灯火scene6
僕はつくづく駄目なやつだ……と思った。編入試験に落ちてばかりいるものだから、その当時通っていた中学では、妙ないじられ方をするようになってしまった。
それは仕方ない。当然の成り行き、というやつだ。結局、中学二年になってからの編入試験も泣く泣く落とすことになるわけで。どういうわけだか、本番に弱いとか、いろいろあるんだろうけど、自分の事ながら情けない。努力が結果についてこないここまでの例も珍しいんじゃないだろうか。自分の事だからって、それがよくわかる事だ、なんていうのは、欺瞞じゃないかと思う。他人の事もわからない、自分の事もよくわからない。そういうものだ。そう、たとえば。僕にどんな趣味が、内在、介在、潜在しているのかなんて、人の手によらねばわからないことなのだ。僕の趣味。嗜好。性癖。云々。〈もっとも嫌っていた欠点〉が――〈至上の利点〉へと昇華されることになろうとは、失敗ばかりの僕には想像もできない事だった。
僕は中学三年になってようやく、彼女と同じ学び舎へと足を踏み入れることができたのだ、ようやくだった。思っていた以上に、それまで通っていた中学の友人たちは、その事を祝福してくれた。とてもいい友人を持っていたということに、僕はそのとき、分かれるときになって始めて気づいたのだ。これまた、愚かしいことに、自他共に判断できるであろう、僕にありがちな事である。でも、別れを惜しむ事はしない。それまで僕が積み重ねてきたものは、何にたどり着くための物であったか。忘れるはずはない。
しかしながら一体どうしてこうも結果が追いつくことはなかったのだろう。かくして、中等部三年へと、編入したはいいものの、あることを失念してやしないだろうか。
そう、彼女は一学年、上である。
というのは、もっともな疑問というか、ただ僕にとっては、同じ学校にいるという事実が重要なのであって、通っているという実感があればそれでいい、というなんともおめでたい状態だったので、目標としてきた彼女がすでに高等部一年である、という現実もなんらの障壁ですらなくなっていた。いつでも、彼女の姿を見る機会が作れるのだから、直接会って話をするまではできないまでも、こんなに嬉しい事はない。しかし、変化は確実に訪れていた。
僕が彼女の姿を見なかったこの二年弱の間に、いったい何があったのかは知らないが、彼女はすっかり変わってしまっていたのだ。
どう変わったか。いかんともしがたい様変わりだった。いや、昔を思い返せば、そうなる前兆、前触れ、予兆はどこかしらあったのだが、その片鱗というのか、僕を馬にして足蹴にしていた当時の女ジャイアン(クリスチーヌの方ではなく)っぷりからすれば、これもまた当然の成り行きかもしれない。
久しぶりに彼女と再会したあの時は、ただ美しいとしか言えなかったけれど、ひとつ上の高校生となったその、再び彼女の姿を見て思うこと。
怜悧。いや、鋭利、か。
なんにせよ、この場合伝えたいことは、その形容は――研ぎ澄まされている、という印象だった。よく切れる。鋭い。
――僕に見せてくれたあの暖かい微笑みは、どこかへ行ってしまったかのようだった。彼女の役職は、生徒会書記。その端麗な容姿は、生徒会執行部メンバーにおいても一際――という存在ではあったが、当時の生徒会長もまた、才色兼備の麗人であったのだから、この学校の人選は巧みなものだと思った。
――生徒会長・三木獅恵良。
女性である。名前の字を見たときになんともいえない気分になったが、三木会長はとても豪胆な人物だった。学年は二年。その時点で生徒会を掌握していたのだから大したものである。あまり関心事ではないが、彼女は地毛のアッシュブロンドを大層自慢げに靡かせて歩く。それはまさに、威風堂々というべきもので、どこかのハーフだとか、まあ色々聞くところによればそういうことらしい。教師相手にも大仰な啖呵をきり、上級生相手にもひるむことはない。どこかで見たような姿である。
そう。生徒会の書記に就いた彼女は、つまりは三木会長の側近であった。僕が昔からずっと、完全無欠と思い込んでいた彼女は、自身が師と仰げる人物を、ついにこの学園で見つけていたのだ。




