくらいに嬉しそうな顔をしていた。彼女の言葉には、僕がこの決心をするまで、待ってくれていたことがわかる表現が含まれていた。その意味、そして彼女の強さの理由は、彼女の父親が古武術の道場をやっているらしいことにあると、その時に知った。
「こういうことは、強制する物ではないのだ。いつもいつも娘にくっついてた可愛い坊やが、うちの門を叩く事になってくれることになるとは、感慨深い事だ」と、彼女のお父さんは快く僕を受け入れてくれた。
そうして、二年が経った頃。
僕はまるで彼女のように、生まれ変わる事が出来ていた。
さすがに、自然と見た目でイジメを受けるような事は無くなっていたけれど、普通に友達と笑って過ごせる日が送れている事が、何より嬉しい事だった。
これも自分では信じられない事だったが、いつも稽古の後には彼女が僕の勉強の面倒まで見てくれたおかげもあって、成績は学年でもトップだった。
そう、二年が経った。
僕は小学校五年生で、彼女は最高学年である六年生。当然彼女だって飛び抜けて成績は良かった(一番ではなかったらしい)ので、私立應仙学園への進学も決まっていた。しかし、僕では彼女と同じ進学先を選ぶ事は難しそうだと言う事が、その時には判断出来るようになっていた。
應仙は、僕の地元からではかなり遠い。彼女も自宅から通うような事は考えていないらしい。
これで、彼女とはしばらく会えなくなる事になる。
春が来て、彼女は中学生、僕は六年生になった。




